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「寒くないかい」
「むしろ心地良いわ。もうあたたかいもの」
 ロイヒテン様が聞いてくれるので、サシャは答えた。彼の顔を見あげて、にこっと笑って。むしろロイヒテン様のほうが困ったような顔をした。
「前に来てくれたときは寒かっただろう。悪かったね、二度も一人で海なんて渡らせて」
「まったく平気だったわ」
 ふん、と胸を張ったサシャには苦笑が返される。
「そっか。そう言われると、ちょっと寂しい気もするなぁ」
「我儘ね」
 言い合って、くすくすと笑った。
 すっかりいつものペースだ。そう、なにも変わっていない。
「……俺のお姫様は本当に強くて勇敢だな」
「光栄よ」
 潮風に吹かれながらそっと腕に抱かれる。ほのあたたかい潮風はまるで祝福してくれるかのように穏やかだった。
 愛する人が隣にいて、愛する人の国へゆく。
 『シャイとサシャ』でも、『ロイヒテンとサーシャ』でも、なにも変わらない。
 表す名前が変わっても、姿や格好が変わっても、愛する人はそのままここに居てくれるのだから。


(完)

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