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第十三話 【カミドネ】戦闘


 戦闘開始のトリガーは、私が持つことに決まった。

 ルブラン殿から、戦況を見るために、モニタールームを作ることを提案された。
 魔王様から作成に必要なポイントを貰ってきてくれているようだ。

 魔王様に感謝しながら、モニタールームを作成した。

「カミドネ様。これなら・・・」

 モニタールームの見学に来たフォリは、これなら私が前線に立たなくて済むと安心してくれた。
 それは嬉しいのだが・・・。

「魔王カミドネ。貴殿の眷属である。フォリ殿に、”念話”スキルを与えて、各眷属との連絡要員にしたいが、大丈夫か?」

「え?連絡要員?」

「そうだ。魔王様から、スキルスクロールも預かってきている。貴殿の眷属に与えれば、ダンジョンの敷地内なら会話が可能だ。ただ、会話ができない眷属に与えた場合に、どうなるのか実験の意味があるのは許して欲しい」

 実験?
 そうか、魔王様の眷属には獣タイプが居ない。皆が、言葉が話せる者ばかりだ。
 私の場合には、キャロやイドラが居る。他にも、数体の眷属が獣タイプだ。

 渡されたスキルを、眷属たちに適用する。

「カミドネ様!」

「どうした?」

「キャロ殿とイドラ殿から・・・」

「会話ができたのか?」

 会話ができるのなら、私も”念話”を取得しよう。

「いえ、意思が伝えられたというのが正しいと思います。会話ではありません」

「それは、どういう事だ?」

 フォリが具体例をあげて説明をしてくれた。
 会話はできないが、意思は伝わってくるのだと言っている。

 感情のような物が伝わるのと、肯定なのか、否定なのか、感情と合わせれば、状況の判断ができる。
 フォリの説明を聞いて、ルブラン殿は納得していた。そのうえで、眷属たちが進化をしたら、会話ができる可能性に言及した。

「これで、フォリ殿は、魔王カミドネの副官として、モニタールームに残ってもらうことに決まった」

 ルブラン殿が、配置を少しだけ変えた。
 確かに、私では連絡ができない。フォリが、モニタールームで私と一緒に居て、状況を皆に伝えれば、作戦がより安全に行える。

「魔王カミドネ。我らは、準備に入る。神聖国の監視をお願いする」

「わかった。動きがあれば、トレスマリアス経由で連絡をする」

「わかった」

 ルブラン殿が差し出した手を握る。
 ダンジョン外での戦闘は、初めてだ。それも、これだけの人数を巻き込んでの戦闘は、聞いたことがない。ダンジョンの戦闘ではなく、普通に”戦争”だ。規模が小さい戦争だと考えれば、情報を多く入手した方が有利に進められる。
 モニタールームがあるだけで、我らが有利な状況になっている。

 もしかして、魔王様が常勝無敗なのは、モニタールームをうまく使っているからなのか?

「カミドネ様」

 映し出されている情報を見ると、既にルブラン殿やアンデッドたちの配置が終わっている。

「神聖国の奴ら、獣人族を前に出してきたな」

「はい。しかし、まだ後方にも・・・」

 そうだ。野営地の後方にまだ獣人族の集団が居る。荷物を持たされているのだろう?
 あの集団が合流して、前線に送られてきたら、戦闘を開始してもよさそうだ。

「カミドネ様」

「なに?」

「神聖国が陣を作成した場所では、西日が眩しいのではないでしょうか?」

「西日?」

「はい」

 フォリがモニターに写っている物を変更する。神聖国の奴らが居る場所を映し出している。
 確かに、西日で、アンデッドたちが居る森がよく見えない。

「わかった。フォリ。魔王ルブランと情報共有してくれ、現場での感じ方が違うかもしれない」

「わかりました」

 フォリが少しだけ離れた位置で、耳に手を当てながら、スキルを発動している。
 耳に手をやるのは、余計な音をシャットアウトするためだと説明された。

「カミドネ様。ルブラン殿から、夕方から夜になるタイミングがいいだろうと言われました」

「わかった。あと、1時間くらいだな。丁度、後ろの部隊が合流して前線に出されるタイミングだな」

「はい。トレスマリアスやキャロ殿。イドラ殿からも了承が伝えられました」

 考えてみると、私の初陣だな。
 緊張はしていないと思っていたけど、喉が渇く。ミニタールームで遠隔地の様子を見ているだけなのに、すぐ側で見て感じているような気がしてしまう。

 フォリが近くに居てくれるだけで、安心は出来ている。
 もしかして、ルブラン殿は私の為に、フォリを残してくれたのか?

