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第3章の第37話 強さ表! 小さき者、それは私です


【治療室 セラピアマシーン】
スバルは、その回復液に浸かり、全身の傷を癒していた。
その夢見の中。
その精神世界で、僕は誰にも知られることなく、修行を積んでいた――


☆彡
古代の時代を彷彿とさせる空間が広がっていた。
松明の燭台があり、オレンジ色の炎が、いくつも灯っていた。
その中で、剣戟が繰り広げられていた。
ガキィン、ガキィン、ガキィン、
ガキィン
とぶつかり合う。
ググッ
ググググッ
と弟子と師の剣戟のつばぜり合いを経て、互いに組み合う。
「……」
「……」
二ギギギと力がこもる弟子の顔と。
まだ余裕のある師の顔。
「~~!!」
「……」
ググググッ
と押しつ押されまいと一進一退を続ける。
「~~!!」
「……」
睨み合う両者。
だが、それはあくまで見せかけだった。
子供と大人なぐらいの力の差があり、力でも体格差でも劣るスバルが、簡単に押し返される。
バンッ
「ッ」
と僕は力づくで押し返されて、後ろ足でたたらを踏みながら踏み止まる。
「……クッ!」
体勢を構えなおし、剣を構えると。
――ハッ
向こうから師匠が走ってきていた。
狙うは接戦だ。
力でも技でも劣る僕は、近寄らせまいと、手に持った剣に力を込め、師の出方を伺う。
狙うはカウンターだ。
「フンッ」
まだまだ甘いなスバル。それは魔法剣士との戦いにおいて、悪手だ。
今からそれを教えてやる。
バリリッ
「!」
何だ。
師の剣に電撃が帯びていた。
マズいッ。
師は、無詠唱かつ魔法名を唱えなくても、無言で雷撃強化を行える人だった。熟練者だ。
って、こんなのどうすればいい。
「……ッ」
組み合うか、それとも逃げるか。
一瞬の迷いが生じてしまった。
走ってきた師が、雷撃剣を振り下ろす。
僕はそれに対して剣戟で応じるしかない。
両者の剣戟が組み合った瞬間、僕の剣に雷伝が伝わり、あっさり感電してしまうのだった。
バリバリバリバリ
「ギャアアアアア!!!」
感電し、たまらず叫び声を上げる。
師はそれに対し。
「甘い!!」
と評価を下し。
素早く組み合った状態の剣を振り切り、袈裟切り一閃、ズバッと僕に致命傷を与えるのだった。
声を上げる事すらできない僕は。
「……ッ」
天を見上げた姿勢で、大きく眼を見開いた。
ダメだ、死んだ。
そのままドサッッと地に倒れ伏し、裂傷部から赤い鮮血が溢れ、血の海が広がるのだった……。
「………………」
やられた僕は白目を剥いていて、この身がピクピクと痙攣していた。
間違いなく死んだ。
いったい幾度、この人に殺されたことだろうか……。
「………………」
見下す師の厳しい視線。

【――スバルはこの精神世界にきてから、こうして師匠と命のつばぜり合いを続けていた】
【ひとえに強くなるためにだ】
【それは生き残るために、必要な経験だった】
【前回と今回までの戦績を合計して、187戦0勝185敗2分け】
【この2分けには意味があり、途中邪魔が入ったからだ】

「フンッ! さっさと立てッ!! 寝てれば終わるというものでもないぞ!!」
「――ゲフッ!」
白目を剥いていたスバルは、血の唾を吐き出して、
「ゴホッゴホッ」
この身に再起の炎を灯す。
そして、ググッとその身を起こし、
立ち上がった。
「ハァッ、ハァッ」
その目の闘志は、まだ折れてない。
「フッ!」
(いいぞスバル、そうこなくてはな……!)
「……」
「……」
笑う師匠、剣を向ける。
「ハァッ、ハァッ」
弟子も、それに応じるように剣を向ける。
両者、互いの相手に剣を向けるのだった。
とその時、まるで師が思い出すように。
「おっと!」
「!?」
「1つアドバイスだ!」
「……」
師から弟子へアドバイスの時間が与えられる。それは強くなる上で必要な事だ。
「カウンター狙いで待ちを狙うな!
……。
いいかよく聞け! 俺みたいに雷撃を使える魔法剣士タイプもいる! 同様に火や氷、風や爆発などの魔法攻撃を剣に乗せたタイプも出てくる……!
……。
魔法剣の攻撃の種類次第で、お前のその両腕が消し飛んだらどうする!?」
「あ……」
「待ちを狙うな!! ……とはいわん。せめて動き回れ!! 相手の出方を伺い、勝機を掴め……!!」
「……」
その時、力強く身構えるスバル。
その目には光が灯っていた。
いいぞスバル。それでいい。
「……!」
だが。
(……ここは話を聞くべきではないのか……?)
僕は、師の話をもっと聞くべきだと思い、構えていた剣を降ろし、楽に姿勢になった。
この行為に、師匠の目元が、ピクッと反応した。
その理由は、戦士が剣を床につける行為、それは戦意を失った姿に見えてしまったからだ。
俺はこの時、床に剣をつけた姿勢のバカ弟子を見て。
「バカ者!!」
「!?」
ビュン
(――間に合わないッ!!)
ビタッ
スバルが油断しきっていたスキを突き、素早く横薙ぎをもって、スバルの腰部にギリギリ当たるかどうかというところで、寸止めした。
これにはスバルも、――止まっていた呼吸が活動し、「ハァッ、ハァッ」と動悸が漏れた。
「楽な動作で終わるな!! 相手がすかさず胴切りしてきたら、間に合わないだろ!!」
「クッ……」
「さらにこうされたらどうするっ!!」
ドシンッ
とスバルが楽な動作で降ろしていた剣に、その足を乗せて、動けなくさせる。
これには僕も思わず、ハッ、と視線がそちらに向き。
その一瞬のスキをつかれ。
ビタッ
「――!」
首筋に剣が添えられる。
「……ッ、ハァ……ハァ……」
「一瞬も油断するな!! すぐに死んでしまうぞ!!」
「グッ、でも僕は勝った!」
誰に、もちろん決まってる、レグルスだ。
だがそんな事は知らないとばかりに師匠は。
俺は、首筋に添えていた剣をクルリと反転させて、刃のついていない峰の方で、このわからずやの胸を思い切り叩いた。
バシンッ、
ボギィと嫌な音が鳴る。
「ガッ」
ドサッ……
と倒れるスバル。
今の音は、アバラが何本かいった音だった。いっ……痛てぇ……。
「ゲフッ、ゲフッ、げほっ!! おぇえ……」
僕は、口から吐瀉物を吐いた。
物凄く強烈な躾だった。
「愚か者!! あいつは最初からお前に勝たせる気でいた!!」
「――!!」
「うぬぼれるな!! それだけお前達には、天地がひっくり返っても覆せないほどの力の差があった!!! なぜわからない!?」
「クッ……!!」
さっきからだ。
この人はさっきからレグルスに肩を持つ。
あの時、僕は死に物狂いで勝ったのに、ちっとも褒めてくれない……ッ。
ハァ……
と溜息を零す師匠。
「……」
僕はスキを伺う。
「……」
「……クッ」
ダメだ、スキが見つからない……ッ。
僕と師の間には明確な力の差があり、僕程度の技術ではスキなんて見つけられなかった……ッ。
「力の差をわからせた方が早いか……」
「……」
(力の差……)
僕は考える。
「……」
「……」
黙ったままの師と、俯いて考える弟子。
立ったまま見下す師と、地に手をつく弟子。
明確な力の差。
「……」
「……」
「以前のお前の戦闘力は………………」
「……」
「たったの3だった……」
「3……」
愕然とす。
「――!!」
頭の中に電流が駆け巡るほどの痛烈なショックだった。
「……」
頷いて答える師匠。
「ここでお前が魔力を身につけたことで、大幅に戦闘力が強化された」
「……」
「魔力の覚えたてで20としよう」
「20……」
「仮だ仮!」
「……」
「それに対し奴は、平均で200!!」
「!!」
驚くスバル、その目はあからさまに驚いていた。大きく見開くほどに。
「……どれ、強さ表にしてやろう」
僕の目の前で、後ろを向いて歩いていく師匠――
向かう先は、何の変哲もない石壁だった。
師はその目の前で立ち止まり、何かの動作をしていく。
呟きを落とす師匠。
「どうせお前は、戦闘力とか、なんとなくしか働いてないんだろ?」
「……」
「それじゃ、いつか絶対死ぬぞ」
「……」
そう告げる師匠。
戦いの中に身を置いていた師から見れば、僕なんて甘ちゃん同然だろうな。
「……」
師は何かの動作を書き記していく。
それは魔力を用いた光の文字だった。
僕はそれを認める。
「実戦経験も少ないし、命のやり取りだって少ない、まあ、地道に頑張るしかないな……」
それだけは変わらない事実だ。
師は、光る指先を動かして、次々と光る文字を書き記していく。
この行為には、僕も驚き得る。
「そっそれは……?」
「ああ、魔力で、文字を書いているだけだ」
「魔力で……?」
「いずれお前にも教えてやる……! 今は必要ないだろ」
「……」


