バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

4.情報収集

 街で暮らすためには情報収取が必須。アカネは情報をくれそうなところを、探すことにした。

 第二の街では、結構な人が生活している。アカネと同じように、現実世界で死んだ人ばかりが集まっているのだろうか。

 住民は見たがことない顔だからか、不審人物を見ているかのような視線が送られることとなる。アカネはそのことについては、気にしないことにした。

 街にはラーメン屋、うどん屋、ケーキ屋などという店があった。現実世界と同じような食べ物があるとみてよさそうだ。

 アカネは「らーどん」という店を見つける。ネーミングはラーメン、うどんを掛け合わせたような名前だけど、味はどうなのだろうか。

「そどん」という店もあった。そば、うどんを半分ずつ混ぜたような食べ物なのかな。アカネは未知の食べ物に、興味、不安を抱くこととなった。

「らーどん」、「そどん」以外の店においても、変わった店がたくさん並んでいる。こちらの世界は、変わり種がはやっているのかもしれない。 

 アカネはいかにも情報屋という場所を発見する。何か役立つ情報をくれるのかなと思い、店内に入ることにした。

「こんにちは」

 店内には一人の女性が立っていた。見た目は小学生の高学年から、中学生といったところだった。

「セカンドライフの街にようこそ。こちらの住民管理を行っている、マツリといいます」

 ありきたりすぎる名前に、アカネは失望してしまった。もう少しいいネーミングはなかったのだろうか。

「マツリさん、こんにちは。新しく引っ越してきた、サイトウアカネといいます」

 引っ越したというよりは転生したほうが正しいかな。現実世界であの世に旅立って、メイホウという人にここに飛ばされた。

「新しく引っ越してきた方ですね。住民登録をしましょう」

 どこの世界においても、住民を管理するシステムはあるようだ。

 マツリは指紋認証システムさながらの、機械を取り出す。基本データを入植する道具であることはすぐにわかった。

「データを読み取りますので、手をかざしてください」

 アカネはゆったりと手を置くと、センサーのようなものが光った。

 マツリはデータを見たあと、お化けを見ているかのような視線をこちらに向けてきた。ごくごく平凡な女性に、とんでもない情報が入っているというのか。私はごくごく平凡な18歳だよ。

「レベル95ですか。現実世界でよっぽどひどい目にあったみたいですね」

 初対面の人に同情されるなんて、よっぽどのことだと思われる。まあ、社会人になってからの生活というのは、あまりにもひどすぎた。お金がなければ、一日で退職していた。

 マツリからレベルについての説明を受ける。

「レベルは悲惨な人生を送るほど高くなります。アカネさんは人間の扱いを受けなかったので、このようなレベルになりました。なお、最大レベルは100となっています」

 レベルが1から100とすると100段階で95の評価を受けたことになる。100点満点というのはどのようなものなのだろうか。24時間勤務が頭をよぎったものの、ご飯を食べられなければそもそも生きていけないので、それはありえない。

「セカンドライフの住民の平均レベルはいくつですか」

「セカンドライフの住民の平均レベルは5くらいです。よほどのことがない限り、レベル10以上になることはありません。過去の最高レベルは20でした」

 レベル10すら珍しい世界で、レベル95を誇っている。アカネはひときわ目立った存在といえる。

「レベル95よりもあり得ないのは、空気を吸わなくても生きていけるというスキルです。人間の身体をしているので、それについては信じられません。飲食しなくとも生きられるスキルもありますね」

 人間の根本を覆しかねないスキルではあるものの、アカネはすこぶる気に入っている。一度でいいから、空気を吸わずに生きてみたかった。ご飯を食べない生活も楽しそうだ。

「無敵の身体というのもあります。危害を加えられそうになっても、鋼の身体で防御できるようです」

 見た目は普通の女子高生だけど、体内にバリケードを貼っている。こちらについても、人間離れしているといえる。

 スキルはこれくらいかなと思っていると、マツリから追加情報をもたらされた。

「レベル90以上の住民は、魔法を使用可能となります。攻撃魔法や回復魔法などを自動で習得しています」

 RPGの世界でよく見かける魔法を使えるのか。セカンドライフの街における楽しみが、一つ増えることになった。

「魔法にできないことは3つです。お金を生み出す、死者をよみがえらせる、食べ物を作ることはできません」

 お金を生みだす、死者の生還はいいとしても、食べ物くらいは自由に作らせてほしいところ。アカネがいいものを作ることによって、街の人間は新しいものを口にすることができる。

「生きている人間の治療はできます。アカネさんなら数秒でどんな病気も治療できるでしょう」

「魔女の宅急便」ならぬ「医者の宅急便」だ。

 街の情報もいいけど、お金稼ぎの方法を知りたいところ。所持金が0では、なにもすることができない。

「お金はどうすればいいんですか」
 
「所持金に関しては、現実世界を引き継ぎます。アカネさんは38000万円の貯金があったので、38000万ゴールドからスタートです」

 お金があることを知り、ひとまずは安心した。所持金0では、何もすることはできない。

 現実世界のお金は、こちらの世界でどれくらいの価値を持つのか。1ゴールド=1円くらいであってほしい。

「セカンドライフの街における、一ヵ月の生活費はおおよそ20~30万ゴールドです。きっちりと稼がないと、生活していくことはできません。当分は必要ないでしょうけど、生活するための知恵を伝授します」

