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第十五話 【王国】支配


 玉座に座る魔王は、”本当に同格だったのか?”という疑問さえも愚かに思えてしまう。
 俺が勝てるはずもない。挑もうと考える必要もない。

 心が敗北を受け入れている。
 隣に居るコアも魔王の力が解るのだろう。自然と跪いている。

 魔王は、俺に頼みがあると言った。

「ルブラン。同じ物を魔王に渡して・・・。名前が無いと不便だな。君。ゲームとかでよく使っていた名前とかある?」

「ゲームですか?ギルバートを使っていました」

「ギルバート?赤毛のアン?」

「いえ、初めてやったゲームで、主人公の名前が変えられなくて、なんとなく・・・。その後のゲームでも使っていました」

「へぇ。これから、”魔王ギルバート”だ」

 え?
 また力が流れ込む。

 横を見ると、コアが嬉しそうにしている。

 自分の名前が決まった。
 魔王ギルバート。不思議としっくりくる。

「ありがとうございます。私は、魔王ギルバート。魔王様の僕です」

「うん。そういうのは、別に求めていない、君たちに求めているのは、王国にあるダンジョンの支配だ」

 支配?
 俺たちが?

「魔王様。魔王ギルバートに書類をお見せになったほうがよいと思います」

「そうだな。ルブラン。頼む」

 魔王が書類を美女に返す。
 ”ルブラン”と呼ばれていたから、魔王ルブランなのだろう。

 魔王ルブランが、書類を持って玉座から降りて来る。
 美人だ。しかし、コアとは方向性が違う美人だ。俺は、コアの方が好みだ。魔王と好みが似なくて良かったと考えた方がいいのか?

「魔王ギルバート。私の事は、”ルブラン”と呼んで欲しい」

「わかった。魔王ルブラン」

「違う。”魔王”も必要ない。私は、魔王ギルバートの横にいる。コアと同じだ」

「え?」

「私は、コアと同じで、魔王様によって召喚された」

「・・・・。え?え?え?えぇぇぇ・・・・・。失礼。魔王様」

「本当だ。ルブランには、魔王の役割を演じてもらっている」

「・・・。ルブラン殿」

「”殿”も必要ないのですが・・・。まぁいいでしょう。これが、王国にあるダンジョンの状況です。魔王ギルバートが知っている情報と齟齬がないか確認して欲しい」

 ルブラン殿から渡された書類には、地図と思われる物に、いくつかの印がつけられている。

 この印がダンジョンなのか?
 王国を半包囲するようにダンジョンがある。

 おかしい。
 王国内にはないのか?

「魔王様。王国を囲むようにダンジョンがあるのですが、王国の中にはないのでしょうか?」

「調べたが、”ない”という結論になっている」

「なぜですか?」

「帝国と新生ギルドから情報を提供してもらった。王国も神聖国も連合国も、ダンジョンの討伐を行っていた。特に、王国は王国内にあったダンジョンを攻略して討伐してしまった」

「え?」

「ギルバートは、何代目だ?」

「私は、えぇーと」

 コアを見る。この手の情報は、コアの方が詳しい。

「大魔王様。発言をお許しください」

「許可しよう。今後、許可を求める必要はない」

「ありがとうございます。ギルバート様は、ハウス2379の473代目です」

「そうか、ダンジョンは、495代で終わるようだ」

「え?」

「終わる?」

「そうだ。それは、置いておくとして、王国は、ダンジョンを攻略した時の報酬に目が眩んで、攻略を繰り返した」

「それは・・・」

 書類は、コアに渡して良いと言われて、コアにも読んでもらっている。
 俺が読むよりも、何か発見する可能性が高い。

「ギルバート様。大魔王様が、おっしゃった”報酬”は、魔王様たちが持っている道具や素材だと思われます」

「素材?」

「そうか、ギルバートは、外の世界との接触は無いのだったな?」

「はい」

「この世界は、チグハグな状況なのは知っているか?」

 チグハグ?
 王国が求める物を提供して、自分たちの安全を確保してきた。

 チグハグな印象は受けていない。

 ルブラン殿が簡単に説明をしてくれる。
 俺も、”なろう的”な中世ヨーロッパだとは思っていたがもっと歪な状況だ。

 政治体制というよりも、統治手法がめちゃくちゃだ。

 石油がないのに、石油由来の製品を求められることがあった理由も解った。
 他のダンジョンで得られた物を求めていたのだろう。

 ルブラン殿の話を聞いて、納得が出来た。
 確かに歪だ。ダンジョンに依存している為に、ダンジョンとの共存が出来ている国が強くなるか、ダンジョンを完全に攻略対象として見ている国が強くなっている。

