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「俺は『シャイ』になったところで、『ロイヒテン』としての身分は確かにある。ややこしいこともたくさんあるだろう。それでも、俺の恋人になってくれるかな」
 答えなんて決まっていた。サシャははっきりと口に出す。
「勿論よ。私を『シャイさんの』お姫様にして」
「……ありがとう」
 抱き寄せられていたのは、きっとほんの一分ほどだったはずだ。サシャにとっては永遠とも感じられる時間だったけれど。
 それも引き剥がされて、今度は頬にシャイの手が触れた。やはり手袋越しではない手の感触は、あたたかくして、おまけにやわらかい。男のひと特有のごつさはあるのに、ヒトの肌特有のやわらかさが確かにあった。
 どきどきと心臓が再びうるさくなったけれど、サシャは今度、きちんと目を閉じることができた。
 顔が近づけられる気配がして、くちびるにやわらかな感触が触れる。二度目のキスだが、初めてのキスのような気がした。
 心臓を高鳴らせ、身を熱くし、羞恥も確かにあるのに、安堵が上回るようなキス。こういうキスが欲しかった、と思う。
 そしてここへ、シャイの恋人として収まれてしあわせだと思う。
 シャイへの気持ちがたっぷりと胸を満たしてくれるようなキス。触れるだけのキスだったけれど、サシャの胸はいっぱいになってしまって、離されてからもシャイの瞳から目が離せなかった。
「……これからは、『ちゃん』を取ってもいいかな」
 言われた言葉は唐突で端的ではあったが、すぐに意味がわかった。
 サシャの目元が緩んでしまう。余りの幸福感に。
「ええ。名前だけでいいわ」
「ああ。……サシャ」
 ちょっと照れた響きであったのでサシャもくすぐったくなってしまう。男のひとにこのように呼ばれるのは初めてであった。
「……嬉しい」
 そのあとにはそんな要求をされた。
「サシャからも『シャイ』にしてくれよ」
「わかったわ。シャイ」
 即答したサシャを見て、言葉を聞いて、シャイは言う。
「俺のお姫様は、俺より勇敢だね」
 シャイは嬉し気にふっと笑って、もう一度サシャに顔を近付けた。
 三度目のキスは、しっかりと結ばれたことを確かめるための、確然としたキスだった。

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