第2章40話 悠起床 夢の話
安倍晴明との激戦から1か月、2か月と刻々と時間が過ぎていき、大きな侵攻もないまま半年が経過した。だが、半年の間悠は一度も目覚めることはなかった。ケガは順調に回復していったが、体はすっかりやせ細り少し前に悠の面影は薄れていた。
氷室:
「渡、悠の調子はどうだ?」
この日は氷室が悠のお見舞いに来ていた。
渡:
「相変わらずです。未だ目覚めていませんがバイタルは安定しています。ですが、ここまで目を覚まさなかったのは初めてです。」
氷室:
「まぁしょうがねぇよ。」
氷室たちが悠の病室に着くと、そこには扉の前で立ち尽くしている彩音の姿があった。
氷室:
「おい、彩音どうした?そんなところに突っ立て。」
彩音:
「いません・・。」
氷室:
「え?」
彩音:
「寝ているはずの師団長がいません。」
渡:
「!なんだって!」
渡が病室を見ると繋がっていたはずの点滴や呼吸器はそのままで悠の姿だけなかった。渡と彩音はとても慌てた様子でおどおどとしていた。氷室はあわてている2人の頭に手を置いて
氷室:
「落ち着け2人とも。」
彩音:
「ですが・・。」
氷室:
「あの怪我だ、基地の外には出てねぇよ。心当たりがある。行ってみるからちょっと待ってな。」
渡:
「わかりました。お願いします。」
その場を後にした氷室は悠のお気に入りの場所である基地の屋上へ向かった。屋上の扉を開けると、そこには空をぼーっと見つめる悠の姿があった。
氷室:
「やっぱりここにいたのか悠。」
悠:
「涼介兄・・。久しぶりだね。」
氷室に気づいた悠はやせ細った体を後ろに捻り、嘘を隠すように不自然に微笑んだ。
氷室:
「あぁ、半年ぶりだからな。起きたんなら報告しろよな。みんな心配してたぞ。」
悠:
「半年か。だいぶ迷惑かけたね。」
氷室:
「いいよそのくらいは。・・・どうだ調子は。」
氷室は悠の隣に腰かけて問いかけた。
悠:
「体の方は問題ないよ。流石、直哉だよなほとんど治ってる。」
氷室:
「そうか、それならよかった。」
その後、数分沈黙が続いたが悠が一言ボソッと呟いた。
悠:
「2年だ。」
氷室:
「え?」
悠:
「俺、寝ている間に夢みたいのを見ていたんだ。」
氷室が聞き返す間もなく悠は寝ている間に見た夢の話を始めた。
悠:
「周りには何もなくて真っ暗な空間だった。そこに1人の女性が現れたんだ。」
謎の女性:
「こんにちはあるじ様。はじめましてかしら。」
そこには『夜行』に瓜二つな女性が立っていた。だが、『夜行』がいつも身にまとっている鮮やかな朱色の着物に黒の蝶柄の恰好ではなく、混じりけのない黒色の着物に髪には赤い蛇の目のような装飾のついた簪を身に着けていた。悠はその女性を一目見た瞬間に『夜行』とは別の存在であると察した。
悠:
「あぁ、直接会うのは初めてだな『百鬼夜行』。」
百鬼夜行:
「あら、一目にてわかるのね。姿は『夜行』と一緒なのに。」
悠:
「そのくらい見分けられないとあいつらの使用者失格だからな。」
百鬼夜行:
「なるほど、あの子が気に入るのも納得ね。では、改めましてご挨拶を。初めまして我があるじ夜岸悠様、『百鬼夜行』と申します。以後お見知りおきを。」
彼女の言動1つ1つが美しく、元気で活発な『夜行』とは対照的に『百鬼夜行』は大和撫子と言って差し支えないほどだ。
悠:
「あぁ、これからもよろしく頼む。」
百鬼夜行:
「ねぇあるじ様、外の世界のこと教えて。私今までずっと寝てたからわからないの。この数年でどれだけ変わったかが聞きたい。」
悠:
「いいぞ。どうせ時間はいっぱいあるんだ。ゆっくり話そうか。」
そこからは話に花が咲いた。世界の現状、流行りなど悠の知る限りのことを『百鬼夜行』に話した。その話を聞いていた『百鬼夜行』は先程までの落ち着いた感じとは裏腹におもちゃを選ぶ子供のように目を輝かせ、初めて聞く話に胸を高鳴らせた。
百鬼夜行:
「そうなのね、今の世界はそんな感じなのね。」
悠:
「あぁ、とても楽しいよ。」
百鬼夜行:
「よく頑張ったんだねあるじ様。」
悠:
「え?」
百鬼夜行:
「今の世界が平和に保たれているのはあるじ様や師団のみんなが頑張っているからでしょう。本当にすごいよ。あんなに小さくて居場所を見つけるために一生懸命だった君が今ではみんなを守る最強の師団長なんてね。」
『百鬼夜行』は悠の頭に手を置きて撫でた。悠は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
悠:
「みんなのおかげだ。こんな俺を受け入れてくれた師団長達や師団員のみんなには頭が上がらないよ。」
百鬼夜行:
「さて、楽しくお話もしたことだし一回真面目な話に入らせてもらうわね。今回の代償についてよ。」