バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

5 Caseトマス⑤

 その日は朝から第三王子の機嫌が悪かった。
 いつもなら何も言われず自由気ままにさせてもらえるのに、今日に限って父親である国王から呼ばれていたのだ。
 遊び金も残り少なくなっていた第三王子は、ここで父親の機嫌を損ねるのは悪手だと考え、迎えが来るのを自室で待っていた。

 メイドが持ってきたお茶をぬるいと言っては投げつけ、来月の予定表を持ってきた文官を足蹴にして追い払う。
 そんな傍若無人な振る舞いを、この第三王子だけは許されていた。
 『皇后唯一の子供』
 それがこの第三王子。
 誰も逆らわないし、誰も諫めない。
 そうして出来上がったのが、加虐行為にエクスタシーを覚える変態。

「もう一度……もう一度蹴りたい……あのシスターの腹……最高だった」

 その場には何人も従者が控えているのにも関わらず、第三王子はソファーに転がっていた女の髪をつかんで顔を上げさせ、己の一物を口の中に突っ込んだ。
 従者たちは顔を背ける。
 髪を掴まれたその女は、恍惚とした表情で貪り付いていた。

「飽きたな」

 腹に力を入れ、欲を吐き出した第三王子はまだうっとりしている女に平手打ちをくれてやり、カチャカチャとベルトを締めた。
 ドアがノックされ、王からの使者が入室した。

「国王陛下がお呼びです」

「わかった。すぐに向かう」

 使者の後ろを歩きながら、第三王子はあの日のことをまた思い出して恍惚とした表情を浮かべていた。

『あの女……シスター何だったかな……大きな腹を蹴るたびに股から血が噴き出して……最高だった。あのなんとも言えない弾力が忘れられない。もう何年も経つのに……』

 使者に促され、父親の執務室に入る瞬間までずっとそのことを考えていた。
 父王の話は予想通り、第三王子にとってはどうでもよい内容だった。
 ニコニコと笑いながら機嫌をとった後、第三王子は父王の側に行き、小遣いを強請る。
 少し顔を顰めながらも、自分の言いつけを守るならと金の入った革袋を引き出しから出して渡す王。

「必ずご期待に添いますよ」

 第三王子はそう言って部屋を出た。
 自室に戻るために廊下を歩きながら、第三王子が独り言のように言う。

「隣国の皇太子夫妻を接待しろだなんて。面倒だな」

 第三王子のすぐ後ろを歩いていた従者が口を開く。

「そうですよね。しかも皇太子妃なんて妊娠しているって話ですからね。無理はさせられないし面倒です」

 その話しに第三王子は食いついた。

「妊娠している? 腹は! 腹はどれほど膨らんでいるんだ」

「確かこっちで出産するために来るという話しですから、そろそろ臨月かもしれないですね。皇太子妃は我が国の侯爵家出身ですから、実家でお産をするのでしょう」

「臨月だと? それは……ふふふ。そうか、我が国の侯爵家の娘か」

「ええ、なかなか見目麗しいと評判でしたよ。絵姿を用意しましょうか?」

 第三王子は満面の笑みで振り返った。

「すぐに持ってこい」

 第三王子の中で妄想が膨らんでいった。
 臨月の妊婦の腹を蹴る。
 そんな外道なおこないに恍惚とする第三王子。
 父王からの言いつけは、来月訪問する予定のD国、山脈を隔てて隣国の皇太子夫妻に王都を案内することだった。
 
(案内するだけなら簡単なことだ。それにしてもそんなにでかい腹を抱えて観光するのか?しかも自分が育った国だろう?)

 第三王子は自分の執務室の机に座り考えた。

(まさかD国皇太子妃の腹を蹴るわけにはいかないが、なんとか触るだけでもできないか?ちょっとしたアクシデントでもあれば、助ける振りをして押さえるくらいはいけるかもしれん)

(いやいや、待てよ?そもそも皇太子と常に一緒にいるならそれも無理だな。護衛も引き連れているのだし。何か方法は無いか?)

 第三王子はふと顔を上げて従者を呼んだ。

「皇太子夫妻が入国するのはいつだ?」

 従者が近寄って応える。

「予定では来月の半ばですが、ちょっと小耳に挟んだことがありまして」

「ん?なんだ?」

 第三王子が喰いついた。
 従者はきょろきょろと辺りを見回し口ごもった。

「おい、お前たち。ちょっと席をはずせ。ああ、その女は捨てておけ。もう飽きた」

 使用人たちはほとんど衣服を身に着けていない女を引き摺って部屋を出た。
 何か薬でも飲まされているのか、女の目は焦点がっていない。

「これでいいな。早く言え」

「実は……」
 従者は下卑た目をして第三王子に顔を近づけた。

しおり