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第2話 『新手』


 彼は世界を憎んでいた。



 若くして両親を失った彼は親戚である叔父に引き取られることになる。
 しかし、叔父は人としてクズだった。暴力を振るい、資産を奪い、彼は叔父を憎んでいた。



 そしてある日、彼は叔父を殺した。



 彼は逃走した。


 ただただ平穏な暮らしを求めていただけなのに……。



 彼は長い逃亡生活を送ることになる。



 そしてある日、逃走中にあるものを見つけた。それは駅のトイレにある鏡。そこに映る別の世界。



 彼の欲望は平穏な暮らし。ただそれだけだった。




 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎




 事件の報告を受けて、三人は出動する。向かうは目白駅の方向。途中にあるビルに破壊者(クラッカー)が現れたとの報告だ。



 欲望の力で暴走してしまった破壊者(クラッカー)。彼らを止めなければ、この世界だけでなく、現実世界に影響が出てしまう。
 彼らには現実世界は関係ないものだ。しかし、この世界に住むものの本能が、現実世界のために戦えといっているのだ。



 現場に着くと、ビルを囲むように警察が包囲している。



「どういう状況ですか?」



 イナズマが現場の警察に状況を聞く。



「はい。犯人はビルの中で人質と立て篭っています」



「犯人と人質の人数は?」



「犯人は一人です。人質も一人、逃げ遅れた職員を人質にしているようです」



 敵は一人。ならば、数で制圧したいところだが、人質がいるとなるとそう簡単にはいかない。



 作戦会議をしようと三人が集まった時、ビルの3階の窓から犯人が顔を出した。



「早く車を用意しやがれ!! じゃねぇーと、コイツがどうなるか……」



 犯人は人質の女性に銃口を突きつける。そして下にいる警察官たちを見渡す。そこに、



「ヒーローを呼びやがったな!! オレの要求が聞けねぇのか!!」



 犯人はヒーローである三人を見て興奮する。それはそのはずだ。ヒーローは破壊者(クラッカー)の逮捕を専門としている。犯罪者にとっては天敵と言っていいだろう。



 さらに並みのヒーローならここまで興奮しない。彼ら三人が有名だからこそ、犯人の激情に触れてしまった。



「コイツはまずいな」



 ウィングが犯人の様子を見て言う。それは誰が見ても同然だ。



 だが、だからこそ時間はない。



「お前ら! 急ぐぞ!!」



 急いで話し合った内容を実行することにした。



 グラビティとウィングはその場に残り、犯人の様子を見守る。
 イナズマは犯人の死角からビルの中に入る。



 すぐに犯人はヒーローの一人がいないことに気づくだろう。しかし、イナズマの動くスピードは電気のようなスピードで移動できる。



 高速で移動し、気づかれる前に犯人のいる三階へとたどり着いた。
 扉をゆっくりと開けると、窓から外を見ている犯人と、その横で縛られて怯えている女性の姿。



 犯人は外を警戒してこちらに気付いていない。しかし、人質はすぐにこちらに気が付いた。
 これならスムーズに救出が出来るかもしれない。



 イナズマは人質を安心させるため、すぐに助けるとジェスチャーで伝える。伝わるか曖昧なものではあったが、一応伝わったようで人質は少しだけ落ち着きを取り戻す。



 あとは人質を救出するだけだ。



 イナズマは部屋に忍び込み、机や棚などに隠れながら近づく。犯人が暴れていたせいか、中は荒れていて隠れるところは多くある。
 しかし、犯人に近づくとそこには障害物はない。これでは近づくことはできない。



 だが!!



「ここまで近づければ十分だ!!」



 イナズマは走り出した。障害物がないところから人質のいるところまでは数メートル。その距離を一瞬で往復し、人質を抱えて部屋の出口まで辿り着いた。



「早く逃げるんだ」


 人質だった女性もあまりのスピードで何が起きたか、理解できなかったようだが、その一言で現状を理解して警察のいる下のフロアへと走っていく。



 そして人質を救出した音で犯人が気づいた。



「ヒーロー……いつの間に…………」



 顔に傷のある若い男。人質を奪われたことで激情して襲ってくるかと思っていたが、意外と冷静である。



「…………お前らヒーローはよく働いてくれる。だが、それでも守りきれないものがある」



 犯人の様子がおかしい。何を言っているのだろうか。



「どういうことだ?」



「すぐに分かるさ。この世界を覆す。大きな事件が起きる」



「……なにを」



 イナズマがもっと情報を聞き出せないかと、悩んでいると、窓に黒い影が映る。



 そしてガラスに激突し、中に白い何かが降ってきた。それは……。



「ウィング!?」



 飛んできた。いや、衝突してきたのはウィングだ。
 そしてそれに続くように、もう一人窓から入ってくる。



 それは天狗の仮面を被った黒い羽の生えた人物。



「何者だ!!」



 イナズマが聞くと、そいつは答える様子はない。しかし、倒れていたウィングがイナズマに叫ぶ。



「新手だ!! 俺に構わずやれ!!」



 その言葉にイナズマは素早く反応に新手に攻撃を仕掛けようとする。しかし、天狗は素早く、電気のスピードで仕掛けた蹴りを素早く抜いた剣で防いだ。



「何!?」



 そのまま天狗は剣で追撃を仕掛けようとしてくる。
 イナズマは攻撃を避けるが、天狗の攻撃は素早くイナズマが能力を発動する隙を与えない。



 このままではやられる。



 そうイナズマが思った時。



 ビルが大きく揺れる。その揺れで天狗は体制を崩し、一瞬攻撃が遅れる。その僅かな隙をイナズマは見逃さなかった。
 電気のスピードで蹴りを放ち、天狗のてから剣を弾く。これで天狗の攻撃手段は無くなった。



 そう思ったが、再びビルが揺れる。今度はさっきよりも強い揺れだ。これはビルが崩れるんじゃないだろうか。



 この揺れでイナズマも体制を崩す。その間に天狗は犯人を連れて窓から逃げていく。



 逃げながら犯人は最後に一言言う。



「君たちに会えてよかった。また会う日を楽しみにしている」



 追いたいところだが、相手は空を飛んでいる。間に合わない。
 それにこの揺れではビルが持たないだろう。



 イナズマは動けなくなったウィングを背負いビルから脱出する。
 ビルを出ると同時にビルは崩壊する。そして外では……。



「これは…………」



 多くの警察官が倒れている。そしてその中にはグラビティと戦う一人の男が見える。



 ツノの生えた男。身体はガッチリしていて身長も高い。彼が一人で警官を倒したというのだろうか。



 そしてビルを壊したものあの男ということか。



「グラビティ、大丈夫か?」



 俺がグラビティに近づこうとした時、グラビティが珍しく大きな声を出す。



「近づかないでください」



 その声と同時に身体にどっしりとした重みを感じる。



 これはグラビティの能力!?



 なぜ、グラビティがイナズマに攻撃を仕掛けてきたのだろうか。
 その真相は……。




【後書き】


 謎の犯人。


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