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「からかわれたよ。愛されてんなって」
 リゲルははにかむように笑った。
 当時のリゲルはまだ未成年。男の子ともいえる年齢。そんなからかいをされては恥ずかしかったろう。でも今のリゲルはそういう感情ではないはずだ。
 再び手に戻ってきた歓び。そしてライラが花の意味を知ってくれたと、嬉しくも思ってくれている。それがはっきり伝わってきた。
「俺、養子だろう。昔は余計になにか買ってくれなんて言えなくて、ノートの一冊も満足に手に入らなかった。だから書き終わってたけど、これに挟んでしまったんだな」
 言いながら、ノートも優しく撫でる。
「だから俺にとっては過去のことだけじゃなくて、お前からもらった大切な気持ちが入ったものでもあるんだ」
 リゲルのやさしい言葉。
 ノートと花びら。それはライラを撫でてくれているのと同じなのだと感じられる。
「……ありがとう」
 今度は涙声にならなかった。
「でももう、想い出じゃないだろう。お前は今、俺の隣に居てくれるんだから」
「そうだね」
 端的なことしか言えないのに、これ以上は必要なかった。
 もう一度リゲルに寄りかかる。リゲルももう一度、ライラの肩に触れて、抱き寄せてくれた。
「ああ、星が綺麗だ。そろそろ帰ったほうがいいな。送るよ」
 視線をふと上に向けて、リゲルの言ったこと。つられて上を見れば、深い藍色の夜空が広がっていた。ところどころ星が見える。
 星座はやはり、わからない。はっきり見える一点が有名な北極星、くらいしか。
 でもライラにとっては隣に居てくれるリゲルのほうが輝く星なのだ。
 夜空に輝く、一等星。
 手の届かぬ遠い星々よりも。
「やっぱりお前は、そうやって笑ってくれてるほうが似合うな」
 ライラが笑みを浮かべたのを見たらしく、やさしい声がすぐ隣から聴こえる。
「俺の好きな笑顔だから」
 帰ってしまうのを惜しく感じたのをわかってくれたらしく、帰り道で。
 藍色の夜空と、星々の下の帰り道で。
 リゲルはライラの手を、しっかり握っていてくれていた。

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