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(モノローグ・マルゴ)天国にいる妻イザベルへ

 最近、サラサが可愛くて愛しくて仕方がない。

 すまんイザベル。俺は新しい妻を迎えることになるかもしれん。

 天国というものが本当にあるのかわからない。俺は無宗教だからな。


 俺は今まで鉄だけを信じて生きてきた。

 鍛冶神というものがもしいるのならば信じても良いが、恋愛だなんだと浮かれるような性分ではなかったはずだった。

 だが今は恋愛の神を信じても良いとすら思っている。こんな無骨でどうしようもない男を好きだなんて言ってくれる女性が現れたのだから。

 これが恋愛神の差配でないなら、一体誰の仕業だというのか?


 今までは妻のイザベルが天国で俺のことをみているんじゃないか、ということがどうしても引っかかり、サラサと一緒になることを拒んでいた。


 だが一度立ち止まってよく考えてみることにした。


 俺は最近、宗教とは生きている人のためにあるものなのかもしれないとふと思うことがある。

 死んでしまった当人にとってはどのような意味があるのだろうか。

 死んだ妻は神になって、常に自分を見ていると教会の奴らは言う。


 しかしそれは本当なのだろうか?

 イザベルは本当に俺のことを天国から見てくれているのか?


 イザベルのことだ、奴らの語る輪廻転生とやらで新しい人生をやりなおしているかもしれないじゃないか。

 俺もまたいつか死んで生まれ変わって、今度はイザベルとサラサの生まれ変わりがいるような世界で、新しい関係を作ればそれでいいんじゃないか。

 世界はそうやって回っているんじゃないか。

 だから俺が新しい妻を娶っても、それはイザベルも許してくれるんじゃないか。

 しかめっ面でうつむいて、孤独にひたすら耐える俺をイザベルが天国から見て、あいつは何と言うだろうか。

 陰気なことが嫌いな性格だったあいつのことだ。「上を向いて、しっかり前を見て今を生きなさい! 女々しい男と私は結婚したつもりはない!」と言うに違いない。


 イザベルは酒を飲むと酔っ払って女癖が少しだらしなくなる俺を、よく叱ってくれた。

 イザベルは女としての自分に絶対的な自信を持っている女だったが、俺の前では可愛い女の顔を見せた。


 俺はそんなイザベルを心から愛していた。


 そしてサラサはイザベルとは見た目こそ違うけど、どことなくイザベルに似ているところがある。


 そうか……。

 だから俺はサラサのことがこんなにも愛おしく感じるのか。


 それに気がついてからはもう、ウジウジ悩むのはやめようと思った。


 もういい加減、腹をくくろう。男らしいのが俺のいいところだとイザベルも言っていたじゃないか。


 全て上手くいく方法など、俺がこれまで生きてきた中であった試しがない。

 やはりどこかで妥協して、ベストではなくともベターな選択肢を選ばざるを得ない場面が多かっただろ?

 例えば、ヒヨっ子冒険者ども全員に高価な装備を与えれば、生存率は上がるだろう。

 だがそのお金は誰が支払うのだろうか。

 俺はベターな選択肢として最安値で仕入れた材料を使用し、自らハンマーを手に作成した武器防具をタダ同然でヒヨっ子どもに売ってあげた。

 それでヒヨっ子どもの生存率は上がったはずで。

 俺の職人としてのプライドにかけて、そのことは自信をもって言い切ることができる。

 そして俺とサラサの間の問題も同じことが言えるのではないか。

 サラサとイザベル。何より俺自身が納得するベストの答えなど、きっとない。


 俺はケイゴを見ていてふと思うことがある。


「自分の好きなことをし、好きなように生きれば良いさ」


 あいつは絶対に言わないだろうが、背中からはそういう言葉が発せられている。

 生き様を見ていれば、言葉が通じていなくたって解かる。


 俺もこれから心の赴くままに、正直にこれからの人生を歩んでいこうと思う。

 今の俺の気持ち……。


「サラサ、すまん待たせたな。結婚しよう。イザベル、幸せになることを許してくれ」


 俺の口から自然とそんな言葉が溢れていた。

 これが、サラサ、イザベルと真摯に向き合うために出した結論だった。

 俺の発した言葉に、天国にいるあいつが笑い返してくれたような気がした。

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 みなさんこんにちは、ここまでお読み頂きありがとうございます。

 というわけで、サラサの猛烈なアタックにようやく覚悟を決めたマルゴでした。

 マルゴは荒々しい見た目をしていますが、妻想いの一途な性格をしているようです。

 酒を飲むとたまにスケベ心がでてしまうマルゴですが、それでも彼はイザベルを愛していて、死んだイザベルのことを想って独身を貫き通すつもりだったようです。

 しかしここへきて、サラサとの関係をちゃんとしなきゃと、考えた末にこのような結論を出しました。

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