232章 シノブの思い
マイ、ユタカ、シラセは睡眠をとっている。長旅で疲れているのか、とっても気持ちよさそうにしていた。
フユコは本を読んでいた。アホ毛の動きからすると、楽しい本を読んでいるのかなと思った。
シノブは顎に手を当てて、考え事をしている。深刻そうにしているので、声をかけることにした。
「シノブちゃん、どうかしたの?」
「焼きそば店のことを考えていました」
旅行中にも焼きそば店のことを考える。店長ということもあって、頭から切り離せないのかもしれない。
「焼きそば店のこと?」
シノブはこくりと頷く。
「お客様を待たせないために、厨房を改装したいと思っています。厨房は2つですけど、5つにしようと思っています」
厨房を5つにすれば、お客様の待ち時間を短縮できる。集客率アップにつなげることで、売り上げアップを達成できる。
「設備投資のハードルは非常に高く、250万ペソくらいのお金が必要です。ミサキさんのように稼げるわけではないので、投資するのか迷っています」
「250万ペソなら、どうにかできるんじゃない」
シノブは眉間にしわを寄せた。
「ミサキさん、簡単にいわないでください。私みたいな人には、絶望的な金額です。焼きそばだけを販売しても、1カ月で50000ペソ以上は厳しいです」
焼きそばの価格は5~10ペソほど。50000ペソを売り上げるためには、5000~10000人分を販売する必要がある。
50000ペソから、従業員の給料、材料費、光熱費、水道代、土地代などを差し引かれる。手元に残る金額は、さらに減少する。
シノブは焼きそば店の厳しい現状を話す。
「サイン、握手のお金を得られなければ、利益はほとんどありません。人件費を増やすと、収支はマイナスになるでしょう」
雇用主にとって、人件費は永遠のテーマ。会社を回していくからには、絶対に避けることはできない。
「私のポケットマネーで、店を改装してもいいよ」
シノブは首を横に振った。
「誰かの力は借りたくありません。私の力によって、店を大きくしていきたいです」
「シノブちゃんの思うようにやればいいよ」
「そうですね・・・・・・」
「シノブちゃん、旅行を楽しもうよ」
「すみません。休みの日ほど、店のことを考えてしまいます」
仕事をすることによって、邪念を追い払う。お客様と接することが、彼女には大切なのかなと思った。