176. あれはノリだから
176. あれはノリだから
オレたちはキャンプ場に着くと夏帆と黒崎がご飯を作る間に、オレと千春は釣りをすることにした。あと何匹か釣りたいよな。
「あの秋兄」
「どうした?」
「えっと……その……」
千春はオレに何か言いたそうだが、なぜか赤い顔をしている。なんでだ?
「ノリだから!」
「ノリ?」
「そう!昨日秋兄の布団に入ったのは、だから気にしないで!黒崎先輩に怒られたのは申し訳ないけど」
「あぁそういうことね。別に気にしてないから」
千春のやつ何をそんなに焦ってるんだ? でもまあいいか。こうして二人で釣りをするのも久しぶりだし。せっかくだから色々話してみるか。
「そう言えば、千春はなんでわざわざ東京の高校に来たんだ?しかもあそこ別にそこまで進学校でもないのに。」
「えっ!?そ、それは……」
「あっいや別に答えたくないならいいぞ」
千春は俯きながら黙ってしまう。なんだ?なんか変なこと聞いたか?
「秋兄がいるから選んだんだもん……」
「え?ごめん。聞こえないけど?」
「……。」
再び無言になる千春。なんかまずいことでも言ったかな? すると突然千春が顔を上げる。その表情には決意のようなものを感じる。一体何を言う気なんだ?
「あの……秋兄!私は!」
「千春!」
「秋兄?」
「竿!引いてるぞ!」
「え?あっ!」
オレの声に反応して慌てて竿を引く千春。今回のもかなり大きいのか千春はかなり必死だ。オレは咄嗟に後ろから抱き締めるように支える。千春の体温を感じて少しドキッとするが今はそれどころじゃない。
「あっ……秋兄……」
「せーの!」
なんとか大物を釣り上げることに成功したようだ。
「よし!釣れた!おぉ〜これはすごいな!」
「秋兄ありがとう。私もう大丈夫だよ」
「おう」
そしてオレは手を離すと千春は自分の釣った魚を見て嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「それよりさっきなんて言おうとしたんだ?」
「ううん……。なんでもないよ」
「そうか?それならいいんだけど」
そう言った千春は少し顔を赤くしながら微笑んで、いつもより可愛く見えた。