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第二話 初戦

 この世界では魔法を使うにあたって魔力を消費する。この魔力は2つの方法で供給することが可能である。

 1つ目は周辺に漂う魔力を用いる方法。この世界において魔力は空気中の酸素などと同様に自然界のあらゆるところに一定数存在する。これらは時間経過で復活するが、一度で大量に使用するとその周辺では一時的な枯渇が発生する。

 魔力が枯渇したり大幅に減少すると詠唱したところで魔法を使うことができない。

 2つ目は自分の体内に存在する魔力を用いる方法。自然界に漂う魔力に比べればごく僅かなものであるがどんな場所でも一定量扱うことができる。

 しかしこれも使いすぎたら枯渇し、復活させるためには体内でエネルギーを生成させる要領で何かしら食事を摂る必要がある。

 敵に魔法を使わせないという目的もあり、基本的には周囲に漂う魔力を用いて魔法は使われる。

 敵も同様、この場面においてわざわざ体内の魔力を使う必要性がないのだ。

 火魔法や風魔法とは違い、直接ものを生成する氷や金属魔法は前者2つの魔法に比べ大量の魔力を必要とする。この巨大な金属の筒を生成されてしまった以上周辺の魔力はかなり少ないはず。ここで魔法を使うなら体内の魔力を使用することは避けられない。

「アイスピラー...!」

 上空を仰ぎ、足元に意識を集中させ詠唱する。するとみるみる僕の身体は筒の上...出口へと近づいていく。

 出口まであと二メートル弱といったところで上昇は止まる。流石に魔力が枯渇してしまったようだ。

 残りの距離は渾身のジャンプでどうにか乗り越える。そこから体内の魔力を使いつつ足場を形成し、無事金属の筒の外へと脱出する。すかさず詠唱を続ける。

「フロストカラム」

 極力声を潜めて発した声は、どうやら敵に気づかれることなく詠唱できた。

「なに!?」

 突然足元に生じた氷塊に足が取られてしまったようで、相手は勢い余って倒れる。足元には移動を制限させるには十分な大きさの氷の塊ができている。もし抜け出せたとしても今の衝撃で軽く捻挫はしているだろう。

「なぜ抜け出せた!」

 怒りを顕にしてそう叫んでくるが何も答えはしない。

 足元から自分の体重を持ち上げられる勢いで氷の柱を生成し、それに乗りながら円筒の上へ向かった。幸いにも敵が上に蓋をしてくれなかったおかげでどうにか脱出することはできた。

 その頃にはもうすぐ後ろまで壁が迫ってきていた。周辺の魔力に余裕があればこいつをリタイアさせることも可能だったろうがその余裕はない。急いで次の行動範囲内へと向かう。

 収縮も終わり、さっきの奴も来る気配がなさそうである。休憩も兼ねて近くに立つ街路樹のそばにそっと腰を下ろす。

「第二フェーズが終わりました。現在の生存者は三〇九名です」

 例の声がそう語りかける。

 たったの一分でここまで人数が減少していたことに驚く。多くても三〇〇人くらいしか減少しないと思っていたが五〇〇人近く減っている。

「次の行動範囲をマップに反映いたしました。一分後収縮を開始し、計三分間をかけて収縮します」

 示された範囲は、ここからすぐ近くの公園と中規模な住宅地を含む、およそ五〇メートル半径の円。次の収縮でかなり範囲は狭くなるが現在地からはあまり移動する必要がなさそうだ。

 公園の中は地形の傾斜もあまりなく、かなり見通しがいい。あの辺りに行くのは分が悪そうだ。そうなると向かうべきは住宅地。どうやらすべての家屋に鍵はかかってないようで、金属魔法で鍵でも作らない限り施錠はできない。

 そうと決まれば、安全に試験を突破するためにもそそくさと移動を開始する。

 仮にこの試験に落ちてしまった場合のために戦闘の数を増やし、脱落者救済の四〇枠を狙うのもいいのかもしれないがそこまでする勇気は僕にはない。採用する側から見れば逃げ隠れに徹している奴よりは戦闘をこなしている奴のほうが欲しいに決まっている。

 しかし試験は試験。このバトルロワイヤルを生き抜いて合格することが最優先だ。

 目的の家屋までたどり着くまで誰とも接触することはなかった。これ幸いと家の中に入り込んだ瞬間だった。

 突然風切り音のような音が正面から聞こえてくる。風魔法か!と瞬時に判断し厚めの氷壁を作り上げる。

 しかし氷壁にぶつかったそれは明らかに風ではなく、実体を持っている。レーザービームのように一直線に眉間めがけて飛んできたそれはどうやら水のようであった。

 およそ一秒をかけそれは氷壁を貫通する。身をかがめる判断が少しでも遅れていれば今頃僕の頭骨は持っていかれていただろう。

 氷越しに向こう側を覗くと、さっきまで閉じていたドアの向こうに確かに人影が写っている。

「ちっ、氷か」

 氷と水なら凍らせることができる以上こちらに分がある。

「相性が悪くて残念だったな」

 そう言いながら相手へと一気に詰め寄る。右手に剣を模した氷の棒を生成しながら。

 引こうと思えば玄関からすぐに外へ出ることはできただろうが、とりあえずここで一人倒してもしもの場合の保険としておこう。そんな考えを胸に剣先を相手の首めがけ右手を持ち上げる。

「いや、それはどっちのセリフかな?」

 この期に及んで何を言っているのだろうと、一瞬躊躇する。これから、なにかとんでもないことが起こるのではないか。そんなモヤモヤが生じると同時に...

 敵が勢いよく水をぶっかけてくる。それにより身体も、服も全身びしょ濡れになる。少し口に入ったそれはしょっぱい味がする。

「ダイア、今だ!」

 そんな叫び声と同時に右手にあったドアが開き...まばゆい光の後、全身に強烈な衝撃が打ち付けてきた。

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