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第3章の第39話 人類の選別! 苦渋の選択(中編)


【宇宙から見た地球】
【――多くの地球人は知らないが、地球は音を発していた。ザッ……ザザッ……ザッ……と】
【それはまるでノイズのようで、太陽から放射熱の影響と地球の外気を護る地磁気の影響だった】
【今もまだ地球は生きている】
【あたし達にそれを訴えていた】
【その命の鼓動が、当宇宙船まで届き、あたし達は何を思う――】

(1人でも多く救う)
(いつか地球へ)
(帰るためにも……)

そして、とある少年は今もまだ眠りついていた。セラピアマシーンの回復液に浸かったまま――

【――そして、その時が訪れた】
【あの日から8日目、地球時間AM6:50】
【極秘ミッションスタートまで、10分前の出来事であった――】

アンドロメダ王女様の宇宙船の周りには、
アンドロメダ星からの宇宙船を初め、ソーテリア星、アクアリウス星の宇宙船が派遣されていたのだった。
この圧巻の宇宙船の集団を認めたあたし達は――
「――す……スゴイ……!! これってみんなアンドロメダ王女達の呼びかけに応えてくれた船なんですよね!?」
「そうですよ、さすがに壮観ですよね!」
アユミ(あたし)の問いかけに答えてくれたのは、シャルロットさん。
その人は、あたしの肩の上に手を置いて、そう諭した。
ただし、この時、厳しい目で見ていた人物達がいた。
それは、アンドロメダ王女様とデネボラさんとL、ヒースさん、クリスティさんだ。
「さすがに歯がゆいな」
「私達はやれるだけのことをやるだけです。そうではありませんか王女?」
「うむ……」
アンドロメダ王女、ヒース、アンドロメダ王女と述べて。
わらわはこの時。
(もっとファミリアの親睦を深めておけば……)
と痛く痛感していた。。
「……」
(じゃが……もう失われた時間は戻らぬのじゃ! 時間とは進むだけなのじゃなのじゃからな……!)
わらわは意識を切り替える
「……」
顔を上げて。
(やれるだけの事をやろう、後悔が残らぬように――)
そう心に誓う。
「ヒース様! アクアリウス星より連絡が入りました! 取り急ぎこちらへお願いします!」
「そうか! わかった!」
兵士さんに呼ばれたヒースさんは、そちらに足を伸ばす。
一時、集団の輪から外れる。
そのヒースさん取り急ぎ、その機械操作を行っていた兵士さんと座席を代わってもらうのだった。


「……」
その様子を、あたしクリスティが眺めていたのだった。
(人生最大の大一番ね……こんな経験、一生のうちにもうないかも……)
あたしがそんな事を考えているうちに、
ヒースさんは画面と向き合っていた。
画面に映るのは、サイバースーツを着込んだような女性であり、サンバイザーとイヤホンが一体になった翻訳機能を搭載した機械を取りつけていた。見るからにできる女の人だった。
「こちらヒースです」
「あなたがヒースさんですね。私はアクアリウスファミリアのナビゲーターを務めさせていただきます。コードネーム:アナシィアと言います」

【アクアリウスファミリア ナビゲーターのアナシィア】
サイバースーツにハイレグを着込んだような人だった。
サンバイザーとイヤホンと翻訳機能が一体型になった機器を取り付けている。
いかにも仕事ができそうな、美人さんだった。

「アナシィアさんですね! よろしくお願いします!」
「こちらこそヒースさん!」
簡単な挨拶を交わし合う、ヒースさんとコードネーム:アナシィアさん。
もちろん、ナビゲーターはアクアリウスファミリアだけではなく、アンドロメダファミリア、ソーテリア星、プレアデスファミリアの数だけいた。
それぞれ、
アンドロメダファミリアのナビゲーター、コードネーム:ナビィ。
ソーテリア星のナビゲーター、コードネーム:チャット。
アクアリウスファミリアのナビゲーター、コードネーム:アナシィア。
そして、プレアデスファミリアのナビゲーター、コードネーム:メイルさんだ。
なお、ソーテリア星には現在、ファミリアというものはなく、過去に没落している……。
「早速ですが、フォーマルハウト様からの取り急ぎで、星王ガニュメデス様と連絡がつくはずです! ……繋いで頂けますか!?」
「かしこまりました。回線を繋ぎます!」
あちらで機械操作を行うナビゲーターのアナシィアさん。
モニター画面が、パッと切り替わる。
映り込んだのは、御入浴中の裸のおじいさんの姿だった。
その御方は、とても厳つい体つきの筋肉質的なおじいさんだった。
「……」
これにはヒースさんもかとなく脂汗が流れる。
まさか、ご入浴中だったとは……。
まさか、そんな場面に出くわすとは、みんなが痛い視線を注いでいた。
「……」
これには僕も、遅きに失したとしまったと項垂れた……。
「おわっ!? ビックリした!!」
「せめて、つまみ食いしてるかと思っていたのですが……星王ガニュメデス様……!」
僕は顔を上げた。
このお方こそ、僕等の星の頂点に立たれる星王様なのだ。


