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 そこまで言われて、ライラはなんとなくリゲルの『頼み』を察して、それは予想したそのとおりだった。
「お前、メロディをつけるのが上手いだろう。歌うように読んでやってくれないか」
「え、朗読ってこと?」
 ライラはきょとりとしてしまう。絵本を読む、ならわかるけれど。
「ま、そうだな。朗読と詩の中間、ってとこかな。どうだ、面白そうじゃないか?」
 リゲルが自分に頼みたいと思ってくれたことはすべてわかった。わかったけれど、これはちょっと。
「お、面白そうだけど……」
 重荷が過ぎるのではないかと思ってしまう。引っ込み思案とは程遠いから、人前で読むのが恥ずかしかったり、怖い、という気持ちが強いわけではない。ただ、そんなプロのするようなことを自分がやるにはちょっともったいないのではないかと思ってしまって。
「人前で歌ったりするのだって初めてじゃないだろ。合唱隊で何度もやってるだろうし」
「そうだけど……それは皆でやるんだから」
「いいからいいから」
 リゲルにぐいぐいと押されて、おまけにトドメを刺された。
「お前の得意なこと、披露してほしいんだよ。俺もその日は聴きに行くから」
 言われたことにライラの心臓が高鳴った。
 リゲルが自分の得意なことを認めてくれていたこと。
 皆に聴かせたいと思ってくれたこと。
 朗読のイベントから、自分のことを読み手に推そうと思ってくれたこと。
 そして、それをリゲルも聴きに来てくれると言ってくれたこと。
 どこから喜びを覚えたらいいかわからないくらいだ。
 すぐには言葉が出てこなかった。答えはyes以外にないのに。でも嬉しすぎて言葉にもならない。そんなライラを見てリゲルは、にやっと笑った。
「ちゃんと報酬も出るって。お小遣いくらいはもらえるらしいぜ。仕事を持ってきてやったんだから感謝しろよ」
 今度は違う意味でどきっとしてしまった。報酬なんて、ちっとも考えていなかったのに。そんなことを言われれば、まるでお礼目当てのようではないか。そしてそれで答えを迷っていたようではないか。恥ずかしさにちょっと顔が熱くなった。
「ちょ、も、もう! リゲルこそ私のことをなんだと思ってるのっ」
「おかえしだ」
 ははは、とリゲルは心底楽しそうに、声を上げて笑った。
 からかわれた。理解して、ライラは憮然としてしまう。
 失礼にも涙がにじむくらいに笑ったようで、リゲルは目元を軽く指で拭った。でもからかって笑うだけではなく。
「お前の歌、俺が聴きたいんだよ。綺麗だからさ」
 ああ、もう、そんな嬉しいことを言われたら、また違う意味で顔が熱くなってしまう。からかわれた頬の赤みが残っているのだと思われることを願うばかりだ。
「ほんとに私でいいのね?」
「ああ、お前なら大丈夫さ」
 念を押すように言ってしまったけれど、今度リゲルは、からかってきたときとはまったく違う笑みを浮かべて言ってくれたのだった。

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