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第3章の第63話 X10 バイクマンの手術4



Boo Boo
人工心肺装置から警報(サイレン)が鳴り響く。
「Vital Signs(バイタルサイン)低下!! 血圧XXXのYYY、心拍数ZZZ Sinus Rhythm(サイナリズム)!!!」
それは生命兆候(バイタルサイン)であった。
バイタルサインは、体温、呼吸、脈拍、血圧の4つを指し、これ等に意識レベルを加える事もある。
それは、人の命に関わる最も重要な情報であり、
また、患者さんの現在の状態を把握するために、非常に重要な数値情報でもある。
今、救急患者は、危険な状態にあった。
他ならない、ドクターイリヤマの暴挙によって。
そして、参考までに、健康な成人男性(仮にYさん)のバイタルサインを挙げよう。
体温36度、呼吸回数12~18回分、血圧129~131㎜Hg(拡張期血圧)と89~94㎜Hg(縮小期血圧)、脈拍92~99回分。
これは、とある健康な成人男性を元に、3回計測した結果である。
脈拍が多くみられるが、これには季節、気温、時と場所、その時の心理状態、運動しているか否かの体調により、個人差が大きく変わるため、50~90回程度は、一般的によく見られます。
ここで重要になってくるのが、心拍数=脈拍であり、120回以上の時には、何か病気の疑いがあるため、医療機関の受診、精密検査を推奨します。
そして、今、患者さんはそれすら超過していた。非常に危険な状態である。
助けようとするドクターライセンの叫び声が上がる。
「破れた血管を急いでくださいッ!!!」
「オイッ!!! 何やってるクレメンティーナッ!!!」
ドクターライセンが、ドクターイリヤマが、まだ若き医師の卵クレメンティーナを責める。
心なしか、ドクターイリヤマの顔は嗤っていた。
「……ゥ」

【――あたしは、自分の腕が信じられず、愕然としていたわ……】
【もう頭の中は真っ白でパニックで、自分の手で、目の前の患者さんを死なせてしまうかもしれないと……いう恐怖に囚われていたの……】

「……あ、あたし……」
自分の手を、胸の高さまで上げる。
震え上がる手……、恐くて、もう手術なんてできない……。
(あたしは、患者さんを救おうとしていた……!? けど、でも……一歩、間違えれば、人殺しになる……!!
人殺し……。
えっ、あたしが……人殺し……!?)
そんな危うい場面の中、精神の均衡が大きく崩れていた。
「だから俺は反対だったんだ!!!」
「……ッ」
この時とばかりに、ドクターイリヤマの叱責が飛ぶ。
悔しむあたし、もう後悔だ。
「お前には医師は無理だッ!!!」
「!!!」
大きく目が見開く。
現実の宣告となって叩きつけられた。あたしは最大級のショックを受ける。その時――

【――そこへ、助けに入ったのが、スプリング様と彼のAIナビ:レムリアンよ】

「クレメンティーナ……お前は見学だ」
「………………ッ……はい……」
激しい葛藤と苦悩の中、あたしはスプリング様に見学を申しつけられた。
あたしは、レムリアンにその場を譲るように席を開け、入れ替わりにレムリアンが執刀医の位置に就く。
だけど、実際の順位付けは、こんな感じかしらね。
執刀医クレメンティーナからスプリングへ。
第一助手スプリングからレムリアンへ。
第二助手レムリアンからクレメンティーナ(見学)へ。
「……」
あたしはここから、見守るしかない。
「……」
悔しさを滲まらせて。
レムリアンは、術野に顔を覗かせて。
『……これは酷い……』
「あぁ……血管吻合が稚拙(ちせつ)だ……」
そう、後半になるにつれて、あたしの手技は良くも悪くも稚拙だった。
心の葛藤の中、迷いのまま、痛みをこらえて、せっかく施した結果がこれだ。
「………………」
自分で言うのもなんだけど、なんてヒドイ……ッ。
医療アンドロイドの目には、ズーム機能のカメラが仕込まれている。
ジ――ッ、カシャ、カシャ、カシャ
その倍率を細くしていき、その問題の箇所を洗っていく。
その時、妙な血の雫が見えて。
『……見えないポイントが判明しました』
「!」
『……ここです』
レムリアンは、血の海の中に手を滑り込ませ、心臓を持ち上げ気味にする。
一拍の間を置くと……。
そこから、目に見えない心臓の裏側から、血液の雫が、心臓の肉筋に沿って、ッ――……と伝わる。
それは、まだクレメンティーナがやっていないポイントだった。
それはドクターイリヤマが侵した暴挙、加圧試験を行った結果、臓器の一部が裂傷してしまったのだ。
「……」
『……』
だが、私たちはそれには触れない。
同じ悪のグループだからだ。
だから、こう言うんだ、心を押し殺して……ッ。
『……危ないところでした』
「危うく見逃すところだった。……血管吻合を頼む」
『お任せください』
さすがは医療用アンドロイド。
機械式のものを予め仕込んでいる為、例え、心臓の裏側でも、破れた心筋を、高速で血管吻合を行う。
それは人知を超えていた。
だが、この時、ある異変に気付く。
それは、まだ、体外循環を行う人工心肺が稼働している事だった。
これでは、血が溢れ出すばかりだ。
「――何やってる!!! 人工心肺を切れっ!!!」
「!!」
ドクタースプリングの注意が飛び、慌ててドクターイリヤマが、それを切り、心臓への前負荷の値を正常値にまで戻した。
それにより、人口的に送られていた酸素の供給量が止まり、自分の犯行を隠蔽工作したのだ。
いくら今回の目的が、クレメンティーナに医療ミスを経験させるためとはいえ、自分たちででっち上げの犯行を犯し、死なせてしまったでは、目覚めが悪過ぎる。
(……ったく、使えない連中どもめ!!)
『……』
(――医療アンドロイド(私)はその問題には触れない。私は、医療用アンドロイドとして、人の命を繋ぐ、それが私が造られた使命だから……)
『………………』

【――実は、人工心肺は加圧試験を行えるの……! その理由は、元気になった患者さんが走るなどの運動した場合を考慮して、実際の拍動よりも大きく加圧気味になる】
【だから、どうしても過剰分の酸素化された空気が血管内に残留してしまうの……】
【この空気が心臓の弁につまり、あの有名な心室細動などの危険要素と成り兼ねないからよ!】
【あっ! 電気ショック!?】
【フフッ、そうねスバル君……! だから、ワザとどこかで出血させ、その分を抜いてから、血管吻合した方がいいとも、されているの】
【なるほどねぇ~……】