【アクアリウスファミリア、星王ガニュメデス】
頭髪は白髪のおっさんで、全身筋肉質的な厳ついおじさんだった。
しかし、ご入浴中でした……。


「ハハハッ、お前達は私を何だと思ってるのだ!? いつも、つまみ食いの場面が多いから、つまみ食いのガニュメデス王だと論じているのではないのかな!?」
「……」
何も言えない……。……事実、その通りだからだ。
「……その様子、当たりじゃろ?」
「~~」
頭の中はグチャグチャになる。考えていたプランがもう何だこれ……ッ。メチャクチャだ……ッ。
「――さて、本題を聞こう」
入浴中のガニュメデス王は、浴槽に背もたれをつけて、偉そうにする。
(せめて、悪夢であってくれ……!!)
チラリと僕は周りの様子が気になり、気に掛けると……。
「「「「「ププッ」」」」」」
周りから、背中から、失笑の声が聞こえたのだった……ホントに勘弁して……ッ。
(最悪だ……シャルロットといいガニュメデス王といい、アクアリウスファミリアの品性が……がっ……)
「ガフッ」
堪えきれず、精神的大ダメージを受けた僕は、吐血したのだった。
「「…………」」
その後僕は、画面越しのガニュメデス王の前で、プルプルと見悶えていた……ッ。
そこで、星王ガニュメデス様が語り出す。
「――さて」
「!」
「お前やシャルロット、フォーマルハウトやショウからの連絡を聞く限り……」
「……」
「かなりメンドいな!! ガハハハハハッ!!」
「~~」
呵呵大笑を上げるガニュメデス王。笑って済ませるあたり、さすがの大器だった。
これには僕も、気が滅入る思いだ。
「……さて、俺の方からアンドロメダ王に一報送っておいたぞ!」
「……」
読んでいた通りだ。
不機嫌中のアンドロメダ王を動かすには、外交圧力しかなく、同じ星王の位のガニュメデス王が直々に働きかけて下さったのだった。
これには感謝しかない。
「俺も、娘を持つ身だからな……! 時々、妻や娘たちがヒステリックパーティを起こして叶わんからな……!
あいつも相槌を打つ度、上機嫌だったよ!!
今度、上物の肴を持っていかないとな!! ガハハハハハッ!!」
「……」
やはり星王ガニュメデス様だ。
この方ならば、星王アンドロメダ様を動かす事ができる。
だが、呵呵大笑を上げる御仁には。
僕も少なからず頷き得て、嘆息する思いだ。
さすが星王ガニュメデス王だ、星王アンドロメダとも親交が深い。
酒の肴で意気投合したのか。
「さて、娘さんの尻拭いをしてやらないとな!」
「……」
これには一言余計だと思う。
僕は、チラッと斜め後方にいるアンドロメダ様を見やるのだった。
周りの機械操作を行う兵士さん達も、内心ピリピリしているのが伝わるようだ。
「で、やっぱりあそこは大きいのか!? んっ!? お前は見たのだろう!?」
「……」
これには目を瞑るヒースさん。
「私は今、丸きり目が見えないもので、仰っている言葉の意味が、まったくわかりません」
「何じゃつまらん……」
世間話をする星王ガニュメデス様、まるで近所にいるどこかのおっさんのようだ。
「派遣する宇宙船は、約90機!」
「……」
「俺が働きかけたから、30機!
アンドロメダ王もその話に乗って、親の面子も取り、40機出してくれた!
苦笑いを浮かべるブリリアントダイヤモンド女王からは、20機!
正式に出すことが決まった!」
「……」
「そして、見届け人としてプレアデスファミリアからも、応援として、何機か手配してくれる運びとなった」
「!」
それは応援として、おまけの宇宙船が何機かがいる事を示す吉報だった。
つまり、4500人越えだ。
「普通はこんな事滅多にないぞ!!」
「わかっています……感謝しています、星王様!」
「フッ……」
いい話のやり取りだった。
――だが、ここで星王ガニュメデス様が。
「――さて、そちらにスバル君と名乗る少年はいるのかな?」
「えっ……」
「地球人の難民の手続きを行う以上、地球の代表者が誰なのか……!? ……こちらでも色々と議論された!」
「……」
「地球一の権力者は誰か……!? 議題に上がったのはまさしくこれだ! 日本の首相もアメリカの大統領も、世界各国の王達も、あの子の陰に隠れて、結局は姿を見せなかった……!
決定的に決まったのが、つい昨日の事……」
……。
そう、アンドロメダ星のレグルス隊長とその少年との一騎打ちの場面だ!!
そして、民間人たちの前で、ドケザするシーンや! 猫ちゃんたちを救おうとする懸命な氷の柱を立てる場面! さらに――磔にされた少女達を前にしての機転!
この事が高く評価されて、あの子の印象が大きく様変わりした!
……。
地球の王たちの傀儡か!? その操り人形ではないのか!? とする意見から脱却し、あの子に任せてみようとする、大衆の意見が得られた……!」
「と、いう事は……!?」
「ああ!」
強く頷き得る星王ガニュメデス様。
「地球人類、難民大移動手続きに伴う、最終ボーダーラインは……」
「……」
ゴクリと息をのむヒースさん。
「あの子を、地球人類、全体の代表として立たせることだ!! これに正式に決定したよ!!」
「――ッッッ!!!」

