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第十三話 ユニコーン小隊vsバジリスク小隊(後編)


「三番手! 前へ!」

 教官の声が響く。

「相手はアイツね。私が行くわ」

 ナナイが立ち上がって歩いて向かった先には、ハルフォード子爵が下卑(げび)た笑みを受かべて待ち受けていた。




 ユニコーン小隊のナナイとバジリスク小隊のハルフォード子爵が、会場の中央の教官の前で対峙する。

「礼!」

 教官の声にハルフォード子爵が胸の前に剣を垂直に立てて掲げ、名乗りを上げ一礼する。

「帝国貴族ハルフォード・アウター子爵」

 ナナイが愛用のレイピアを胸の前に垂直に掲げ、同様に名乗りを上げ一礼する。

「帝国貴族ナナイ・ルードシュタット侯爵」

「では、第三回戦! 始め!!」

 教官の声がするや否や、ハルフォード子爵がナナイに斬り掛かる。

 ハルフォード子爵は剣撃を次々と繰り出したが、ナナイは全てレイピアで受け止めた。



 ナナイは、ハルフォード子爵の剣撃を防ぎながら相手を観察する。

(・・・遅い。それに軽い。・・・これが従騎士(スクワイア)。ラインハルトやジカイラの剣撃は、こんなものではない)



 観察しながら防戦に回り後退(あとずさ)るナナイを見て、ハルフォード子爵が調子付く。

「オラ! オラ! どうしたぁ~? ああん?」



 ハルフォード子爵の剣撃を見切ったナナイは、大振りの一撃を(かわ)す。

(・・・それに()きだらけ)


 ハルフォード子爵は更に調子に乗る。

「殺しはしない。叩きのめして、(くわ)えさせてやる!」 

(・・・下衆(ゲス)が!)



 意を決したナナイが反撃に転じた。

 ナナイの鋭い刺突と剣撃がハルフォード子爵に襲い掛かる。

「ぬおっ!? とっ!」


 ハルフォード子爵の実力では、ナナイの剣を防ぐだけで手一杯のように見えた。

 一気に攻守が逆転する。




 試合を観ていたジカイラが心配してラインハルトに尋ねる。

「おい。大丈夫かよ?」

「大丈夫。ナナイが勝つよ」

「いや。そっちじゃない。ナナイが、あのチンピラにキレて()っちまうんじゃないか、心配してんだよ」

 ナナイは貴族が好む正統派の剣術を学んでいた。

 数回斬りつけ、斬撃の合間にフェイントを混ぜるスタイルである。



 ナナイが仕掛けた。

(上段のフェイント!)

 ハルフォード子爵はナナイのフェイントを『上段への攻撃』と判断し、剣を上げて防ごうとする。



(掛かった! 本命は下段! こっち!!)