☆彡
「――よしできたぞ! ……だいたいこんな感じだな!」
師匠なりの強さ表。
戦闘力1が赤子。
戦闘力2が幼児。
戦闘力3が子供。
戦闘力4が成人女性。
戦闘力5が成人男性。
戦闘力10が銃火器を持った兵士。
戦闘力20がライオン。そして魔力を覚えたての僕。
戦闘力30が一般の魔法使い。
戦闘力50が空を飛ぶ車での体当たり
戦闘力100が戦車。
戦闘力200が軍用ヘリ。そしてレグルスの通常時の平均。


(なんか頭が悪そう……!!)
「あくまで目安だから、参考程度にしろよ!」
「え……?」
「こんなのは当てにならん!!」
自分で書いておいて、断ずる師匠。
言葉を続ける。
「場や状況、精神状態や天候次第でいろいろと様変わりしてくるからな……」
「……」
「調子がいい時と悪い時で、ライオンが銃火器を持った兵士に負ける事だってある! ……お前だって知ってるだろ?」
「うん、まぁ……」
「まぁ、麻酔銃をもった警官などだな……。最悪猛獣の場合、飼育員が持つケースもあるし……子孫の記憶でみた」
「……」
要はそーゆう事らしい。
「はぁ、こんなのは多人数プレイで、いかようにも大きく様変わりするからな。
作戦担当の指揮官次第で、弱い手札で相手を倒すこともできる……!!
……こんなのは目安にしかならん!!」
「……」
「いいか真の強さってのは、数値では割り出せないものだ!!
なんとなくの勘を信じていると、いつかとんでもない目に会うぞ!」
「……」
師匠は僕に注意してくれる。
だけど、師からのその言葉を聞き、僕は落ち込んでしまうのだった……。
「……」
「……」
師の話が続く。
「全力はわからないが……。手加減して40まで落としていた……」
「!? よっ」
「あの大火球も見た目だけで、実際、大したことない……」
「……ッ! な……なに、何言ってんだよあんた……!」
「……」
クルリと振り返る師匠。
「あいつは僕を殺そうと……」
「うすうすお前も感づいてるはずだ。あの戦いの最中、お前は疑念を抱いていた……、……違うか!?」
「クッ……」
「認めろスバル!! でなければお前の成長はここで止まる!!」
「クッ……クソッ!!」
ガンッ、ガララン
と僕は不承不承とばかりに手に持っていた剣を、床に力いっぱい叩きつけたことで、剣は小さく跳ね、転がるのだった。
これには師匠も、まるで残念そうに目を細めてしまう……。
立ち去っていくスバル、それは悔しさだ。


――とここまで見ていた先生は、歩み寄ってきて。
「……ねえ、アドバイスはどうするのよ?」
「ハァ……」
俺は、不肖の弟子が投げ捨てた剣を拾う。
拾い上げた俺は、その剣を見た。
「……」

――その不肖の弟子は、剣の稽古をやめて、怒りの気持ちを吐き出しきれず、どこかへ足を運んでいく。
(クソックソックソッ!!)
はらわたが煮えくり返っていた僕は、怒りを吐き出しきれないまま、暗がりの向こうの方へ消えていくのだった……――


――と現場に取り残された師匠と先生は。
「――あの話は本当なの?」
「? あの話?」
「あいつが手加減していたことよ!」
「あぁ、紛れもない事実だ」
「……やっぱりね」
「お前も薄々感づいていたようだな!」
「まぁね……」
思わず肩をすくめちゃう先生。
「……」
俺はスバルが消えていった暗がりの向こうに視線を向ける。
(俺達ですら気づいてる程度だ……。あいつと実際に戦った本人が、それを一番わかっているはず……。
……。
本人がそれを認めたくないと、遠ざけている。
……。
だがなスバル、お前も薄々感づいてるはずだろ……なにせお前はあの時――)
「……」
「……」
黙る師匠と先生。
そして、師の口から呟きが零れる。
「大人になれ、スバル……!」
「……」
「見てむぬフリをするな……! お前なら、きっと乗り越えられる……!! ……俺は信じてるぞ……!!」
「……」
あたしは、その師の言葉を聞き届けるのだった。
後で、その弟子に伝えるために。
あたしは目線を閉じていった――


☆彡
――スバルは暗がりの向こうの、渡り廊下を突き進んでいた。

「レグルス(あいつ)、多分、社交性(コミュニケーション)能力が低いやつと思うわ」
「……」
これには師匠も頷き得る。もっともなご意見だ。
「……」
「……」
スバルが消えていった向こうを見詰める師匠。
先生もそれに習う。
「ホントに戦闘力が20なの?」
「20ちょっとだ」
「ちょっと……」
「あぁ。……だが、あいつに正確な数値を報せたら、図に乗って修行に身が入らないだろう……。
図に乗った弟子や優秀な兵士たちを見てもわかるように、自分は強いと過信し、その後の修行に身が入らず……。
……。
……どこかの戦場で人知れず野垂れ死んでいったよ……」
「……」
そう、それが現実だ。
聞いていたあたしも認める。頷き得る思いだ。
「……俺は、そうした現場を、何度も見てきた……。そうした人間性も……。だから、あいつにはそんな惨めな死に方はさせたくない……ッ!!」
「……」
「だから俺は、厳しい上官と接して、バカみたいに育てている……!!」
「……」
「……それぐらいがあいつと俺には、ちょうどいいのさ!」
「呆れた。そんな育て方だったのね……!」
「フッ……」
ほくそ笑む師匠。
「……」
その手に持っていた剣を、もう片方の手に移し替えて、その手をじっくり見る。
「………………」
「……どうしたの?」
「あのバカ!!」
「?」
ズイッ
――ハッ!
あたしは師のその手を見たことで、驚いた。
師匠もそうだが、弟子も、この世界では革手袋をつけて修行を行っている。
その革手袋にはクッキリと凹んだ跡があり、怨魔の気炎がじゃっかり上がっていた。
「なっ!? 怨魔……!?」
「あいつ、寿命を縮める気か!? 何を生き急いでいる!!」
「…………」
「…………」
これはマズいとばかりに、冷や汗を流す2人。
「そう言えば……」
「?」
「あの子、最近休んでないわ」
「あ……!?」

【――ようやくその事実に気づく】
【それはそうだ。ここ最近スバルは、政務と修行ばかりで、フツーの子供のように休んでいないのだ】
【精神的に追い詰められていた。過剰なストレスだった……】