【――衝撃! 激震!! 大躍進!!!】
【レグルス隊長が仕組んだ大芝居が、スバルの評価を斜め上に爆上がりさせたのだ!!】
【こんなものはもう快挙だ!! 偉業だ!!】
【これによりスバルは、地球人類全員の命を預かる、代表として認定されたのだった――】

「「「――ッ!!?」」」
これには後ろで聞く耳を立てていたアユミちゃん、クコンちゃん、クリスティさんのお三方も驚嘆す。
「で、その少年は今!?」
「そ……それが……」
僕は事情をすべて、目の前に映っている星王ガニュメデス様に説明したのだった。


☆彡
事情を聞いたワシは。
「――なるほど、かなり厳しいな……」
それが総合的な判断だった。
「……」
これには僕も、何も言えなくなる。
(スバル君を欠いた今の状況は……。
例えるならば、船長を欠いた状態の荒波の中を進む航海船みたいなものだ……。
荒れ狂う波にさらわれて、転覆するのがオチだろう。
新たな指針が得られなければ……!)
――だがここで、星王ガニュメデス様から代替案が出される。
「――必要な顔と証文がいるな……!」
「必要な顔と証文……!?」
僕がそう呟きを落とした時。
僕の脳裏に、ハッと強く思い浮かんだのだ。
バッと急いで後ろに振り返る。
後ろにいたのは当然、今回の話題に上がった、アユミちゃん、クコンちゃん、クリスティさんの3人だった。
「3人とも、ちょっとこっちに!!」
「「「!」」」
呼ばれたあたし達3人は、ヒースさんのところまで移動する。
美少女2人、極稀に見る美女1人のご登場だ。
この3人を見た、星王ガニュメデス様の反応は――
「――ほぅ」
小さく頷き得る。
それは生き証人だった。
「どうでしょうか……!? まず、この3人と証文を取り交わしては……!?」
「……」
「「「……」」」
星王ガニュメデス様は、
アユミちゃん、クコンちゃん、クリスティさんの3人をつぶさに見て。
「よしっ! この3人と契約と証文を交わし、一時的に地球から難民達を拾い上げていくよう、こちらで便宜を図ろう。……おい、証文用エアディスプレイを!」
とモニター画面の向こうで、画面の横の方から女性の方の腕が伸びてきて、その腕時計型携帯端末を操作して、エアディスプレイが表示される。
女性の方が指ではじくと、星王ガニュメデス様の御前に証文用エアディスプレイが表示されたのだ。
その御方が、さらさらと指圧でサインを書くことで、この場での会話が証拠の品として残り、実効性が得られる。
「私のサインとこの場での会話をすべて記録し、派遣中の宇宙船に回すように」
「了承しました」
画面外から女性の声が聞こえ、実行力が得られる。
次に驚いたのは、
続々と腕時計型携帯端末を持つすべての人に、作戦実行のために、証文と音声テープが送受信される。
そればかりではなく、ここ、アンドロメダ王女様の宇宙船の機械設備にも送受信された。
それは上からの権力、圧力だった。
これには乗組員一同驚愕。
「「「「「――ッ!!!」」」」」
「そちらに証文用プログラムが行き届いたはずだ!」
「アユミちゃん、クコンちゃん」
「クリスティさん」
「「お願いします」」
ガニュメデス様が、シャルロットさんが、ヒースさんが、2人がそう述べると。
あたし達が、動かないわけにはいかなかった。
「「「うん」」」
あたし達は互い違いに、コクッ、コクリ、コクンと頷き合って。
その証文用プログラムに指圧でさらさらと、サインを認めていく。
その名前は、『アユミ』『クコン』『クリスティ』のお三方の名前だ。
そして――
「――王女様!」
「L様!」
王女たちの元にも、証文用プログラム用のエアディスプレイを持った兵士さん達が参られた。
「うむ!」
「僕もー!?」
「もちろんです! あの宇宙法廷機関の場から、L様も一躍有名人になっておられますから!」
