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1.久しぶりの討伐です

 今日の見張り当番は警護団魔法部隊のエタンで、リアムがエタンと場所の確認をしているのをレーヌもしっかりと頭の中で聞きながら、王城の裏手に向かって愛馬を走らせていた。

 だが、それよりも早く場所を確認することができた。

 王城の裏側、馬を走らせれば3分程で到着する場所に森があり、そこが今回の魔物出現場所になっていた。

 森の上にはドラゴンが2匹、滞空し地上を睨み、森の中には一つ目の巨人が1体と炎をまとったトカゲが2匹いる。

 エタンに今日の警護団の稼働状況を確認すると、騎士部隊はリアムを含めて8人、魔法部隊はレーヌを含め3人しかいない、と言っている。

(魔法が使える人が圧倒的に少ない……!)
 その中で最優先されるのはドラゴンと地上の炎をまとったトカゲだろうか。
 レーヌは出動している魔法部隊のリディとアルシェにテレパシーを送り、役割分担を決めていく。
『レーヌ聞こえるか?俺は水で地上のトカゲの炎を消してから、ドラゴン討伐に加わる。それまで、リディと頑張ってくれるか?』
 その言葉に否やはなかったので、レーヌは討伐現場に向かう途中の待機場所に愛馬を預けるとすぐに呼吸を整え、風を起こした。
『リディ、到着したかしら?』
『今、やっと到着したわ!』
 リディの声を確認したあとアルシェに、
『アルシェ、これからドラゴン討伐に向かうから!』
 とテレパシーを送り、地上から少し舞い上がる。
 たが、魔物たちは攻撃を一切してこないのを不思議に思い警護団員に、
『ねぇ、一切攻撃してこないけど……』
 と言った瞬間、魔物たちが一斉に消えた。
 警護団員達も戸惑っている様子がテレパシーで伝わってくる。
 その時、慌てた様子のエタンが呼びかけてくる。
『今度は南の方角に出現している!どうなっているんだ!』
 その言葉にレーヌは後ろを振り返るとドラゴンが2匹、ユルバンから少し離れた森の上空に出現していた。
『確認できたわ!すぐに南の森に向かいます!』
 レーヌは地上に降り、待機場所に預けている愛馬に向かって走り始める。
 管理している人達が慌ただしく待機場所を片付け始めている中、愛馬のオレリーに乗り、全力で南に向かっていく。

 ドラゴンが滞空している南の森には、すでに出動していた騎士部隊が待機していた。
 近くで馬から降り、細めの木を見つけそこに愛馬のオレリーの紐を結び、現場に駆け付ける。
 地上を見ると先ほどと同じ魔物たちが出現していることが確認できる。
 先ほどと違うのは魔物たちがすでに攻撃を始めていることだった。
 ドラゴンは森に向かい炎を吐き、一つ目の巨人はいつ攻撃されていいように大きなこん棒を構え、炎をまとったトカゲは口から炎を出し、周りの草を焼き払っていた。
 レーヌは魔法部隊が今ここにいるか不明だったのでテレパシーで問いかける。
『アルシェ、リディ、もう南の森にいるかしら?』
 最初に反応したのはアルシェで、
『レーヌ、まだ向かっている途中だ。どんな状況だ?』
『先ほどと同じ編成の魔物がいるわ』
『わかった、早めに向かう!』
『レーヌ、リディです。今やっと馬車に乗れたから、到着するまで時間がかかるわ』
『わかったわ』
 今、この場で魔法を使えるのはレーヌだけだった。個々の魔物に対応できないならば、水を空から降らせ、森の延焼を防ぎつつドラゴンが雨に濡れたところで雷を落とし、地上に落とす。
『騎士部隊のみなさま、これから水と雷の魔法を使いますので、あとは宜しくお願いします!』
 それだけ言うと、魔法を使う準備をする。
 レーヌは水と雷の魔法は使えるが苦手としているが、迷っている時間などない。呪文を唱え、最後に空に向けて両手をかざす。
 