★彡
手術は進む。
そもそも体外循環(人工心肺)とは何なのか。
まずは、それを知らないといけない。
そもそもホントの手術では、
心臓が動いたまま細かな手術を執り行うのは難しく、誤って、手術ミスを誘発する危険がつきまとう。
それを避けるために、今回のように長時間に及ぶ、手術の場合は、
まず、心停止をするために、麻酔科医のライセンが『心筋保護液』と呼ばれる特殊な液体を、「冠動脈」から心臓の筋肉に注入し、心筋停止の保護をする。
その為、心臓の手術を行う際には、「血液」と「脈動」の2つの大きな問題を解決しなければならない。
だいたい、簡略すると、こんな感じの流れになる。
1.まず、心臓の役割となる「ポンプ」からスタートし、そのポンプの収縮と膨張の圧力差により、肺の呼吸と同じように、血液から二酸化炭素を排出しながら、新鮮な酸素を「人口肺」に送ります。
2.次に、「人口肺」から酸素化された真っ赤な血液が、大動脈に繋がられた「送血管」と呼ばれる管から、全身に送られます。
3、次に、全身から戻ってきた血液を、上下大清脈に入れた「脱血管」と呼ばれる管から、一旦、体の外に導きます。
4.この時、万が一の事態に踏まえ、遠心分離機を搭載したボトルを通過します。ここでドクターイリヤマが、必要量を見定めるわけです。
5.この次に、管を通って、1の心臓の役割を担う「ポンプ」に戻るわけです。
この手法により、手術中、自分の心臓と肺を、血液が通過することなく、全身の血液循環が保たられるわけだ。
つまり、手術前から既に行われていた事になります。
では、なぜ、ドクタースプリングが人工心肺を切れ、と注意を飛ばしたのか。
それは極々簡単な事です。
それは、体外循環からの離脱行為に移るための、順番です。
体外循環からの離脱。
その人工心肺からの離脱の条件は、
1.生体の心肺機能の回復と、術野での止血の確認、確実な復温である。
2.ドクターイリヤマは、体外循環から離脱に移る時、徐々に貯血レベルを下げ、心臓への前負荷を増していたのです。
この時、試験的に測るわけです。
クレメンティーナが、手術ミスと思ったのは、まさにこの時だ。
3.続けて、正しく執り行う場合は、
心機能が十分に回復していると認めた場合、それを測る方法があります。
それは、中心静脈圧5~10㎜Hg程度で、充分な心拍出量が得られていることです。
これが判断材料になります。
4.次に、脈圧が増大し、心拍出量の増加が確認出来たら、貯血レベルを安定させながら、送血流量を減らしていくわけです。
5.次に、送血ポンプを止めたら、脱血回路を遮断して、体外循環から終了となります。
6.ですが、ここで万が一に備え、患者さんと人工心肺の動作確認をしなければなりません。
それは、体外循環が停止したら、人口肺へのガスの吹送と熱交換機への送水を止めるわけです。
7.離脱後、しばらくは、循環動態が安定しないため、緩やかな送血による循環血液量の調整を行いながら、
心機能の安定を待ちます。
8.また、万が一が起こった場合、不慮の出血や新機能の低下に伴い、体外循環から再開する事も有り得ます。
現場のお医者様には、ホントに頭が下がる思いです。
そして、薬剤投与も忘れてなりません。
それは「ヘパリン」と「プロタミン」です。
長時間に及ぶ手術の場合、人工心肺を使用していても、何もせずに長時間に及んだ場合、血液中の血小板が壊れ、血が凝固するからです。
これが、もしも仮に、脳の血管に詰まり、血栓(プラーク)が起これば、最悪、脳死になります。
患者さんの死です。
ですので、これを防ぐために投薬されるのが、血液が凝固しない成分「ヘパリン」です。
そして、ドクターライセンは、この手術後、血液が凝固し正常に戻る「プロタミン」と呼ばれる投薬の準備もしています。
ですので、優秀な麻酔科医ドクターライセンにより、患者さんの身の安全が保たられているわけです。
今回の主目的は、クレメンティーナに手術ミスを経験させ、自尊心をへし折る事が目的であり、患者さんの死は望んでいません。
そこは医師として、最低限順守すべき、踏み越えてはならない生死の境目(アンダーライン)というわけです。

「ドクターイリヤマ!! 君は遠心分離機を稼働して、貴重な血液を再利用するんだ!!
ドクターライセン!! 君は、酸化を防ぐために、麻酔科医の腕を見せてくれ!!」
「「はっはい!!」
矢継ぎ早に行うドクタースプリングの指示は的確だった。
そして、レムリアンが。
『心筋が不整脈を起こしています!! 『心房細動ショックパッチ』を試みます!!』
心筋細動ショックパッチ。
それは電気ショックの事であり、私たちのよく知る電気的除細動(心房細動)の事を指します。
これは不整脈を起こした心臓に、電気的な刺激を与える事で、心筋の震えそのものを止め、脈を普通の状態に戻す方法です。
そもそも心臓とは、
左側から、上大静脈、肺動脈弁、肺静脈、右心房、三突弁、右心室、下大静脈、
次に右側から、大動脈、肺動脈、大動脈弁、左心房、僧帽弁、左心室、下大動脈、
次に正面から見て、多くの血管と心筋がある、右冠動脈、右冠静脈、回旋枝、前下行枝とからなる複雑な構成になっており、幾多、幾条もの血管が走ってます。
そんな中、人口肺から送られてきた真っ赤な血液が、何らかの原因で詰まり、圧迫したらどうなるのか。
それが不整脈の原因だと考察されているのです。
そうだな、わかりやすい例えでは、
細い血管の中に、血小板の塊ができて、血栓(プラーク)になっている。
これが血液の流れを邪魔して、抵抗を持たせているのだ。
つまり、不整脈の原因を取り除くには、
この『心筋細動ショックパッチ』等の作用により、除細動を起こし、血管の中に詰まった血小板の塊を、剥がし、正常な血の流れを作るわけだ。
ピィン、ピィン、ピィン
とか細い音が鳴った。
これは、現在(昔)のような電気ショックの造りとは異なり、パァンという大きい音ではなく、
未来(現在)では、極小レベルの電圧をまるでシャワーのように起こし、的確に除細動を起こしているからだ。
これにより、心臓の負担は確実に減り、患者さんの回復が速まる。
「戻ってこい……!!」
『電圧を上昇させて、感応を試みます!!』
「ああ、頼む」
『……はいっ!!』
心筋除細動ショックパッチを試みる医療用アンドロイドAIナビ:レムリアン。
患者さんの心臓の拍動が戻ってくることに、呼びかけるスプリングに、
ライセンが、その心筋細動ショックパッチの電圧を上げるか否かの質疑応答が行われた。
スプリングが即断したのは、電圧を上げる事だった。
もう一度、それを試みる。
ピィン
とその時、病室全体に、心筋細動ショックパッチの音がか細く鳴り響いた。
それはまるで、復活の兆しを告げるかのように……。
「……」
「……」
「……」
「……」
ピッ
と計器に生命兆候(バイタルサイン)の復活が現れた。
オオッ
と歓声が上がる。
麻酔科医のドクターライセンが。
「血圧XXXまで回復!!」
「よしっ! 手術を再開させる!! 電気メス(シャークバイスポーラ)――」

2度繰り返しの説明になるが、電気メス。
その名の通り電気を使って、メスのように組織を切ることができる医療機器です。
電気を流したときに発生する熱を利用する事で、止血しながら切っていくことができる為、金属のメスに比べて出血が少なくて済み、
未来の場においても、外科手術において必要不可欠な医療機器として使用されています。
この電気メスには、大きく分けて2種類あります。
その名を、モノポーラとバイポーラといいます。
モノポーラ。
モノポーラ組織の切開を目的にしています。
メスの先から反対側に置かれた対極板まで、生体に電流を流して切開する方法です。
この時、電流は体内に流れても、メスの先だけが熱を持つというもので、焼いて固めることができるのです。
これにより、出血が少なくて済む道理です。
バイポーラ。
バイポーラは組織の凝固(止血)を目的にしています。
先端がまるでピンセットのようになっており、一方の先からもう一方の先へと電流を流すことで、病巣をつまんだ時、その間、止血・凝固できるのです。
そして、200年後の未来では、その未来進化系として、マンチスツーポーラとシャークバイスポーラがあります。
マンチスツーポーラ。
その名前の由来は、カマキリの腕刃からきていて、より鋭利な刃先で、対称を切り裂きつつ、術部を止血・凝固ができます。
シャークバイスポーラ。
その名前の由来は、サメの歯とバイスプライヤーからきていて、より強く嚙んで、対称を保持しつつ、術部を止血・凝固できます。
ドクタースプリングの手が伸び、微小な血管に空いた穴を塞ぎつつ、その流血を止め、焼いて凝固していく。