「――あいつに勝ったのに、あなたときたらケナすばかりで、いくらホントの事でも、少し言い過ぎよ!」
「………………」
これには俺も反省してしまう。
(お前の修行方針はどうなんだ?)
俺は言葉には出さずに、心の内に留めた。死は先生の修行方針に対しても、疑いの視線を持っていた。
「……」
「……」
だが、そんなことはどうでもよく、先生の語り部が続く。
「精神的に相当辛いでしょうね……命懸けのやり取りを経て、体に取り返しのつかない傷を負って、精神世界にきても修行とケナすばかり……」
「……」
「彼女さん達がその後どうなったのかもわからない……。戦闘中でも、あの子の心の声が聞こえていたわ……。なのに地球は冷えていくばかり……」
「……」
「あの子は、地球とアンドロメダ星の架け橋になるといったけど……。
元々はそんな大仰な事を言う子供じゃないのよ。
それは……、……あなたでもわかってるでしょ?」
「……」
「……不安に圧し潰されないと見栄を張ってるのよ。
……。
……でもね、心の内の声は隠せない……。
あの子のすすり泣く声が聞こえてるわ。
『自分にそんな大役が務まるのか……?』ってね……。
……ホントにプレッシャーに圧されている……。
いつまで持ち堪えられるのか……。
……あんなに小さな子が……」
首を振るう先生。
「……無理もないわ……」
「………………」
これにはまいったとばかりに頭をかく師匠。
「だあっもうクソゥ!!」
苦虫を嚙み潰したような面持ちをする師。
「じゃあどうすればいいんだよッッ!?」
「……」
「あれぐらいのガキは、戦場に送り出しても、周りの大人たちは当然と割り切ってたんだがなぁ~」
「あたし達の生きていた時代背景を求めてもダメよ!」
「……」
「……」
お腹に手を当てる先生。それはもどかしさだ。
「あの子の末裔なんだから……」
「……!」
この母性行為には、師も気づく。
「……あいつの残した血か……」
「……」
「「………………」」
2人の愛の結晶の子供。
その末裔がスバルだった。
そして、見方を変えれば、ご先祖様であり、その子孫であった。


☆彡
長い通路には途中で分かれ道があった。
だが、その分かれ道の先は、行き止まりであった。
そこにいたのは、スバルだった。
僕はその奥で、背もたれをつけて、体育座りで、シクシク、シクシクと泣いていた……。
「こんな、こんな、こんな力があるのに……僕は、あの戦いで負けていたのか……ッ」
僕は悔し涙を流していた。
顔が赤く腫れ上がっていた。
ずーっと泣いていたからだ……シクシク、シクシクと。
だが、そんな心に宿るのは、怒りと憎しみ、悔しさと憎悪だ。負のエネルギーが溜まっていく。
――怨ッ
自然、この手に力がこもる。
「クソッ、クソッ……クソ――ッ!!!」
その手に怨魔の気炎を発し、「ウォオオオオオ」と向こうの壁へ向かって放ってみた、が……。
放たれた怨魔の気炎は、見る見るうちにしぼんでいき――……終いにはフッ……と消失するのだった……。
この様を見た僕は。
「………………」

【――無性に己の無力を思い知る……】
【現実を突きつけられた僕は――】

「――ッ……ッ」

【静かに流れたるは、無情の時間の経過……】

「……ッ……ッ……ッッ!!」

【奥歯を噛み締める】

(これが今の僕だと、ふざけるなッッ!!)
(認めない、認めない! 認めない!!)
(自分には力がないと……!!)

【認めない……】
【だが、世界はとても残酷で、それを如実に物語っていた――】

「チックショオ~~!!」

怨ッ
再び、その手に怨魔の気炎を発し、先ほどと同じように放ってみるが……。
先ほどと大して変わらず、無情にも消失していく――……
「……」
認められない僕は、こんな現実は受け止め辛いと、何度も、何度も、同じように怨魔の気炎を放ち続けるのだった。
1発、2発、3発、4発……
「ウワァアアアアア」


――ウワァアアアアア
「………………」

【壁の向こうから、弟子の悔しさが伝わっていた】
【ここまで様子見にきた先生は】

「……」
【背にもたれかかりながら、冷たい石壁の温度を背中で感じ取りながら、不肖の弟子の心の叫び声を聞いていた……】
【そしてついに――】

「――あああっ!!!」
怨ッ
怨魔の気炎を振りかぶりながら、投じようとしたところで、フッ……といきなりそれが消失するのだった……
ブンッ
と空振りに終わる。
「!?」
投球フォームから投じたそれは、無情にも空を切り、何も起こらない。
いや、それどころか……。
「なっ……あっ……ああっ……!?」

【弟子は、いや、少年は絶望した……】
【身に襲うは喪失感……】
【まるで感じられないのだ、さっきまで感じていた世界の力、世界の声】
【いや、それどころか……】

「さ、寒い……な、何でだ……。ッ……」

【こんなの認めない】
【自分の生命力も、魔力も、その力が感じられず、寒々としていた……】

「で……で、出ろ……出ろ出ろ出ろッ!! 重力、氷、火、雷、何でもいいから出ろよッッ!!!」
震える我が両手。
「おっ……おいっ……」
それは何も感じられなくて……ッ。
「魔力を……感じられない………………ッ」

【それは世界からの拒絶だった】
【気が動転した僕は、その場で泣き崩れ、喉が張り裂けるくらい、この現実を受け入れ辛いと泣き叫ぶ】
「あっ……あっ……あああっ、あああああああっ!!!!」
【もう訳がわからないとばかりに、少年は頭をかきむしる】
【おぞましくも、身の毛がよだつ、恐怖感に苛まれる】

――怨ッ
【それは怨魔の副作用だった】
【少年を孤独に落としていく】
【精神を蝕んでいく】
【肉体には変化はないが、精神を犯していくのが、苛まれていくのが、怨魔の副作用の恐いところだ】


「……ッ、やっぱり……!!」
うっすら涙ぐむ先生。
わかっていた、こうなることは……。
その様子を、あたしは背中で感じ取りながら、聞く耳を立てていた。

【――少年に待ち受けるのは、精神を犯す、怨魔の副作用であった】
焼ける森の中、アユミが引き裂かれて燃える。
僕を命懸けで助けた恵さんが、ドロドロに溶けて、腐って、ゾンビになっていく。

「ああっ、ああっ……」

セラピアマシーンで治療中、宇宙人たちが陰で、僕の体を弄っていく。
アンドロメダ王女様との食談の場で、出された料理の数々は、おどろおどろしいゲテモノ料理だった。

「何でこんなものを見せるんだよ!!」

【認めない、認めない】
【現実は違う】
【こんなのは悪夢だ】

アースポートの磔の場で、既にクコンは息絶えていて、皮や肉が削ぎ落されて、燃えカスだった。
宇宙の法廷機関の場で、Lが、ヒースさんが、シャルロットさんが、みんながみんな嘲笑い、嘲笑し、契約書を改ざんして、可決する。

「ふざけるな!!! お前なんて嫌いだ!!! お前なんか消えちゃえ!!!」

【断ずる】
【その時、僕の心の中で、誰かがすすり泣いた……そんな気がした】

僕の生まれた街が、ギャラクティアコールにあい、各宇宙船からの光のレーザー攻撃が幾千もの放射を受けて、光の大爆発を起こし、跡形もなく消えていく。
さらに、人々の助けを求める氷像が作られ、地表は氷漬けになっていく。
見向きもしなくなった地球から、宇宙船が離れていき、ジワリジワリと全球凍結していくのだった……。

「あああああ!!! あああ~~!!!」

【発狂する少年】
【すすり泣く誰か】
【絶叫の跡に待ち受けるは――】
パンッ
【怨魔の四散であった……】
【フラリ……フラリ……少年は虚ろな目とガリガリの顔でうつ状態になり、もう間もなく、力なくして倒れ伏した……】
【世界からの拒絶、自分の体を動かす力もなく、拒絶された先は何か――】
「………………」
【もう間もなく、少年はその目を閉じ、意識を手ばした……】
【それは孤独である……】




