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第2章24話 『ギフト』のデメリット 氷室とスタークの想い

陸王の眷属を撃破した後、特に大きな侵攻もなく平和な日常が続いていた。
それぞれ眷属と戦った氷室・スターク・ソフィアは新技の感覚を忘れないように訓練を続けており、悠はその訓練相手として名乗りを上げた。スタークたちは南部のことを副師団長に任せ、東部の第1師団へやってきていた。

 悠:
 「まずは涼介兄からでいい?」

 スターク:
 「いいぞ。」

 ソフィア:
 「いいわよ。」

 氷室:
 「サンキュー。行くぞ。」

氷室は『クロセル』を発動させた。

悠:
 「おいで『姫』。」

悠は『姫』を呼び出して、組手が始まった。

 スターク:
 「成程な、『ギフト』の力を自身に使うことで制限時間付きだが人間離れした身体能力を得たってわけだ。」

 ソフィア:
 「涼君の【ニブルヘイム】は広範囲かつ精密な冷気操作による戦いが得意だったから懐に入られると脆かった。そこを補う形で力を伸ばしたのね。」

悠は『姫』の峰の部分で氷室の攻撃を捌き、氷室は冷気をまとった打撃や氷でできた武器を駆使しながら攻撃していき組手開始から3分がたった。
氷室の『クロセル』がとけ、組手は終了した。

 悠:
 「持続時間は3分か。もう少し持続させたいな。」

 氷室:
 「あぁだが、この技はいつもの技より体温の低下が早いから今の状態じゃ3分が限界だ。」

『ギフト』は人智を超えた力を持つ反面、使用時や日常生活で起きる副作用のようなものが存在する。
氷室の【ニブルヘイム】は使用するたびに自身の体温が下がっていき、使いすぎると体が冷えすぎて意識が朦朧としていき動けなくなる。

 悠:
 「副作用のことを考えてもできれば10分は欲しいな。この先の戦いを考えると。」

 スターク:
 「だな、三王との戦闘も控えている。3分だときついな。」

 ソフィア:
 「でも、どうするの?結構難しいと思うけど。」

 悠:
 「そうだな、戦闘中に体温を上げ続ければ行けると思うが。」

 ソフィア:
 「戦闘中に体温を?」

 悠:
 「あぁ、体が冷えるよりも高い温度で体温を上げられれば持続時間は伸びると思う。その為には強靭な心臓と基礎代謝を高く保っておく必要がある。」

 氷室:
 「成程な、確かにそれなら持続時間は伸ばせそうだ。だが、どうやって心臓や基礎代謝を上げようか?」

 悠:
 「基礎代謝の方は普段生活でどうにかするとして心臓の方は簡単だよ。」

氷室は不思議そうに悠の方を向いた。

 悠:
 「使って休んでを繰り返して鍛えるしかないでしょ。徐々に使う時間を増やして休憩時間を減らしながら。」

 氷室:
 「確かにそれが一番だな。」

悠と氷室は組手を再開した。その後、何回か組手を行い氷室の限界がきたところで組手は終了した。

 悠:
 「大体1セット20分か。『クロセル』がどれだけ消費がすごいかがわかるな。」

 氷室:
 「悪いが少し休ませてもらう。だいぶ冷えたからな。」

 悠:
 「あぁ分かった。」

氷室は、訓練場の端に行き、自分で用意していた温かいお茶を飲んだ。

 悠:
 「さてと、次はどっちがいい?」

 スターク:
 「俺でいいか?」

 ソフィア:
 「いいわよ。」

 スターク:
 「悠悪いけど『夜行』で相手してくれないか?」

 悠:
 「『夜行』で?いいけど。」

悠は腰に携えていた『夜行』を鞘から抜いた。

 スターク:
 「サンキュー。刀の使い方を覚えたかったからな。」

スタークは自身の影から刀を生成した。

 悠:
 「成程、付き合うよ。」

悠とスタークの組手が始まった。スタークは影でできた刀の刀身を変幻自在に変形しながら攻めていき、悠は夜行を使ってその攻撃を捌き続けた。

 悠:
 「変幻自在の刀身か、かなり厄介だな切れ味も文句ない。けどまだぎこちない。」

 スターク:
 「ぎこちない?」

 悠:
 「あぁ、スタークは普段は超至近距離だ。武器の使い方や間合い管理がまだ杜撰だし迷いも見える。」

 スターク:
 「ばれてたか。どうも間合いがよくわからなくてな。」

 悠:
 「まぁこういうのは体で慣れるのが一番だ。」

悠は木刀を取り出して、スタークに渡した。

 スターク:
 「木刀?」

 悠:
 「そう、流石に間合いもわからないのに真剣で切りあうのはリスキーだからまずはここから。慣れたら『ギフト』ありってことで。」

 スターク:
 「応わかった。」

 悠:
 「じゃあまず、俺が攻めるから捌いてみて。時間はとりあえず5分で。」

木刀での組手か何度か行われ組手は終了した。

 悠:
 「だいぶ間合いはつかんだみたいだね。最後の方は結構捌けてたじゃん。」

 スターク:
 「馬鹿言え、なんとか合わせるのに精いっぱいだよ。」

 悠:
 「まぁ帰るまでには慣れてくるよ。」

 スターク:
 「助かる。悪いが少し休むわ。」

スタークは氷室の隣に座った。

 氷室:
 「どうだった?組手をしてみて」

 スターク:
 「改めて悠のすごさを実感したよ。俺と涼介の攻撃を全部捌いてたし今現在もソフィアの攻撃も捌いているし。」

 スターク:
 「それをまだ16にも満たない子供がやってのけてるんだ。恐ろしいよな。本当はまだ友達と遊んだり競ったりするお年頃なのにな。」

 氷室:
 「そうだな、家族という家族がいないあいつの心に漬け込むように非人道的な訓練をやった上層部は許せないけど、そのおかげで今があるというのは皮肉だよな。」

 スターク:
 「でもよ、最初の居場所を探していた頃に比べたら今の悠は楽しそうだよな。笑うことも増えたし。あの頃の悠は見てられなかったから。」

 氷室:
 「それだけ俺たち達を認めてくれたんだろ。本当はもっと俺らに甘えてくれてもいいんだけどな。」

 スターク:
 「まぁ見守ろうや。対等な立場として。」

 氷室:
 「だな。」

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