「………………」

【――ドクタースプリング(あの人)の顔つきは、真剣そのもの】
【的確に、その手が、動いていくの】
【そうね……。特筆すべきは、その医師の技量を示す、その左手の上手い扱い方が挙げられるわね】
【外科医の技量を測るには、その左手を見ればいい、という格言があるように、左を制すものは、その命の刻限すら制すの】
【利き手が十二分に能力を発揮できるか否か、それはナビゲート・サポートする左手にかかっている】
【掴む組織、持ち上げる手、焼いて止血・凝固していく、時には引っ張りながら、的確に、正確に、短時間で終えていく】
【実際大したものだったわ、惚れてしまった】
【その左手の能率次第で、ここまで違ってくるのかと、思わせるほどにね……。ハァ……】
【あれには、震撼したわ……】


「「「!!!」」」

【両手が自由自在に動けば、術野の見る医師の視界の広さが広がり、より鮮明にその先を見据える事ができる】
【まるでカーレーサーのように、命のサーキットを駆け巡っていく】
【1つも取りこぼしがあってはならない】
【まるで舞い踊るように、動くその手、その命の刻限すら医師の腕に委ねられる】
【その仕事量は、片腕の時の2倍、いや、何倍にもなる】

「……こっ、これが……スプリング様の……!!」
あたしは、その目指すべき頂きを見て、感嘆す。

【まさしく、黄金の左手、ゴッドハンドの領域……】

(は、速い……!!)
(ここにきて、まだ上がるのかこの御方は……!?)
驚き得るドクターライセンにドクターイリヤマ。
「遅いぞ、レムリアン!」
『イエス、マスター! 少しペースを上げましょう!』
スピードが上がっていく、的確に術野を掴んでいく、人とアンドロイドの合いの手。
(ま、まだ上がっていくのか……!)
(刻限すら、緩やかに置いていく……)
(これが、マイ・ダーリンの手術……!!)
ドクターイリヤマが、ライセンが、クレメンティーナが、待ちぼうけをくらう。
デジタル時計の秒数が、その刻限を刻んでいく――
2時間48分6秒、
2時間49分9秒、
2時間50分11秒、
2時間52分14秒……。
そして、ステンレストレーの上に、その医療器具を置き、終わりを告げる。
「……終わりだ!」
場に静けさが宿る。
「クレメンティーナ、医師の端くれとして、切開箇所を結紮しておけ」
「!」
「メスに始まり、結紮で終わる……までが医師の仕事だ……!! ……見ててやる!!」
「……ッ、はい……!」
「ただし! 機械式の医療器具は一切使わず、手技でな!」
「……」

【――スプリング様は、そう申し出、その場で仁王立ちで立ち、クレメンティーナ(あたし)の結紮を見届けるの】

「………………」
【(自分の腕を信じるしかない……!)】
【そう、あたしは心に誓いを立てたわ】
【そして――】

「どんなに結果になろうと、始まりは大事だ」
「!」
「先達として、それを見届ける義務がある!!」
『……』
「……」
「……」
『……』
【フフッ……あの時のあたしったら、みっともなかったわ。それだけ精神の均衡が崩れていたのね……】
【何度も何度も、頼るように、これでいいの? これでいいの? ってスプリング様の顔を見て――】

「………………」
「………………」

【でも、彼ったら一言も何も喋らなかったわ】
【それはレムリアンにしても同じで、ドクターイリヤマや、ドクターライセンも、オーバも固唾を飲んで、静観してたわね】
【そして――】



★彡
【手術室前 手洗い場】
「………………」
【――あたしは手を洗っていたの】
【初めて感じたのは、患者さんが死ぬかもしれないという……死の連想……】
【その直前を味わい、医師とは何なのか、その自問自答の中、懊悩としていたわ】
【だから、それは、普段よりも長く、手を洗っていたの……】
【その時――】

「――クレメンティーナ」
「ダ……スプリング……」

【――あたしは、医師の名前のあなたを言った】

「……恐かったか?」
「……」
落ち込んで凹んでしまうあたし。
「……目の前の患者さんの死を、目撃していないのは、『奇跡』だ」
「!」
顔を上げるあたし。光を見た。
「『俺』は、この手で、何人も、何人も、俺が『殺した』」
「えっ……!?」
「患者さんの死を、見たことがない医師は、ここにはいない……」
「……」
「世界中のどこの病院も、どの大学病院も、人の死、というものを肌で感じている」
「……!」
スプリングは、あたしの背を向けて、歩み出していく。
「暇なら、資料室に来い……。亡くなった患者さんのメモリー動画を見せてやる……!!」
そして、立ち止まり、こう言うの。
「私が最初に、『死なせてしまった』患者さんも……な」
「……ッ」
「医師とは何だ!!!」
問い掛ける。
「それは、患者さんを救う事です!」
「そうだ!!」
振り返る。
「だから、私たち医師は、その失敗談を踏まえ、学習しなければならない!! 命を取りこぼさないために……!! 次の命を救うために……!! 議論しなければ、新しい医療が育まれない!!」
「……」
「つまるところ医療とは、自分の死を無駄にしないで欲しい……という、患者さんの、その多くの、先人たち世代からの、小さな積み重ねなんだ!」
「!! 小さな積み重ね……」
「あぁそうだ……石を1個1個積み重ねていけ……愚直なまでに、研鑽を怠るなよ……この道を選んだんだろ!?」
「……」
あたしは小さく、そして確かに頷き得たの。
「……後で、その手も見てやる」
その場で立ち尽くすあたし。
そして、ダーリンは、その場を歩き去っていったわ――


★彡
どこかのビルの屋上。
その観察者は、ジッと見据えていた。
そのさらに頭上では、白い鳥の紫の瞳が、その動向を伺う。
歩み去っていくドクタースプリング、その場で立ち止まるクレメンティーナ、手術室に残り、後片付けを行うイリヤマとライセン。
その観察者の目的はいったい――


