⑤
「おすすめはどれなんだ?」
「えっとね、ストレートがいいならアッサムかな。あっさりしていて美味しいの」
席についた頃には落ち着いてきていたけれど。なにしろ馴染みのお店なのだ。緊張もだいぶ和らいで当然。
「変わり種なら、このマッチャっていうのが美味しいよ。紅茶じゃないんだけど、japanのお茶なんですって。ほろ苦いけれど、味わいがあるの」
「へぇ」
リゲルは『興味津々』という顔で聞いてくれるので、ライラはつい、おしゃべりを発揮してしまった。
「で、寒い季節におすすめなのは、チャイ。シナモンのやつが私は好き。ほかにももっといっぱいスパイスが入ったのも美味しいんだけど……」
「詳しいなぁ。そんなに通い詰めてるのか?」
あれそれ解説してしまったので、ライラはちょっと恥ずかしくなってしまった。
「あ、え、えっと、来たのは三回くらいだよ。ミアとかと来て……ひとくち味見とかしあって」
「そっか。仲良しの子だったな。女子同士らしくてかわいいじゃないか」
ほほえましい、という様子で微笑むリゲルはやさしげな笑みだった。その瞳に見つめられると、どきどきだけではなく、胸の奥が締め付けられるような心持ちがする。琥珀色が、あまりにやさしいので。
「じゃ、俺はこのシナモンのチャイとやらにしようか」
「そ、そっか! じゃ、私はロイヤルミルクティーにする」
注文はその会話だけであっさりと決まり、そしてここまでの道中の話をしている間に、紅茶はすぐにきた。チャイをひとくちすすったリゲルは「美味い」と言ってくれる。
「シナモンスティックで混ぜるタイプとか洒落てんなとか思ったけど。これ、濃さが調整できるんだよな。面白いな」
言って、スティックを紅茶に入れて、くるくるとかき混ぜている。もうひとくち飲んで、「ん、ちょっと濃くなった」なんて言った。気に入ってくれたようだ。
お茶を味わい、ティータイムセットとしてついてきた何枚かのクッキーも減ってきた頃。
今ならいいかな。
ライラは自身のバッグを引き寄せた。口を開けて、包みを取り出す。シックな黒い包み紙。水色の小さなりぼんをつけてもらった、それ。