 単純計算で1300カ月~1900ヵ月は余裕がある。現実世界にいたなら、一生遊んで暮らせるレベルだ。

「お金を稼ぐ方法は、主に4つあります」

 お金はあればあるほど、裕福な生活を送れる。多く持っていたとしても、困るということはない。

「一つ目はダンジョンに潜ります。いろいろな敵を倒して、お金をゲットしていきます。ボスを撃破した場合は大金を入手できます」

 RPGみたいにお金を稼いでいくのか。アカネはこちらに興味を抱いた。

「ダンジョンではHPが与えられ、0になった瞬間に魂を吸われます。石化した場合なども同様です」

 ダンジョンは死亡するリスクがある。クリアできる確証がない限り、潜ってはいけない。

「ダンジョンは無謀すぎるからか、誰一人として挑戦していません。それゆえ、ダンジョン内のデータは一切ありません。大金がもらえるという情報だけが残されています」

 自分の命を代償にして、もぐろうとする住民はいない。ダンジョン探索をしないのは、賢明な判断といえるのではなかろうか。

「アカネさんはレベル95ですから、負けることはないでしょう。無限復活のスキルがついているので、死ぬことも絶対にありません。完全異常防止ですので、毒や石化などを無効化できます」

 無敵状態であるアカネにとって、ダンジョンを探索するのは天国同様だ。何度も潜ることによって、自分の生活資金を稼いでいきたいところ。

「ダンジョンをクリアしたら、どのようなところであるのかを教えてください。情報屋の知識をアップデートできます」

 情報収集したいなら、自身で確かめればいいのではなかろうか。自分の目で見た情報は、一番の正確さを誇る。

 マツリは話を続ける。

「二つ目は労働です。いろいろなところで求人情報が出ているので、仕事してみてはいかがでしょうか」 

 庶民はコツコツと稼いでいくしかないのか。その部分はどこの世界においても変わらないようだ。

「時給は900~1200ゴールドとなっています。希少なスキルであった場合、時給は跳ね上がります」

 妙にリアル感のある数字だ。一般労働による価値は、こちらにおいても同じようだ。

「この街ではいくつから働けるんですか」

「6歳からとなっています」

 現実世界で同じことをすれば、児童虐待と騒ぎ立てるだろうな。労働に関しては、ぬるい規定のようだ。

「6歳だからと侮ってはいけません。自分の会社を立てて、成功している人もいます」

 こち亀に超人小学生が登場する。あれくらいの人間というのは、こちらにおいても存在するようだ。

「3つ目は自分で商品を開発する方法です。一獲千金を狙えるものの、ヒットするのは難しいです」

 売れるものが簡単に作れるなら、誰も苦労などしない。

「4つ目はギャンブルです。働きたくない人は、これでお金を増やす人もいます。ただ、90パーセントの人間は負ける運命です」

 セカンドライフの街においても、ギャンブル要素があるのか。どこの世界に行っても変わらないなと思った。

 ギャンブルをしてみようかなと思っていると、マツリから悲しい現実を告げられることとなった。

「アカネさんは出入り禁止になると思われます。未来予知能力を使えるため、ギャンブル施設をあっという間につぶしてしまいます」

 魔法には未来予知能力も含まれているのか。アカネの想像のはるか上をいっている。

「セカンドライフの街では、他人から借金をするのを禁止されています。残高がマイナスとなった場合は強制労働となります。強制労働期間は5年以上で、借金額によっては50年近い強制労働
を科せられます。なお、情状酌量の余地があるとみなされた場合については、強制労働は適用されません」

 お金にだらしない人間を強制的に働かせるシステムは斬新だ。現実世界においても、あってもよかったのではなかろうか。

「第三者からお金を借りる、寄付を募るといった行為も禁止されています。こちらに違反した場合、5年以上の労働刑に課されます」

 自分の力で生きるのが、セカンドライフの街のポリシーのようだ。病気がちの人には厳しいシステムといえる。

「他人を欺いてお金を搾取した場合、30年以上の強制労働となります。金額の有無は関係ありません」

 寄付を募っただけで、30年の強制労働になるのか。人間世界における殺人罪よりも、刑期は長くなっている。

「第五の方法は仕事の依頼を受けるというものです。依頼者からお金が振り込まれます」

 第三者からの仕事の依頼は、単価は低めに設定されている。満足な収入を得るのは難しそうだ。

「アカネさんは治療魔法を使用すれば、生計を立てられるでしょう。セカンドライフの街には医者を置いていないので、重宝されます」

「どうして医者がいないんですか」

「セカンドライフの街には、医者のスキルを学ぶ環境がありません。医者を目指そうとしても、医者になることはできないんです」

 現実世界では医学生になるための、学校があった。セカンドライフの街においても、医学部のようなところはあるのではなかろうか。

「学校はないんですか」

「30年前につぶれました。社会で生きていくのに、勉強は必要ないという結論に至りました」

 現実世界よりも合理的な考え方をしている。あちらの世界も余計なことを学ばせなければいいのに。微分積分を学んだとしても、一ミリも役に立つ機会はない。化学式、古文なども一部の人を除いて必要ない。

 学校をつぶしたことで、医師の育成もできなくなってしまった。ある意味では、本末転倒のような気がする。

「医者がいないので、治療できない病気にかかったら、潔く死にましょうという精神です。苦しいのに長く生きると苦しみが倍増するだけです」

 理屈としてはわからなくもないけど、病人=死んでしまえばいいというのは薄情だ。病気を治せなかったとしても、治療くらいは受けさせてあげてほしい。人間には医者の治療を受ける権利がある。

「アカネさんは魔法で治癒できるので、多くの人を助けられるのではないでしょうか」

 自分の身体は治療してもらえなかっただけに、胸中は複雑だった。他人を助けたとしても、自分の身体にはメリットがない。

しおり