★彡
【天然砥石 マサ】
そして、ヨーシキワーカを見詰める謎の影があった。
「……」
姿が見えないのか、誰も見えない……ハズだけど……。
この人ときたら、僕の事無視してる~~……何でぇ~~!?
「へぇ~……、いい天然砥石もあるんだなぁ」
俺は、ショーケースの中の天然砥石を見ていた。
200年後の未来(現在)では、天然砥石の価格は、最低76米ドルだったものが、なんと227米ドルになっている。
それだけ希少価値が高いのだ、天然というものは。
76ドル、227ドルということは、
1ドルは132円であるからして、
76×132=10,032。約1万と、227×132=29,964。約3万円である。
そこへ店主が。
「おや! お兄さん、お目が高いね!」
「……」
「私かい? わたしはここで店主代理をやっているツバキというものだよ。ちょっとアメリカ人っぽくないね!? ハハハッ」
「……」
その店主ツバキさんが歩み寄ってくる。
「知ってるかい? 天然砥石というもは世界各地にあるけれど、仕上げ砥石だけは、日本の古都、京都にしかないのだよ」
そして、その人はヨーシキワーカが見ているショーケースの商品を見て。
「その番手は、6000番から24000番と呼ばれているのだよ。粒度が細かいよね」
「ええ……」
ツバキさんは、ヨーシキワーカから視線を切り、ショーケースを見て、こう言う。
「あぁ、これは、特別に日本の京都から取り寄せたもので、それぞれ……東モノと西モノに分かれて置いているのだよ」
「東モノと西モノ?」
「ああ、そうだよ……。東モノは硬くて主に最終仕上げ用、西モノは少し柔らかめで仕上げ用と置いているのだよ」
「へぇ~……」
「東モノは、別格の中山を初め、梅ヶ畑産、奥殿(おくと)、鳴滝、蒲浦(かばうら)、大突山(おおづくやま)、若狭が有名どころで。
西モノは、丸尾山、大平山が有名どころだね」
「他にも、色々な山があるんですよね?」
「まぁね……。もう閉山してて、埋蔵量も枯渇してるんだよ……現状はね……」
「……」
22XX年現在、日本の古都京都の天然砥石は、枯渇間際にある。
今や、多くの砥石屋の倉庫に眠っているぐらいだ。
そこから降ろしてもらっているのだから、非常に高値である。
ヨーシキワーカは言う、天然砥石には名倉砥が付きものだと。
「……あのぅ三河白名倉砥、純三河白名倉砥は?」
「あぁそれは京都のものじゃなく、愛知県北設楽(きたしたら)の方だね。でも、その名倉村からは砥石は出てこないんだよ」
「ええっ!?」
それは知らなかった。
俺は驚いた。じゃあ、この天然砥石三河白名倉は何なんだ。
「……」
俺は思わず呆けてしまう。
「君が言いたのは、最高峰の名倉砥石、純三河白名倉砥コマだよね?」
「は、はい……」
「あれは……オークション。主に競り市の商品で、一般流通はないね。
主に美剣目的ための日本刀用として定められているから、ここでの販売はないよ」
「そうですか……」
ちょっと残念に思う……。
「……」
その様子をツバキさんも見ていて、何だかなぁと思う。そこで私は。
「……お客さん!」
「はい!」
「純三河白名倉砥コマ刀剣用に代わる、石もあるんだよ?」
「えっ!?」
「これは、現場使いしていた日本の古道具、鉋(カンナ)を研いでいた人のやり方だけど」
「カンナ?」
「木材を薄く削る日本の伝統工芸の1つ、カンナだよ」
「カンナか……」
俺は小さく頷き得る。
「やり方は至ってシンプル! 天然砥石とコッパを擦り合わせるんだよ」
「あぁ!」
そのやり方なら、昔の記録映像に残っている。
「現場使いから生まれた技だよ
……あと包丁用があってね、お客さんが知りたいのはこれかな?」
「!?」
俺は、その人の言葉に興味の関心を示す。
「これは……邪道の裏技だけどね……ここだけのヒミツだよ」
コクリ
「……」
と頷き得るヨーシキワーカ。
ツバキさんは、その邪道たる裏技を話す。もちろん、誰にも言ってはいけない、秘密だ。
「それはね……。
……。
濡らした天然砥石の表面を、名倉砥でこするから、砥汁が出るんだよ。いわゆる研磨剤だよね?」
「ええ……」
何を当たり前のことを。
でも確信はその後だった。
「じゃあ、微粒砥石同士を、共鳴りさせてみてはどうかな?」
「『共鳴り』……!?」
「フフッ、そうだよ……。例えば、近い番手の砥石を持っているとするだろ? それに同じ山で採れた天然砥石同士なら、比較的相性もいいはずだよ」
「あっ……」
「これを『親子山共鳴り』というのだよ。
近しい番手同士の、超微粒子同士なら、互いにこすれ合って、微細な粒が破砕し合って、目に見えないほどのコマになるはずだよ……。
それは、純三河白名倉砥コマを超えるほどにね」
「超える……!?」
「ああ、そうさ! 純三河白名倉砥コマは、番手で言えば15000番だよ!
天然砥石はね、最大まで細かくしていけば、その番手は24000番だと呼ばれている!
比べるべくもないね!」
「そんな裏技が……!?」
「でも、それができるのは極一部の天然砥石と、山から汲んできた水を用いるしかない……!!」
「水か……」
「そうだよ……。天然砥石も生きているからね。自然のもののミネラルウォーターがいいよ。それで活性化できるからね」
「フムフム……」
俺も納得の思いで、頷き得る。
山から汲んできた水か、ミネラルウォーターか。
「……」
そこで俺は、一度ツバキさんの顔を見て、チラッと天然砥石のショーケースを見てこう言う。
「あのぅ……」
「んっ!? どうしたんだい!?」
「……この中山の次に書かれている、正本山(まさもとやま)というのは?」
「あり……? 知らないの?」
「えっ?」
「それは正本山と読むのじゃなく、正本山(しょうほんやま)と読むのだよ」
「………………」
これには俺も、ボンッと恥ずかしくなって、顔が赤くなったのだった。
「アハハハハ」
とこれにはもう笑って誤魔化すしかない。
「……」
ツバキさんは、そんな俺に対して軽く呼気を吐いて、こう言うんだ。
「正本山(しょうほんやま)は、京都で採れた天然砥石についていうんだよ。
……。
それは正本山が丸か印のブランド登録の1つだからね。
元々は、梅ヶ畑で採れた天然砥石「中山」「奥殿」なんかの呼称だったんだけど……。
昭和の中頃、一部の業者が「〇〇〇正本山」の商標登録を試みたのを契機に京都の天然砥石組合で「正本山」の扱いが見直され、
その組合の共有の財産として、その京都の業者が採掘した仕上げ砥石として使われているんだ。
もちろんここには、郊外の山のものも含まられるんだよ!
で、昔々、その正本さんが掘ったところの山を、正本山としているんだ」
「へぇ~……じゃあ、一番有名な砥石は?」
「それはもちろん! 梅ヶ畑 中山 奥殿(おくど)だね!」
「梅ヶ畑……!?」
「梅ヶ畑産は、日本の皇室の御用達だからね。古くからの歴史が古いんだよ。いわゆる大昔の人の献上品から始まり、今でも垂涎(すいぜん)ものの品とされてるんだ」
「へぇ~……」
「で、その梅ヶ畑の中心に位置する山が、中山というんだ!」
「あっ! だから別格!?」
「そうだよ。
……。
……でもね……今日(こんにち)ではもう採掘されてないんだよ……」
「え……!?」
「考えてごらんよ。
ずいぶん昔に多くの人が、天然砥石を採りつくして、
その埋蔵量を守るために、政府が採掘禁止令を出したんだよ。
だから今でも、採掘されてないらしいよ」
「……」
まぁ、その悪質な業者がそれを知って、その金脈に手を出して、御用となった案件もいくつかあるんだけどね……」
「ハハハ……」
これにはもう笑うしかない。
日本の金脈を守るためだ、その政治は正しいといえる。
「だから、お客様たちに進めるのは、その在庫品限りなんだよ。それぐらい天然砥石は希少(レア)だからね」
「仕上げ砥石が、日本の古都京都からでしか採掘されないからですね!?」
「うん!」
「なるほど……」
なら、その埋蔵量を守るためにも、その政治の政策は必要だし、もう枯渇資源といって差し支えないだろう。
「……と」
「!?」
「ここ等辺じゃあ、……お客さん見ない顔だけど、初めてじゃないのかな?」
「……」
「だったら……今でも日本有数の採掘されている丸尾山あたりがいいかも?」
「丸尾山?」
「うん! この機会に天然砥石について知るといいよ」
「……」
俺はこの人に体を向き直す。
ツバキさんの話は、こうだった。
「丸尾山で採れる石を、3つのグループに分ければ、天井巣板から日本刀用、ノミ・カンナ用、包丁用と3つのカテゴリーとされているんだ。
で、上のグループで採れる石が、青巣版。
下で採れるグループが、白巣版と言われていて、硬さがそもそも違うんだよ。
青巣板は硬いからノミ・カンナ用。
逆に白巣板は研ぎやすいから包丁用として適しているんだ」
「へぇ~……。……じゃあ、観賞用美品目的のための刀剣は?」
「あぁ、日本刀……いわゆるサムライブレードだね? あれはイキムラサキだよ!」
「イキムラサキ……」
スゴイ興味がある。つまり、こーゆう事か。
日本刀用は、イキムラサキ。
ノミ・カンナ用は、青巣板。
包丁用は、白巣板というわけだ。
ただし、忘れてはならないのが、どれも内曇りであることだ。
超最終仕上げ用の鏡面ではない。