「この実行力を得られるためには、王女様とL様の両方のサインがいるのです!」
「……フッ」
「……」
アンドロメダ王女、L、兵士さん、兵士さん、王女、Lと述べあい。
「……」
「……」
僕はデネボラに視線を移して。
そのデネボラは、コクリと頷き得る。
「……」
僕は、ほのかに笑みを浮かべて。
「僕で……役に立つなら……!」
そうして、アンドロメダ王女様とL様のサインをさらさらと書き記したことで、契約と証文がなされたのだった。


☆彡
【――あの事件から8日目】
【午前7時8分】
【極秘ミッションスタート】
【各惑星から派遣された宇宙船団が】
【地球の大気圏に次々と突入し、赤い炎の尾をいくつも上げながら、何条も広げながら、その身を投じていった――】
【わらわ達は、僕達は、あたし達は、その様子を静観し、事の成り行きを固唾を飲んで見守る……】

――とのその時だった。
カツンと何かが落ちたのは。
「!」
「!」
落ちた先は、Lの近くだった。
その落ちたものを見るのは、アンドロメダ王女様と兵士さん達2人とデネボラさんだ。
その落ちたものは、あの時、静止軌道ステーションで拾った『レオファミリアのエンブレム』だった。
それを掴み取り、拾い上げたのは――
「――こっこれはッッ!!」
デネボラさんだった。
「『レオファミリアのエンブレム』だわっ!!」
ザワッと場がザワついた。
「何でそんなものをお主が持っておる!?」
姫姉が僕に尋ねると。
僕はその事について語り出す。
「あぁそれは、静止軌道ステーションで拾ったんだよ!」
「「「「拾った!?」」」」
これにはアンドロメダ王女、兵士さん達2人、デネボラと驚く。
「うん!」
「……」
その証文用プログラム、エアディスプレイ画面も移り変わり、星王ガニュメデス様のお顔が映し出される。
「ほぉ……」
とその顎鬚をさするガニュメデス様。興味の関心がそそる。
「まだ、僕とあの子がエルスであるとき拾ったもので、どーゆうわけか静止軌道ステーション内で、争いが起った後だったんだ……!!」
僕は、あの時の状況を振り返る。
あれは明らかに、レグドよりも前に、誰かが荒らした跡だった。
だから、僕の中でレグドは犯人候補から除外した。
「レグドも、何かわからないようだったし……。……多分、その事件とは無関係だと思う」
「……」
うん、ここだけはハッキリしておく。
あの場での会話を思い出す限り、その事件とレグドは、無関係なのだ。
「「「「…………」」」」
これには4人とも、思い当たる節がある。
そもレグドが、わざわざ無人航空機『メイビーコロ』を用いて、自分たちの会話や戦闘をわざわざみんなに伝えたぐらいなのだ。
その中には確かに、その映像が含まれていた。
ここで、静観していた星王ガニュメデス様の重い口が開かれる。
『一難去ってまた一難か……! これはとんでもないところが出てきたな……!』
顎鬚をさする星王ガニュメデス様。
これにはヒースさんも。
「ガニュメデス様」
『あそこは力こそが信条のファミリアだ! おそらく静止軌道ステーションにいた人達の身柄は、今はレオファミリアにあるのだろう。……ワシの力も届かない!」
「わらわもじゃ!」
「そんな姫姉も……!?」
「うっ……うむっ! おそらく嵐の前の静けさというものじゃろう……。今ヘタに動けば寝首をかかれかねん。静観が第一じゃ!!」
「……」
場が静まり返った。
レオファミリアとはそーゆうところなのだ。
「第一今は、地球人たちの難民を拾い上げていくことが第一優先じゃ! そこまでは……」
(手が回らぬ……)
わらわは決して口には出さなかった。
余計な心配事を与えぬために……。
「「「「「……」」」」」
みんなは、一様に何かないか何かないかと考える。
だが、いくらない知恵を絞っても妙案は出てこなかった……。
それもそのはず、今は難民達を拾い上げていくのが第一優先なのだから。


