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「シャイは……聞いていなかった、のよね?」
 その反応が既に答えだったが一応確認するように言ったサシャに、シャイは勢いよく言う。
「当たり前だよ! えー……マジかよ……。で? サシャはなんて返事を」
「お請けしますとお返事したわ」
「だよなぁ……」
 それしかないことはシャイにもわかるはずである。シャイ、キアラ姫、サシャの関係と身分においてはそれしかない。
「あー……ごめん。あいつの我儘で……」
 また数秒悩む様子を見せて、シャイは申し訳なさそうに言った。
 今更どうしようもないのだろう。兄という権限でもストップはかけられないのかもしれない。
「私こそごめんなさい。シャイに確認しようと思ったのだけど、お返事を二日後にお手紙でくださいと言われてしまって、時間が無くて……」
「なんだそりゃ。強引にもほどがあるな。今度文句言っとかないと……」
 ぶつぶつと言って、「悪いな。なんか……今度もう少し詳しく聞かせてくれ」と言ってくれた。流石にここでは話せない。
「ええ。お夕飯でもご一緒に」
「そうするか」
 そこまで話してシャイは一歩引いた。声を潜めていた距離から通常のウェイターとしての距離に戻る。
「じゃ、悪いけどランチそろそろ混むから、俺、戻るな。良ければランチも食っていくか?」
「ありがとう。でも、さっき朝ご飯を食べてきたから」
「そっか。じゃ」
 そのあとは紅茶をいただきながら、ぼうっと彼の働く様子を見てしまった。その様子はほんとうに、ただのカフェウェイターにほかならない。それも優秀な。
 しかし彼の中身は王子様。
 妹様は、お姫様。
 その彼女のお茶会。
 きっと今、飲んでいるようなものではなく以前お招きされたときのような最高級品の紅茶とかカップとか……そのようなものが並ぶはず。そこで自分が歌うなんて。
 シャイに話したことで一気に現実味を帯びてしまって、サシャはシャイに出してもらった紅茶を見つめた。自分にとっては、シャイが淹れてくれるこの紅茶が一番美味しいのだけど。と思いながら。

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