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 第23話  【月の光】

 世界最強の兵器はここに!?23


 著者:pirafu doria
 作画:pirafu doria


 第23話
 【月の光】



 月明かりが暗闇を照らす。今日は快晴、満月と星々の光が夜だというのに辺りの明るくしている。



 アングレラ帝国に向けて馬車で移動するパト達一行は、火が沈みこれ以上の移動は危険ということで火を起こし森で一晩を過ごすことにした。



「夜は交代で見張りを頼みたい。モンスターの発見に優れた魔法を使える者はいるか?」



 夜の森はモンスターの巣窟。モンスター除けの魔石を馬車に付けているとはいえ、それだけに頼るのは危険だ。
 バイズの質問にオルガが手を挙げる。



「俺なら感覚強化でモンスターの発見ができる」




「そうか、他には?」



 バイズの質問に他の者は誰も応じない。




「そうか、分かった。オルガと言ったな。俺とお前で見張りをする」



 オルガも賛成のようで分かったと頷く。




 その様子を見ながらパトは一つ思うところがあり、エリスの耳元であることを聞く。



「おい、お前っは確か…………」



 パトの言葉にエリスは横目で睨み、他の人には聞かれないように呟く。



「めんどくさい」



 なんとなく分かってはいたが、予想通りの回答が返ってきた。
 エリスは魔力感知を使うことができる。それにより周囲の魔力や魔素の動きを把握することができるのだが……。



 そんなこともありながら、馬車に積んでいた食料で夕食を済ませる。
 偽装のために積んできた酒。それを見つめるバイズをミリアが叱りつけながら時間が過ぎ、そろそろ寝つこうと思った頃。



 辺りを警戒していたオルガがあることに気づく。



「風の流れがおかしい……」



 魔力感知に比べれば、オルガの感覚強化は索敵としては劣るだろう。
 しかし、長年の勘がオルガに伝えていた。




「何かが来る……」と。



 それを聞いたミリアは即座に焚き火を増やし辺りを警戒する。



「お前達かァ! 俺の弟子達を可愛がってくれたのはァ!!」



 声がするのは上。さらに上。



 野宿をするためにパト達が確保したのは森にある小さな空き地。しかし、森があるのは三方向で一方向には急な岩山が立っていた。
 モンスターや盗賊が現れるなら森の方向。岩山方面は安全だろうと勝手に思い込んでいた。



