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吟遊

 ユウト達はそれからしばらく城壁から大石橋を眺める。日はすっかり落ち、魔術灯の明かりがともり始めるころ、ヨーレンが階段を上ってやってきた。

 階段を上がってすぐのところで待っていたユウトにヨーレンは声を掛ける。

「買い出しと宿の確保は済んだよ。待たせてしまったかな」
「お疲れ様。たいして待ってないよ。今回は夜景も見れてよかった」

 ユウトはヨーレンに答えながらもう一度大石橋を眺めた。

 黒々とした河に魔術灯で照らされた大石橋が浮かび上がる。前に来たときはレナとディゼルのやり取りに魔鳥の襲撃が重なってそれどころではなかったことをユウトは思い出していた。

「他のみんなは?」

 ヨーレンはあたりを見回す。

「屋上を歩いて見て回ってる。もうすぐ戻ってくると思う」
「そうか。合流したら夕食にしよう。今日は食堂かな」
「大丈夫なのか?オレはともかく、リナや姉妹たちもいるけど」

 その存在を明確に公表していないハイゴブリンについて人目に付くことをユウトは不安に思った。

「大丈夫だと思うよ。あのかわいらしい見た目と人懐っこさをゴブリンと結び付けられる者はここにはいないよ」

 ヨーレンが話し終えるころ、遠くから四姉妹の声が響く。ユウトとヨーレンはその方向へ視線を向けた。

 四姉妹とレナがじゃれ合いながら駆けている。四姉妹の動きは見た目以上に素早く、レナもたじたじなことにユウトは少し驚いた。

 そしてそのまま合流し、一行は食堂へと向かう。ユウトはヨーレン言葉の裏に自信が見えたこと気になった。

 食堂の賑わいも相変わらずで活気に溢れている。喧噪の中をヨーレンは迷わず進みユウト達はその後ろをついていった。そしてたどり着いたのは食堂の壁沿いの場所。そこにはにぎわう食堂であっても誰も座っていない長方形の大きな食卓があった。

「座ろうか」

 ヨーレンに促されて全員が席に座る。食卓の中心には書置きのような紙片と細かい装飾が施された金属製の置物が置かれていた。ユウトは対面に座る四姉妹と一緒にその置物と紙をまじまじと見ている。

「よく席がとれたね。砦の兵士でもなかなか予約はできないって聞いたことがあったけど」

 レナがうれしさを滲ませながらヨーレンに尋ねた。

「まぁね。今回は特別に工房長から官印が貸し出されているから、使えるときにしっかりと使っておこうと思ってね」

 ヨーレンはレナに答えながら手を上げる。すると大皿に乗った料理が次々と運ばれてきた。

「いっぱい!」「食べていい?」
「おまじないしないと」「・・・もういいの?」

 四姉妹はうずうずとしながらお互いを見合い、周りのユウト達をはらはらしながら見る。ユウトははっとして声をかけた。

「ありがとう。それじゃ食べよう。おまじない、やってくれないか」

 ユウトの発言にレナ、ヨーレン、リナも頷いて答える。四姉妹は舞い上がるように身体を揺らしながらお互いをみて「いただきます」の声を合わせた。

 その声に続いて、ユウト達もくちずさむ。そして夕食が始まった。


 
 四姉妹はもりもりと口に運び、お互いにその感想を言い合ったりしている。うれしそうな四姉妹の姿を身ながらユウト達も食事を進めた。

 そんな中、ユウトは次第に周りの視線が気になり始める。ふと口に料理を運ぶ手を止めて周りを見渡した。するとユウトは何人かと目が合う。目が合った者は慌ててそらした。それでもちらちらと見てくる者は絶えない。ユウトは目を凝らしてより観察してみると、何やら同じ柄をした紙が目についた。

 一度気づくと、片手で持てる程の長方形の紙はいたるところに見つけられる。手に持って読み込んでいる者や、その紙を読み上げているような者の周りには人だかりができていた。

 そして、食堂の広い出入り口の外では弦楽器を演奏しながら何かを歌う人がいる。その詞の内容が気になってユウトは聞き耳を立てた。


「最後のゴブリン倒された。決戦の地は釜の底 ゴブリン最後の抵抗に 空を覆う大魔獣 あらわる白騎士大剣もって、断ち切る因縁 呪いの全て。白い騎士のハイゴブリン 呪いの同族打ち滅ぼした。騎士とギルドとハイゴブリン 力を合わせて打ち勝った・・・」


 その詞の内容は星の大釜での決戦であることにユウトは容易に想像がつく。そしてすぐに座りなおしてヨーレンを注視して尋ねた。

「なぁヨーレン。今、ハイゴブリンって呼び名はどのくらい知られているんだ?」

 ヨーレンの口に運ぶ手がぴくりとして止まる。

「自然と噂として広まったのかと思ってたけど、意図的に広めているのか?」

 重ねたユウトの質問に目をそらし、言葉を選びながら答え始めた。

「えーっと、その通りだと思ってもらっていい。ユウトの思っている以上に星の大釜の戦いについての話は広がってる。ただ、そのことは秘密にしていて欲しい」

 明らかに気まずそうな顔をするヨーレンにユウトの怒りにも似た焦りは急に冷えてしまう。

「まぁ、どうせマレイがやりだしたことなんだろう?」

 溜息を軽く一つついて肩の力を抜いた。

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