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反対派立論と質疑応答

「それでは続きまして、建設反対派の『立論』となります。五橋さん、どうぞ」

「はい……今回の高層ビル建設に関しての最も憂慮すべき問題はやはり景観に関する諸問題です。昔ながらの歴史ある町並みが失われていくことに繋がりかねないということを我々は懸念しています。新たな調和、新しい伝統などとおっしゃられましたが、肝心の周辺住民の共通理解を完全に得られている訳ではないようですし、少し早急に過ぎるのではないかと感じております」

 八千代の発言が終わったことを受けて、南武が挙手する。万城目が発言を促す。

「先程、経済的に大きなメリットがあるとおっしゃられましたが、その点については甚だ疑問です。確かに当該地区には大規模な商業施設はありませんが、近隣の地区にはいくつか点在しており、住民は専らそちらを利用しているようです。よって今回の計画では思った程の経済的恩恵は受けられないのではないかと考えております。そして、もう一点……本日は便宜的に反対派としてこの場に立っておりますが、南町奉行として、また奉行所全体としても、今回の建設に全面的に反対という訳ではありません……ただ、計画の一部見直しを検討するのも必要なのではないでしょうか」

「……ふむ、それでは反対派立論は以上でよろしいでしょうか?」

 万城目の問いに弾七が手を挙げる。

「俺様からも一言良いかい?」

「橙谷さん、どうぞ」

 弾七が立ち上がる。隣に座る景元が怪訝そうな表情を見せる。

「あ~さっきランドマークがどうとか言っていたが、新しい観光名所が出来るってことは大いに歓迎すべきことだ。しかし、それでこれまで数百年続いてきた町並みが劇的に変わるのは個人的には受け入れがたいものがある。時代の移り変わりってのは理解している。ただ、その町が持つ独特の雰囲気っていうものをいたずらに壊すべきではないんじゃねえかな? ……まあこれは、一人の町人としての俺様の考えだ。以上」

「わ、わりとまともな意見を……!」

 発言を終え、席に着いた弾七を景元と小霧は驚いた表情で見つめる。

「俺様のことをなんだと思っていたんだよ、お前さんたちは……」

「いや、世捨て人気取りの不良絵師かと……」

「女体見たがりの変態さんかと……」

「評価散々だな!」

 万城目は反対派の意見が出そろったことを確認し、場を進行する。

「……では只今の反対側立論に対する質疑応答に移ります。賛成派の方で質問がある場合は挙手をお願いいたします」

「はい」

「伊達仁さん、どうぞ」

「率直にお尋ね致します。今回の高層ビル建設、経済的効果はある程度ではあるかもしれませんが確実に見込めます。何故にそれ程までに反対されるのでしょうか」

 南武が答える。

「今ほど申し上げました通り、近隣の地区には大規模な商業施設がいくつか点在しており、当該地区の住民の方々はそちらを主に利用しているようです」

「当該地区にも大規模な商業施設があっても別に差支えないのでは? それで高層ビル建設の計画自体に反対というのはいささか話が飛躍し過ぎではないでしょうか?」

「……これも繰り返しとなりますが、今回の建設計画に全面的に反対という訳ではありません……ただ、計画の一部見直しを検討するのも必要なのではないかということを申し上げています」

「一部見直しというのは具体的には? 例えばビルの階数を減らすということでしょうか? 建物の面積を減らすということでしょうか? そうなってくるとそれは建設自体を見直すべきだとおっしゃっているように受け取れます。行政として一度認可を出しておきながらそれを撤回せよということでよろしいですか?」

「そこまで極端な話をしている訳ではありません」

 南武はやや慌てながら、爽の話を遮る。

「……ただ諸々の問題に関しての話し合いが不十分であると感じております。そういった意味では検討の余地があるのではないでしょうか?」

「諸々の問題?」

「これも繰り返しになりますが、景観に関する問題です」

 爽の問いに、今度は小霧が答える。

「一時的には経済効果が見込めるかもしれませんが、それで町の景観が崩れるのは好ましくありません」

「……先程氷戸さんもおっしゃられましたが、当該地区に新たなランドマークを建てることによって、それをもとに新しい伝統を紡いでいくという計画があります。目先の経済効果を得るという短期的な目標だけでなく、中長期的なスパンでの都市デザインという二段構えの考えです」

 爽の発言に光ノ丸も満足そうに頷く。爽が更に続けて質問する。

「皆さんは何か変化を恐れているように見受けられます。特に五橋さん、如何でしょうか?」

 突然の指名に戸惑いつつ、八千代が答える。

「ご質問の真意が今一つ分かりかねますが……とにかく景観の問題に関しましては、我々としましては昔ながらの町並みが失われていくということを深く憂慮しております」

「俺からも一つ、南町奉行さんに質問良いかい?」

 北斗が挙手し、万城目が発言を許可する。

「ここで言う話じゃないかもしれないけど、南武ってさ~こういう場では何でもかんでも俺の言うことに反対してない?」

「……何でもかんでもという訳でありません。同意すべきことには同意し、譲歩すべき点は譲歩しています」

「そうか~? ここ最近はやれもっと検討すべきだ、何々を考慮に入れるべきだ、とか一々難癖つけてきてないか?」

「お互い町奉行という極めて責任のあるお役目です。難癖ではなく、納得のいくまで話し合いを持つべきだということです」

「昔はさ~『あにうえとおなじのにする~』とか言ったりして可愛かったのにさ~」

「こ、この場に関係のない発言は慎んでください!」

 南武は思わず大声を上げた。司会の万城目が割って入る。

「反対派への質疑応答も一通り終わったようですので……それではここで三分間の作戦タイムとなります。両陣営ともこの後の『反駁』に備えて意見を纏めて下さい」

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