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第八話 日常?平和?


「マイマスター」

 マスタールームの拡充をしているとセバスが部屋を訪ねてきた。
 前室のような場所を作って、セバス以外は前室で待たせることにしているが、セバスも前室で待ってから、部屋に入ってくる。

 今日は、マスタールームの拡充を行っているので、前室で会うことにした。

「どうした?」

 セバスの服装が、どんどん過激になっていくのは気のせいだろう。
 このままだと、セバスは全裸で俺に会いに来るぞ?

「はっヒア、メアの両名により、帝国から送られてきたゴミの始末が終了しました」

 帝国からは定期的に、ゴミが送られてくる。帝国の奴らは、魔王を便利なごみ処理に使っている疑惑があるのだが、俺たちにもメリットがあるので、放置している。

「そうか、二人にはなにか褒美を渡したほうがいいか?」

「いえ・・・。マイマスター。玉座にて、お声がけしていただけるだけで十分です」

「そうか・・・。うーん。そうだ!今回は、大幅にポイントも増えたから、娯楽を増やすか?」

「娯楽ですか?」

 セバス。
 だから、胸を強調するな。目線の置き場所に困るだろう。

「そうだ。チェスやリバーシは、複製が完了したのだろう?」

「はい。既に、カプレカ島で、使われています」

 娯楽品を含めて、単純な売買はしていない。
 特許が無い世界なので、どうせ、すぐに真似されるのなら、ダンジョン内に配置される宝箱に入れておいた。

 遊び方を、カプレカ島の元奴隷たちに教えておいたのが良かったのか、カプレカ島で、チェスやリバーシだけを楽しんで帰る者まで存在している。商人たちも、宝箱から出た物は、カプレカ島から出さないように決めたようだ。
 模造品を、城塞村で作って、売買をすると決めたようだ。

 元奴隷たちが、強固に反対したことや、本物で遊びたかったら、カプレカ島に訪れる必要があるという流れが作られた。

「そうなったか・・・。俺としては、転売してもいいと思っていたのだけどな」

「はい。伝えてはいるのですが・・・」

「まぁいいよ。問題にするほどの事ではない。数が多くなれば、転売も行われるのだろう」

「はい」

「あぁすまん。娯楽は、準備をするけど・・・。それで、ゴミは、どのくらい生き残った?」

「はい。メアとヒアが分断した作戦が当たりまして、2万。正確には、1万9717名です」

「多いな」

「減らしますか?」

「いや、いい。地下を拡張するか?」

「よろしいのですか?」

「地下に階層を増やす。そこに移動させる。使い方は、拷問官たちに任せる」

「はっ。ありがとうございます」

 早速、地下を追加する。
 優秀な者たちのおかげで、ポイントの残量を気にする必要がなくなっている。まだ理論は解っていないが、苦痛を与えて、絶望に染めたほうが、得られるポイントが高い。ただし、その場合には死んでしまったら、ポイントは減ってしまう。バランスが難しい。心が死んでしまった場合でも、ポイントが入ってくるので、”死んではいない”状況を作り出すほうがポイントとしては美味しい。心だけを殺した状態で生かし続けるのは難しいが、実験に使える()は地下に大量にある。”死んでいない”者が死んだ時に、担当していた者(世話を命じたクズ)たちに拷問を施すと伝えたら、皆がやる気を出してくれたようだ。

「それで、メアとヒアの様子はどうだ?」

「様子ですか?」

「前に玉座で見たときに、ヒアがメアを意識しているように見えたからな」

「それは・・・」

「どうした?くっついたのか?」

「いえ。幹部でも話にあがりますが・・・」

「進展は”なし”か?」

「はい。バチョウがヒアを突いているのですが・・・。なんとも・・・」

「わざわざ二人で行う作業を増やしたのに、進展はなしか・・・。セバスの一人勝ちか?」

「そうですね。メアは、どうやら・・・。いえ、なんでも有りません」

 セバスが、なにか気がついているのだろうが、俺に聞かせる必要が無いのだろう。言葉を飲み込んだのに、わざわざ聞く必要は無いだろう。

「罠は何を使った?」

 ヒアとメアに全面的に任せた。セバスたちは補助で付いただけだ。罠も、本に登録されている物だけで対応を考えるように伝えた。
 ダメそうなら、カンウとバチョウが部下を率いて殲滅する予定になっていた。