 そうか、それで・・・。
 王国は、最初はダンジョンを攻略して素材を得ていた。しかし、495代目が倒されてしまうと、ダンジョンが無くなってしまう。
 何度か、ダンジョンが消滅した。それから、ダンジョンの攻略から懐柔に走ったのだな。

「王国兵の装備品は、ダンジョンから提供されている物だ」

「!!」

 そうだ。
 求められて、武器や防具を提供した。数が多くて面倒だったこともある。

「そうだ。大事なことを聞くのを忘れていた。ギルバート。獣人は好物か?」

「好物です。耳と尻尾は正義です。至宝です」

「よし。猫と犬では?」

 魔王の・・・。大魔王の問いかけに即答してしまったが、コアもルブランも他の面子も何を言っているのかわからないようだ。

「猫です。羊は耳ではなく、角が希望です」

「そうか、角は盲点だった」

「魔王様。魔王ギルバートも、いい加減にして下さい。話が進みません」

 ルブランが俺と大魔王の話に割って入ってきた。
 確かに、話が進まない。

 奥から出てきた者が、ルブランに何かを伝えている。

「魔王様。魔王ギルバート。3つのダンジョンが参加に加わると言ってきたようです」

 それから、続々と攻略の連絡が入ってくる。

 王国の周りにあったダンジョンは、全部で67施設だ。これらが、王国の兵の駐屯所に偽装されている。
 それらのダンジョンを、大魔王配下の者たちが攻略している。

「やはり、最大のダンジョンは、ギルバートの所だな」

「はい。予想通りです」

「神聖国と連合国にも動きがあるみたいだから、こっちは、ルブランに任せて大丈夫か?」

「お任せください」

「ギルバート。王国に関しては、貴殿に任せることになると思う」

「え?」

「詳細は、ルブランと決めてくれ。それから外部には、魔王ルブランが最上位の魔王となっているから、よろしく」

 大魔王は、片手を振って奥の扉から玉座を出て行った。

 よくわからないけど、俺たちは生かされているようだ。

「魔王ギルバート。王国領内にあるダンジョンを全て、攻略している。明日には終わるだろう。その後の話として、魔王様は表に出ない」

「??」

「私が、貴殿たちの主だと振舞う」

「あっ。わかりました」

「言葉遣いは、同格として接して欲しい。どこかで、問題が出ると困る。これから、傘下に加わる者たちも基本は、言葉遣いには言及しないことにしている。王国と魔王領との間に、魔王カミドネが居るが、彼は獣人族の保護を主に行う魔王だ」

「・・・」

「そして、貴殿には王国領にある67のダンジョンをまとめて欲しい」

「俺が?」

「そうだ」

「まとめる?何をすればいい?」

「基本は、不干渉でいい。王国兵を殺して、武器や防具の提供を行わなければいい。貴殿のダンジョンに、配下に加わる者たち(ダンジョン)の情報が流れるようにする。コアなら、処理ができるだろう?怪しい動きをする(魔王)が出た時に、報告してくれればいい。対処はこちらで行う」

「俺たちが、不正を行うとは思わないのか?」

「ははは。魔王様を裏切る?意味がないな。貴殿は、大事な者を天秤に乗せるような愚か者か?」

 コアが俺を見ている。
 コアが、望んでも俺は拒否するだろう。コアを、天秤に乗せるようなことは・・・。俺には出来ない。大魔王の下に居れば・・・。俺はダンジョンに縛られる存在ではなくなる。

 俺にはメリットしかない。
 ポイントも、今までとは段違いに入ってきている。
 今も、継続して入ってきているのが解る。

「それから・・・」

「まだ?」

「詳細は、コアと話をしてもいいか?」

「もちろん」

 コアも頷いてくれている。俺が介在するよりも、コアとルブランで話した方が・・・。俺が戦力外だと思われているのがよくわかる。正しい評価だ。

「魔王ギルバート。貴殿には、入ってきているポイントで領域の確保を行って欲しい。今は、他のダンジョンにはポイントが流れていない。広げられるだけ広げてくれ、出来れば、王国を飲み込むくらいまで広げて欲しい」

「わかった。出来る限り広げる。ポイントが枯渇しても大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。貴殿のダンジョンの入口には、我らが拠点を作る。建前上は、王国の喉元に剣を突き付けるための砦だ」

 いろいろ、面倒ごとを押し付けられた感じだけど、命と生活が保証されていると思って考えれば・・・。
 コアも他の皆も生き残るから・・・。いいよな。

 俺の判断は間違っていない。最後の最後で間違わなかった。

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