 ナナイはハルフォード子爵の下半身を狙う。

 レイピアの剣先が一閃する。

「うあっ!?」

 ハルフォード子爵が怯んだ。




 ナナイのレイピアの剣先は、ハルフォード子爵のズボンとパンツを切り裂いていた。

 切り裂かれたそれはハルフォード子爵の(くるぶし)まで、ずり落ちる。

「うわわわ」

 ハルフォード子爵は慌ててしゃがみ込み、必死にズボンとパンツをたくしあげようとしていた。

 その鼻先にレイピアの剣先が突き付けられる。

「ヒイッ!!」

 驚いたハルフォード子爵は腰が抜けて尻餅をつき、両手を床に着いて後退りした。

「そんな()()()()()、見せびらかさないでくれる? 私は()()()()()()なの。」

 ナナイの声にハルフォード子爵は、その顔を見上げる。

 美しいエメラルドの瞳が侮蔑の目線でハルフォード子爵を見下していた。



「勝負あり!! 勝者ナナイ!」

 教官の声で我に帰ったハルフォード子爵は、股間を両手で隠して会場から退散した。

 周囲の観客から笑い声が聞こえる。

 ナナイが控え席に帰ってきた。

 試合で勝ったにも関わらず、()()()()()を見せびらかされたため、ご機嫌斜めであった。





「四番手、前へ!」

 教官の声が響く。

「行ってくる」

「ああ」

 ジカイラはそう言うと、ラインハルトと互いの拳を合わせた。

「ヒナ、お茶を淹れておいてくれ」

 ジカイラの言葉にヒナは驚いた。

「え!? ジカさん、今から試合でしょ?」

「なぁに。冷めないうちに決めてくる」

 そう言うと、ジカイラは愛用の斧槍(ハルバード)を担ぎ、会場へ向かって行った。

 キャスパー男爵は苛立っていた。

「全く、どいつもこいつも役に立たん」




 ユニコーン小隊のジカイラとバジリスク小隊のキャスパー男爵が会場の中央の教官前で対峙する。

「礼!」

 教官の声にキャスパー男爵は胸の前に剣を垂直に掲げ、名乗りを上げ一礼する。

「帝国貴族キャスパー・ヨーイチ男爵」

 ジカイラも同様に名乗りを上げ一礼する。

「帝国無宿人ジカイラ」

 ジカイラの名乗りにキャスパー男爵は怪訝(けげん)な顔をする。

「無宿人だと?」

「伊達と酔狂。諸般の事情って、やつさ」

「ふざけやがって!」

 『捨て子』であったジカイラには、名乗れる家名が無かった。そのため、名乗りを上げるときには、海賊時代から『帝国無宿人』と名乗っていた。




「では、四回戦! 始め!」

 教官の掛け声でジカイラは大きく斧槍を二回振り回した後、正眼に構える。

 キャスパー男爵が斬り掛かり、斬り合いが始まった。

 キャスパー男爵が奇声を上げて次々と繰り出す斬撃を斧槍(ハルバード)で受けながら、ジカイラは考える。

(殺しちゃマズいんだよな・・・。さて、どうする)

 ジカイラは斧槍(ハルバード)の柄でキャスパー男爵の足を払う。

 たちまちキャスパー男爵は転んだ。

「貴様のような賤民(せんみん)が、舐めた真似を!」

「それじゃ、『必殺技』といくか!」

 ジカイラは、斧槍(ハルバード)を大きく振りかぶると深く息を吸った。

 そして、渾身の一撃を放つ。

((いち)(せん)!!)

 ジカイラの豪腕から放たれた斧槍(ハルバード)の斬撃がキャスパー男爵に迫る。

「バカめ! そんな大振りの一撃が当たるものか」

 キャスパー男爵はジカイラの斧槍(ハルバード)の一撃を避けた。そして、踏み込もうとする。

(それは想定済みさ。 ()(せん)!!)

 ジカイラが身を翻して連続攻撃を放つ。

 キャスパー男爵が避けた斧槍(ハルバード)の矛先が、同じ軌跡で戻ってくる。『燕返し』のように。

「なっ!?」

 ジカイラの斧槍(ハルバード)の、矛先の背の部分が、キャスパー男爵の顔面を捉える。

 鈍い音と共にキャスパー男爵は後ろへ吹っ飛んだ。

「ぐぁあああああ」

 嗚咽と共にキャスパー男爵は鼻を押さえて(うずくま)る。

 鼻が潰れ、鼻血が吹き出していた。

「勝負あり!! 勝者ジカイラ!」

 教官の声が響く。

 周囲の観客から歓声が沸き起こった。




 吹き出す鼻血を押さえつつ、(うずくま)るキャスパー男爵にジカイラは悪びれる素振りも見せず話し掛ける。

「ワリぃな。寸止できるほど器用じゃないんでね」

「ギザマぁ~」

「お前ら、いっそのこと改名したらどうだ? 『鼻血ブー男爵』と『フリチ●子爵』で。芸人コンビとして、そっちのほうが売れるぞ?」

 ジカイラは涙目のキャスパー男爵にそう言うと、ユニコーン小隊の控え席に戻って行った。





 控え席に戻ってきたジカイラをヒナが出迎えた。

「お帰りなさい」

「ヒナ。借りは返したし、仇は取ったぞ。お茶はあるか?」

「淹れておいたわよ」

 ヒナは試合前に淹れておいたお茶をジカイラに渡した。

 ジカイラはお茶を一口飲むと

「おっ。冷めていないし、試合の後に飲むには、ちょうど良い感じじゃないか」

 ジカイラは、そう言うとヒナが淹れたお茶を飲み干した。

「お疲れさまでした。」

 小隊の参謀役のハリッシュがジカイラを(ねぎら)う。

 ラインハルトとナナイも歩いてジカイラを出迎えた。

 ジカイラは肩を組むようにラインハルトの首に腕を回す。

「さぁ。寮に帰って、皆でパァ~っと打ち上げやろうぜ!!」

「そうね」

 ナナイも機嫌を直したようだった。

 ジカイラと肩を組んだラインハルトの声が響く。 

「帰ろう! 凱旋だ!!」



 模擬近接個人戦、ユニコーン小隊vsバジリスク小隊の試合結果は、4-0でユニコーン小隊の圧倒的なストレート勝ちであった。

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