☆彡
【――少年は、闇の中に落ちていった……――】
【暗く、深く、闇の中……】
【目も見えず、耳も聞こえず、鼻も触覚も、何も意味をなさない……】
【もう何も……】

「………………」

【だが、そんな中でも、たった1つだけあるのは……】
【自己の意識だけ、だった――】

「………………」

【少年は暗闇の中、声を発してみるが、まるで聞こえない……】

「………………」

【感じるのは、自己の意識だけであり、目、鼻、耳、声、触覚……そのすべての感覚が、断絶されていた】
【それは世界からの拒絶、孤独であり、虚無であり】
【無だ】

「………………」

【少年は、『死』という認識を、この時初めて味わった……】

「………………
………………
………………」


光、か細くなっていき、一点の光となって、薄らぎ、ぼやけ……いつしか消えていった……。


☆彡
【自己の意識だけに遺された少年に、最後に残ったものは、記憶だけだった】
【だから、思い出の箱を開く事ができた】


☆彡
少年が、まだ幼児の時代の記憶。
1人、孤独に、パズルのピースを組み立てていた。
【それは心のピースを組み立てるように、自己の記憶を意識が働いていた】
掴み取るその手には、ピースの1つ。
だが、少年は力が弱く、周りからの格好の標的だった。
歩み寄ってくるは、悪ガキだ。
「!」
いきなり殴られた。
しかも、周り仲間が、せっかく組み立てたパズルのピースを蹴り、たくさんのピースが宙に四散する。
食ってかかる少年。
だが、多勢に無勢で、胸ぐらを捕まられて、殴られて、蹴られて、罵倒されて。
周りから嘲笑いの声がかけられる。
【地に伏した少年は、涙を流した……】
【虐めは、幼児時代から起こっていた……】
【次第に少年は、周りから疎遠になり、孤独になることが、虐めにあわない秘訣だと悟る】
【痛いのは嫌だ、心に傷を負う……】
【仲間を作らない。1人ひっそりと、茂みの中にいた……】


「………………
………………
………………」
周りの幼児たちが遊ぶ中、少年は孤独だった。
茂みの中から、仲間の輪に入れず、入りたくても疎遠にされて。
【なぜ、自分だけ……】
「!」
【そんな時、転機が訪れた】
【幼児の中でも、特にかわいい女の子が、少年を見つけてくれた】
「……」
「なんでそんなところにいるの?」
【少女の名は、アユミ】
【少年にとって、特別な存在になっていく】
しゃがみ込み、少年の目線になって、こう語りかけてきた。
「なんでいつも1人でいるの?」
「……」
「……」
「……」
「………………ん~」
困ったように頭をかくアユミちゃん。
「何か言わないと、こっちもわからないよ!」
「……」
「……君、口ついてるの?」
「……」
「……ッ。あーもうっ!! 知らないっ!!」
「……」
「フンッ」
怒ったアユミちゃんは、少年を見限り、その場から立ち去っていく。
少年はこの後ろ姿に、ちょっとだけ反応して、顔を上げていた。
だが、また静まりかえる。
(そうだ……ここにいれば……痛くないんだ……。……ッ)
体育座りになった少年は、その組んだ腕の内側に顔を埋める。
そして、すすり泣くように。
【誰か、僕に……気づいて……】
【それは、心から少年の懇願だった……】


少年を見限った、アユミちゃんは、ズカズカと歩いていた。
「もう知らない……ッ!!」
その時。
「アユミちゃん、遊ばない!?」
「いいよ」
「……あいつは?」
「ほっとけばあんな奴!! いつまでもウジウジしちゃって情けな~!」
少女はそのまま、周りの仲間たちと遊びに興じるのだった。


【変わらぬ日常生活の中、少年は、誰とも関わらず、孤独だった】
【殻にこもり、抜け出そうにも、その最初の勇気の一歩を踏み出せない】
【心に酷く傷を負い、誰かに、助けを求めていた】
【だから、この歌詞が生まれる】
【それは自分の心を癒す、せめてもの歌、『孤独から解き放たれたい白い鳥』】
少年は茂美の中から、口ずさんだ。それは歌だった。
「♪この世界で、宇宙で独りぼっち
♪それでも世界は流れる
♪変わらぬ日常
♪命は流るる
♪動かない、君、いつ連れ出すの
♪君は、何、求める
♪何を、どうしたい
♪君は、だれ
♪あぁ、私は」


――そして、しばらくたって、少年の視線に気づいた少女は。
「……」
友達の1人が投げてきたボールを、掴みそこね、転がっていく……。
「……!」
そのボールの行き先の直線状は、あの少年だった。
あたしはそこまで歩み寄ってきて。
まるで動かない少年を見た。
そして――

「♪白い鳥です」

「その白い鳥さんは、美味しいのかな?」
「!」
顔を上げる少年。
「歌なんて歌えたんだ、君……」
「……」
「……」
「……」
少年は何も言わず、陰でうずくまった。
「もう一度歌ってよ、白い鳥さん」
「……」
「……何をイメージして、歌ったのかな?」
「………………」
この子に問いかけられた僕は、顔を上げる。
あたしも習うように顔を上げる、自然、それを見て呟きが漏れる。
「……雲」
青い空の中、大きな白い雲が、形を変えて動いていた。
「……小さいね……」
「うん……」
僕はこれをみて、続きを口ずさむ。
「♪小さき者、それは、私です」
と。
「クスッ、じゃあ、小さき鳥さん、あなたには、どんな世界が見えるのかな?」
「……」
「……」
「……」
少年は私から視線を切り、向こうの黄色い花を見た。
「……あれ?」
「うん」
「どこにでも咲いてる、黄色い花じゃない」
「違うよ」
「えっ? どう違うのよ」
「僕には、そう見えない」
「?」
「黄色い花の中に個性があって、色々な顔がある。例えばあの花なんかは、縁の方に、紫か、赤紫か、茶色かよくわからないものが見える……」
「……」
驚き得る少女、少年を見据える。
「白い文字なんかは、光の違いで、たまに文字が緑色に見える、6だったかな……?」

【――少年のこの何気ない一言に】
【少女は、素直に吐露した】

「気持ちわる」
「うっ……ううっ……」
「もうやめなよ。そんな嘘をつくのは……」
「……グスッ……」

【障害者の中には、稀にモノの見え方が違う。人もいる】
【あれはいつだっただろう……?】
【僕がまだ小さい時、アユミちゃんに助けられた後だ】
【そうだ、確か……ジャングルジムに昇っているとき、上にいた子から、悪戯で蹴り落されて……】
【頭と顔を強打したんだ】
【その時、その色彩能力を失った……】
【少年は、親にも話したが、まったく信じず、そのまま、その能力の事を忘れていく――】
【そして、一般人同等の色彩能力として過ごしていく……】

「……」
あたしは困った感じで、後ろ髪をかいて。
「もう仕方ないなぁ……」
「!」
少年に手を差し伸べた。
「ホントは1人が嫌なんでしょ?」
「……う、うん」
「……」
「……」
「……あっ……っ……うっ……」
「……」
「あっ」
少年はなかなか、その少女の手を掴めなかったが……。
意を決した少女が、その手を掴み取った。
そして一言。
「君の名前は……?」
「えっ……名前……」
「もしかして……自分の名前……」
「……」
少年は頷き得る。
答えられない、恥ずかしい……ッ。
これには少女も、幻滅しちゃう、あぁと顔に手を当てるほどだ。

【実際にいる話だが、これは健常者も障害者も、その中には稀に、自分の名前を意識していない幼児がいるほどだ】
【園児の先生も、親も、この22xx年時代、電子端末などの情報に目が行き、子供達に接する機会は減ってきている……】
【自分の名前を呼んでくれる人が減ったため起きる、一種の弊害である】
【それぐらい当たり前だと、罵る親もいるぐらいだ】
【だから、この時少女は、名も忘れた少年に名を与える】

