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1.ついでに追放されてんの?

「ハティ。今回でパーティを抜けろ」

 午前中に王立ギルドの依頼を終え、宿屋へ戻ってすぐ、パーティリーダーのアレンが強い口調で告げてきた。

「えっ! ご主人様。私なにかしましたか?」

 ごつい首輪をつけ、汚れの目立つ一枚の布を体に巻き付けただけの格好をした少女、ハティが大きな声を出す。
 アレンは冷たい目のまま。面倒そうに口を開く。

「今までの俺たちの活躍が認められて、聖ユリス教の聖女がパーティに加わることになったんだ。で、その聖女は奴隷制度に反対だからな。奴隷のお前は邪魔なんだよ」
「……そんな」

 ハティは急な追放宣言に驚いた後、よわよわしくつぶやく。
 聖ユリス教とは国教になっている宗教で、とても綺麗な女神様がいるらしい。
 詳しいことは知らないけど、皆に優しくしましょう。みたいな教えだった気がする。

「あん? ご主人様に意見しようってのか? 奴隷のクセに」
「いえ……はい。かしこまりました。でも、私のやってた家事や荷物持ちは誰がするんですか?」
「そんなもの、本物のウサミミ族でも雇ってやるよ。お前みたいな中途半端なやつより使い物になるだろ」

 ウサミミ族は力強く、女性はキレイな見た目のため奴隷として人気が高い。
 だが、ハティはウサミミ族と人間のハーフで、見た目は人間と変わらないし、ちょっと力持ち程度だ。
 ちなみに、ウサミミ族の男性はキレやすくて残虐な性格らしい。

 ハティがしょんぼりし、何も言えないでいる。
 すると、アレンが俺にも冷たい目を向けてきた。
 なんだ? 怖ぇんだけど。

「あと、エルク。お前もついでに抜けろ」
「えっ! 俺も?」

 アレンはバカにしたように笑った後。

「お前、俺のパーティにいらないってこと気づいてないのか? お前が最後に魔物倒したのいつだ?」
「そりゃ……最近の魔物は強くて俺の魔法が効かなくなってきたけどさ」

 俺は中級までの土魔法しか使えず、魔力も普通くらいだ。
 ただ、魔法の発動は早いので、おもに敵の足止めをしていた。去年までは俺も活躍することはあった。

 俺たちのパーティ【雷風の凱旋】は同世代の5人で構成されている。
 勇者候補と認められたアレン、エリート宮廷魔法使いドロシー、大司教の愛弟子であるハンナ、奴隷のハティと俺。
 ハティが一番年下で13歳。最年長のアレンは18歳。俺は17歳だ。

 ドロシーが俺をにらみ、ハンナはため息をつく。

「あんたがいなくても、私の雷撃魔法でどんな魔物も消し炭にしてみせますわ」
「パーティの援護なら、私の補助魔法と治癒魔法で十分です」

 ドロシーとハンナからの感情のこもっていない声。
 確かに、このパーティは強い。
 最近の戦闘は、ハンナの補助魔法で強化されたアレンが突撃して魔物を切り刻んだり、ドロシーが雷撃魔法をぶっぱなして終わっている。
 パーティを組んだ2年前は、俺もアレンたちと並んで戦っていた。
 しかし、この3人は強くなり過ぎた。才能のせいだろうか。

「いや、次の魔物は今までより強いかもしれないだろ。急に襲われたら長年一緒だった俺がいたほうがいいじゃねぇか」
「最近のお前は荷物持ちしかしてないだろ。あと、お前暗くてイライラするんだ。とにかく出ていけ」
「そんな……」

 アレンは俺の声が震えているのに満足したのか、ニヤリと笑う。
 次にハティを見て、何かを思いついたように、ニタニタした顔に変わる。

「あぁ、そうだ。お前の奴隷契約は解除しねぇからな。今のガキの体じゃ全然ムラムラしねぇ。ハンナくらいエロく育ったら、パーティに戻してやるよ」

 ハティは幼い見た目で、体つきも子どもっぽい。
 対するハンナは巨乳でキレイだ。ドロシーも胸は大きい。アレンは巨乳好きだ。
 キレイなお姉さんの良さは、俺もわかるぜ。でも、ちっちゃい子にそれを押し付けちゃだめだろ。可能性はいつでも無限大だ。

 ハティは黙ったまま。
 アレンは続ける。

「よし。次に募集する仲間は女にしよう。貧相なガキと陰気な奴がいなくなって入りやすいだろ」
「ちょっと、もっと女が欲しいの? 私たちだけじゃ足りないの?」
「もう……アレンはしょうがないですね」

 すっかり3人だけで話し出した。
 俺とハティは宿屋から自分の荷物を持って、逃げるように宿屋を出る。
 もうあいつらは、俺たちを見ようともしてなかった。



 ――――



 約100年前から続く人族と魔王軍との戦争はまだまだ終わりそうにない。
 人族の生活圏は戦争前と比べると半分になっている。
 人族は人間以外にウサミミ族などの亜人も含まれている。