――アユミちゃん達サイド。
それはクコンちゃんの呟きだった。
「あのさあ」
「うん?」
「なに?」
この近くにいるのは、アユミちゃん、クリスティさん、ヒースさん、シャルロットさん、そして周りにいるけど見えないエナジーア生命体の兵士さんの皆さんだ。
「……」
「「……」」
俯くクコンちゃん。
その様子を俯瞰するあたし達。
と尋ねてきたのは……。
いや、心の中を読んできたのは――
(――なるほど……ご両親が心配なわけか……ふむぅ)
シャルロットさんだった。
だが、今回は子供が相手なので、声に出さない当り、心得ている。
ここで声を出せば、余計な騒ぎに成り兼ねないからだ。だから、どう誘導すればいいのか思案する。
(さて、どう引き出してあげるべきか……!?)
あたしはそれを一考する。
「……」
「……」
俯いたままのクコンちゃん。
そこで声を投げかけてきたのは、ここ最近で仲良くなったアユミちゃんだった。
「ねえ、何か言わないとわからないよ。こっちも……!」
「うん……」
「……!」
とここでクリスティさんが何かを思い立ち、言葉を零す。
「もしかして……!」
「……」
「……」
「……お手洗いとか?」
「……」
「……」
クソ女の発言だった。
クコンちゃん(あたし)は、アユミちゃんは、クソ女から視線を切り。
向こうを向く。
アユミちゃんは、心配そうに友人の背中姿を見詰めて。
「あれ? 無視……?」
外しちゃった感のクリスティさん。
そこへ歩み寄るは。
「……クリスティさん」
ガシッ
「!」
シャルロットさんのご登場だった。
彼女は、あたしの肩を掴み、笑顔なれどその顔は怒っていた。
「ちょっとこっちへ……!」
「え……? ちょっと、あなた、力が強いんだけど……!! あっ痛っ!! 手爪が食い込んでるんですけど――!?」
そのままあたしは、このクソ女の方に手爪を食いこませたまま、どこかに連れ出していった……。
それを何とも言えない表情で見送るのは、クコンちゃん、アユミちゃん、ヒースさんの3人で。
シャルロットさんは去り際、こんな言葉を残した。
「どんな親に育てられれば、こんなはしたない女になるのかしらね――」
とそれは、その場に残せるメッセージだった。
後はあなた達で頑張りなさい。