 しかし、岩山から月をバックに人影が現れる。



 人のような影をしている。だが、何か違和感を感じる影だ。そう、それは人間にはないものが付いている。



 人影は岩山から飛び降りると、空中で回転しながら華麗に着地する。



「…………こいつは」



 焚き火に照らされ、声の主の人物の姿がはっきりと見える。



 身体中が灰色の毛で覆われ、前方に飛び出す口と鼻。そして頭部から生えた耳。まるで獣のような見た目をした男。
 狼男だ。



 すぐに全員戦闘態勢を取る。



 狼男の姿を見たパトは驚きながら率直に思ったことを口にする。



「モンスターか……でも、モンスターは会話はできないはず……」



 そのパトの疑問に警戒しながら狼男を観察していたバイズが答える。



「モンスターじゃない。魔素に侵された被害者だ」



 つまりはオルガと同じように、高濃度の魔素により身体に影響を及ぼした元人間ということだ。



 ならば、オルガと同様に見た目はモンスターであっても、内面の心は人間のはずである。話し合いができるはず。



 パトは狼男に事情を聞けないか、説得をしようと試みる。しかし、狼男の気象は荒く。



「うるせェー!」



 と一喝されてしまう。



 狼男が言うにはパト達一行に弟子の二人がやられたらしい。



 その説明を受けてパトは昼に出会った二人組の男を思い出す。



 そういえば、師匠に相談するとか言っていた……。



 そのことを思い出し、パトは再び狼男を説得しようと試みる。



「あの〜、俺たちは彼らに仕掛けられたから抵抗を……」



 しかし、狼男はそれを認めない。



「俺の弟子が仕掛けただァ? ………………嘘つくな!」



 少し迷っていたようにも感じたが……。それでも納得する様子はない。



 狼男は今にも飛びかかってきそうな勢いだ。戦闘は避けられないのだろか。そう思っていると、横でバイズが静かに震えていた。



 騎士としての誇りだろうか。それを隠そうとして剣を地面に突き刺しているが、そばにいるパトとミリアにはその震えが見えていた。



「バイズ……お前は下がってて良いぞ」



 ミリアがそうバイズに告げる。



 パトにはバイズが震える理由が分からない。しかし、ミリアは事情を知っているような口ぶりだ。



 ミリアはバイズの横を通り、狼男の前に出ようとするが、バイズが横から手を出しミリアの肩を掴んだ。



「いいえ、ここは私が……私がやります」



 その声にはいつものような覇気はなく。どこか怯えた様子も感じ取れる。



 その様子を見た狼男は挑発する。



「貴様、その震えた状態で俺様とやり合おうってのか?」



 しかし、狼男は油断する様子はない。



 挑発に乗るように鞘に収まった剣を握ったバイズを見て、狼男も戦闘態勢を取った。



 武器は持っていない。敵は狼男だ。最初は牙や爪を使う攻撃を取ると予想していた。
 しかし、それは違った。




 男が取った姿勢は狼のような四つん這いの姿ではない。
 二本足のまま、構えた。その構えは人間の取る構え、そしてパトには見覚えのある構えでもある。



「あの構え……父ちゃんがやってた……」



 パトの父親は武術の経験者である。そしてパトは何度か父に稽古をつけてもらったことがあるから知っている。



「その構え……カミナ流空手か……」



 オーボエ王国では有名な武術の一つ。対人からモンスターまであらゆる戦闘に対応可能に作られた空手。
 そんな強力な武術をこの狼男が使えるとは……。



 構えを見たバイズはより人狼に対しての警戒を強める。



「私は君たちのような被害者に償いをしなければならない。そして道を踏み外した者を正す義務がある。これ以上、我が友、エンザンのようにさせないためにも!」



 バイズは体を震える体を引き締める。それを見た狼男はニヤリと笑った。



「そういうことか……。バイズ・ザード。『元』騎士長である貴公と会えるとは光栄だ」



 狼男は構えを解かず、そんなことをバイズに言い出す。



「俺はカミナ。カミナ・ランガだ!」



 そして名乗りを上げた。



 カミナ・ランガという名前を聞き、パトは聞き覚えのある名前に驚くが、そんなまさかと自分の中で否定した。



 そしてカミナは真剣な顔で



「しかし、バイズ。俺は貴様の考えている原因でこの姿になったわけではない。俺は友のためにこの姿になった。俺とお前の問題は別件だ」



 カミナの言葉にバイズは疑問符を浮かべるが、カミナは答える気はないようだ。



「せっかくの機会だ。フルート王国最強と言われる聖騎士長!! 手合わせを願おうかァ!!」



 カミナはバイズに向かい、走り出した。



 真っ直ぐ直線でカミナはバイズの元へと駆け寄る。距離は離れていたはずなのに、カミナの素早い動きは一瞬で間合いを詰めていた。



 バイズは鞘から剣を抜かず、耐性を低くしてどっしりと構える。先程の二人組とは違い、バイズの構えに腰が入っている。



「あの人狼……かなりやるな」



 パトの隣にいたミリアが腕を組みながら呟く。
 それはパトから見たら、狼男を見て判断したとか、バイズを見て判断したのか、どちらかは分からない。
 しかし、パトもミリアと同じ意見であった。



 カミナはバイズの懐に潜り込むと、顎を目掛けて左腕で殴り込む。
 バイズは鞘に収まった剣の中心を持ち、剣を拳に当てて攻撃を逸らした。



 攻撃を避けたバイズは右足で蹴りを入れようとするが、カミナは足運びを使い最小限の動きで蹴りを躱した。
 その間は1秒にも満たない一瞬の攻防。



 しかし、二人はお互いに敵の隙を見つけては、殴り、蹴り、それを繰り返し続ける。だが、どちらの攻撃もヒットすることはなく。



 このハイスピードの攻防戦を数回に渡って繰り返す。



 その光景に戦いを見守る者は呼吸を忘れ、息を飲む。



 しかし、この攻防戦は永遠に続くわけではない。バイズの疲れか、カミナの身体が温まったのか、二人の動きに差が生まれだす。



 最初はほんの少しの差であった。しかし、徐々に攻撃の頻度に違いが現れ出し、バイズが押され出した。



 カミナの攻撃を防ぎきれず、バイズの身体は所々赤く腫れていく。
 その様子を見ていたパトは手を貸そうとするが、ミリアに止められた。



「バイズはこの程度で敗れる男じゃない」



 ミリアはバイズを見守る。一歩も動かず、胸を張って男の勝利を待っている。



 しかし、ミリアもこの戦いにバイズの勝利を願う人間であり、勝敗を知る者ではない。
 手に汗を握り、バイズの命に危険があれば助けに行きたい。そう思っている。
 だが、助ける仕草や心配する表情を浮かべるわけにはいかない。それは上司として友として、そして「あの事件」を知る者として、彼に任せるしかない。



 ミリアの信じて待つ姿を見たパトは、自身が恥ずべき行動をしていたと戦いを見守ることにする。
 ミリアとバイズの関係を彼は知らない。しかし、彼が騎士であることは知っている。騎士の誇りを傷つけるわけにはいかない。



