70. 一方通行
70. 一方通行
「ねぇねぇ先輩?あれから黒崎さん何か言ってきてますか?」
「いや特に?」
「何か言われたら言ってくださいね?先輩は私が守るので!彼女としての責務ですから!」
「お前は彼女じゃねぇけどな」
「もう先輩は素直じゃないんだから。それより!何してくれるんですか先輩?」
そう満面の笑みをオレに向ける夏帆。こいつのおかげでとりあえずなんとかなったのは事実だが……。まぁ、こいつが喜ぶならそれでいいか。
「んー……そうだな……」
さて何をしてやるべきか……。夏帆がして欲しいことってなんだろうな。
「私が決めていいですか?」
「それはダメ。お前のお願いはろくなことにならない気がするし」
「えぇ!?そんな事ないですよ!私だってたまにはちゃんとしたお願いしますよ!!」
「どうだかな」
こいつのことだ。絶対ロクでもない願いを言うに決まってる。だから却下。
「むぅ……じゃあ一緒に映画でも見に行きませんか?」
「は?それくらいなら別に構わないぞ」
「やった!じゃあ今週末早速行きましょう!!ちょうどカップルデーなのでお得ですよ!!」
嬉々としてスマホを操作し始める夏帆。全く現金な奴め。でもそういうとこも可愛いと思ってしまう辺りオレも重症かもしれない。
「どんな映画がいいですかね?アクション系とかラブストーリーもいいですね~」
うきうきしながら映画館のサイトを見る夏帆を見てふと思う。オレは夏帆のこと何も知らないなって。
こいつが引っ越してきてから、毎日押し掛けられているのは事実だけど、そりゃ出会ったころより話すようになったとはいえまだまだお互いのことを知らなさすぎる。夏帆からオレへの一方通行が多すぎる。
それはもちろんオレのせいでもあるけど。もっと夏帆に歩み寄るべきだよな。この先、ずっとこのままでいるわけにもいかないし、付き合うとかそういうのは抜きにしてオレはもっと夏帆のこと知りたい。そう思ってしまうのだった。