 また、魔王軍には9魔角と呼ばれる魔王の次の強い魔物が9体もいる。
 魔角の1体だけで、王家の騎士団を滅ぼせるほど強いらしい。

 ここは戦場に近い都市となる城壁都市クヴェリゲン。
 この街の先にはガルアスト砦があり、騎士団が日夜襲ってくる魔物を撃退している。

 そんな中、冒険者はパーティを組み、王立ギルドから依頼される魔物討伐や村の防衛などを請け負っている。
 明日も生きられるかわからない危険な仕事だ。

「エルク。これからどうするか考えなさい。先輩命令よ!」

 首輪とボロい布を巻いただけのハティが偉そうに、無い胸を張っている。

「先輩って言っても、俺より1日早くパーティに入っただけだろ」
「1日でも先輩は先輩。とっても偉いのよ」

 ハティはなぜか俺にだけ強気だ。
 俺はハティのご主人様じゃないからなのか、ハティに命令みたいなことをしたことなからなのか……。まぁ、とにかく偉そうに接してくる。いいんだけどね。

「はいはい。先輩様すごいすごい。それより、奴隷契約はそのままってことは、主人が死ぬと奴隷も死ぬってのわかってんのか?」
「わかってるわよ。何年奴隷やってると思ってんの。そう言うエルクこそ、私にエロいことしたら痛い目にあうわよ。先輩に手を出しちゃダメなんだからね」

 ビシッと俺を指さす。
 先輩っぽく後輩を注意してんのか?

 奴隷契約はハティがつけている首輪。
『奴隷の首輪』による特殊な魔法により、奴隷へ様々な制限を与えている。
 奴隷が奴隷契約の制限を無視した行動をすると、電撃で痛みを与えたり命を失うことがある。
 そのせいで奴隷は主人の物としか生きられない。

 しかも、ハティがつけている『奴隷の首輪』は上等なもので、『性奴隷の首輪』と呼ばれ主人以外が胸をもむようなエロいことをしたら、もんだ相手に電撃を与える。

 ハティのような小さい子をエロい目で見てるやつがいたら我慢するのに大変だろうな。
 だが、俺はおっぱいの大きいお姉さんが好きなのだ。

「お前みたいなちんちくりんにエロいことしようなんて思わねぇわ!」
「別にちんちくりんじゃないわよ! ウサミミ族の血が流れてるから、ちょっと待てば強くてワイルドなレディになるわよ!」

 顔を真っ赤にして大声で答えるハティ。
 幼い見た目を気にしてるようだが、未来の自分への信頼感がすげーな。ワイルドレディってなんだよ。

「へぇへぇ。頑張れ。そうじゃなくて、アレンに死なれたら、お前も死んじゃうんだぞ。怖くねぇのか?」
「ご主人様は強いから大丈夫でしょ。心配してくれるなら、エルクがなんとかしなさいよ」

「フンッ」と鼻を鳴らすハティ。
 そんな無茶な……

「まぁ気にしてないならいいや。今からどうするかだな」
「そうよ。どうするのよ? 言っとくけど、私は全然戦えないからね。エルクの後をついていくだけだからね!」

 俺に寄生する気満々だな。
 まぁいいけどさ。2年間一緒のパーティだった仲だ。

「うーん。俺の魔法が効かない魔物も出てきて、これ以上魔王軍と戦うのキツイんだよなー」
「じゃあ、戦わなければいいじゃない」

 アッサリと言う。
 でも……それもそうか。無理して戦う必要もないな。

 俺の使える魔法の系統は自然魔法といって、火・水・風・土の性質を操る魔法。子どもでも頑張れば使えるようになる魔法だ。
 その中の土魔法しか使えない。

 自然魔法以外は特殊魔法と言って、雷や重力などを操れる。ただし、才能がある人しか使えない。ドロシーは雷撃魔法の使い手で、才能ある人だ。

 魔法のランクは5段階、初級・中級・上級・超級・絶級がある。
 このあたりの魔物と戦うには最低でも上級は必要だ。
 中級止まりの俺が戦い続けるのは限界がありそうだ。

「そうだなー。魔王討伐なんて諦めて安全な街でのんびりするか?」
「いいこと言うじゃない。そうね。私も奴隷生活に疲れてきたし、エルクが立てる立派な家でのんびりさせてもらうわ」

 やれやれといった感じで言ってくる。
 寄生根性が強い。

「なんで俺がハティの奴隷みたいになってんだ? 働け」
「いいじゃないの。私は先輩よ。まぁ、たまには家事くらいしてあげるわ。当番制でいいわよね」

 そうして、とりあえずはこの街を離れるために乗合馬車へ向かうことになった。

 強くない俺は、大冒険より仲間とのんびり過ごすのがお似合いだ。
 魔王軍との戦いは勇敢な戦士の皆さんに頑張ってもらうとしよう。

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