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純白の聖女

ライネス・ハッシュヴァルトは信仰の対象だった。



 教会の司教の元に生まれた彼女は、齢18にして魔法を極めて「聖女」と崇められた。

 さらにどんな悪人でも彼女の前では改心すると噂が広まり、いたずらな子供から死刑を待つ囚人まで列をなした。




 今日もまた彼女の前に悪人が連れてこられる。



 狭い部屋の中、ライネスの前に座ったのは強盗殺人を引き起こした張本人であった。

 捕まったものの仲間の居場所を吐くこともなく、最後の手段として聖女の前に連れてこられた。




「けっ!聖女だかなんだか知らねぇが何も話すことなんかねぇよ!」



 男は後ろ手を椅子に縛られながらも悪態をついて唾を床に吐く。



「みなさんそうおっしゃいます」



 真っ白なドレスに身を包んだライネスは笑顔で受け流す。



「お前みたいな若造に素直に改心させられるバカどもの気持ちが知れねぇよ」



 強がりでもなく男はそう思っていた。



「みなさんそうおっしゃいます」



 笑顔のライネスはツカツカと足音を鳴らして男に近寄った。



 ___



 そして、ライネスは男の右頬をなぐりつけた。



 男は何が起きたか理解できなかった。口内に鉄の味が広がる。

 見上げるとそこには笑顔のライネスがいた。



「なにしやがる!」



 男は血をライネスに吐く。彼女の真っ白なドレスに鈍い赤色が加えられた。

 しかし、彼女は気にもしない。



「みなさんそうおっしゃいます」



 ライネスは男の右頬をもう一度殴りつける。今度は歯が飛んだ。



「くそったれ!これが聖女の正体ってか!」



 男は唇の端から血を流しながらライネスを睨みつける。



「みなさんそうおっしゃいます」



 笑顔のライネスは男をまた殴りつける。何度も、何度も。

 男は反抗する隙すら与えられずに左右に揺さぶられ続けた。



 男の顔面は真っ赤に腫れあがり原型をとどめていない。

 何も言えずにただ頭を垂れるしかなかった。



 ライネスのドレスと拳は返り血で真っ赤に染まっている。



「あらあら、何も言わなくなってしまいました」



 彼女は小さく呟くと男に回復魔法をかける。みるみる顔の腫れは引いていき、果てには折れた歯まで生えてきた。

 やがて、男は目を覚ます。



 男が見上げるとそこには笑顔のライネスがいる。ただし、男の目は恐怖であふれていた。



「やめてくれ・・・。なんでも話すから・・・・」



 男は懇願した。しかし、ライネスは笑顔で言い放つ。



「みなさんそうおっしゃいます」



 彼女は再び男を痛めつける。拳の皮が裂けても気にせず殴った。




 そして、遂に男は死んだ。床には血だまりが出来てぬるりと流れている。



「あらあら、何も言わなくなってしまいました」



 ライネスは男に回復魔法をかける。心臓は鼓動を始めて男は血を吐き出す。



 男は見上げる気力すら失っていた。小さく呟く。



「助けてくれ・・・・。誰か・・・・」



「みなさんそうおっしゃいます」



 ライネスはひたすらに男を殴り続けた。

 真っ白なドレスは真っ赤なドレスになり果てた。



「ふぅ」



 ライネスが汗と返り血を拭う。そして、一度だけ手を打った。



 ___



「けっ!聖女だかなんだか知らねぇが何も話すことなんかねぇよ!」



 男は後ろ手を椅子に縛られながらも悪態をついて唾を床に吐く。

 しかし、言い終わって男は自分の震えに気づいた。



 向こうに見える聖女に恐怖を抱いている。



 彼女はツカツカと足音を鳴らして近づいてきた。



「やっ、やめてくれ!何でも話す!」



 男は得も言われぬ恐怖に負けた。



 そして、笑顔のライネス・ハッシュヴァルトは優しく言った。



「みなさんそうおっしゃいます」




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