☆彡
「あははは……ホントに変わってるねぇ……あの人」
「うん……」
何とかして笑うアユミちゃんに。
笑えないあたし。
「親かぁ……そう言えば、2人の親はどーゆう人なんだい?」
「う~ん……普通かなぁ? 2人ともスバル君の親と同じで、一般庶民だし……まぁせいぜい変わってるといえば、うちのママかな?」
「へぇ……」
「興味あるー?」
「うん!」
「今はそうじゃないけど、『昔は語尾にぴょん』とつけている変わった親でね。娘であるあたしから見ても、恥ずかしかったんだぁ~~」
「へぇー」
「ぴょんママかーっ! アユミちゃんを見てれば受ける~~♪」
「こらっ笑いどころのツボが違うでしょ!」
「あはははごめ~ん!」
「もうっ許さないぞ、このこの」
「いや~ん、やめて~」
「あはははは」
笑みを咲かせるクコンちゃん。
笑うアユミちゃん。
とヒースさんが催促するように。
「……それで!?」
「う~ん……妙にスバル君に肩を持つ感じでね。
将来、スバル君と結婚しない子は、絶縁状を叩きつけてやるぴょんって、変な感じのノリのママだったの……!」
「「へ・へぇ~……」」
母親が娘を、他所のお子さんと結婚させるように促す。
うん、考えてみれば妙な話だ。フツーはそんな親いない。
「ホントに頭にくるわあいつッ!!」
あいつ呼ばわりされる母親。
これには娘さんも、プンプン怒っているようで。
(どんな親なんだ……!?)
(絶縁状って、何がなんでもスバル君とくっ付きさせる気でいるな――)
と心の中だけで感想を述べあうヒースさんにクコンちゃん。
で。
「あっ! そう言えば昔、ママがまだ若い時……!?」
考え込むアユミちゃん。
それは何かあるようで、怪しい仕草。
「「!?」」
「う~ん……よく思い出せないなぁ……話をはぐらかせた感じがするし……。……何だったけ……!?」
アユミちゃんは頭を捻って考えるほど、不思議な不思議なお母さんの印象だった。
「う~ん……やっぱりダメ、思い出せない……」
「「……」」
アユミちゃんは嘆息交じりの言葉を吐いて。
「まっ、倒れてきたものに押し倒されて、死んでたんだけどね……」
「あっ……なんかごめん……」
「いいよ、もう過ぎた事だし……」
そう、アユミ(あたし)のママはとうに亡くなっているんだ……。
「……」
そう、亡くなって……。
「……」
涙腺がドンドン緩んできて。
「あっアユミちゃん……!?」
いけない、泣かせちゃった。
「……」
でも、こんなあたしは見せられないと、腕でゴシゴシと涙を拭って、笑顔で接する。
「……クコンちゃんの親は!?」
「あたしの?」
「うん! ……あれあれ~~あたしにだけ話させて、それはズルいんじゃないの~~ねえ?」
「だね!」
ヒースさんも相槌を打ち、これにはあたしも渋々。
「あーわかったわよ!」
「……」
これには、にこっと笑みを浮かべるアユミちゃん。
「あたしの親はね。まだ生きているかどうかわからない状態で、南極大陸の調査船に乗って、年々溶けていく南極大陸を観測してるんだ……!」
「へぇ~……」
「南極大陸の調査船メンバーといえば、高額収入でね! それをあたしの学費に当ててくれててたんだ……!」
「んっ? ひょっとして……クコンちゃんは1人暮らしかい?」
「そだよ! 当たり前じゃん!!」
「「ッ!?」」
驚愕事実判明。
なんとクコンちゃんは、この歳でもう1人暮らしだった……。
「と言っても、厳密には1人暮らしじゃなくて……。
なんていうか……そうそう、長崎学院には学生寮があってね!
ケイちゃんもシシド君もそうだけど、みーんな親元を離れて、子供達だけで、月1回のペースで班分けしてルームシェアしてるんだよー!
狭い仲間意識を持つんじゃなくて、幅広い、それこそ学年単位で交流を深めるために、昔からの伝統行事なんだって!」
「すっスゴイ……凄いよクコンちゃん!!」
「え?」
あたしは思わず、クコンちゃんの肩に掴みかかる。
とこれには、ヒースさんも褒め称えるように。
「まだこんな幼いのに……青春だなぁ……うんうん!」
何度も頷き得るヒースさん。
「そんな大げさだよぉ~」
「んっ?」
「んっ?」
「「んんっ!?」
ここで2人が改めて疑問を覚える。
「ちょっと待て!!」
「はい?」
これにはヒースさんも心持ち、声に力がこもる。
「それじゃまだ親が生きているかもしれないじゃないか!?」
「……」
「だろ!?」
「……うん……」
心持ち元気がない様子で、頷き得るクコンちゃん。
そこで、友人のあたしが。
「もうっ何で言ってくれなかったの!!?」
「だ、だってぇ……」
「だってじゃないでしょ!!! 自分の肉親なんだよ!!! ヒースさん!!!」
「わかってる!! 南極大陸の調査船メンバーだな!! ……すぐに掛け合ってみるよ!」
「お願いします!」
とこれには、ヒースさんもすぐに動いた。
(クコンちゃんのご両親となれば、助けないわけにはいかない!!)
僕はすぐに動き、機械操作を行う兵士さんに告げる。
「失礼ですが!!」
「あぁ、聞いてましたよ!」
「は?」
「あれだけペチャクチャ喋っていれば、周りにも聞こえてますからね!」
これには周りの兵士さん達も、ニィと笑みを浮かべ、うんうんと頷く。
「へ……!?」
マヌケな声を発する僕。
「私達の中にも、Lと同じように、サイコキネシス(プシキキニシス)使いがいるんですよ! 当然、プシキキパワーを使って以心伝心することだってできます!」
「早速問い合わせましょう! プレアデス星から何機か応援の船がありましたから、今、連絡をつけて……、……ほら? これが現在の南極大陸ですよ……!」