「でもあれは滅多に出回らないぐらいの、超がつくほどの入手困難の品でね……。
マグロで言えば、脳天……『頭トロ』とも呼ばれていて、1本のマグロからは2本しか取れない……。
どんな山にも言えるけど、その埋蔵量はとにかく少ないんだよ。
イキムラサキは……。
だから、日本刀を作る鍛冶師か、それとも砥ぎ士しか扱えないような、掟というか制度があるんだよ。
だからもしも、一個人が持っていたら……、未来(いま)の値で、7576米ドルは下らないね!」
「高ッ……!?」
これには俺も衝撃を受けた。
7576ドルということは、
1ドルが132円であるからして、
7576×132=1,000,032。約100万円である。
「ムラサキにはね、イキムラサキ、アカムラサキ、ムラサキがかった浅黄なんかもあるんだよ!」
「へぇ~……。じゃあ、最高峰のものが……!?」
「うん……かってはあったらしいよ……名称不明の紫がかったものがね……」
やっぱり……。
ツバキさんの話が続く。
「でも、どんな山にも言えるけど、必ずあるものでもなく、その大きさは、原石でもコッパクラスなんだ……」
「小さいんですね……」
「うん。ほんのわずかしか採掘できない。……そう、幻の超希少な原石らしいよ」
「それが……7576米ドルか……。メチャ高いなぁ~……ヒエェ……」
これには俺も、恐れおののいてしまう。
いったいどんな名前なんだろうか?
1つの山から必ず採れるものでもなく、その原石の大きさは、コッパクラス。
何やらムラサキがかった超希少な代物らしい。
それも幻クラスの。
それこそ、ムラサキがかった浅黄を超過するほどの代物が……ッ。
そのお値段は、なっなんと、7576米ドル(約100万円)である。
「……」
「……」
間が流れる。
そこでツバキさんが。
「でも、ものによっては、それすら超える事もあるよ」
「えっ……!?」
「かって沼にハマった人たちはこう言い残したんだ……。
掛け合わせの探究だと……!?
特殊な鋼材を用いた包丁、いくつもの山から汲んできた天然水、天然砥石に、近しい番手のコッパか天然砥石を用いる事で、
究極まで達する。
それができずとも、いつしか至高にまで届く。
見果てぬ夢の先さ!」
「それは……触れれば切れるレベルの……!?」
「ああ、そうだね……。鋼ならそれができるけど……今でもまだステンレス鋼等でも無理な話さ」
「……」
俺はその話を聞いて、小さく頷き得る。
鋼は確かに良く切れる。
触れれば、切れて裂けるほどの、名刀ともいうべきものもある。
それはカボチャを、マグロ包丁などの、刃の重みだけで、引くことでできるぐらいだ。
だが、すぐに錆びるのが唯一の欠点だが……。
「まぁ、私のおすすめは……」
そのツバキさんが歩み寄ってきて、天然砥石を紹介し出す。
「板前さんなら、中山戸前~!
初心者なら、研ぎやすい丸尾山が一番だよ~!
どう? お客さん? お気に召しましたー?」
「……あの……もう少し、見ていいですか?」
「フッ……どうぞ~! お好きに~! どれも天然の一品物で、この世に2つとないものだよ~! マサの一押しだからね~!」
「……」
嘆息す俺。
興味を引くものがないかと、辺りのショーケースを散策していき、その洞察眼で、その天然砥石の真価を見定める。
その時――
「――これは……!?」
俺の目は、とある天然砥石に留まった。
その砥石の名前は、『750 天然砥石 相岩谷(あいわだに) 浅黄 極厚 仕上げ砥石』だった。
サイズは、縦207㎜、横77㎜、厚さ62㎜、重さ3.1㎏。
硬さは硬いめ。
硬く生地の細かい最終仕上げ砥だ。
浅黄には、ムラサキがかった浅黄、白浅黄、水浅黄とあるが……。
こいつにはうっすらと浅黄色に黄色がわずかに乗っている。
おそらく、黄板の砥石を掘り進めた奥殿で、ぶつかったほんまもんの天然砥石だろう。
当たりだ、間違いない。
最低でも、その粒度は12000番以上だ。
「うっ……それは……止めた方がいいよ……」
これにはツバキさんも、心もと難色の色を見せた。
まさか、見るからに初心者がそんな石を手に取るだなんて。
「……」
俺は、その石を手に取ってみる。
他とは一線を画すとんでもない天然砥石を見定める。
「……他と比べて……ずっしり重い……」
「それは……軽く3kgはあるからね……。ギュウギュウに中が詰まっているから、超硬だし、割れやすいうえに、欠けやすく、剝がれやすいんだよ」
「え……!?」
「それを扱える人、もういないんじゃないのかな――……!?」
「……」
これにはツバキさんも心許心配だ。なぜならば。
「水を吸った天然砥石はね……。冬場の乾燥したところで放置すると、内部の水分が膨張して、割れやヒビ、欠けや剥がれやすいんだよ……君には、まだ早いような……」
「……」
「未来(いま)の鋼材じゃ、刃がダメになるよ! せっかくの砥石がダメになるよ!?」
「………………」
それはツバキさんからの忠告だった。
扱えるはずがない。
そう店主は、目の前のお兄さんを見て思ったのだ。
心配だ、絶対にダメになる。
「……」
この時、俺はこう考える。
今持っている砥石は、12000番までだ。
次のステージに踏み出すためには、人造砥石の30000番か、それともこの天然砥石しかない。
「浅黄か……」
俺は少し気になり、この店主代理のツバキさんにこう尋ねてみることにした。
「あの……1つ、質問なんですが……いいですか?」
「!」
(もしかして気が変わった……!?)
私は安堵したように、この人にこう問い返す。
「……何かな?」
「この浅黄より、上の砥石の名前は、なんてゆーんですか?」
「それは水浅黄ですね」
「水浅黄か……」
うん
と俺は頷き得る。
(天然砥石ものをつかって、どこまでいけるか……!?)
それは未知の領域だった。
このまま、浅黄までで終わる可能性もあるし、それとも、水浅黄などに手を出して、まだ駆け上がれる可能性が眠っている。
「…………………」
俺は真剣に考える。
そんな俺に対し、ツバキさんはこう語りかけてきたんだ。
「でも、まさか君が、相岩谷(あいわだに)を選ぶだなんてね?」
「えっ?」
「別名、相岩谷は天然砥石の覇者と呼ばれていてね」
ニィ
とツバキさんは、気持ちいくらいのいい笑みを浮かべて。
「別格の中山といい勝負をしているんだよ……相岩谷は……!
マニアック向けの砥石で、きめ細かくてあまり硬くなく、粘りがあってやや硬めの砥石なんだ。
私も、その砥石で研いだ時、不思議と粘着力というか吸着力が素晴らしかったんだ……!」
「……」
俺は、この石に興味の関心を示した。
「……もしも、あなたが本気でその天然砥石を購入するなら、カシュ―養生を考えるといいよ!」
「カシュー!?」
「何だい!? カシュ―も知らないのかい!?」
「ハハハハ……」
これには俺も、空笑いを浮かべてしまう。
これを見たツバキさんは。
「……まったくもしょうもない、お客さんだ……。フッ……」
私は愉快な笑み浮かべ、こう答えるんだ。
「漆の代替品みたいなものだよ……カシュ―は……!」
(まったくこれだから、最近の若者は……!)
私としても、困りものだった。
「必要な道具は、天然砥石、カシュ―、カシュ―薄め液、刷毛(ハケ)、そしてマスキングテープさ!
別途、埃避(ほこりよ)けのために、上から被さるものを用意するといいよ!」
とアドバイスをして置く。
「カシュ―養生はね。
3から4回塗りなんだ。
で1回目を塗ってから2回目を塗るまでに、自然乾燥で、平均で3日間ほどあけるんだよ。
カシュ―が固まるまで、それぐらいかかるからね。
だから、カシュ―養生で仕上がるまでに、平均で12日間ぐらいはかかるかな!?」
と付け足しておく。
うん、我ながら、いい店主代理だ。
「……」
私は、このお客さんの目を見ながら、心の中でこう思う。
(この世界に稀に残る、天然砥石を、本気でご購入されるならば、カシュ―養生ぐらい知っておいてほしい。……私としても、些か心残りだからね……)
それが私の本心だ。
「さて、カシュ―養生のやり方だが。砥石には、6面あるだろ?」
えーと……
俺はこの天然砥石の面を見て、6面あることを確認して。
「……はい」
と答えたんだ。
続くツバキさんの言葉は。
「一番上の表面だけはしないほうがいい。そこにはマスキングテープをかけるからね」
コクッ
「……」
と俺は頷き得る。
(大事な砥石の表面だからか……)
と心の中で付け足しておく。
続くツバキさんの言葉は。
「人によっては、カシュ―養生は4面がいいとか、5面がいいとか言われていて、それは砥石の特徴に合わせているのだよ」
「なぜ!?」
「なぜ……かか、それは砥石の大きさによりけりなんだよ。
砥石の厚みが、そう、高さが低い砥石なら、入りと出が確保できるから、4面の方がいいとされていて。
今、お客様が持っているような厚みがある砥石ならば、しっかり5面養生した方がいいと思う。
天然砥石はね。
冬場の乾燥によって、割れや欠け、剥がれる恐れがあるからね。
昔は、新聞紙といい、いい脱脂抜けがあったんだけど……。
未来(いま)のご時世にそれはないでしょ!?」
「新聞紙って……なに……!?」
「ガクッ……これだから最近の若者は……、……ハァ……」
重い溜息をつくしかないツバキさん。
済みませんね……無知で……。