「カミドネ様!」

 モニターの一つに動きがあった。
 前に出ていた獣人族が、森に近づいている。

「マリアが担当している場所です」

「フォリ。マリアに伝達。それから、魔王ルブランに連絡して!右翼に攻撃が始まるのに合わせて、本体にマルタとマルゴット隊を突っ込ませる」

「はい」

 突発的に始まった戦闘は、最初は相手の有利に進んだが、10分もしたら、形勢は逆転した。

 アンデッドの一団が、本体に突入する。
 狙うのは、獣人族を奴隷にしている者たち・・・。判別が難しいが、ルブラン殿の指示で、腕輪をしている者から中心的に狙う。効果が現れ始めてからは早かった。
 戦線を支えていたマリアたちの圧力が弱まった。獣人族が、操り糸が切れたかのように座り込んでしまったからだ。
 全員ではないが、指示が届かなくなったのか、右往左往する者も多く見られた。

 それから、アンデッドの集団が、本体を取り囲む。
 神聖国から来ている神官たちが、”ターンアンデッド”を発動するが、皆が連れているアンデッドは、”聖”に対する耐性が強いので、”ターンアンデット”では倒せない。どちらかというと、”闇”系のスキルに弱い。本当に、魔王様は何を考えているのだろう。こんな、極悪なアンデッドを大量に使役して何をしたいのだろう。戦闘が終わった後のことは・・・。今は、目の前の戦闘に集中しよう。

 既に、戦闘という程の状況ではない。
 時間は、1時間程度は過ぎていた。

 フォリが現場からの情報を伝えてくれる。

「獣人族の確保が終了。ダンジョン内に移送中。30分で終了」

 目的の半分が終了した。
 奴隷の解除は、まだ出来ていないが、移動は可能だ。
 ダンジョンに攻め込むつもりで来ているので、”奴隷への命令”とは矛盾していない。これも、ルブラン殿からの指示だ。奴隷は、最後にされた命令に反する行動を取ると痛みが加えられて、暴れだすことがある。だから、命令に反しないような行動をさせる。

「カミドネ様」

 モニターには、神聖国の神官たちが討たれたり、捕えられたり、逃げ惑う姿がうつされている。
 殺されたはずの神官が、アンデッドになって、生き残っている神官を襲うのは悪夢だろう。

「終わったな」

 既に、本体は”集団”の役割を持っていない。
 散り散りになって逃げるのがやっとだ。

 しかし、その逃げた先で、イドラに率いられた”森狼”の一団が襲い掛かる。普段なら、余裕で戦える神官や騎士たちが、森狼に翻弄されている。
 ルブラン殿から”一人も逃がすな”と指示が出ている。逃がせば、こちらの戦力が分析されてしまう。偵察されて、戦力の一端が相手に知られるのとは意味合いが違うのだという。

「はい」

 実際に、一人も逃がしていない。
 見ている範囲でだが、現場からも逃がしたという報告は入っていない。後方の補給を行うために待機していた部隊も急襲している。こちらは、キャロに率いられた混成部隊だ。小動物が多いのだが、暗くなった状況では混乱するには十分な状況だ。
 姿を見せない状況で、補給部隊の半数を撤退に追い込んで、残り半数は捕縛か自軍の攻撃で死んでいる。

「思っていたよりも、あっけなかったな」

 私の言葉に、フォリも頷く。
 大兵力。これは、ダンジョンの攻略を目的とした攻撃ではない。村を含めた者たちへの攻撃で、計画されて、準備が行われた。戦争だ。

「そうですね。でも・・・」

 それが、正味2時間くらいで終了した。

「解っている。私も、より一掃・・・。考えなくては・・・」

 フォリの懸念は、解っている。
 魔王様は、理知的で私たちにも寛大な態度をしてくれている。それが、永劫続くのか解らない。解らないからこそ、私たちは今日の戦争を忘れてはダメだ。自分たちが強者ではないと認識して、魔王様に逆らおうなどを考えないようにする。
 どんなに、魔王様に隙があろうとも・・・。

 私たちは忘れてはならない。神聖国が、どのような道を辿るのか・・・。しっかりと見極めて、しっかりと考えて、しっかりと伝えなければ・・・。他の魔王が、どう考えて対応するのか・・・。私には判断はできない。
 でも・・・。

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