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17.姫様に褒められるなんてすごいじゃないの

「たっだいまー。サーシャさーん。これお土産ねっ」

 ハティが『スイクーンの寝床』の扉を勢いよく開け、サーシャ先輩へスライム饅頭を渡している。
 新発売されたハータのお土産だ。
 独特のもにゅもにゅした触感が特徴で、行列に並んで買った。

 毎日食堂で働いているサーシャ先輩には珍しい物だろう。
 感謝の声に喜びの音が混ざっている。

 俺はリリアンを背負ったまま、ハティとサーシャ先輩の微笑ましいやりとりにほっこりしていると。
 長い金髪を伸ばした鎧を着ているお姉さんがジッと俺を見ているのに気づいた。

 誰かわからんが、キレイなお姉さんに見つめられるのはドキドキする……
 俺の緊張が伝わったのか、背負っているリリアンが俺へ巻き付けている腕を強める。

 綺麗なお姉さんは勢いよく俺の前に来て。

「よくぞ戻られましたな、エルク殿。とてもお待ちしておりました! 予定より時間がかかったようで、大変なクエストだったのでしょうね!」

 今にも殴りかかりそうな大声と作り笑顔で、クエスト帰還を祝ってくれた。

 あー……

 王様から何か持ってきた女騎士さんか!
 って、こえーな。殺気を感じる。

「は、はい。そりゃーもう大変でー」

 俺が次の言い訳を考えていると。

「おい。聞いたぞ。指名クエストなんて無いらしいじゃないか。どういうことだ?」
「違う。とにかく違うんだ」

 女騎士さんがさらに前に出て、目の前に顔を持ってくる。
 綺麗な顔なのに、目つきが怖いってぇ。
 おや。長いまつげしてますね。

「ねぇ。クレーシスさん。なんで王様に呼ばれてるの?」

 ハティが素朴な表情で聞いてきた。
 クレーシス。確か……このまつげ女騎士はそんな名前だった気がする。
 よく覚えてたな。

「先日の魔角討伐の表彰をするためだ。王家は功労者を労うことで長引く戦争への戦意を高める必要があるのだ。報償金は1億ティルを用意している」

 1億ティル!
 大金じゃないか。

「わーっ大金持ちだ! 1億ティルって、なんでも買えるんじゃない? 私大きな屋敷が欲しいわ!」

 大きな笑顔でハイテンションになるハティ。
 屋敷なんて余裕で買える。
 いや待て、弁償金は2億ティルかもしれない。

「あの、戦闘で見張り台が壊れたと思いますが、僕たちが弁償金を払う必要ってありますか?」
「は? 魔角を倒した英雄にそんなことさせるわけないだろう。戦闘で施設が壊れることは当たり前のことだ」
「行きます! クレーシスさん。早く支度してください」

 急に行く気になった俺に驚いているクレーシスさん。
 が、少し顎に手を当て、

「ん? なんだ? そんなことを気にして逃げ回っていたのか?」

 クレーシスさんは「こんな英雄で大丈夫か?」と小声で言っていた。



 ――――



 6日後クレーシスさんが用意した馬車に揺られ、王都ヴェルローデに着いた。

 表彰されるのは俺とリリアンだけだ。
 表彰中のハティとアリアには王城のお客さんの部屋に待っていてもらう。
 というか、2人とも寝てるんじゃないだろうか?
 まぁ、俺も寝不足だ。

 なぜかっていうと、昨日遅くまで遊んでたからだ。

 王都ヴェルローデに着いたのは夕方で、翌日に表彰されることになった。
 リリアンが起きてたんだが、露天がたくさん出ててキラキラしている街並みを見て、「すごいです。キレイです!」って興奮してて。
 その無邪気な笑顔にクレーシスさんが街を案内してくれることになり――――昨日は遊び倒した。

 いつまでも帰ろうとしない俺達にクレーシスさんはずっと付き合ってくれた。
 1か月もクヴェリゲンに待たせてたのにいい人だ。
 しかも、オクイーン家とかいうでっかい屋敷のお嬢様だし、近衛騎士の一員らしい。