【――22XX年現在、新聞紙という紙媒体は、存在しない】
【ペーパーレス化が進み、そういったものはすべて電子情報として、やり取りできるからだ】

「――未来(いま)でもできるのは、料理人さんたちが使っているように、キッチンペーパーを下に敷く方法だよ。段ボールを使うのもまたいいね。吸水性が高いから」
「なるほど」
ツバキさんは物知りだった。
「そして、これぐらいの大きさの石なら、入りと出を確保しても、また浅黄という超微粒子の特徴を考えるなら」
「……」
「残念ながら、やっぱり5面養生の方法しかないと思う……!?」
(やっぱり……)
俺はまさか……という危機管理を覚えてしまう。
そんな俺の様子を見て、ツバキさんは。
「なんなら、保管管理の方法も教えるよ?」
「えっ?」
「なるべくなら、外気は避けた方がいい。ただし、注意点があって……! 水分を吸った状態の砥石を紙などで包んだ場合、それでも砥石がダメになってしまう……」
「えええええっ!?」
じゃあどうすればいいの?
俺は不安を覚えてしまう。
ツバキさんは、そんな俺の顔を見て。
「フッ……そんなに恐がる心配はないよ」
「えっ……?」
「砥石を購入される時、箱をつけるよ。普段はそこに保管すれば、外気の侵入はシャットアウトできるからね。また、小さめの乾燥剤を、箱の隅に忍ばせておけば、比較的長持ちできるはずだよ」
「なるほど……」
「で、使用後の保管方法は、しっかり水気を切って、布やタオルなどで包んで、日の光が当たらないような暗い所で、保管管理すればいいさ!」
「……」

【このツバキさんは、天然砥石の商売人だった】

「――そう言えば君は、刃物を使った後どうしてる?」
「えっ? 刃物……!?」
「ここに来られるお客様はね。何かしらの職人さんなんだよ」
「……」
「私が見たところ、君も何かの職人だと思う……違うかい!?」
「フッ……」
ニッ
と俺は笑みを浮かべる。
ツバキさんは、そんな俺を見て。
「天然砥石で研げば、錆びやすい鋼もいくらか錆びにくくなり、また長切れが長持ちするようになる」
「……」
「ただし、本職人さんは、さらにそこから、ヌメ革などで仕上げるんだ」
「ヌメ革……?」
「ああ……」
ツバキさんは、俺の顔を見て、こーゆうんだ。
「昔は天然砥石で研いだ後、よく新聞紙でバリ取りをしていたんだけど……。粒子の粒度、刃先の繊細を長く保つなら、ヌメ革がいいとされてるんだよ」
「へぇ……」
「で、本職人さんなんかは、天然砥石で研いだ後に、さらにそこから、50000番から80000番相当の馬革コードバンで、超絶最終仕上げを施しているんだよ!」
「8、8万!?」
「古くは、良く理髪店などでされていた方法だからね」
「へぇ~……」
「で、本職人さんなら、椿油なり刃物専用錆止め油で差すなどして、いつでも使えるように準備をしてたんだ!」
「ハァ……凄いなぁ」
思わず、感心させられるほどだった。
「――で、どうしますか?」
「……」
うん
と頷き得て、俺は購入することを決める。
歩み出す、カウンターに向かって。
「お願いします」
「ああ」
俺は、腕時計型携帯端末を操作して、購入手続きを行う。
「決して、無駄にはしないでよ、この世に2つとないんだからね?」
「……はい!」

【――同じ天然砥石は、この世に2つとない】
【それを活かしきれるか否かは、自分たち次第だ】

――購入を済ませたヨーシキワーカが、店外に出ると。
「毎度あり~!」
とツバキさんの声がしたのだった。
私はこう思う。
(天然砥石浅黄は、古くから現場使いされてきた砥石だ)

メインストリートを歩んでいくヨーシキワーカ。
「~♪」
陽気に歩んでいく。

(いったいあの人が、どんな職人さんであるかはわからないが……。私たちにできるのは、現場使いに寄り添った天然砥石を扱う事だ)
そして、再び、誰かが入店してくる。
「いらっしゃいませ~! 天然砥石店マサへようこそ!」
「現場使いで、何かいいものはありますか?」
「! は~い! もちろんありますよ~! どうぞこちらへ~!」

【――店主代理ツバキさんは、今日もそうやって天然砥石を紹介しつつ、現場使いに寄り添った活動を続けるのだった】
【天然砥石の番手は、24000番までとされている】
【そして、未来の人造砥石の番手は、余裕で10万番まで伸びてきているが……】
【それでもこうして、天然砥石を選ぶお客様が、来店して下さるのだ】
【そこにあるのは、何の変哲もない石ころだが】
【見る人によっては、それはルビーやサファイアなどよりも、ずっと価値があるものなのだ】
【――今日もどこかで、仕事のプロフェッショナル精神によって、活動を続けている人達がいます】
【そして――】

「~~♪」
鼻歌を歌いながら、メインストリートを歩んでいくヨーシキワーカ。
「銀の~……」
だが、その時、その足がふと立ち止まり。
「……ハァ……」
と溜息を零しつつ、ゆっくり振り返る。
「あのさあ、見えてるんだよ……。……誰、君?」
訪ねる俺。
その場にいた者はいったい――


