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第一話

「魔法学校……ですか」
 真っ昼間。屋敷の執務室でこもって仕事をしていたわたしは、唐突にお父様の部屋まで呼び出された。
 そして伝えられたのは、魔法学校へ赴けという指令。
「それは、講演会の依頼ですか?」
 魔法学校という言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだのは仕事の依頼。これまでに何度か学校で講演会を行ったことがあるからだ。
 わたしの職業は研究職兼ライター。それも、魔法について。色々な雑誌にコラムや記事を書いてお金を稼いでいる──本来、貴族のわたしが働く必要はないのだけれど、魔法を知りたいという知的好奇心が高じて仕事になってしまったのだ。お金になるより何より、楽しい。
 しかし、父の話はわたしの予想をはるかに上回っていた。
「いや、生徒として、入学する」
 生徒って……
「わたし二十六歳ですよ!?」
 魔法学校とは、十六歳から十八歳の魔力に目覚めた子供が通う、三年制の教育機関だ。二十歳過ぎのいい大人が生徒として入学するような場所ではない。
 お父様は、わたしの言い分が聞こえていないのか、何かを思い出すように宙を見た。
「……お前が十代の頃、病気のせいで、学校に通わせてやれなかった」
「だから、家庭教師を雇って勉強して、今では元気になって、職に就いているじゃないですか」
「違う。お前が学んでいないのは社会性だ。友達もいない。表面上の喋り方こそ覚えたが、家族や使用人が大好き過ぎる……『子ども大人』に育ってしまった」
「『子ども大人』って……」
 なんだ、その単語は。
「学校の理事長には話をつけてある。入学式は明日だ」
 あ、明日!?
「外の人間に触れてこい。学校は寮生活だ。家に呼べるような友達が三人出来るまで、帰って来なくて良いからな」
 驚くわたしを置いてきぼりに、お父様はわたしから目線を逸らしたまま、言い放った。
 その態度も、魔法学校への入学も、突然で、ついていけなくて、横柄で──腹が立った。
「嫌ですよ!!」
 わたしは叫んだ。思いがけなかったのか、大声の拒絶にお父様は目を見開く。困惑した様子のお父様は、わたしを宥めるようなジェスチャーをしつつ、
「わたしはお前を心配して……」
「嫌なものは嫌です!」
 お父様の言葉を遮って、わたしは怒鳴り続けた。
「二十歳も過ぎたいい大人が、十個も年下の子どもたちに混ざって学校に通うなんて……ましてや友達になるなんて、絶対に無理です!」
「アン!」
 静止の声を振り切り、わたしはお父様の部屋を飛び出した。

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