バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

18

 
 長時間に及ぶ拷問を兼ねた尋問が終わると、囚人を脱獄させたのは、オーチスだと言うことが判明された。その証拠に逃げた囚人の牢屋からは、彼が書いたとされる紙切れが見つかったのだった。

 字の照合をしたところその字はまぎれもなく彼の字だった。そして、彼が囚人に脱獄の話をしていた所を新米の看守のチェスターが目撃する。オーチスの訴えも虚しく、チェスターはクロビス達に彼が囚人を逃がしたと証言したのだった。動かぬ証拠の数々にオーチスは、絶望感に酷く打ちのめされた。いくら訴えても誰も信じてくれない現実に彼は椅子の上で嘆くことしかできなかった。そして、悪夢のようなシナリオは彼を終局へと導くのであった――。

「フン、小賢しい真似をしてくれたな! 貴様の行為は既に死に値するものだ! どうやって懲らしめてやろうか……!」

 クロビスは冷酷な言葉を彼に言うと、その場で黒いブーツを床で鳴らして威圧した。オーチスは塞ぎこむと何故だと譫言のように呟いて椅子の上で悲しみに暮れた。精魂尽き果てた顔は、彼から生きる気力を奪おうとさえもしていた。絶望に打ち拉がれる彼に、ジャントゥーユは彼が書いた紙をあらためて見せつけた。

「これはお前の字だ……まだわからないのか……? マヌケなお前は情に流されて囚人を逃がした……俺達を騙して裏切って……最後は墓穴を掘った……お前は哀れでバカな奴だ……そんな奴は神様助けに来ない……イヒヒヒッ……早くお前の断末魔が聞きたい……」

 ジャントゥーユは不気味にそのこと話すと、目の前でそれを見せつながらニタニタしながら笑ったのだった。オーチスは見せつけられた紙を見ると、黙って泣くことしかできなかった。怒りと悲しみに内震えながら、この無情な現実を受け入れることができなかった。彼は最後まで何故自分がという大きな疑問感に駆られたのだった。そんな彼の疑問もまた本当の真実さえも現実にある目の前のことだけが真実とばかりにそれが物語っていたのだった。誰も信じてくれない絶望感に彼は嘆くと、涙ながらにクロビスに訴えた。

「どうか、どうか正気に戻って下さいクロビス様、昔の貴方様はそのようなかたではなかった! 昔はもっと……!」

 オーチスのその言葉に彼は僅かに反応した。

「……なんだと? 貴様、今なんと言った?」

 クロビスは彼の目の前に立つと、冷たい瞳で見下ろしながら聞き返した。

「貴様、もう一度言ってみろ。この私が今なんだと言った?」

 オーチスは怯むが、意を決してクロビスに訴えた。

「今の貴方様は正気を失っているとしか考えられません! 昔の貴方様はこんな方ではなかった!」

「何……?」

「亡き奥様に似て貴方様は心がお優しく、穏やかな少年でした! なにゆえ貴方様をそのような残酷な方に変えたのですか……!?」

 クロビスは彼のその言葉に再びピクッと体が反応した。

「どうか今一度、正気にお戻り下さい……!」

 オーチスは彼の中にある過去の幻影に必死に話しかけると、正気に戻って欲しいと懇願した。するとクロビスは途端に高笑いをした。片手で頭を抱えながら、肩をすくめながら可笑しそう笑しそうに笑いだした。

「あーっはっはははは! これは傑作だ! この私が正気じゃないだと!?お前も随分と言うものだな、優しかった私とはいつの頃の話をしているのだ! 滑稽過ぎて言葉を失うぞ!」

 クロビスは可笑しそうに笑い出すと壊れた感じで笑い続けた。そして笑うのを止めると、フと呟いて言い返した。

「……フン、愚かで哀れなお前に1つ教えてやろう。私は正気であることをやめたんだ。過去の私、それはすなわち幻影だ! 貴様がどんなに嘆いて訴えてもだ、私が正気に戻ることは無いに等しい! そして私は冷酷で非道なまでの人間となって、このタルタロスの牢獄に恐怖の支配者として君臨するのだ! そう、全てはあの方の望むままに……!」

 クロビスがそのそのことを告げると、オーチスは再び震え上がったのだった。そして、彼は嘆くと心の中で呟いた――。

 なんという狂気の沙汰だ……!
 もはやそこまで正気を失っていたとは……!
 あの方を失ってからクロビス様は、随分と変わられた……!
 まるで心が無い壊れた人形のようだ……!
 あるのは狂気に満ちた冷酷で残忍な心と、正気を失った彼自身だ……!