「じゃあ、白い鳥さん!」
「!」
「名前がわかんないんでしょ! 白ちゃんでもいいよね!?」
「……うん……」

「アユミちゃんー! いつまでかかってるのー!」
「待ってー! 今行くー!
……よしっ! じゃあ白ちゃん! みんなのところに行こっ!」
「あっ!」
少女が力強く少年を茂みの中から引っ張り出す。
「あたしが白ちゃんを紹介して上げる! 歌でも歌おうよ!」
【そうして僕は、アユミちゃんに白ちゃんと名付けられて、振り回されたんだった――】


☆彡
「ねえ、ママ」
「うん、なに?」
僕のママは、エアディスプレイ画面を見ていて、僕の顔をちっとも見てなかった。
見ているのは料理の献立だ。
「……僕の名前、なんてゆーの?」
「天ぷらにしようかな、今日は」
見事に意見の見解が、相違する。
「……」
「……さてと……!」
ママは僕の前で立ち上がり、調理場へ向かう。
少年の意見は、取り下げられた……。
「………………」
少年の視線はエプロンを纏う母の後姿を見詰めていた。
「……」
ガッカリ俯く少年。


☆彡
部屋に移動した少年は、窓の外を見ていた。夕焼け空だった。
心に移るのは、あの子の姿。
(気になる……)
【僕は、自分の名前が知りたいと思った】
【だから、それは自然な流れだった】
(……そうだ手伝おう)
【僕は、ママに気に入られるいい子を演じようとした。そして、名前を聞こうとしたんだ】
【僕はすぐに行動に移った】


☆彡
【ママの手料理を手伝うことにした】
グツグツ煮だつてんぷら油。
【そこで事故が起きる】
【少年は、ママが長箸を使ってかき混ぜているのを見ていた】
【ふと思う。あれ? これ、手でかき混ぜた方が良くない? ――と】
「――あっ」
【当然の事故だった】
「アアアアア」
「キャアアアアア」
少年は、利き手を火傷したのだった。
すぐに父親が飛び出してきて、緊急対処を取るのだった。


☆彡
【病院】
「~~!!」
「あぁ、これはちょっと利き手に火傷の跡が残るかもしれませんね」
「ヒギィ~!」
「うんうん、我慢強い子だね……。後が奇麗になるように、整えてあげるからね。そのまま辛抱するんだよ……」


☆彡
【その帰り道、夕日は落ち、夜になろうとしていた】
【うっすら、星も出ていた】
【僕は、パパにおんぶされて、病院を出て、うちに帰ろうとしていた、その帰り道での話――】
「――偉いぞ、よくなかったな」
「……うん……」
「てっきり大泣きして、先生たちで抑えつけて、ギャーギャー泣きわめくと思っていたんだが……。……パパも隣の部屋で、心配してたんだぞ」
「………………」
僕はパパの後ろ頭を見ていて、星空を見た。
「ねえ……」
「んっ?」
「今日ね。女の子とあったんだ」
「ふ~ん……」
「……」
「どんな子なんだ?」
「………………」
これには少年もう~んう~ん……と返答に困る。
「なんとなくてでいいぞ」
「う~ん……黄色い花の話をして、雲の話をして、……他の子と少し遊んだかな」
「……そっか……」
「うん……」
僕はパパの後姿に身を任せる。
「あのね……」
「うん……」
「僕の名前……言えなかった……」
「………………」
「………………」
子供をおんぶした親は、そのまま歩んでいく。
するとふと、顔を上げて。
「お星さまだ」
「? お星さま?」
「うん……俺と母さんが、お前に『スバル』と名付けたのは、昴星という星の集団があるからだ」
「……スバル……」
「……星々の集まりの集団、みんなとの繋がり、絆の大切」
「……」
「……みんなの輪の中にお前がいて、1人でもどうしようもなくても、周りのみんなの力を借りれば、どんな問題も取り組んでいける」
「……うん……」
「お前は1人じゃない。パパがママが、そしてその子が、多くのみんなが……繋がっていく……」
「……」
「絆の象徴、それがスバルだ」
「――!」
カギを手に入れた。
そんな気がした。
夜の闇の中、星々が輝き、僕とパパを照らしていた――


☆彡
地に伏した少年は、目を閉じたまま、涙を流していた。
背中で石壁の冷たさを感じていた先生(あたし)は、耐え難いと、助けようと、動こうとしたとき。
ガシッ、とその腕を掴まれた。
「!」
振り返った先にいたのは、師匠だった。
「……」
「……」
師は無言であたしを見詰めていた。
腕は掴んだまま。
「……」
その人は顔を振ってこたえた。
(まだ早いって……)
あたしは師から視線を切り、この壁の向こうにいる少年を心配してしまう。
(成長を促すために……)
「……」
「……」
俺は、あたしは、少年が立ち上がるのを待っていた。
「……なぜ……?」
いろいろな感情が混ざりながら、その一言を呟く。
「……」
師の問いかけの返しは。
「……あいつにも時期が来た……」
「……」
「少々、いや、かなり早くな……」
「……」
「……見ろ! マナの精たちが心配して、隠れて覗き見てる」
「……」

――地に伏した少年。その少年から隠れるように、マナの精が光を発していた。
まだ近寄らない。
少年の心が、それを拾い上げるまで。

「孤独に陥り、虚無を経て、死の一歩手前の状況を垣間見る……」
「……」
「死とは無だ。何も感じない。何もないだ……」
「……」
「俺にも覚えがある」
「……」
「人は立ち上がってこそ、一人前というが、それは認識が違う」
「……」
「孤独に陥ったものが、当たり前に触れていた者の存在、そのありがたみを知った時、『徳』というものを知る」
「……」
「施しを受け、あの味の記憶は忘れない」
「………………」
あたしの腕を掴んでいた、死の手は打ち震えていた。
そして、その手が離れる。
「人は何かを失った時、その当たり前のありがたみに……痛感する………………」
俯いていた師は顔を上げる。
「あいつを救うのは、俺達じゃない。失って四散した怨魔が、あいつを見てる」
「怨魔って……」
「あいつの感情の一部だ、力だ」
「……」
「……誰かがすすり泣く声がした。それは俺自身の心の弱さだった。
自分の心の弱さと向き合った時、
その感情の誰かと話し、
もう一度と決意した」
「……それは誰なの……?」
「……」
その問いかけに考える師匠。
「人にとっては、己自身、異性、性格の違いという、人格形成もある」
「……」
「自分の心の弱いところを、引き受けてくれる、誰かだ」
「……」
「……自己がそれを認め、受け入れた時――周りの光も見えてくる。……自分はこの世界で1人じゃないんだと……」
「……そう……」
あたしは師から視線を切る、この冷たい石壁を見る。
「……助けにはいくな。自分の足で立ち上がり、俺達に尋ねてくるまで待つんだ」
「……」
「……」
「! ……」
俺は妻の隣に立ち、抱き寄せた。こいつの肩に手を回して。
「……」
「……」
「……あいつは、まだ魔力を覚えたばかりのひな鳥同然なんだ」
「……」
「まだ、光の道も、闇の道も、決断の時期は速い……」
「……」
「怨魔の力も、魔力も、ただ愛想をつかしたわけでもなく……、……使わせないと眠りについただけだ」
「……」
「今はまだ、よちよち歩きを覚えたばかりのひな鳥同然なんだ。
そっと後ろを振り返ってみろスバル……そこには卵の殻があるぞ。
それは、この世に生を受けてきた、この世界からの祝福だ。
お前はまだ、魔力を覚えたばかりなんだ。
いいじゃないか。
……その卵の殻には、栄養が詰まっているぞ。
お前の心なら、その大切な何かに気づけるはずだ。
今のお前に足りないのは、自分を肯定する意思表示、何かだ……!!」
「……気づけるかしら?」
「俺とお前の子供の末裔だ、気づけるさ! ……気づいて立ち上がってくれる……!」
俺はこいつの肩に回していた手を離し、
この場を離れるように背を向けて歩いていく。
「俺は信じているぞスバル……! お前が、この世に生を受けて、祝福されていることに……! そして、世界に還元する術を覚えるんだ。何となくでいい、それがお前が出した心の意思だ!」
「……」
ソッとあたしも、それに続くように、この場を後にしたのだった……。