 やがてバイズは攻撃をすることができず、カミナの攻撃を防ぐので精一杯になる。しかもその攻撃を全て防げているわけではない。そんな状態だと言うのに、ミリアは見守る。



 そんな時、パトは気がつく。
 攻撃を喰らい、カミナの方が戦闘では推している。だというのにバイズは一歩も退いていないということに!!
 いや、むしろバイズはカミナの連撃を受けながらも、ゆっくりと前に踏み込んでいる。



 そしてそれは魔法使いであるエリスにも目に見えるほどに現れ出す。



「攻撃されているのに、押している?」



 カミナもこの違和感に攻撃が緩む。



 その一瞬。カミナの動きが鈍くなった瞬間にバイズは動いた。
 剣の鞘を持ち、柄の部分を突き出すように押し出した。



 カミナは素早く後退し、バイズから距離を取る。
 その素早さはまさにベアウルフ並みで、目で追うのがやっとの速さ。そんな速さの回避であったが、カミナの肩には軽い痕が残っていた。



「あそこで反撃してくるか……。面白い」



 ダメージは受けていないが、あの連撃からの反撃に驚いたのか。安易にバイズに近づこうとする様子はない。



 お互いに仕掛けることはなく、静寂な時間が流れる。



 バイズの荒い息と焚き火の音が静かな森に響く。



 二人の動きに集中していた三人であったが、突然後ろから物音がなった。
 そしてそれと同時に男の悲鳴が響く。



 振り向き馬車の方を向くと、そこにはヤマブキとオルガは地面の下を見ている。
 地面の下を見ると、人間も落ちてしまいそうな大きな穴がそこにはあった。



 戦闘をしていたバイズ達もこの騒動で気が緩んだのか。警戒をしながらも構えを一度解く。



「どうしたんですか?」



「敵対反応ヲ感知シマシタ」



 そうヤマブキは穴の下を指さす。



 そこには昼にあった二人組の男がいた。
 そんな二人を見下ろして、オルガがニヤリと笑った。



「掛かったな。俺の落とし穴に……」



 この穴はオルガの作ったもののようだ。



 ラグナとナトは「出せ出せ!」と穴の下で騒ぐ。しかし、オルガは出す気がないようでずっと見下ろしている。



「奇襲を仕掛けようとしたのはそっちだろ。助けるかよ」



 突然の出来事に混乱していたパトであったが、エリスに説明を受けて理解する。



 バイズとカミナの戦闘に夢中になっているうちに、ラグナ達は馬車の後ろに隠れていた。
 そしてタイミングを見計らって奇襲を仕掛けてきたようだ。



 しかし、奇襲を仕掛けたものの、ヤマブキとオルガに気づかれ、すでに備えていたオルガの落とし穴にはまってしまったようだ。



 落とし穴にハマった二人を見てオルガは嬉しそうに笑う。
 それを見ていたカミナがふと口にした。



「お前……もしや、オルガか?」



 その声はどこか懐かしむようであり、今までの勢いのある声と違い、震えたように言った。



 だが、それに対してオルガは無関心な返しをする。



「ああ、そうだが?」



 カミナはオルガのことを知っているが、オルガはカミナのことを知らない様子だ。
 オルガが頭に疑問符を浮かべるが、カミナは嬉しそうに頬を上がらせた。



「俺のことを覚えているか?」



 カミナの質問にオルガは首を振る。



 カミナは少し落ち込む。カミナの激しい感情の起伏は元々人間としても分かりやすい動きをするが、人狼であるからより分かりやすい。



 オルガに覚えていないと言われ、ショックを受けたカミナであったが、しばらく無言になり、



「そうだな。俺も姿が変わった。……いや、それだけじゃないな」



 何かを思い出したように語った。
 そしてバイズに背を向ける。



「今回は俺の負けで良い。だが、次は決着を付けるぞ」



「なんだと……」



 バイズは納得していないようだが、カミナは跳躍するとバイズやパト達の頭上を飛び越え、落とし穴の近くへと着地した。



 落とし穴のすぐそばにはオルガがいるが、お互いに睨み合うと何もするでもなく、カミナは下にいる二人に声をかけた。



「おい、お前ら!! なぜ来た!」



 カミナの言葉に二人は怯えながら答える。



「し、師匠が心配で!!」



 その回答を聞き、ため息を吐く。



「お前らなァ。俺が一対一でやってる時に水を差すなと言ったよな」



「す、すみません!!」



 カミナは落とし穴に飛び込むと、二人を抱える。



「次からは気を付けろよ」



「はい!」



 二人を抱えた状態で3メートル近くある落とし穴から一回の跳躍で抜け出すと、オルガに背を向けて、



「じゃあな…………元気そうで良かった」



 そう寂しそうに呟き、森の方へと姿を消した。





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