 私にはこの方は救えない…――。
 ああエリシア様、彼を救えなかったことをどうかお許し下さい……!

 オーチスは思い詰めると、椅子の上で悔し涙をこみ上げたのだった。クロビスは狂ったように笑い続けると、途端にその場で気を失った。ギュータスは倒れる彼を咄嗟に受け止めると、直ぐに呼びかけた。

「おい、クロビス! しっかりしろ!」

 名前を呼んで体を揺すっても彼は返事をしなかった。気を失ったと判断するとギュータスは気絶したクロビスを両腕に抱き抱えて部屋を出て行った。そして、彼の部屋に運んで行ったのだった――。2人がいなくなると、ケイバーとジャントゥーユとオーチスとチェスターの4人だけになった。部屋の空気がガラリと変わると、オーチスは怒りを抑えきれずにその場で怒りをぶちまけた。

「お前達がここに来なければ……!」

 オーチスは怒りを露にしながらそう言い放った。ケイバーはそう言われると、ヘラヘラした顔で言い返した。
 
「おいおい、なんだよいきなり。まるで俺達が悪いって言い方だよな。だったらなにか? 今さら腰抜け共の看守の時代に戻るか? 俺らがくるまでは、ここの囚人達に舐められてた癖によ。今の方が監獄らしいだろ? 怖い看守にビビってる囚人が本来は理想的なんだよ、ジジイが舐めたこといってんじゃねーぞ!」

 ケイバーはオーチスに向かってそう吐き捨てると、彼が座っている椅子を足でガンと蹴った。

「……っ、それでも……! それでも今よりは何倍もマシだ……!」

「何だと?」

「貴様らがここに来てからはクロビス様はさらにおかしくなった! 貴様らと一緒にいることで毒され、狂気はさらに増し、正気に戻るどころか、今じゃ悪化の一歩を辿ろうとしているのは、貴様らみたいなイカれた連中と一緒に居るからだ!」

 オーチスは怒りをこみ上げながら話すと、ケイバーはそこで舌打ちをした。

「ちっ、何だとクソジジイ……!」

 ケイバーは彼の胸ぐらを掴むと、間近で睨んで言い返した。

「大体よう。このタルタロスの牢獄で正気な奴と正気じゃねー奴、何人いると思ってるんだ? 数えたことがあるのかテメー。ハハッ、そうだなぁ。強いて言えば俺達はとっくの昔に頭がイカれた連中さ。恐怖の四天王と呼ばれるだけにあるだろ、なぁ?」

 ケイバーのその言葉にオーチスは思わず言い返した。

「この異常者め……!」

「ハン! 異常者だろうが何だろうが、俺らはアイツに飼われてる時点でテメーらザコよりかは何倍も偉いんだよっ! ここの囚人達を黙らせてやったのは俺達だぜ、少しは有り難く感謝しろよな!?」

 彼はそう話ながらも、僅かに瞳の奥に狂気をチラつかせたのだった。

「イカれてるわりには俺達も役に立つんだよ、お前達よりもな!」

 ケイバーはそう言って話すとそこで可笑しそうに笑いだした。オーチスはその言葉に黙り込むと怒りに内震えた。

「そうさ、俺達は見ての通りイカれてる。1人は快楽殺人者にもう1人は猟奇殺人者、そして性的異常者のこの俺だ。リオファーレ。あいつはすかした顔をしているが、あいつだってはホントは平気な顔して人をぶった切ってるかもしれねーだろ? 俺はただの性的異常者の快楽殺人者だがな、殺しに関して真のエンターテイメントはこの中でもクロビスだ。奴は俺達よりも頭のネジが相当外れてる。あのイカれ具合は折り紙付きだ。なんなら俺が保証してやってもいいぜ?」

 ケイバーはそう言って話すと、手に持っているナイフを器用に回転させながら饒舌に語ったのだった。

「奴は正気のフリして本当は正気じゃないある意味壊れた人形みたいなものさ。だからあいつが本気でキレちまったら手に負えねーかもな。さすが俺らの壊れてるご主人様だけにあるだろ?」

 彼のその言葉にオーチスは言葉を失うと椅子の上で愕然となった――。

しおり