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第九十九話 決戦、死の山(四)

 ラインハルト達、ユニコーン小隊の前に秘密警察の戦闘員達が立ち塞がる。

 ジカイラが海賊剣(カトラス)を抜いて構え、軽口を叩く。

「おいでなさったか!」

 ラインハルトとジカイラが並んで前に出る。

 ラインハルトがナナイに告げる。

「ナナイは後衛の皆を頼む」

「判ったわ!」

 ジカイラがラインハルトに話し掛ける。

「いくぞ! 相棒!!」

「そっちこそ、遅れるなよ!」

 ラインハルトとジカイラが戦闘員達の集団に斬り込む。

 二人は次々と戦闘員を斬り伏せていく。

 戦闘になると、やはり上級騎士(パラディン)のラインハルトのほうが前に出る。

 ジカイラは、ラインハルトの戦いぶりを見て考えていた。

(地下工場では苦戦した戦闘員が、今ではラクに倒せる・・・)

(二回転職して上級職になり、やっと、お前と肩を並べる事ができた)

(『友達(ダチ)』の後ろにいるってのは、気が引けるもんだ)

 ラインハルトは今まで通りだが、ジカイラの戦いぶりに他の小隊メンバーが感嘆する。

 ヒナが驚いて口に出す。

「凄い・・・」

 ケニーが呟く。

「ジカさん、すげぇ・・・。ラインさんと、ほぼ五分だ」

 中指で眼鏡を押し上げる仕草をしたハリッシュが解説し始める。

「暗黒騎士の力ですね。しかし、上級騎士(パラディン)のほうが近接戦最強職だけあって、スピードもパワーも、やや上回っているようです」

 ラインハルトとジカイラは、二人で秘密警察の戦闘員の集団を殲滅した。

 ラインハルトがジカイラに話し掛ける。

「腕を上げたな」

 ジカイラは悪びれた素振りも見せず、海賊剣(カトラス)を肩に担いで答える。

「まぁな」

 ラインハルトは小隊のメンバーの方を振り返り口を開く。

「先を急ごう!」

 




 
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 通路を進むナナシ伯爵が率いる帝国魔界兵団のところにも秘密警察の戦闘員達が現れる。

 戦闘員達は、先頭の上位悪魔(グレーターデーモン)二体に鉤爪で斬り掛かる。

 しかし、戦闘員の攻撃は、上位悪魔(グレーターデーモン)には全く効かなかった。

 上位悪魔(グレーターデーモン)は、強靭な肉体に硬い爪と皮膚、蝙蝠のような翼と山羊のような角を持つ、強力な蒼い悪魔であり、食屍鬼(グール)の秘密警察戦闘員とは、全くランクが違っていた。

 上位悪魔(グレーターデーモン)は、瞳の無い目で戦闘員を見下ろすと、「フン」と鼻で笑い、戦闘員の頭を掴んで握り潰した。

 ナナシがその様子を見て、傍らの紳士に話し掛ける。

「・・・話にならんな」

 紳士は無言で頷き返した。







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 別の通路を進むエリシス伯爵とその副官リリー、彼女達が率いる帝国不死兵団のところにも秘密警察の戦闘員達が現れる。

 戦闘員の一人がエリシスに斬り掛かる。

 すかさずリリーがエリシスと戦闘員の間に割って入り、両手の掌を合わせる形で組み合う。

 食屍鬼(グール)の戦闘員が、その怪力でリリーを押し潰そうと両腕に力を込める。

 リリーが不敵な笑みを浮かべる。

「ほう? 真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)たる、この私と力比べをするつもりか!」

 美しいリリーの瞳が縦に割れ、吸血鬼のそれになる。

 リリーは、鈍い音と共に食屍鬼(グール)の戦闘員の両手を握り潰すと、そのまま両腕をへし折り、左腕、右腕の順に引きちぎる。

 両腕を失った戦闘員は、腕を引きちぎられた際に姿勢を崩し、壁際に転がった。

 エリシスが転がった戦闘員を見て、微笑みながら呟く。

「あらら。彼等は不死者(アンデッド)なのね」

 エリシスは戦闘員達に向けて手をかざし、魔法の詠唱を始める。

 エリシスの足元に一つ、かざした手の先に七つの魔法陣が浮かび上がる。

Против(プローティヴ・) Божьего(ヴォジィー・) разума(ラズマ)
(神の理に背き)

Скажи(スカジー・) проклятым(プロピュタム・) людям(リューダム)
(呪われし者たちに告げる)

Я(ヤー・) Бессме(メヤトニー・)ртный Король(カロル)
(我は不死王)

Гений(ゲーニー・) - похотливый(プハトリィヴ・) король(カロル・) удачи(ダーチャ)
(眷属が渇望の福王なり)

Прими(プリミ・) моё(モヨ・) Евангелие(イェヴァンゲリイェ)
(我が福音を甘受せよ)

 魔法陣が光の粉となって空中に消える。

 食屍鬼(グール)の戦闘員達は、通路の左右の端に寄ると跪き、エリシス達に最敬礼を取る。

 人間の戦闘員達は、何が起こったのか判らないといった素振りで、通路の左右の端で跪く食屍鬼(グール)の戦闘員達を見て狼狽える。

 最高位の不死者(アンデッド)不死王(リッチー)であるエリシスは、自分より低位の不死者(アンデッド)を支配することが出来た。

 エリシスがサディスティックな笑みを浮かべながら、狼狽える人間の戦闘員達に語り掛ける。

「貴方達は人間のようね。うふふふ。・・・どうしてくれようかしら」






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--死の山(ディアトロフ) 司令室

 魔力(マナ・)水晶(クリスタル)(・タワー)の玄室から司令室に戻っだヴォギノとコンパクの二人に、秘密警察長官グレインから報告が入る。

「秘密警察の力では、帝国軍の侵攻を防ぎきれません。此処に到達するのも時間の問題です」

 ヴォギノがグレインに答える。

「むむむ。やむを得ん。これを使え」

 ヴォギノは妖しい光を放つ水晶玉が入った箱をグレインに渡す。

 グレインがヴォギノに尋ねる。

「ヴォギノ主席。これは一体??」

「これは死の山(ディアトロフ)の内部でしか使えない転移水晶球だ。転移先も決まっている場所にしか転移させることができない」

「判りました」

 グレインはヴォギノから箱を受け取ると、帝国軍部隊のもとへ向かった。





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 通路を進むラインハルト達の先から、人が歩く速度ほどの速さで、ふわふわと空中に浮かぶ、妖しい光を放つ水晶玉が飛んで来る。

 ジカイラが怪訝な顔で飛んで来る妖しい光を放つ水晶玉を見る。

「なんだ? あれは??」

 ラインハルト達は水晶玉に触れること無く、通路の左右に身を寄せる。

 水晶玉は小隊のメンバーの側を通ると、妖しい光を強め、その輝きを増した。

「まさか! 転移魔法か!?」

 ラインハルトが叫ぶが、光りに包まれた者から順に別の場所へ転移させられていった。

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