「………………
………………
………………」
地に伏した少年。
その心の中で、心のジグソーパズルを組み立てていた。
先ほどと違うのは、地に置かれたパズルではなく、片手に持った球体状のパズルに、ピースをはめ込んでいた。
1つ1つ、はめ込んでいくたびに、ホッと笑みが零れる……。
すすり泣く誰かが、止まった気がした。
そして、光が包み込み、
暗闇の名から、僕は、現実に引き戻された


☆彡
少年は目を覚まし、何かを手に入れていた。それは大切な何かだ。
僕は涙を流していた事を悟る。
目の視界も戻ってくる。
鼻も、耳も、口も、手の触覚も。
地に伏していた僕は、床に手をついて、うつ伏せから仰向け状態に寝転がった。
「………………」
【静かだ……】
【そして、思い出した気がした】
【死に、その概念に触れたことで、自己の意識の記憶、その思い出の中から、それを引っ張り出せた気がした】
【そして、唐突に呟く】
「――ねえ、そこに誰かがいるの?」
【声は出せども、声の主返事は返ってこない……】
「………………」
【でも、たった1つだけわかるのは、心境の変化であり、自分の心の中に生まれた誰かだ】
【少年は悟る】
僕は自分の胸に手を置いて考える。
「……難しいな……心って……。君は……」
【自分が世界の一部であることを悟る】
【同時に、自分の中にも世界があることを悟る】
【ホントに1人であるならば、そもそも、感情なんて、心なんて、概念すらないだろう」
「………………」
【――思い出した僕は】
口が、力弱く動く。
【再び、この歌を歌う】
【『孤独から解き放たれたい白い鳥』を――】

「♪この世界で、宇宙で独りぼっち
♪それでも世界は流れる
♪変わらぬ日常
♪命は流るる
♪動かない、君、いつ連れ出すの
♪君は、何、求める
♪何を、どうしたい
♪君は、だれ
♪あぁ、私は」
♪白い鳥です」
♪小さき者、それは、私です」

【――思い出した僕は、唐突に涙した】
【忘れていた……忘れていた……】
【僕は……僕は……】

「あ……あ、ああ……うっ……ううっ……」
(……僕は……弱い……)

【――ようやく気づいた少年】
【己の弱さを受け入れる事、それが答えだ】
【最初から、強い人なんていない、それこそ傲慢だ】
【だからこそ――】

光が、マナの精たちが、少年の様子を眺めていた。

【マナの精の声は、聞こえない】
【だが、この時ばかりは、なぜか聞こえた気がした――】
(少年が気づけるまで、あたしはここにいる事にする)
(だって、あなたの中には、別の命が……)
(だからその時まで――……)
光が、少年の様子を眺めるように、待ち望んでいた。
自分の足で立ち上がる、その時を――


☆彡
シャ―ッ、シャ―ッ、シャ―ッ
シャーッと刀剣を砥石の上を滑らせるようにして、刃を何度も当てがって研ぐ、研ぐ、研ぐ。
その人物は、師匠だ。
「……」
一度、俺は研ぎを中止して、
目線の高さまで、剣を持ち上げて、白い刃を見る。
「……」
その刃の角度を変えると――移り込んだのは、不肖の弟子の姿だった。
「――何の用だ腰ぬけ」
「……もう一度鍛えてください」
「ハァ……なぜ俺が……!!」

【――ため息交じりにワザと愚痴を零す】
【これは言葉の問いかけ、スバル、お前の心に問いかけている】
【お前にそれがわかるか?】

「……強くなるのに」

【気づいているかスバル?】

「別に俺でなくてもいいんじゃないのか?」
「あなたから『技』を盗みたい」
「……ほぅ」
振り返る俺。

【真剣な面持ちで、僕はあなたの顔を、あなたの目を見据える】
【俺は、ただ、お前の目を見据えて、お前があそこで得たものは何か? お前の心の在処が知りたい】
【だが、帰ってきた返答は――】

(どんな心境の変化だ?)
(フフフ、なるほど……これが禁欲ね)

「あなたは、レグルスの事を高く買った」
「……」
「……弟子の僕よりあいつを高く買う。それはあなたが、あいつを認めている、何よりの証拠だから」
「……」
これには冷や汗を流す師匠。
その心の内では――
(――おいおい待て待て、どうやればそーゆう結論に辿り着く!?)
スバルは心の声を、言葉をもって問いかける。
「だからあなたから『業』を盗みたい。レグルスの事も知りたい、あなたから見たレグルスを……なぜそうなるのか道理が知りたいから……。……もちろん先生、あなたからも……」
「フフッ、知りたい探究心ってことね」
「……」
「フフッ、いーんじゃないー!」
「……」

【――そうか! 真理の探究か!? 相手を知り、自分を知れば、その真相に辿り着く道理!! だが――】

「――それが、お前が出した結論なんだな?」
俺はそう問いかける。
不肖の弟子は、コクンと力強く頷いた。
(なるほどな……。、俺を通して、俺の価値観であいつの事を知りたいか……。……危ういな……!)
俺はそう、危機感を募らせる。
(こいつはある意味で、純粋だ。善にも悪にもなる、純粋なんだ……)
「……」
(危うい奴め……)
「レグルスの考えていることも知りたい。そのためにはまず、……あなた達の話を聞きたい、いや――知りたい……!」
「……」
「……」
「僕の中のわだかまりを解きたいから! 事の真相を、成り行きをしれば、今の僕のわだかまりも消えるから……ッ!!」
「……」
「フッ、フフフ、フフフフフ」
「!」
「!」
「アハハハハハ!」
「何だ!?」
「えっ!?」
ここにきて先生が笑ってしまうなんて、思いもよらない出来事だった。
驚く師匠。
呆けてしまうスバル。
「クックックッ、これはいいわね。……それも選択肢の1つよスバル君! クククッ」
「……」
「……」
「あ~~もうなんでこんな珍妙な選択肢に辿り着くかなぁ……いえ、これこそが真理の探究への道理!! クックックッ」
(なんて愉悦なの~)
喜ぶあたし。
「……」
「……」
「自分を知って、勝手に道理を作って、肯定するかと思えば、それもなく!
師を前にして、頭を下げて、許しをこうて、肯定を得るのでもなく!
まさか、相手と師匠をまとめて、そこからの意見介錯を求めて、その考え方の道理を知り、盗みたいだなんてあなた!!
……面白い!!
今までにいないタイプの人間だわ君!! クックックッ」
笑えてくる、なんて子を拾ったのかしら。レア中のレアだわ。
(まさしく禁欲!!)
「いいわ認めてあげる!」
「……」
「……」
あいつは勝手に、あの人は勝手に、認めたのだった。
「……」
「……」
これには唖然とくる2人……。
そして。
「……」
「……」
師と弟子の視線がかち合う。
「どーゆう心境の変化があった!?」
「……何でもないよ」
「……なにぃ!?」
「あの戦いのとき……から、あいつに対する怒りと憎悪を持って、戦いに臨んでいた」
「……」
「正直、許し難い敵だった……!! けど!!」
「!?」
「悔しいけど、あいつの力も必要なんだ!! 思い切り矛盾しているのはわかってる!!」
「……」
「……」
「……地球を救うためだ!! 僕個人のわだかまりなんて、いくらでもくれてやる!! だからあいつには、絶対に償いを……協力させてやる!! ……いつの日か必ず……!!」
「……」
「……」
フッ……と笑みを深める師匠。
「……どっこいしょっと!」
座っていた席から立ち上がり。
不肖の弟子と向き合って。
「ホラよ!」
その剣を投げ渡す。
「――!」
僕はそれを受け取った。
「師匠!?」
「あ――っなんだ、俺も言い過ぎたかもしれないからな。フッ……」
「……ええ、確かにそうかも……!」
「ヌッ」
「……」
「……」
「……」
「オイッ、言いたいことがあるならハッキリ言え、クソガキッ!!」
「フンッ」
僕は、鞘から剣を引き抜いて、その辺に投げ捨てる。
カランカランと音がなる。
「……」
師匠もそれを見送る。
「こっこいつ……!!」
「正直、僕は剣術が嫌いだ!!」
「……」
「魔法だってセンスがないから、嫌いだ!!」
「……」
「好きなものは、ゲームと美味しいものを食べる事と寝る事と、後はどうでもいい事を、アユミちゃんと話すことが趣味なんだ!!」
「……」
「……」
((メッチャクチャ本音じゃねーか!!!))
師と先生の心の声がハモる。
「ここだけは譲らない。僕の本心なんだ!!」
「……」
「……」
「こいつ、ホントにガキだぁ……」
「あぁ……」
もう頭を痛めるしかない師匠と先生。
スバルは本音で語る。
「もう、あの日を取り戻せない……!! それだけが揺るがない、真実なんだ!! ……だから僕は知りたい!!」
ビュンと剣を構え、師匠に向ける。
「……」
「地球復興にはどうすればいいのか!? ホントに地球をあんなにした、滅茶苦茶にした真犯人は誰なのか……!? ……でも、その為にはまず力がいる!!」
「……力……か」
俺も、鞘から剣を引き抜いて、その場に鞘を投げ捨てて、カランカランと音が鳴る。
不肖の弟子に剣を向ける。
「聞くが、お前の求める力とはなんだ!? ……言ってみろ!!!」
「力か……」

