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「彼女の言うこと、間違っちゃいない。事実だ。俺はそういう男だ」
「違うわ。……」
 シャイの言葉をサシャは否定しようとした。
 けれど言葉が出てこない。なにか、なにか言わないといけないのに。
 それでもなにも出てこなかった。軽々しい言葉など、言ってはならないので。
「でも俺は、……サシャに恋をした。はじめて自分から好きになった女性だったんだ。こんな話のあとじゃ、信憑性なんてないな。でもほんとうのことだ。俺の気持ちだ」
 サシャはなにも言えなかったが、きちんと聞いているのは伝わっているのだろう。シャイは続ける。なにか、遠くを見るような眼になった。
「初めて会ったのは、国を飛び出して、庶民のふりをしてカフェに勤めた俺がヴァルファーへおつかいに行ったときだったな。正直、小汚い店だなぁとか思ったよ。悪い、失礼だけど。でもそこで歌っていたサシャに、目を奪われてしまったんだ」
 ああ、きっと彼の眼にはあのときのバー・ヴァルファーの様子や、初めて目にしたサシャが浮かんでいるのだろう。唐突に、くすぐったい気持ちを覚えた。
「ごめん、失礼なことばっかり言う。確かにサシャのそのときの身なりは良いものじゃないと思った。客も酒飲みばかりで、いい環境じゃなかったと思った」
 見ていてくれたのだ。サシャがシャイときちんと出会う前。初めて知った。
「でも、歌うサシャはほんとうに楽しそうだったんだ。心から歌うことを楽しんでる、って顔をしてた。勿論、歌も俺の心に響いたよ。あんな綺麗な歌、俺は聴いたことがなかったんだ。王室の、まぁ……高尚とか言われてる、そういう音楽よりもなによりも、『生きている歌』だったんだから」
 とつとつと話し、そこでシャイはやっと視線をサシャに向けた。サシャの好きな琥珀色。今は硬かった。
「そのあと、サシャとちゃんと知り合って、仲良くなって……っていうのは話すまでもないな」
 笑ってくれた。無理に笑った、という顔だったが。

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