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 それを思い出し自覚して、はっとした。今更ながら、かっと顔が熱くなった。心臓が一気に喉元までせり上がる。
 付き合いは長いのに、こんなふうに触れられることは初めてで。
 こんなに間近で見つめられるのも初めてで。
 こんな、こんな力強い腕で。やさしい眼で。
 羞恥と緊張が体をいっぱいに満たした。それ以上に、大きな歓びも。
「大丈夫か?」
 リゲルの腕が、ライラを抱いていた状態から離れる。
 しかし次にはライラの頬に、その手が触れていた。きっと表情が硬くなっていたのを気遣われたのだろう。もしかしたら、彼の目をじっと覗き込んでしまったことも、もしくは赤くなってしまっていたことも、手伝っていたのかもしれない。
「怖かったよな。でももう大丈夫だ」
 優しく撫でられて、胸の奥が、きゅうっと締め付けられた。
 リゲルの大きな手。骨張っていてごつくて、でもあたたかくて触れてくれる手つきはとてもやわらかくて優しい。この手で護ってくれたのだ。
「……大丈夫」
 言った言葉は夢心地になった。馬車事故どころではなくなってしまった。
 こんなふうに触れられて。
 想うひとに、こんなふうに触れられて。
「行こう」
 リゲルの手が、今度はライラをそっと剥がして、でも次には手を握ってくれた。手に触れられて、やっぱりそのごつさとあたたかさをしっかりと感じてしまう。
 さっきから、触れられてばかりだ。そしてその触れられた部分は、すべて火照ったように熱を持ってしまう。
 火をつけられたように。そう、角度によっては琥珀色にも見える、あたたかな炎によって。

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