TO BE CONTINUD……






















☆彡
おまけ
「……あれ?」
この場に集められた一同、
スバル、アユミ、クコン、クリスティ、
L、アンドロメダ王女様、レグルス、デネボラ、
ヒース、シャルロット、ガニュメデス、ショウ(黒い影)、フォーマルハウト。
ヨーシキワーカ、スプリング、ヨシュディアエ、ミシマ、イリヤマ、ライセン、
他多数。
「おいっ!!」
ビシッと乗りツッコミ。
シシドは、諸事情によりお休み、っつーか欠番……。
「何でここにみんなが……!?」
白い霧が晴れていく……と。
そこにいたのは、原作者夢泉さんだった。
「――今回お集まりいただいたのは、今年でちょうど1年目を迎えるからだ」
「あっ……あなたは?」
「原作者夢泉!?」
スバルとLが指さした相手は、原作者だった。
「企画を行おうと思う!」
「えっ……!?」
「えっ……!?」
「フッ……キャラクターの人気投票だ!」
「「「「「人気投票~~!?」」」」」
後ろからキャ~~ッと声が上がる。
「この話は、ツギクル小説で無料公開しているものだ。そのお便りに記入しててくれれば、こちらで統計を取る。
……まぁ、いないと思うが……人気ないし……」
「あぁ……」
「あぁ……」
「しまらない場合は……、私個人の判断で人気投票の順位付けを行う。
結果発表は、後日に執り行う」
なるほどなぁ……
と頷いていく一同。
とその時。
「あれ? 御兄さんじゃん!?」
「よっ!」
「あれ? 確か死んだはずじゃあ……?」
「そう言えばお前、まだこれくらいの身長(たかさ)だったよな?」
「……?」
「……?」

またある所では。
「「「「く、クレメンティーナ!?」」」」
「えっ!? スプリング!? なんで!?」
「!?」
「!?」
もう訳がわからない展開になる前に。
「ハーイストップ!!」
待ったをかけるのは、原作者様の仕事だ。
「!?」
「!?」
「!?」
「ここでは、第一部の小説と第三部の小説が交わり、時間軸がおかしくなっている!!」
一同これには、「えっ!?」と驚き得る。
で、アンドロメダ王女様が「時間軸じゃと!?」
「ああ」
で、デネボラさんが「何だってそんな事が!?」
「ああ、私がそうしているんだ」
一同、これには訳がわからずに「???」と疑問符を上げるばかりだ。
「フッ、それに答えるにはまず、彼女等を呼ぼう!!」
それに答えるのは、原作者様だ。
「実は、この場には恵ケイも呼んである」

「ヤッホ~!」
亡くなっているので、頭の上に輪っかがついている。

「うそ~~!?」

「チアキもな」

「フッ……」

「ええっ!? 今までどこにいたの――!?」
「ヒミツや」
「あたしはあの世だけどね……」
恵ケイは、あの世の天国にいる。
と原作者がこう語る。
「まぁ彼女達は訳あって、裏でいろいろと動いているんだ」
「へぇ~~」
と声を上げる僕たち。
きっといろいろとあるんだろう。
「まぁ、諸事情で、この場では名を明かせない、未発表のキャラクターもいて、剣術の先生と魔法先生は、そのまま、その名前で流用することにした」
「何だってまた?」
「バレるといろいろとマズいから!」
「マズイ……?」
チアキも「どうマズイんやろなぁ……?」と。
ケイも「ねぇ、どうマズイんでしょうね……?」と。
これには原作者も「明かせない……」と語るのだった。


「――さて、もう1つの別件の話をしよう!」
スバルが「別件……!?」
「実は、この小説のベースパターンは、2019年6月中にGA文庫にネット小説として投稿し、そして1次審査で落選したものなんだ……」
Lが「あぁ、だから人気がないのか……」
レグルスが「酷く……納得……」
「その時の名前が『救世の愚者』という」
クコンが「ダサッ……」
アヤネさんが「仰々しいわ……」と。
「キツイな……女性陣~……」
これには原作者も、ハァ……と溜息をつかんばかりだ。
でアユミちゃんが「で?」
「で?」
アユミちゃんが「……何が言いたの?」
「ああ、実は……この作品は、去年、2022年頃から、ある人たちにハッキングを受けていたんだ」
「ハッキング~~!?」
「で、私の本名やアカウントを知っている連中で、こちらでパソコンの設定画面からインターネット設定を切断しても、
アカウント繋がりで再接続してくるような、凄腕のハッカー集団なんだ……。
動機は、この先が気になるかららしい……。
しかも、私が書いたメモ帳を、事もあろうか多方面に見せびらかして、私は酷く迷惑を被っている……!!
……ハァ……メチャ凹んでいるのだよ……。
しかも、私の顔写真まで取っている人がいて、メール写真をバラまかれて、散々な人生を送っている……。
そのせいで、期待していた就職の話まで、これで最後だとばかりに、何度となく幾度となく落としているような人もいるのだよ。
どうしようもない問題というやつさ」
「アチャ~~」
「そんな悪い人もいるんだ……」
「あぁ……実在する……。
自分たちの企みが、まさかのアテが外れたことで、逆に逆恨みしているのだよぉ。
しかも、よくもまあ事前調査もせずに、人の周りで勝手に騒いでいるようなものだ。ハァ……。
そればかりか、他の方々に散々迷惑をかけて、
偽電話詐欺を取り次いで回って……。
当方である、私としても、もういい加減にしてくれだ!!」
「どーゆう人たちなんですか?」

「――その実名を公表した場合は、取り返しがつかない事になるから、黙秘でいたいと思う――」

「……」
「……」
「……」
「それが総合判断であり。
2020年3月から始まり、2023年3月で終わり。
4月になってもまだ、飽き足らず、私のパソコンからメモ帳を盗み見ているのだよ。
気になるから見るのは、当事者本人である私からしたら、もう気が削がれるもので、執筆に気が乗らないのだ……」
「そんな事に……」
「いったい誰や!?」
「実名は、訳あって明かせないが……。2023年4月現在づけで、九州地方の長崎県内にいる人達だ。
その実情と内情を知っていても、これ以上ないぐらい下手に騒ぎ立てたもので、どうしようかと考えあぐねている。
私としても、落ち度があるため、
総合判断の結果、黙秘が安全だとしているのだよ……」

アンドロメダ王「思ったよりしっかりしてるおるではないか……!?」
ショウ(黒いシルエット)「ねえ……?」
「ムスゥ……」
と不機嫌を漂わせる原作者夢泉。
「この小説は、私個人の趣味から始まったものだ。
そこに基づくのは、私の人生観であり、私が歩んできた経験則なのだ」
「……」
「私自身も、事を荒立てる気もなく、そんな奴等とは、今後、付き合いたくもない。
ただし、双方間によって、苛立ちと義憤は溜まっているもので、
私なりに、線引きをしたいとおもう」

レグルスが「おっ! なんか考えがあるのか!?」
「ああ、あるとも……! 私としても、線引きをしたいと思うので、その人生経験に基づくものを、伏線として、この小説内に忍ばせたいと思う」
Lが「なるほど……」
アンドロメダ王女様が「考えたものじゃな!」
「これはすべての作家に言える事だが、
諸事情によりスクランプに陥った……。
その責任を取ってもらい、また、このどうしようもない問題に関わった人達全員に対して、新たに立ち直り、再出発を促すため、
真理と虚実、理想と真実をもって、
私の時間が許す限り、当小説を書きたいと思う。
件の事件に関するあらゆる事象は、一部の人たちしか見たくないため、またそんなものは、私個人としても、書きたくないし、見たくもないため、書きたくもない……!
そんなものは、愛読者は見たくないからだ!
故に、笑いあり、泣きありの、面白いものを書き続けたい。
それがせめてもの妥協点だ!!!」
チアキが「なるほどえ」
ケイ「考えたものですね」
アヤネ「でも、どんな風にやるのよ?」
「まぁ、今後の展開に任せなさい……。クスッ」
「?」

