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カミサマ降臨

いよいよ上陸……ってわけでもなかった。まずは先に交渉担当がひとり降りて島へと向かっていくのが見えた。

「ああ、いきなり俺らが乗り込んでったら島の連中に驚かれるわトラブルの引き金になるのは目に見えてるからな。だからまずはお伺いを立てなきゃならねえんだ」と船長は話してくれた。

「頼むぜ、あんたが切り札なんだからな」と背中をパン! と叩いて気合を入れてはくれたものの、俺だって不安なんだよな……

しばらくして交渉担当の男が、砂浜から来ていいぞと大きく腕を振っているのが見えた。

いよいよ……か!

目をこらすと、さらに向こうから浅黒い肌をした島の住民らしき連中がぞろぞろと。みんな今の俺みたく、片肌と腰回りだけの布を身にまとっている。



じゃ、あとは頼んだぞと船長は姿を消し……いよいよ俺の出陣が始まるのだが……やっぱ変な気分だ。

例の椅子に乗せられ、四名の乗組員が運んで。

俺は偉そうにどっかりとそこに腰掛けてるだけなんだけど、なんか、こう……だんだん申し訳なく感じてきちゃって。

砂浜にいた島の男たちは、最初は槍を手に警戒した面持ちで船を見ていたのだが、俺の姿を見た瞬間に驚きの表情に変わった。

「バシャニー様だ! バシャニー様が来たぞ!」

みんな武器を放り捨て、ひざまずいて、ひれ伏して……

ロゥリィが言ってたっけな「基本は何もしなくていいよ。どっかり腰掛けて、なおかつ威圧する目で周りを見ておけば、みんな抵抗しなくなるから」って。

落ち着け俺……戦いの時みたいに、キッと睨みつければいいんだ……!



ー約束通り、バシャニーの生き神様を連れてきたぞ。



ーおお、そうじゃ……あれこそが我が島の戦神いくさがみバシャニー! ついに降臨したのか!



耳をそばだてると、服も髪飾りも違う、恐らくはこの中でいちばん偉いのであろう島の男と交渉人との間でそんな会話がされていた。つーか言葉通じるんだな。



そう、あとは練習通り神様らしく毅然と振る舞っていれば、全ては平和におさまって、バクアとの漁業権が締結されて……



そんな最中、別の男たちがまた何やらざわざわし始めてきた。

俺の正体がバレたのか? いや違う。連中は俺の方でなく、さらに後ろ。そう。船の方をじっと見ていた。



ーおい、あれ白神様じゃないのか?



ーそうだ、あの白く輝く毛並み……間違いない、白神様も降臨されていたのか!



ー白神様だけじゃない! 隣にいるのはもしやセルクナの巫女では!?



ーおお、あの髪と肌、まさしく失われしセルクナの巫女!



ー白神様とセルクナの巫女が同時に我らのもとに姿を見せてくださった! みんな、今宵は盛大に宴を開くぞ!



一斉に歓喜の雄叫びが上がった。だが視線の先は俺じゃなく、何故か同船していたルースとタージアだった。

白神ってのは言うまでもなくルース。

そしてセルクナ……うん。これもわかる。タージアのことか。



雄叫びを合図に、茂みの中から隠れていたであろう何十人もの島の民が、俺ではなく……ルースとタージアを担ぎ上げた。



「ちょ! 僕は神様じゃないですから!」

「いやぁぁぁあ! 来ないでくださぁぁぁい!!」



ルースもさることながら、人間恐怖症のタージアは捕まるまいと必死に逃げているし! ヤバい……!



つーか……俺の立場は?

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