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第9話 俺のスキルって一体なんなん!?

 Bクラスのステータスランクを保有したエリシュの同行は、俺にとっては当然の如く喉から手が出るくらいの頼れる協力者であると同時に、80階層までの道程を熟知している彼女の経験と叡智は、下層を目指し進む上でその前進を格段と容易にしてくれた。

 80階層台で外魔獣(モンスター)遭遇(エンカウント)する確率は極めて低い。
 人々が生活を営む10階層ごとにある居住階層(ハウスフロア)。ここでは居住区域や店舗も建ち並び、暮らしの基盤になると同時に、外魔獣(モンスター)の上層階への侵攻を食い止める盾の役目も兼ねている。
 したがって階層が上がれば上がるにつれ、外魔獣(モンスター)の数は削られ減少する。
 だがそれ故に、上層階を徘徊している外魔獣(モンスター)精強(せいきょう)だ。単独(ソロ)遭遇(エンカウント)したらそれこそ最悪。目も当てられない。何せ居住階層(ハウスフロア)の防衛を、幾重も切り抜けてきた凶悪な力を兼ね備えた外魔獣(モンスター)なのだから。
 つい先ほど死闘を繰り広げた外魔獣(モンスター)———デスバッファローも、本来単独(ソロ)ならAクラス、Bクラスなら数人がかりで対峙できるレベルらしい。
 エリシュが打ち勝つことができたのも、俺に気を取られていたデスバッファローの油断と奇襲が功を奏しただけだと教えてくれた彼女の謹厳(きんげん)な面持ちが、無知で勝気な俺の心に太い釘を一本刺す。
 
 教鞭を執りながら迷路(ダンジョン)を先導するエリシュは、時折振り向くと俺を見る。真剣に相槌を打ちながらも早る気持ちを抑えることで、俺は精一杯。

 玲奈に会いたい、抱きしめたい。

 その想いを少しでも誤魔化そうと、会話の切れ間を見計らい話題を置き換えた。
 
「そういえばエリシュ。お前魔法が使えるよな。……俺にも魔法は使えるのか?」
「修練を積めば会得できるかもしれないけど、一朝一夕じゃとても無理ね」
「ちぇ、なんだ。お前簡単に魔法を使っていたからさ、俺にもできるんじゃないかって思っちまったよ」

 エリシュの足がぴたりと動きを止める。
 そして片手を広げると「ステータス」と言葉を発し、自分の能力板(ステータスボード)を開示した。

————————————
NAME:エターナ・エリシュ
HP:712(Bᴮ)
VIT:247(Cᴱ)
ATK:419(Bᴮ)
STR:411(Bᴰ)
MP:560(Aᶜ)
INT:453(Bᴮ)
DEX:307(Bᴱ)
AGI:371(Bᴰ)
LUK:332(Bᴰ)
TTL:(Bᶜ)
SKILL:詠唱短縮(クイックショット)【詠唱語源の短縮】
————————————

 透明な板上に、淡い緑の数字の羅列が浮かび上がる。
 惜しげもなく晒されたエリシュの能力を、俺は目で追った。
 
「……なるほどなぁ。俺と違って能力にムラがないんだな。魔法力が高いのが、エリシュの特徴か」
「ええ、さっきあなたは『魔法は簡単そうだ』と言ってたけど、それは私のスキルの恩恵ね。私は人より短い詠唱で、魔法を放てるスキルを持っているの」

 スキル……。そういえば、俺の能力板(ステータスボード)にも、確かそんな項目があったよーな。

「ちょいエリシュ。もう一度俺の能力板《ステータスボード》を見てくれないか?」

 今度は俺が能力板(ステータスボード)を表示した。
 そして「ここだ、ここ」と、宙に浮かぶ能力板(ステータスボード)の一部分を指し示す。

————————————
NAME:オガサワラ・ヤマト
HP:890(Aᴱ)
VIT:320(Cᴬ)
ATK:382(Bᴰ)
STR:471(Bᴮ)
MP:308(Cᴱ)
INT:273(Dᴮ)
DEX:158(Eᴰ)
AGI:405(Bᶜ)
LUK:251(Cᴱ)
TTL:(Cᴮ)
SKILL:■■■■■■
————————————

「このスキルってとこだ。俺のスキルがさ、なんかボヤけて見えないんだけど。これってなんだろな? エリシュ、お前見えるか?」
「いや、私にも見えないわ……。スキルはね、本来先天性のものなの。その恩恵を受けていない人は、スキル欄すら表示されないはず。……ちょっと私にも分からないわね。初めてのケースだから」

 首を捻るエリシュを横目に、俺は腕を組み考える。

(いまいちピンとこないけど、スキル欄があるってことは、いつかは何かしら使えるようになるものなのか……?)

「今、考えても答えなんて出ないわ。先を急ぎましょう」
「……ちげえねぇな。さ、行くぜエリシュ!」

 自分が先を促したバツの悪さも手伝ったのか、俯き加減に「ねえ」と溢したエリシュの声が、歩き始める俺の足を止める。

「……あなたのこと、なんて呼べばいいかしら」
「大和。大和って呼んでくれ」
「ヤマト……何か変な響きね」
「あんだとっぉぉ!?」

 くすりと笑うエリシュに向かい、俺は盛大に顔を歪めて威嚇する。

「冗談よ、冗談。さあ行きましょう、ヤマト」

 ふふふ、と小さく笑みを浮かべながら、エリシュは背を向け歩き始めた。
 
 ブレイクのことを吹っ切れたのかなんて、俺に知る由もない。
 だけど、呼ぶ名を変えることだけでエリシュの気が紛れるなら、道化になっても構わないかなと、俺の中で柄にもない恩情が芽生えかけていた。

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