☆彡
パッとモニター画面が移り変わり。
猛烈な勢いで猛吹雪が吹き荒ぶ、現在の南極大陸のリアルタイム映像が映し出された。
「……」
「……」
「……」
その画面を食い入るように見つめるのは、アユミちゃん、ヒースさん、そしてクコンちゃんの3人だ。
その様子を見たアユミちゃんが、呟きを落とす。
「メチャ寒そう……」
「そこの気温は?」
「ちょーっと待ってください」
機械操作を行う兵士さんは、キーボードを叩き、その場所の外気温を算出する。

【――22XX年、現在、私達が住む地球とは違い、未来世界では地球温暖化が加速している】
【南極大陸の永久凍土が溶け、地肌が見えている地域もあるぐらいだ】
【そうした観点から、温度は高い傾向にある】
【通説では、南極大陸の夏の気温は氷点下1℃。冬の気温は氷点下20℃の世界とされている】
【今の時期は、春だから、氷点下5度~10℃くらいだろうか】
【だがそれも、少し前の話】
【今のこの猛烈な勢いで猛吹雪が吹き荒んでいる状況を顧みるに、その外気温は――】

「――出ました! 氷点下40℃です!!」
「「「!」」」
これには3人とも氷漬けになる思いだ。
パキパキと身が凍りついていくイメージ映像を覚える。
とても、生身の人間が生きていられない、過酷な世界だ。
「と待ってくださいね。周辺を探るようにあちらにメッセージを送ってるんで……」
その機械操作を行う兵士さんは、キーボードを操作しながら、
あちらにいる派遣された宇宙船にメッセージを送り、
送受信で受け取った宇宙船が、その周辺地帯をくまなく探し回る。
「「「……」」」
祈る思いで見続けるアユミちゃん、クコンちゃん、ヒースさん。
「……」
「……」
「……」
アユミちゃんが、ヒースさんが、クコンちゃんが信じて、吉報が届くのを待ち続け。
「……」
祈る思いで、愛娘がギュッと拳を握りしめる。
――そして、ある宇宙船が、
海上に浮かぶ真っ二つに割れた調査船の一部を発見するのだった。
その船は、『厄災の混濁獣』の進化系の前、『核融合炉の巨獣』が襲ったもので、一部がドロドロに溶解して、冷えて固まった爪痕を残していた。
しかもそれは、前の船首から中腹にかけての部分であり。
後ろの船は、冷たい海底深くに沈んでいた……。
その姿は、見るからに無残……ッ。
「「「………………」」」
この無情な現実を垣間見た3人は、絶句した。
「……うっ……ううっ……」
塞き止めていた感情が抑えきれず、涙が滲み出てきて。
「……うっ……」
そして、我慢の限界を迎えたように。
――うわぁあああああ
悲痛な鳴き声を上げるクコンちゃん。
その様はまさしく号泣ものだった。
大きく泣き崩れ、周りにいた人達が、可哀そうな彼女に寄り添う。
――そして、その現場には、
プカプカと浮いていたものがあった。
そう、それは、最後の遺品。
最後に親が残したもの、家族3人で取った記念写真が浮かんでいたのだった……――


TO BE CONTINUD……

しおり