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第三十四話 ウイルス


 中層のキャンプ地に、物資を届けた。
 途中で狩った魔物や採取した物も一緒に渡した。

 共和国内では、少量だがマジックバッグが流通している。容量も大きくないのだが、物が流通していれば、使っても不思議には思われない。

 と、いうことで、問題はあるが、使ってしまおうということになった。

 今回は、途中で狩った魔物や採取した物を提供する。
 中層にキャンプを張って、イレギュラーに対応が可能な者たちだ。俺たちが持っている、マジックバッグを見ても奪おうとはしないだろう。
 それに、奪われても、袋ではなくステータスボードに格納しているので、袋が奪われても困らない。

 一応、言い訳として、とあるダンジョンの下層で見つかった物で、個体認証が行われて、俺以外が使おうとしても一般的な袋と同じになってしまうと説明しておく、俺専用の道具になってしまったとしておけばいいだろう。

 中層のキャンプ地では、イレギュラー(徘徊階層主)の情報は得られなかった。

「旦那様」

「何か、情報は得られたか?」

「はい。下層の安全地帯に魔物が出たようです」

「セーフエリアに?入ってきたのか?」

「違います。”魔物が湧きだした”と言っています」

 カルラの説明では、セーフエリアの入口は塞がれた状態になっていて、それでも中に魔物が居たので、最初は不思議に思いつつ駆除した。しかし、しばらくたって魔物がまた出現したので、”湧きだした”と結論づけて、セーフエリアを放棄したそうだ。
 問題は、湧きだした魔物が”黒い靄”を纏っていたことだ。
 中層のキャンプでは、問題と感じていなかった。カルラから事情を聞いた、俺たちはよくわからない気持ち悪さを感じていた。

「兄ちゃん。どうするの?」

「最下層を目指す」

 キャンプ地から少しだけ離れた場所で、カルラからの報告を聞いてから、アルバンが俺に今後の方針を訪ねてきた。
 元々、このダンジョンは攻略すると決めている。

「エイダ。人や魔物が居ない場所を案内してくれ」

『了』

 エイダは、アルバンが抱きかかえている。
 移動速度を考えれば、誰かが抱きか開けるのがいいのだが、最初はカルラが抱きかかえて、走っていたのだが、カルラは近くに居る魔物を討伐して戻ってくる。アルバンでは、討伐時間で差が出てしまう。従って、今はアルバンが抱えている。
 カルラは、エイダから指示された、近づいてきそうな魔物の討伐を行う。

 避けられそうにない戦闘は、俺とカルラが担当して、大きな群れの場合には、アルバンも参戦する。

『マスター!』

「エイダ?」

『イレギュラーの可能性があります』

「どういうことだ?」

『通常の魔物や人と違う反応があります』

「何体だ?」

『3体。大きさから、フォレストウルフ系列』

 少しだけ考えて、討伐を決意する。
 これが、黒い靄を纏った魔物なら、エイダの探索の精度が上がったことを意味する。確認しないのは気持ちが悪い。下層を移動することを考えれば、エイダが見つけたイレギュラー(未知)を既知にしておいた方がいい。一度でも索敵をして、討伐を行えば情報が収集できる。積み重ねは必要だが、既知にできる。チャンスと考えたい。

「兄ちゃん」

 やはり、黒い靄を纏った魔物だ。

「アル。カルラ」

 エイダは、俺が抱きかかえて、いつでも離脱が可能な体勢にする。
 相手の強さも解らない。今までと同じ程度なら余裕だが、イレギュラーな状態だと、いきなり強くなっている可能性もある。

 姿は、フォレストウルフだ。しかし、こんな下層に居る魔物ではない。
 ブラック・フォレストウルフとでも呼べばいいのか?

