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満月の夜に

ある満月の美しい夜、彼はやって来た。

『──やっと見つけたぞ、我が半身よ』


***

幻獣、と呼ばれる生き物が居る。
彼らは“普通”の生き物とは違う(ことわり)を生きているそうだ。

──曰く、“魂を半分しか持たず、この(セカイ)に生まれたその時から、(おのれ) のもう半分の魂を持つ《半身》を探している”

──曰く、“分たれる前の半身たちは奇跡の力たる《魔法》を自在に操る者であった”

──曰く、“半身たるふたりには、共通する特徴がある”

***

とある国の王城の一室に彼女は居た。
真っ白な長い髪を風に靡かせ、この部屋で唯一の窓から遠くを見つめる彼女が座る椅子には──車輪が付いている。

国の民は、3番目の王女たる彼女の存在を知らない。
生まれた彼女を見た王が、その足にある奇妙な痣を気味悪がったからだ。

1つ幸運だった事は母たる王妃が彼女を愛し、殺さずに塔高くにある部屋で幽閉するに留めるよう、王へ願った事だろうか。

***

それから十数年。
少女となった王女は、唯一の侍女に嬉しそうに話した。
「私ね、夢を見たの。自分の足で(そら)を歩く夢よ。隣には……あら?誰が居たのだったかしら…………?でも、額に私の足の痣に似た模様があった気がするわ」
それから彼女は何かを探すように、窓から外を眺めるようになったと言う。

しばらく経ったある日、再び王女は話した。
「また夢を見たわ。彼は……風を操り、美しい漆黒の翼で空を舞う…………大きな……」
また忘れてしまったわ、と彼女は悲しそうに笑った。


そして。
王女が“彼”の姿を侍女に話したその日の夜。

彼女は──姿を消した。

城内が静かに、だが確かに慌てた空気に包まれたちょうどその頃、民たちの間でとある噂が溢れていた。


──曰く、満月の空を駆ける黒い天馬(ペガサス)の隣を舞うように飛ぶ、真っ白な髪の少女を見た、と。

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