「えぇ・・・。一階の一部を草原にして、そこにメアが村に居た時に獣を狩るための罠を仕掛けて捕らえました」

 人族以外を、”獣”と呼んでいる連中が、”獣”を捕らえるための”罠”で殲滅か、笑えない状況だな。

「ほぉ・・・。情報は残してあるな?」

「はい」

 情報が残されているのなら、後で確認すればいい。
 それにしても、成人前の子供二人にしてやられる帝国貴族も情けないな。

 確かに、情報は与えた。魔王城の1階と2階を使わせたが、それだけだ。セバスたちのサポートが有ったと言っても・・・。

「セバス」

「はい」

「ヒアとメアは、本を読めるようになったのか?」

「マイマスター。私を除けば、メアが読んだ本では、多いと思われます。ヒアは、冊数は多くは有りませんが、戦術書を読んでいます」

 それだな。
 日本語で書かれた本だけど、戦後史や史記なんかも置いてある。面白そうだったから、三国志や十八史略や水滸伝も置いてある。それらを読んだら実践したくなるだろう。メアなら、応用ができるだろうから、調整して使ったのだろう。ヒアは、真面目だから、そのまま使おうとして失敗したかもしれない。

「偉そうな奴らからは、情報を抜き取れたか?」

「はい。帝国に売れそうな情報もあります」

「それは、モミジにまかせて、セバスは、次の施策に取り組んでくれ」

「次ですか?」

「ギルドとの交渉を頼む。魔王の役目を押し付ける形になってしまって悪いな」

「マイマスター。私が代わりなどと・・・。それに、私が表に出ることで、マイマスターが安全になるのです」

 ギルドとの交渉も、それほど難しくはない。ギルドとしては、カプレカ島のダンジョンから出たアイテムや魔物の素材を買い取りたいということだ。宝箱の中には、玩具だけではなく、武器や防具を入れている。10層を超えると、珍しくもないスキルが出るようになっている。
 それらの買い取りの交渉をしたいと言ってきた。
 俺は、別に構わないと思っているのだが、ギルドとしては、できるだけ、魔王とは距離を保ちつつ共存する方向で考えたいようだ。そのために、帝国に収める税とは別に、カプレカ島にも還元を考えたいと言ってきたのだ。
 簡単に言えば、あまり難易度を上げるようなことはしないで欲しいということと、カプレカ島にもギルドを設置したいということだ。

 難易度を上げる予定はない。どうせ、下層に到着する者たちが現れても、最終関門を突破するのは不可能だろう。

「かしこまりました」

「カプレカ島に、ギルドの支部を出すのなら、元奴隷たちを使うのが最低条件だな。トップは、しょうがないとしても、それ以外は、こちらからの人材を使うように言ってくれ、どうせ、城塞村の出先機関なのだろう?」

「かしこまりました。こちらからは、誰を担当にしますか?」

「セバスに任せる。もし、トップもこちらの人材で良ければ、適当な人物を呼び出そう」

「わかりました。マイマスターが、考える落とし所は?」

「そうだな。トップは、ギルドから出してもらったほうが、責任問題に繋がるような時に、対処が出来るだろう。受付は半々がベストかな。監視に、トップの下の役職に二人ほどこちらから出すくらいだな」

「わかりました」

 城塞村に居るギルドとの関係も問題だけど、城塞村と敵対しているギルドの存在が気持ち悪い。

 敵対しているギルドは、魔王ルブランの討伐を唱えているらしい。ギルドをまとめているボイドから聞いた話だ。
 そして、今のギルドの問題は、人族を優遇していることと、あまりにも連合国に近づきすぎていることだ。

 ギルドと国が結びつきすぎているために、連合国の一部に優遇する状態が続いている。

 ボイドたちが憤っているのが、ギルドの本筋であるセーフネットの役目になっていないのだと言っている。俺にとってはどうでもいいことだが、ギルドが手駒になるのなら、ちょっとした融通くらいなら問題にはならない。
 俺たち、魔王ルブランと仲間たちが、ギルドと近づけば近づくほど、連合国やギルドは考えなければならないことが増える。敵対するか、無視するか、それとも自分たちが、城塞村のギルドに取って代わるか・・・。

 さて、連合国が出てくるか、ギルドが出てくるか、楽しみになってきたな。

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