 カルラが牽制で放ったスキルをしっかりと避ける。ヘイトがカルラに集中する。
 それほど、動きが賢い(連携がとれている)感じではない。アルバンが後ろに回っても、無視している。

 カルラが、避けタンクのようにブラック・フォレストウルフを引き付ける。

 二人でなんとかなりそうだ。
 アルバンの攻撃もしっかりとダメージとして残る。物理攻撃を行えば、一体だけヘイトがアルバンに向く、釣ってくることが出来そうだ。下層に居る魔物の様に、連携してこない。強さがアンバランスに感じる。

 10分程度で、3体のブラック・フォレストを倒した。
 やはり、ドロップは何もしない。黒い靄になって消えてしまう。現象としては、同じだ。

 エイダが情報を分析した。
 ダンジョンに属さない魔物だと分析されたが、それならダンジョンの魔物の様に消える謎が残ってしまう。

「アル。カルラ。黒い石が無いか探してくれ」

 俺の指示で、二人にも協力して貰って、30分ていど近くを探してみたが”黒い石”は見つからなかった。
 ”黒い靄”と”黒い石”には繋がりがないのか?魔物が移動した可能性もある。近くにないと言って、”関係がない”とは、言い切れない。

「カルラ!アル!」

 二人を呼んで、下層に移動を開始する。
 何度か、黒い靄を纏った魔物を討伐した。弱い魔物が、黒い靄を纏っても、俺たちなら討伐は簡単だ。

「兄ちゃん?」

「どうした?」

「ブラック系の魔物だけど、なんで上層の魔物だけなの?」

 アルバンに言われて、考えてみた。
 確かに、黒い靄を纏っているのは、このダンジョンに居ない物も存在していたが、他のダンジョンでも上層と呼ばれる場所に出て来る魔物だけだ。

「わからない。”黒い石”が関係しているとしたら、何かしらの制限があるのかもしれない」

 そうなると、階層主が黒い靄を纏って徘徊しているのは、違う理由があるのか?

 考えても解らない。頭の片隅からはがれない違和感。

 階層主のイレギュラーとは遭遇しなかった。

 本来なら、階層主が居るべき部屋は、魔物が存在しなかった。
 部屋の中央に、石が散らばっている。

 魔石でもなさそうだ。黒い石が変化した物か?

 スキルを付与した形跡もない。本当に、ただの石なのか?

 調査をしたいけど、持っていくのは何か危険な感じがする。

『マスター』

「何か、見つけたのか?」

『はい。魔石が一つだけ混ざっています。スキルが付与されています』

「解析は可能か?」

『可能です』

「・・・」

 何か、引っかかる。気持ちが悪い。
 こういう時の”感”は無視しないほうがいい。

 何かある?気持ちが悪い。
 もしかしたら・・・。

「エイダ。解析を中止!」

『了』

 まだ開始していなかった。
 俺が、魔物を乗っ取ろうとしたら、ウイルスを仕込む。もしかして、黒い靄を纏った魔物の動きが単純な物なのは、ウイルスに犯されているからなのか?
 低級な魔物を”生み出している”のか?ダンジョンが犯されて魔物を産み出している?

 魔法をプログラミングできるのなら、魔物を乗っ取る為に、ダンジョンを乗っ取る為に、ウイルスが有っても不思議ではない。
 なんで、最初に”それ(ウイルス)”の危険性を考えなかった。

 すぐに、対策を考える必要がある。
 どこに潜伏して、どこに影響があるのか調べなければならない。

 自己増殖型でない事を祈るけど、現状を見ると、単なるワームではなさそうだ。潜伏型かもしれない。

 黒い石が、ウイルスを増殖させる物なのだとしたら、ダンジョンを吸収している。ウーレンフートも危ない状況だ。
 ウーレンフートでは異常な状況は発生していない。接触しているアルトワダンジョンも平気だ。

 何がトリガーになっている?何が感染源だ?

「兄ちゃん!」

「ん?」

「兄ちゃん。考えても、解らないのなら、まずは情報を集めよう」

 アルバンに言われて、自分が慌てていたのが解った。
 確かに、これ以上は解析して、現状を分析して、情報を集めなければ解らない。

 このダンジョンが感染しているのなら、攻略してしまえば、感染源を抑えられるかもしれない。ウーレンフートに繋ぐのは、辞めた方がいいかもしれないが、持ってきている端末を繋いで調査を行うのはできる。

「そうだな。アル」

 アルバンの頭を撫でながら、カルラを見る。

「エイダ。最速で、最下層に向かう。アルとカルラも手伝ってくれ」

「はい」「うん!」『了』

 まだ何か秘密があるかもしれない。
 でも、まずは俺ができる事をやってしまおう。それから、考えればいい。

「いくぞ!」

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