ナウヴェルの路
俺にとってはクソ面白くないったらありゃしない馬鹿騒ぎが二日間ぶっ通し。だがそれもようやく終わりを告げた。
だって、主賓は俺じゃなく急遽ルースに決まったもんだから俺はほとんど蚊帳の外だったしな。けどそっちの方が都合が良かった。酒なんて全然飲めねえし。
俺はといえば、例の双子とずっと遊んでいた。
最初はまるで死にに行くかのような目をしていた二人も、じゃれあっているうちに……そう、本来の子供らしさを取り戻してきたんだ。
チビがいたらお姉さんにしてあげたいくらいの快活さだ。
でもってタージアの方だが、あいつは暇を縫ってはルースから預かった分厚い事典の解読をしている。パデイラで見つけたあの本だ。なんでも現在使われている文字じゃないみたいで、まずはそれの解読から始めないといけない。しかもいきなりこんな孤島に飛ばされちまったもんだから資料もゼロ。なもんだから全部二人の記憶の底からありとあらゆる資料を引きずり出さないといけないという……そうだな、早く帰りてえ。チビもそうだし、トガリのメシも食いたいしな、なんて。まだ家から出て数日しか経ってないのに、めちゃくちゃ懐かしさが込み上げてくるんだ。
そして、この双子。聞けば聞くほどこの島の闇のような風習が見えてくる。
どうもこの島では、双子っていうのは神の使いとして扱われるらしくて、産まれたらすぐ親元から離されて、まだ見ぬ生き神様にお使えするがために作法やら何やらをずっと教え込まれるんだそうだ。
そう、すぐに親から離されて、しかも親も名乗ることすらできない。だから生きてるかどうかも分からない。
まるで……あの時の俺みたいだ。だからこいつらを見ていると子供の時の俺の姿がダブって見えちまう。
それはタージアも同様。双子と話すたび、妙に寂しげな表情を浮かべていた。
「バシャニー様、今日はお日様がいい感じに上ってる。ナウヴェルのとこに行こう!」
まだベッドで寝ぼけてた俺の身体の上に、イファーとエファーがのしかかってきた。もうすっかり俺のことには遠慮しなくなってきたなこいつら。
あー、言われてみたらそうだった、鎧の人に会ってみたいって話したことすっかり忘れていた。
タージアも同様に行ってみたいんだと。ここの島の伝承とかを色々調べてみたくなったし、それに本来の彼女の……つまり、この島に自生している薬草を見てみたいって。目を輝かせて俺に話してた。
え、神様の仕事? 知るかそんなモン。黙って出たって別に困りゃしねえし。ルースが代わりにやってくれるだろうさ。
……………………
………………
…………
鬱蒼と茂ったジャングルの中、石畳の敷かれた道を二人に手を引かれてしばらく歩くと……なぜか行き止まりだった。
「伸びるのが早いからね、ナウヴェルの家はすぐ隠れちゃうんだ」
「バシャニー様は力の神様。だからこれくらいの葉っぱも蔓も全部どかすことできるよね」
っておい、決めつけるんじゃねえ。いつから俺が力の神に変わったんだ。
だけど……まあしょうがねえよな。斧も持ってきてなかった俺は、一人ひたすら3人のために道を開く作業に没頭していた。
「俺、いったいなんのためにこの島に来たんだっけ」って独り言がつい口から漏れ出てしまう。
「バシャニー様、もっと一気に道を開くことできないの? ドーンって」
「バカやろ、そんなの無理だ」
「あー! 神様なのにバカって言う! 酷い言葉、長老に言いつけてやる!」
「そうだそうだ! 神様は汚い言葉使っちゃいけないんだからね!」
忘れてた、俺は神様だったんだ……ンでもって島の漁業権やら仲介やらって……ああああもう頭こんがらがってきた!
勢いに任せてぶちぶちと道を埋め尽くす枝葉やら蔦を引き抜きまくると、またたく間に古びた石畳の一本道が目の前に現れた。
「すごーい! バシャニー様やっぱりすごい力持ってたんだ!」
……やだ、もう帰りてえ。