 今度クレーシスさんが困っていたら助けてあげよう。
 酒の入ったクレーシスさんは色々と苦労してると話してくれた。
 具体的には、結婚相手を探してるらしいので、いい男がいたら教えてあげよう。



 さて、遊び倒した翌日の昼。王様の待つ謁見の間。
 金ぴかの壺や大きな彫刻、過去の王様っぽい肖像画が飾られていて豪華だ。
 リリアンは睡眠不足でフラフラしている。

 謁見の間には2人のお姫様とクレーシスさんを含めた騎士が5人いる。

 クレーシスさんは昨日俺たちと遅くまで遊んでいたのにキリリとした顔。
 騎士すご。

「ちょっと! 聞いてますの?」

 おっとっと。俺より少し背の高い姫様が何か言ってたみたいだ。
 ぼーっとしてた。
 と思ったら、めっちゃ高いヒールの靴をはいてる。ヒールを脱いだらリリアンより低くなりそうだ。

 ええっと……このヒール姫様は、ファムライト・フォン・シーバルト様だ。
 王様と王子は前線であるガルアスト砦に出向いてて、お城は2人の姫が、主に姉のファムライト様が仕切ってる。

 ファムライト様は少し気分を害したようで、ぐぐっと眉根を寄せているが、王族らしく整った容姿をしていてキレイだ。
 あと、おっぱい大きい。

「このたび、魔角の討伐を果たした英雄。エルク様とリリアン様には、かつて勇者パーティが使っていた装備を授けます。さぁ、前へいらして」

 俺は姫様まで歩いていく。
 が、リリアンはその場でフ~ラフラしている。
 ……今にも倒れそうだ。

 俺はリリアンに左肩を貸して姫様の前へ行く。
 肩を貸すというか、横から体ごと運ぶことになり……横だっこ? みたいな感じで歩く。

 姉妹姫へ近づくと、ファムライト様が俺に緑色の宝石が埋め込まれた指輪をくれた。

「これはその昔、勇者が装備していた光の指輪です。退魔の力は低いですが、手元をほんのり明るくできます」

 しょぼっ。
 勇者の装備なのに、余り物みたいな効果だな。
 俺がいらなさそうな顔をしたのがバレたのか、ファムライト様はイラついた声になる。

「魔法使いのあなたには! 勇者の剣や鎧は装備できないでしょ。使いやすいのを選んであげたのにっ! 何かしらその態度は?」

 上から見下ろしながら腕を組む。
 組んだ腕でおっぱいがむにっと持ち上がる。いいね。

「姉上。英雄様が困っているようです。それくらいにしてあげましょう」

 隣の姫様。妹のシルビア様がたしなめてくれる。
 姉のようにキレイな見た目だが、のんびりした口調で癒し系ボイスだ。

「姉が失礼いたしました。英雄様。その指輪は由緒正しい一品です。常に国を想っている姉が一生懸命選びましたので、ぜひともお受け取りください。きっと英雄様の冒険を助けてくれると思います」

 微笑むシルビア様。
 あと、キッとした視線の中にも優しさがうかがえる目をしたファムライト様。

 王都の酒場では毎日、ファムライト様派とシルビア様派のどちらが美しいか激論が繰り返されているらしい。
 俺もどんな話し合いが行われているか見に行こう。
 今のところ、俺はシルビア様派かな?
 クセの強い女性は、パーティにいる青いワンピースを着た自称先輩だけで十分だ。

「英雄リリアン様。これは大賢者のローブです。勇者と共にいた賢者様のローブになります。小柄なリリアン様にきっとお似合いかと思います。魔力を高める力があると聞いておりますよ」

 シルビア様が深緑色の小さめのローブを……俺に手渡してくれる。
 リリアンは俺の左横で立ったままほとんど寝てるので、俺が一旦預かった。

 ファムライト様が静かに告げる。

「また、報奨金として1億ティルを授けます。ギルドへ預けておきますので、これでさらなるご活躍を期待しています」

 やったぜ! 大金持ちだ。
 明日から働かないで徹底的にダラダラしてやるぜ!