――その時、光がスバルの近くに寄り添っていた。

スバルは一度、それに目配りした。
「!」
「!」
師匠が先生がそれに感づく。
「さあね。今の僕には、その答えはない……」
「……」
「声も聞こえない……。けどなんだかそれは、聞いたことがあるような、世界の声だった………………!」
呟きを落とす少年。
「「………………」」
師と先生。
「「「………………」」」
スバル、師匠、先生の視点。
「………………」
「「………………」」
どこか遠くを見つめる少年。
俺達は、あたし達は、その心の声を聞き届ける。
「――僕は小さきものだ、とても小さき者、それは僕だ。
あの日、あの修学旅行の日、アユミちゃんと手を取って、恵さんを探しに出かけたあの日――。
森は山火事だった……。
声がしたんだ、君を呼ぶ声が。
だけど、僕は臆病者だった。
だから、僕は、彼女の手を引いて逃げたんだ、あなたの前から……。
――でも、そんな僕を、あなたが護ってくれた。そんな小さな身で……。
……あなたは、木の下敷きになった私を助けるために、何度も道を往復し、その小さな手で掬い上げ、私の口に流してくれた。
あの命の水の味を、私は忘れない……。
だから、僕はあの時、生きたい。まだ生きたいと願った。
そんな時聞こえたんだ。戦えと、護りたいなら戦えと。
だから僕は、あなたと一緒に立った。
……次に会った時、
あなたは、あなたを見て、まるで昨日の夕方のようで。
あなたを見て、あの日の炎を思い出す……。
……。
こう恐怖に抱かれながらも、身が竦む思いで、あなたの前で、恥は見せられなかった……。
そんな小さな身で、あなたは私を護ってくれた。
だから私は、報いたい、恩返ししたい、役に立ちたい。
それはきっと、世界の声であり、進むべき道を指し示してくれるから。
だから、僕は戦えた。
あなたの前で、恥をかかない戦いを繰り広げた。
それが僕の勇気であり、あなたに示せる意思表示、僕からの誠意です。
……。
そして、叶えたい願いの力があったから……!!
僕の願い、それは力だ!! 全球凍結した地球をどうにかしたい……!! 復興させたい!!
みんなと一緒に帰りたい!!
おかえりと言われて、ただいまと言いたい!!
それが僕自身が掲げる、絶対に折れない、至高の信念だ!!!」
「……」
「……」
「だから、僕達は一緒に進むんだ! その小さな手に、みんなが手を取り合って、先に進めと、教えてくれたから!! だから僕は――」
ビュンと剣を振り下ろし、ワザと音を鳴らす。
――光の粒子が寄り添う。
一緒に頷き得る。
「みんなの力を借りて、きっと地球を助けるから!! だからその時まで、何度も挫けようとも、僕は決して諦めないから!!」
「……」
「……」
「だからみんな!! 僕に力を貸してくれ!! そして……!! もし、僕がくじけそうになった時、きっと誰かが助けてくれる!! きっと手を差し伸べてくれる!!
僕はみんなを信じてるから……!!
だから僕も、みんなを信じる……!!
僕は――不断の努力を信じている!!
僕は凡骨だ、その辺の石ころだ雑草だ!!
だけど、世界が決めた、凡才が天才に勝つなんて道理がないなら――そんなもの、僕が覆すよ!!」
「……」
「……」
「それが、僕が信じる『力』だ!!!」
信念を告げる。
「………………」
「………………」
「………………」
師匠、先生、そして弟子、その心の声の問いかけの返答は――
「――フッ」
「夢と希望の力……というわけね」
「まるでガキの絵空事だな。クックックッ」
「フフフ」
「クククッ、こいつはいいわ」
「!?」
笑う師匠に不信感を覚える。
「もし、もし! もし!! それが現実に叶ったら、お前の事を誰も、『愚者』とは呼べないだろうな!!」
「ええ……それを『英雄』と呼ぶのよ!!」
「……」
「――剣を構えろスバル」
「!」
チャキと構えるスバル。
(気分がいい)
「俺の全部、お前に叩き込んでやる!!」
「……」
「もうあの日のように逃げ出さないんだろ!? あなたの前で恥をかかせないんだろ!? 夢を叶えるんだろ? 御大層な夢を、なら――みんなの力を借りないとな――ッ!!」
踏み出す師匠、勢いよく駆ける。
スバルはそれを。
「フッ」
カウンターを合わせるようにして、剣戟を放つのだった――ガキィーン

♪小さき者、それは私です
♪炎の森の中、君と並んで走った
♪あなたの声を、後ろで感づき、見えません、聞こえませんといい、彼女の手を引いて逃げ出しました
♪小さな臆病者です
♪ですが、あなたは護ってくれました
♪この命があるのは、あなたのおかげです
♪私が倒れてきた木に下敷きされた時、あなたに罵声を上げたのに
♪あなたは、そんな私を助けるために、命の水を、その小さな手で何度も掬い、
♪私の口に流してくれました
♪命は流る、この星空のようにさらさらと
♪燃える、燃える、焼ける木の音がパチパチと奏でる
♪命のありがたみを知った私とあなたは、立ち上がりました
♪世界の声が、聞こえる、進むべき道が指し示している
♪声が、聞こえる、戦い、救えと、みんなと手を取り合って、先に進めと
♪時が、流るる
♪まるで昨日の夕方のようです
♪命は、燃える
♪あの日を思い出すように
♪あなたと戦えと
♪そこに、あるはずの道を信じて
♪私は、この地球の大地で、あなたたたちの帰りを、待ちます
♪私は、みんなの手を借りて、きっと、あなたを助けに行きます
♪だから、それまで、待っていてください
♪命は流る、この星空のようにさらさらと
♪待ち続けます、あなた達の帰りを
♪流(ル)~ルル~~
主題歌:あの日の出会いと地球復興を夢見て
作詞・作曲:スバル