――その時、怒りと嘆きの仮面をかぶった男の人が現れた。
一同はその人を見て、首を傾げる。
「?」
「誰?」
「作者、その人は?」
「ああ、この人はアヤだ」
「アヤ?」
「現実のどうしようもない問題に関わった、その実情を知る人たちには、少なからず覚えがあるはずだ。……だが、今ばかりは、その情報は伏せさせてほしい」
クリスティが「何だってまた?」
「………………」
私はよく考える。
次の言葉を考えて。
「私自身も、陰で、アヤたちのグループと、すべての連絡手段を絶ちつつ、暗号によってやり取りをしていたからだ」
「「「「「えええええっ!?」」」」」」
「「「「「暗号!?」」」」」
アヤが「あったな……」といい。
「だが、ハッキングにより、私のパソコンからメモ帳が覗かれたため、その一部の暗号のやり口が、流出してしまった危険がある……!!」
アヤが「なにっ!?」
「済まない……私の落ち度だ……」
アヤが「チッ」
「っつーわけで、そちらにも危害が及ぶ危険がある。その為、そちらの判断次第で、すべての暗号を、燃やしてくれ」
アヤは「………………」
「そちらに判断を委ねる!」
とアヤは「……わかった」
原作者は、フッ、と笑い。こう続ける。
「だが、気になっている人達も、またいるだろう!?」

漁師「おう、気になるぞ!」
宇宙人「そうだそうだ!」
クコン「どうやってたのよ!?」
狐人のクコン「気になりますよね?」

「それも小説内に忍ばせる事に確定した!!」
おおおおおっ
「ただし! 面白おかしく、また愛読者の注目の関心を買いたいため、事実とは異なる仕様だが、それでもいいか!?」

「いいぞ」
「やれやれ」

「フフッ、確定だね!」
とその時。
「んっ?」
「……」
怒りと嘆きの仮面をかぶったアヤが、原作者に1枚の紙を手渡すのだった。
それを見て、原作者は。
「――なるほど。
……それがお前の願いなんだな? ……アヤ?」
「コクリ……」
とクリスティが「なんて書いてあるのよ?」
作者はこう答える。

「――アヤの願いは、『鎮魂』だ。
それはどうしようもない問題に関わった事で、お亡くなりになってしまった遺族たちに対する謝意に他ならない。
以前、アヤは、どうしようもない問題に関わった事で、
とある友人を、集団で追い詰めた事がある。
ある商業施設で、騒ぎになったほどだ。
そこで、2人の間に決定的な溝ができている」

クリスティが「えっ……?」

「その友人を追い詰めたために、自殺まで追いやってしまった……。
手元に残ったのは、どうしようもない問題による、飴のようなもの……つまり金だ。
本人としても、こうなるとは考えられなかった……。
大いに反省している。
自分のせいだと、今でも仕事に熱が入り切れない。
後悔と懊悩の連鎖だ」

「……」

「そんな自分ができる事は何か?
それは知っている情報を、人伝に伝える事であり、また自身に被害が及ぶ危険性があるため、今でも正体を隠し続けている。
アヤが今回協力してくれたのは、
亡き友人に対するせめてもの罪滅ぼしであり、
そいつ等に対する、仕返しが、主な動機なんだ。
それは仲間割れを誘発するようなもので、自身まで危害が及ぶ危険がある。
強いては、そのご家族まで迷惑を被り、危険が潜んでいる為、
私自身にも、その事を伏せてくれ……というものだ。
だが、ハッキングによりバレてしまい、
危ういため、こうして必要な情報を開示することにした」

「……」

「どうしようもない問題に対するやり口は、何を犠牲しても、当小説内に忍ばせていく。
それが亡き遺族たちに対する、謝意に他ならないからだ。
遺族達としても、あの日、会った事が、どーゆう手口なのか、把握したいというのが、大きな動機だろう。
どうしようもない問題、犯人当てゲーム等々etc……
人を自殺まで追い込み、
その証拠まで揉み消し、人を騙してまで、お金を着服している以上、黒といっても差し支えない」

「何で証拠が残らないのよ?」

「証拠が残らないのは、実際に何がされたわけじゃないからだ」

「え?」

「犯人達はずる賢い。ハッキングにしてもそうだが、偽電話詐欺などによって、取り継ぐことで、何も証拠を残していないのだ」

「え……?」
「え……?」

「事実だ……!
その為、当事者本人である私としても、
今回のどうしようもない問題は、本気で許せないが……。
私が、仮に、情報を開示することにより、
次の犠牲者を減らせるならば、
また、故意に、その人たちを自殺まで追いやってしまえば、それは同罪であり、
殺人罪にあたるかも知れない……」

「……」
「……」
「……」

「正直、当方としても、何が正解なのかわからないのだよ……。
黙るという手もあるが……。
それでは、次の犠牲者が出てしまう。
犯人たちが図に乗ってしまう危険もある。
……。
その為、その線引きとして、どうしようもない問題に対する、いくつかの出来事を、当小説内に忍ばせることにした。
それが、私が下した決断だ。
そして、それが、亡き遺族達に対する、せめてもの謝意であり、
アヤの意思を尊重した、
私なりのケジメだ……!!
そして、叶う事ならば、その亡き遺族達に謝りに行ってほしい。
そして、何でこんな事をしたのか、その真相を話して欲しい。
私個人としても、その実歴を残してほしい。
そんな事は、そもそもなかったぞ……とする声もチラホラあるが、どうにも許せないからだ。
そこは踏ん切りとして、
この場を動かない。
影から人を追い込み、証拠を残さないようして、人を追い込んで、自殺までするような人たちと、今後一切、協力関係もない……!!
集団催眠と共犯意識と飴も、関わりたくない!!
そんな私にできる事は――」

アヤが、コクリ、と頷き得て。

「――原作者(本人)の願いは、『自由の解放』です。
どうしようもない問題で、かってハメられて、陥れられた人達がいるはずです。
その人達の自由の解放を願います。
まだ生きています。今後の人生があります。
今回のどうしようもない問題で、わかったことは、私個人の力では、決して無実の証明をできなかった事です。
親兄弟、親戚、会社の同僚方、先生方、協力してくださった皆様方に、感謝しています。
ありがとう。
人は支え合って生きているのだと、つくづく実感しました。
どんな人たちにも、先の生命があるため、
ご家族もいるでしょう。
命は……尊いのです。
そんな私が願うのは、まだ先がある、今後の人生がある、人達の自由の解放を望む声です。
彩(いろどり)をそえて、恵をもたせて、今後の人生を実らせてください。
私は何もいりません。
きっと皆さんが一緒にいることで、より良いものを作ることができるでしょう。
きっとその方が楽しいし、また面白いからです」

その時、白い霧が立ち込めてきた。
「!」
「?」
「!?」

【――この話を事実と取るかは、あなた達に委ねます】
【人の命は1回限り】
【それはとても尊いもの】

チアキが「時間やな」
ケイが「ええ」
アヤネ「ケイ……」
ケイ「……またね……」
アヤネ・ミノル「うん……。ああ……」

【ここで起こった記憶は、忘れる……】
【忘却の彼方へ……】
【ただし、忘れてはならないのが……】

アヤネ・ミノル「お休み……」
ケイ「うん、また……」

【ありがとうの感謝の気持ち……】

チアキが「スバル君!!」
スバルが「!」
「しっかりしや!!」
「うん!!」
「先の未来で、交わるところで!!」
「いつか、また!!」

【――そう、いつか、また……どこかで……――】


TO BE CONTINUD……


――その時、謎の暗号文が、忘却の霧の彼方へ消え失せようとしていた。
2023年から3年間、太陽活動が活発な時期にあり、黒点が発生中。
太陽風(フレア)により、南極大陸の方で、オーロラベルトを観測。
奇麗な円形が広がっている。
世界各地で異変が起きる前兆。
日本国内でも注意されたし。
とある自然災害の前兆の兆し、あり……。
そして、その謎の暗号文は、忘却の霧の彼方へ、消え失せていくのだった――

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