 密かに浮かれる俺にファムライト様が近づいてきて。

「エルク様。魔王を討伐した者は生まれに関係なく姫と結婚できるのよ。私と妹のどっちが好みかしら?」

 俺を試すようにニヤリと笑うファムライト様。
 またも、たしなめるシルビア様。

「姉上。変なこと言わないでください。エルク様が困ってしまいます」
「何言ってるのよ。魔角を倒した英雄にもっと頑張って貰うためよ。これも姫の務めです」

 ファムライト様はニヤリとしながら、俺の右腕を取り、自らの胸を押し付ける。
 いい香りがする。
 鮮やかに咲く花のような香りだ。王族は庶民とは違う生活を送ってるんだろうな。

「シルビアはいいの? 大冒険をした英雄と結婚できたら、毎日どんな冒険をしてきたのか聞けるわよ」
「えっ? それは……とても素敵です」

 シルビア様はほんのり顔を赤らめて、俺の目の前に近づいて来た。

「あの、この後お時間があるなら……旅のお話聞かせていただけません……か?」
「何よシルビア。いきなり二人きりで話そうとして!? こういうのがタイプなの?」
「ち、ちがっ……」

 シルビア様が両手を前に出してブンブン振りだした時。
 リリアンが急にビクゥッとする。

「んがっ」といった後に顔を上げ、俺と姫ズを見る。
 左の口元からヨダレらしき、キラキラが映る。
 リリアンは一瞬で何かを理解し、大きく息を吸い込み。

「なんですかあなたたちは! 私のエルクを勝手に取り合わないでください!」

 リリアンは素早く動き、俺の後ろに回ってファムライト様が絡めていた腕を払う。
 俺の背に乗っかって「まったくもー」と言い。

 2秒後……「すーすー」言い始めた。
 体は脱力しているが、巻き付けた腕はしっかりしている。

 この状況でよく寝れるな。

 ファムライト様は、リリアンが背に乗るときに腕を払われたままで。

「何よ。もう恋人がいるのね。シルビア。負けてられないわね」
「そうですね。恋は障害が多い方が良いと読んだ本にありました」

 シルビア様は両手を拳に変えてグッと握りこんでいる。
 そろそろ言っとくか。

「いや、恋人とかそういうんじゃないんだ。どっちかっていうと保護者的な?」
「あらそう? だったら、お尻を揉んでるその手を離したら?」

 ファムライト様のビシッとした注意。
 これは違うんだ。いつもの癖なんだ……
 だが俺はお尻に当ててる手をどけない。

 ファムライト様がさらに何か言おうとした時。
 ガシャガシャとした金属音がたくさん近づいてきた。

 金髪金ヒゲで白い神父っぽいじいさんが、兵士を10人ほど連れてきて。

「この者が災いを呼ぶと予言があった。今すぐ追い出せ!」

 姉妹姫が止めようとしてくれたが、俺はリリアンを背負ったまま、なんの説明もなく外へ連れ出された。
 ファムライト様が金ヒゲじーさんを「大司教様」と呼んでいたので、偉いじーさんなのかもしれない。



 ――――



 城の門の外にはハティとアリアがいた。
 アリアは何かに気づいた顔。

「変態追放ですか?」
「何? 姫様にもセクハラしたの? やるじゃないの。で、いくらもらったの?」

 ニヤつく2人。
 2人とも、とりあえず俺をいぢってくる。

「姫さんにそんなことするか! で、なんで2人はここにいるんだ?」
「急に兵士が部屋に来て、追い出されたんです。本当は何をされたんですか?」

 なんなんだ?
 俺が自分が何もしてないことを説明し、

「金髪金ヒゲのじーさんが予言がどうのって言ってから出ていけって言われたぜ」
「なるほど。そういうことですか……」

 アリアは何か知っているのか、考え込む。
 どうしたのか聞こうとすると。

 目の前をたくさんの兵士がバタバタ通り過ぎていく。
 その内の人の良さそうな1人をつかまえ、

「おい。どうしたんだ?」
「ん? あぁ。クヴェリゲンの前にあるガルアスト砦が魔角ひきいる魔王軍に破られ、前線がクヴェリゲンまで後退しているんだ。アンタも冒険者なら、クヴェリゲンの避難を手伝ってくれ」

 マジかよ。
 急いでクヴェリゲンへ戻ろう。
 サーシャ先輩が心配だ。

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