☆彡
おまけ
【アンドロメダ王女の宇宙船 指令室】
試着室で着替えが終わったあたしは、ここ指令室に足を運んでいた。
その理由は……。
アユミちゃん達から事情を聞いたクリスティ(あたし)は、その足で、指令室に向かっていた。
王女様なんて関係ない。怒りをぶつけてやる。
見えないが、聞こえないが関係ない。
一方的に言ってやる。
「――アンドロメダ王女様!!!」
「!」
「フゥ、フゥ、フゥ」
怒気が荒れていた。呼吸が荒い。
「あたしは以前、スバル君と出会い、あなたが犯した所業を知っています!!!」
「……そうか」
「アンドロメダ王女様は、そうかと言いました」
通訳を担当するのはもちろん、ヒースさんやシャルロットさんの役割だ。
今、答えたのはシャルロットさん。
「これが、地球人に対する報復ですか!?」
その言葉には怒気がこもっていた。
「やり過ぎだと思わないのですか!?」
怒りが止められない。
「返してくださいッ!! 私達の日常を!! 私達のいつもを!!」
それが今、地球人類全員が願う、切実なる願い、言葉だから。あたしが代弁する。
「今すぐに!」
「……それは叶わぬ願いだ」
言えぬな、許してくれとはとても……。
「……『それは叶わぬ願いだ』……だそうです」
「……ッッ」
あたしは顔に手を覆い、泣くのを我慢した。
「……」
その手を払って、怒声を上げる。
「あなたは1人の人生だけじゃなく!! 地球人類全員の人生を狂わせたんですよッ!! その罪は、罰は、いつ受けるんですか――ッ!?」
あたしは声を荒げた。
「「「………………」」」
静まりかえる時間が流れて。
あたしは「ハァ、ハァ」と呼気を整えていた。
アンドロメダ王女様の返答の問いかけは――
「――それならもう受けた。宇宙の法廷機関の場でな!」
「『それならもう受けた。宇宙の法廷機関の場でな』……と」
「クッ」
通訳を行うシャルロットさんの問いかけに、
あたしは目尻に涙が浮かぶ。
「――罪状はこうじゃ。
1つ、地球人の難民を受け入れる事!
2つ、開拓者(プロトニア)スバルの後押しをする事!
3つ、全球凍結する地球を必ず、解凍させた後、復興まで援助協力する事!
4つ、そう、スバルのファミリア創立、立ち上げるのに協力する事じゃ!
5つ、地球、アンドロメダ、アクアリウスの3間で相互協力関係を築き上げる事!
6つ、さらにアクアリウスファミリアと連携を取り、以上のことを必ず実行せよとのお察しじゃ!!」
「――という訳です」
「……ッ」
あたしはシャルロットさんから、以上の事を聞き、衝撃を受け、愕然とした。
「……そんなのできるわけがない……ッ」
「……」
大人であるクリスティは、あまりの問題の多さに取り付く島もなかった。
現実が重くのしかかる……ッ。
「……ッ!! こんなの……実現不可能問題じゃないの……!!! こんなのやり遂げられる人なんて、絶対にいない――……」
あたしは頭を振った。
(無理だ、そんなのできる訳がない……っ)
「……ッ、許せないッッ!!」
あたしの心に黒い衝動が湧き上がる。
(許せない、許せない! 許せない!! 許せない!!!)
「返してよ!! 返してよ!! あたし達の地球を!! 日常を今すぐに……っ!! うっ……ううっ……」
あたしはその場で、泣き出した。
(もう、ダメだ!! 地球には帰れない……ッッ!! あたしが生きている間には少なくとも…………!! 復讐してやる!! いつか、必ず、きっと……!!)
「……」
シャルロットさんはとても可哀そうに思い、その人の背中を優しくさすってあげた。
「……」
その様子を見ていたわらわは――
「――わかっていたが、辛いな……」
「……王女。この問題はあなたの一生をかけて、償っていかなければいけませんよ……」
「わかっておるわ…………」
(そう、それが……わらわの罪……)
わらわは一度目を閉じ開けたのち、この地球を見た。
先程よりも白くなっていた……。
全球凍結の時は、刻一刻と迫っているのじゃ……。
「………………」
わらわは相対していたクリスティ達から視線を切り。
体の向きを変えて、一面ガラス張りの向かうへ浮遊移動する。
「………………」
そこから青かった地球が、段々と白ずんでいくのを見送る。
「………………。――妙じゃな……氷結の進みが早いような……」
わらわは何かに感づいた。わらわが受けた報告とは何かが違う。
「地球の気温を調べるのじゃ!」
「……!?」
作業員は一瞬、訳がわからなかったが「ハッ!」と了承の意を示したのだった。
そして、明らかになる地球の異常を――
「氷点下6度を確認!」
「氷点下6度!?」
作業員の報告に驚いたのは、デネボラだった。
「確かスバル達を下ろした時は!?」
「はい。氷点下2度の世界でした。いくら今の時間、深夜といっても冷え過ぎです!」
「よもや!」
わらわはまさかを疑った。
「『調査探査機』を火山に遅れ! 急げ! 原因を究明する!」
そうして、アンドロメダ王女様の宇宙船から『調査探査機』が数台放たれたのだった。
宇宙空間から、白くなっていく地球に送り込まれていく――
それを心配そうに見詰めるのは、デネボラさんだ。
「王女……」
「レグルスの話を聞いて、まさかと思ったが……! そんなはずはないでくれよ……っ!」
(死火山にでもなったら、もうどうしようも……ッッ!!)
わらわは考える
(じゃが、休火山であれば……、それは長い年月をかけさえすれば、いつの日か必ず、地球が自己修復能力で全球凍結から脱して、ゆっくりと溶かしていくことが望める……じゃが……!!)
「「「……」」」」
アンドロメダ王女、デネボラ、L
「「「……」」」
アユミ、クコン、クリスティ
「「……」」
ヒース、シャルロット
「「「「「……」」」」」
多くの兵士さん達。
わらわ達は、祈るようにモニター画面を見据え続ける。


――そして、モニター画面をいくつも分割して、調査探査機から送られてくる信号を受け取り、モニター画面に投影されるのだった。
そこに映るのは、火山地帯であり、白煙が薄っすらと消えていきながら――完全消失する様だった。
その火山は噴煙を上げるのを、休眠状態に入る。
続けてわらわは指示を飛ばす。
「調査探査機を、火山火口部に送り、状況を伝えよ!」
「ハッ!」
多くの兵士さん達は、機械操作をしながら、調査探査機に指示の信号を送る。
その指示の信号を受け取った調査探査機は、火山の外から、火山火口内部に飛び込むのだった――
降りてくる、降りてくる、降りてくる調査探査機たち。
火山は熱を上げるのを止め、灼熱の駆け巡る筋が段々と冷え込んできて黒ずむ。
火山の熱風も和らいでいき、舞い上がっていた火の粉も、段々と鎮静化してくる。
…………。
もっとも深い、火口部に迫る。
熱せられてドロドロに溶けた溶岩が、急速な勢いが衰えていき――表面上が段々と冷え込んで固まっていく……。
いや、それは凝結だ。
灼熱の溶岩の波が段々と引いていき――残されたものは、溶岩が冷えた事で残された火山の石と岩、火成岩だった――……。
この様子を見た兵士さん達は……。
「……ッ、休火山を確認しました……!」
「休火山を確認……!」
「休火山を確認しました……!」
「休火山を…………」

「ま、まさか……」
「全ての火山が、火山活動を休止した………………!」
それはシャルロットさんとヒースさんの呟きだった。
「「「………………」」」
この時、あたし達地球人は、いったいどんな顔をしていただろう。
その二の腕を掴み、無性に、この現実を受け止め辛いとばかりに、手の爪を食い込ませるのだった……。

【それは火山活動が休止したことにより、ゆっくりと地表面の温度が冷え込んでいくことを意味していた……】


TO BE CONTINUD……

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