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112章 おわかれ

「ミライさんの絵はレベルアップしたね。ラーメンが生きているみたいだよ」

 麺の躍動感、スープの透き通った色は実物そのものだった。どうしたら、あのクラスの絵が描けるのかな。

 アカネの意見に、ココアも同調する。

「ミライさんの絵はすごいですね。私には真似ができません」

「未経験から始めたので、ココアさんにもできるかもしれませんよ」

 ココアは苦笑いを浮かべていた。

「フリースクールで絵を描いていたのですが、散々なものとなっていました。絵の実力を知ってからは、筆を持つことはなくなりました」

 運動能力、歌唱力、デッサン力などは才能が大きくものをいう。人間の努力だけでは、越えられない壁が存在している。

 アカネの心の中に、展示会の記憶が蘇えることとなった。

「アカネさん、どうかしたんですか?」

「下手な絵を思い出してしまったんだ」

「きっちりとかけていたと思います」

「ココアさん、ありがとう」

 絵を展示会で披露してからは、筆を持つことは完全になくなった。画家として生きていくのではなく、超能力で生きていくと決めた。

「ミライさんはどうして、ここにいたの?」

「ペットショップにいると、ペットと遊びたくなってしまいます。それゆえ、こちらにお邪魔しています」

 大好きなペットと戯れると、仕事をする時間を取れなくなる。それを回避するために、姉の家にやってきているようだ。

「こちらでは子供の相手をすることもあるため、昼寝、外出をしているときに絵を描くようにしています」

 ペットショップ、フタバの家のどちらも仕事に適していない。ミライは第三の場所で、仕事をすることが求められている。

「家建て名人に連絡を取って、絵を描くための場所を建ててもらっています。完成後については、そちらで仕事することになります」

 絵を描くための専用の家を作るあたり、ミライの本気度が伝わってくる。お金を払ってくれる人に、最高の絵を届けようとしている。

「絵は大好評で、1ヵ月で50~100件くらいの依頼が来ています。全部を書くのは無理だとしても、1つでも多くの作品を仕上げるつもりです」

 人から認められる能力があるものは、次々とオファーがくる。仕事を探す必要性は皆無である。

「ミライさん、身体はどうかな」

 ミライは右肩に手を当てていた。

「絵を描き続けたからか、肩が凝っています」

「腕はだいじょうぶ?」

 ミライの腕を軽く握る。彼女は痛いのか、顔をしかめていた。

「かなり傷んでいるみたいだから、回復魔法をかけるね」

「お願いします」

 絵の仕事で肩が凝っている、腕を痛めている女性に、回復魔法を使用する。

「痛み、違和感が完全になくなりました。アカネさん、ありがとうございます」

 回復魔法の能力が付与されたのは、病人がたくさんいることを知っていたからなのかな。メイホウは適当なように見えて、細かいところを計算している。

 回復魔法を使用しているところを見ていた、ココアから声をかけられた。

「アカネさん、腕の痛みを治してください」

 ココアの腕に向けて、回復魔法を使用する。

「痛みが完全に消えました。明日からも元気に働くことができそうです」

「身体の治療が必要なら、いつでも声をかけてね。家を留守にしているとき以外は、すぐに対応
できるよ」

「ありがとうございます。どんな病気も治療できる、回復魔法もすごいですね」

 ミライは過去をかいつまんで話した。

「私は絶対に治らないと諦めていた、病気を治療してもらいました。アカネさんは神のような存
在です」

「私は一人の人間だよ。神なんかじゃないよ」

「こちらの住民はそうは思わないでしょう。アカネさんを神として、崇拝している人はたくさんいます」

 崇拝という言葉は、非常に重く感じられる。感謝くらいにとどめてほしいところ。

「ミライさん、ココアさん、身体を大切にしてね」

 お金を入手できるようになっても、過労で倒れてしまっては元も子もない。健康をキープして
こそ、稼いだお金に意義が生じる。 

「ありがとうございます。仕事の数については、身体と相談しながらやっていきます」 

「時給がアップしたので、1日の労働時間を8時間くらいにします。それくらいなら、身体を守
ることができると思います」

 健康であるからこそ、仕事をすることができる。身体を壊してしまったら、出社するのは厳しくなる。

『ミライさん、「セカンド牛+++++」はどうしたの?』

「母、姉の家族、妹の家族にプレゼントしました」

「ミライさんは食べなかったの?」

「アカネさんに食べさせてもらったので、今回はいいかなと思いました」

 ココアは羨望の眼差しを、こちらに向けている。口にはしていないものの、何をしたいのかがはっきりと伝わってきた。

「ココアさんも最高級の肉を食べてみたい?」

「はい。お願いします」

「家に来たときには、食べられる準備をしておくね」

「ありがとうございます。アカネさんに会えること、肉を食べられることを楽しみにしています」

 ココアはルンルン気分で、家に帰っていく。母親であるにもかかわらず、子供っぽさもあるのかなと思えてしまった。19年間というのは、人間を成長させるのに、不十分なようだ。

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