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調査

 ユウトはディゼルとカーレンの後を追って歩いていく。テントの間を抜け、しばらくすると視界が開けた。

 そこは小さな広場になっており、その中央には柱と縄によって幕が張られている。ディゼルが歩きながら後ろへ振り向き、ユウトへ話しかけた。

「ここが詰め所だ。とりあえず座ろうか」
「では、私は記録具をもってきます」

 カーレンはそう言って離れていく。ユウトとディゼルは天幕の下に入り、簡易式の机を挟んで椅子に座った。

 それからほどなくしてカーレンが紙や筆記具の入った箱を持って来くると、ディゼルの聞き取りが始まる。ディゼルの質問にユウトが答える形で二人のやり取りはつつがなく進んでいった。

 セブルの形態変化と獣化、ラトムの高速移動、発声能力、照明機能についてユウトは説明する。その能力はむやみに人を傷つけるものではなく非常に有益であるといった立場で伝えた。

 セブルとラトムは机の上に降りて審問を受けるようにじっと待っている。カーレンは手慣れた様子で聞いた内容をすらすらと紙に書き記していた。

「うん、僕としてはこれで十分かな。カーレンはどう思う?何か気になることはあるかい?」

 いくつかのやり取りの後、ディゼルはふぅと息をついてそう言うとカーレンに話しかける。

「そうですね・・・」

 カーレンはペンを上げ、ちゅうを見て考えていた。

「えっと、私からみてセブルと、ラトムの知能はかなり高いものだと思います。それは先日の戦いでの連携の取れた動きや、その前の・・・えっと、大工房での私とのやりとりから考えてもただの魔物ではない、と考えられます」
「確かに大石橋でのセブルの活躍からしてその通りだと僕も思う。初めての経験だった」

 ディゼルもカーレンの考えに賛同する。

「これまで魔物は人に害なす存在か特異な家畜としてしか捉えられてきませんでした。それが今後、セブルやラトムの存在によって魔物と我々の接し方、考え方が大きく変わる可能性があります」
「魔物に対する新しい認識が生まれる、のか」

 カーレンの話を聞いてユウトはつぶやいた。

「少なくとも今回の調査書から類推することができます。ユウトさんは人と魔物との接し方についてどう思いますか?」

 ユウトはカーレンから投げかけられた思わぬ難問に腕を組んで「うーん」と呻る。そしてゆっくりと話し始めた。

「オレにとって、セブルとラトムはただの魔物じゃない。それほど長い時間を一緒に過ごしたわけじゃないけど、仲間・・・というか家族に近いかもしれない。ただそれはセブルとラトムだからであって魔物全てとこんな関係になれるわけじゃない。セブルとラトムが特別なんだ」

 ディゼルとカーレンを見ながら語るユウトをセブルとラトムは見上げている。

「だから今はその可能性を手探りで答えを探す段階なんじゃないかな。魔物によってその能力にすごく開きがあるみたいだし」
「開き、か。一概に魔物の能力をその種類でくくることはできないということだね。確かにロードの知性はその他のゴブリンからあまりにかけ離れている」

 ディゼルがユウトの話に納得したように頷いた。

「やはりまだまだ魔物についての調査、研究が足りませんね。後は本部の研究者に任せましょう。今回の調査書でかなり驚くことでしょうけど」

 カーレンはそう言って視線を落とし紙に文字を書き込んでいく。それが終わると顔を上げてディゼルに紙とペンを渡した。受け取ったディゼルは紙の隅にペンで短く文字を書き記してカーレンに返す。そしてユウトを穏やかな笑顔で見た。

「これで調書は終了だ。協力に感謝するよ、ユウト」
「そうか。役に立てたなら幸いだ」

 カーレンはそれまで書き記していた紙を丸め、道具を片づけている。セブルとラトムは緊張が切れたように机の上でうなだれていた。

「そうだった。決戦事後の処理についてメルから話は聞いているよ。提案通りになる見込みだ」
「よかった。メルに会ったのか?」
「うん。昨日本人がクロネコテンを連れて調査騎士団を訪ねてきた。レナと一緒にね。ずいぶん緊張していてけど、頑張っていたよ」

 その話を聞いてユウトは安心する。メルに任せっきりになってしまっていることに若干、罪悪感を感じながらも自身の判断が今のところ間違いはないと思った。

 セブルとラトムはユウトの身体の上に飛び移りユウト、ディゼル、カーレンは椅子から立ち上がる。

「いよいよ明日か。僕とカーレンは中心の守備に就く予定になっている。よろしく頼むよ」
「それは心強いな。こちらこそよろしく頼む。カーレンも」
「はい。任せてください」

 会話を交わし天幕から出ようとしたとき、ユウトは気配を感じて身体をぴくっとさせた。

 その様子にディゼルは気づいて動きを止める。それと同時に天幕とテントの間の日のあたる野原を空から風が吹き下ろし始めた。

 風は次第に強くなると天幕でさえぎられた上空から大きな卵が落ちてくる。その卵型の物体は地面に直撃する前に急速に速度を落とすと、風を周囲にたたきつけながらふわりと地面に着した。

しおり