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 焚き付けられた。まんまと。
 なにを、というのは、学校でおしゃべりをしていたときに「紅茶でも飲みに行こう」なんて言った、何気ないあの発言だ。ミアに「お礼でお茶を飲むなんてさぁ、私たちじゃなくてリゲルさんと行くべきでしょ」なんて。
「いい機会じゃん。わざわざライラを推薦してくれたんでしょ? そのお礼とか言えば」
 ミアの提案は的確だった。
 そのとおりだ。その誘いになにも違和感なんてない。
 善は急げとばかりに、いや、本当は時間が経ったら気持ちが臆してしまいそうだから、さっさと決めてしまえと即行動したのだが、ライラはそう言われた放課後、リゲルの家の傍まで訪ねていった。彼の帰宅をそわそわと待ち、帰ってきた彼を捕まえて「今度、お礼にお茶でも飲みに行かない?」と誘ったところ、「ああ、いいな。じゃあ行こうか」なんて案外軽く受け入れられてしまったのだから。
 そのようないきさつで、急遽デートということになってしまった。
 デート……だと思いたい。あの少女が言ってきたように、『恋人同士に見える』くらいには格好がつくかもしれないのだから。実状はさておき。
 デート……ではないが、お礼のお茶を飲みに行くことになったお出かけは土曜日だった。
 ライラはカレンダーどおりに土日が学校のお休み。たまにイレギュラーに登校やお休みは入るが。
 対して、リゲルは土日に関係なく仕事が入る。決まった曜日に休むのではなく、依頼がくれば土日でも出かけていくというだけだ。
 心身のために休日は確保するように上手く調整はしているようだが、基本的に仕事が好きなので、頼まれればたいてい出かけていってしまう。顔なじみからの依頼ならなおさら。「手を入れた植物とか、植えた木が元気でいるか気になるんだよ」とか言って。
 この土曜はその例によって、予定調整で空けてくれたというわけ。
 予定調整は、彼が持ち歩いている茶色い革のノートに書きつけていると知っていた。使っているのをよく見ていたので。日記を書くことを教えてくれたのも、彼。今でもノートはリゲルにとって、身近な存在であるようだ。
 だから今日、ライラはバッグにその類のものを忍ばせていた。『それ』を入れるための、ちょっと大きめのバッグを手にして待ち合わせ場所でそわそわと待つ。バッグは濃い灰色で、りぼんのついたお気に入りのものだ。
 ちなみに選んだ服は藍色のジャンパースカートだった。ジャンパースカートの下には、シンプルな白いブラウス。そろそろ風が冷たい日もあるので、ジャンパースカートの上には薄手のジャケットを羽織ってきた。黒い、丸襟がかわいいジャケット。
 そこへ例のネックレスをつけた。
 金色の月。オレンジ色の石の嵌った、大切なネックレス。全体的にダークトーンの服装の中、きらりと映える。きっとリゲルも気付いてくれるだろう。

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