 くっきりと晴れわたっている漆黒の夜空から大量の水が降ってくるのが分かる。
 ドラゴンは大きな声で咆哮し、地上では炎トカゲの周りの火が消える。
 
 続いて、ドラゴンと一つ目の巨人に向かい雷を落とそうとしたところ、またしても魔物が消えた。
(えっ!?)
『エタン、魔物が消えたわ!他の場所に出現している?』
 見張り番のエタンにテレパシーで語り掛けると、狼狽えた声で
『いや、いまのところ出現しているところはない!』
 と返答がかえってきた。
 しばらくあたりを注意深く確認していたが、この夜、魔物が出現することはなかった。

 翌日、朝。
 セレストに声を掛けられ、目覚めるが、使いなれない魔法を使ったこともあり、全身に力が入らず、けだるい感じがあった。
「レーヌ様?顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
「ああ、すみません。大丈夫です」
 返答した声も力がなく少しかすれ気味だったため、セレストは
「お医者様をお呼びします」
 とすぐに部屋を出て行きそうだったので慌てて、
「待って、医者を呼ぶほどではないの」
 とセレストを呼び留め、
「魔法を使ったあとは、こういう症状があらわれます。横になっていれば収まるので心配しなくても大丈夫です」
「そうですか……?」
 訝しげに頷いているが、
「ええ。なので、朝食を食べずにヨランドがくるまで、眠らせてください」
「……わかりました。朝食は軽食に変更するようにしておきます。ゆっくりとお休みください。それと、テオドール殿下からいつもの贈り物がありますのでベッドの近くのテーブルに置いておきます」
「ありがとう」
 その言葉を呟くとすぐに眠りに落ちた。

 次に目覚めた時もけだるい感じはあったが、勉強を始めるため起き上がり準備をする。
 セレストの用意してくれたサンドイッチを一口食べたところでヨランドが入ってきたので、勉強を始めた。

 勉強が終わる夕方になっても体に力が入らない感じが続いていたので、セレストに夕食と湯あみを断ると、ベッドに入る。

 だが、今日もまた見張り番のシリカから呼び出しがかかる。
 場所は昨日と同じ、ということで、王城の北の森らしい。

 レーヌは力の入らない体でなんとかクローゼットにたどり着き、警護団の洋服に着替える。
『リアム、準備はできたわ』
 リアムが驚きの声で、
『レーヌ!セレストから体調のことを聞いている。無理しないでくれ!』
『リアム、心配してくれてありがとう。だいぶ眠ったから平気よ!』
 リアムは数十秒間の沈黙のあと、
『わかった。今から迎えにいくが、本当に無理をしないでほしい。殿下も心配している』
『ありがとう。殿下にも心配してくれてありがとう、と伝えておいて!』
『わかった』

 数分後、迎えにきたリアムとそれぞれ馬に乗り、北の森を目指す。

 空にはドラゴンが浮かび、地上には一つ目の巨人と炎をまとったトカゲがいるのだが、昨日と同じく、魔物たちは動かずにいる。
 その行動に警戒しながらレーヌは到着すると見張り番のシリカにテレパシーで魔法部隊の出動状況を確認すると、レーヌを含めて5人で、魔法部隊のリーダーであるアルシェもいる。
『アルシェ、聞こえる?』
『レーヌか?聞こえている』
『昨日と同じで全く攻撃をしていないわ。今日は魔法部隊の人数が多いから手分けして地上で見張り……』
 と言った矢先に魔物が消えた。
『シリカ!』
『南の森だ!』
 その声に警護団員が一斉に移動を始める。
 
 南の森の上空は昨日と同じで、ドラゴンは炎を吐き、トカゲは周りの草を焼き払っている。
 テレパシーで確認してみると、アルシェとレーヌしか到着していなかった。
『アルシェ聞こえている?昨日と同じなら、空から水を降らせてもらえる?そのあと私が雷を落とすから』
『レーヌ了解した。すぐに水を降らせる』
『ありがとう!リアム、地上は任せたわ』
『了解!』
 その言葉にアルシェは、
『じゃあ始める!』
 と言った数十秒後に空から水が落ちてきた。
 それを確認したレーヌは雷の魔法を使うため呪文を唱え、空から雷を落とす。
 ドラゴンに当たる、と思った矢先にまたしても魔物が消えてしまった。

『またか……!』
 リアムとアルシェが同時に呟く声が聞こえ、討伐任務終了となった。

 これ以降、4日連続で魔物が北の森に現れ、南の森に移動し、退治目前で消えるということが続いた。
 警護団員の体力も魔力も消耗が激しくなったところで、事件は静かに起き始めた。

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