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14話

椅子に座ったココロ…の膝に座っているニコを覆うように、見覚えのある光が現れる。光は陣を描いている。
突然の事にニコは怖がるかと思ったけれど、そんなことは無く、ココロのヒザでじっとしている。

「ニコ、手を出して」

あの時、ハロルドに言われたことをニコに言えば、小さな手をそっと差し出した。
記憶が正しければ、その手の中に強い光が現れるはず。
それは間違っていなかった。

「え、あ、あれ!?」
「!!」

が、何故かココロの所持しているタブレットが出てきたかと思うと、その光を吸収し始めた。
気配で、どうやらハロルドも驚いているのが分かる。
光を吸収し終えたタブレットは、ココロの元に戻ってきた。

「え、今一体、何が…」

思わずポカンとしてしまう。
今何をしていたのかさえ分かっていないニコは、キョトンとしてココロを見上げている。


暗かった部屋は明るくなり、恐らくハロルドが連れていったのだろう、おじいさんは居なくなっていた。
すぐにハロルドが戻ってくる。

「ハロルド、さっきのは…もしかして失敗、とか!?」

初めての事…というより、自分の時と状況が違うことに戸惑う。
しかし一緒に驚いていただろうハロルドは、少し逡巡してから口を開いた。

「いや、問題は無い。むしろ、正式な親子として登録されたんだろうね」
「え?」

正式な親子と聞いて、確かにニコとは血は繋がっていない。
最初は保護すると言う名目で預かったのが、いつの間にか、ニコからは母親として認定されていた。
今ではココロもニコの事を本当の娘として大切に想っているが。

「この世界では、誰もが住民カードを持っている。これは、前伝えたよね」
「住民カード…あ、そう言えば」

個人的にはタブレットと認識してしまっているので、『住民カード』と言われて一体なんの事かと思ったが、その説明は以前されていたと思い出した。

「外からやって来た人には導き手が与えるけど、この世界で産まれた子には、親から与えられるんだ」
「?」
「正しくは、親の住民カードに子供として登録される。まだ幼い子に持たせる訳にはいかないからね」

それは確かにそうだ。
身分証にもなるし、お金の管理もここからだ。
例えこの世界が平和な世界だとしても、小さな子には持たせられない。
極端に少なくはあるが、犯罪が0だとは言い難いらしい。

「で、子供の頃は親が…父母どちらがするかは家庭によりけりだけどやってる。そして、子供が働き始めたら、個人個人の住民カードを親の住民カードから抽出して与えるんだ」
「自立したら、って事だね」
「そう。タイミングはやっぱり家庭によりけりだけど、総じて能力を引き継いでいる子の方が早いかな」
「どうして?」
「やれる事が、最初から決まっているから」

暗に、選択肢は無いと言うことだろうか。
その代表は、目の前にいるハロルドだ。生まれた時には、次期導き手として認められたのだろう。
そしてリックもそうだ。

「…つまらなく、ないの?」

つい、そう呟いてしまった。
日本に生まれて、幅広い選択肢があったココロからしてみたら、それは、とても…。

「どう思うかは、本人次第かな。でも、少なくともリックは楽しくやってたかな」

リックは、という事は、ハロルドは違うと言う事だろうか。
リックの場合は、まだ選択肢もあっただろうし、好きな物と能力が上手く組み合わさったのも良かったのだろう。
けれどハロルドは、1つの道しかなくて…。

「俺は、世界の事を知っていくのが面白かったかな」
「!」

ちょっとおどけながら言うハロルドの声に、顔を上げる。
そこで、いつの間にか俯いていた事に気がついた。
フッと、優しげに笑みを浮かべるハロルドに、こちらも笑みが零れてしまった。

「ママ?」
「ん?あ、ごめんごめん。何でもないよ」

心配そうに顔を覗き込んできたニコにも笑顔を向ける。
子供は親の感情に敏感だと本に書いてあった。不安にさせてはいけない。

「あ、じゃあ、他の子はどうするの?」
「最初は、能力持ちの子も含めて、基礎教養を学ぶための教育機関に通う事になる」

なるほど、つまりこの世界にも学校はあるようだ。
その基礎教養の内容はシンプルに読み書きと計算、体づくり、社会を学ぶためのものだそうだ。小学校1,2年生といったところか。
それが終われば、能力持ちの子はその能力を使いこなすために行動する。方法はそれぞれだ。
そうじゃない子は、一時的に教養機関を離れ、社会科見学に出る。
どんな仕事があるか。何をしたいか。何が出来るか。
それが決まったら、その仕事に着くための勉強をする。
そして社会に出る。と言う事だ。

ちなみに、能力持ちの子全員が、その能力を生かせる仕事をするかと言うと、ノーである。数年に1人ぐらいらしいが。
そして、基礎教養を終えた時点で就きたい仕事があれば、能力持ちじゃない子も、もちろんいる。前述より多く、年に1人2人はいる。

そして、それぞれが自立(家を出るか否かは個人の自由であり、決定打では無い)をしたタイミングで、親の住民カード…タブレットから、子のが出てくる(?)らしい。

つまり、今ココロのタブレットには、ニコの情報も記載されているという事。
与えられた金銭然り、能力然り。
これはまた、夜にでもニコが寝た後に確認する必要があるだろう。

「どんな能力を持っているか、ココロが確認してあげて。難しい能力…という事は無いだろうけど、扱えるようにコントロールするのも、親の仕事だよ」
「…だ、よね。でも、ニコの為なら、頑張れるよ」
「キャー!」

膝の上に座っているニコをギューっと抱きしめると、嬉しそうに笑い声をあげるニコが、更に愛おしかった。

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