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エピローグ

 世界は荒廃していた。

 日本だけでなく、各国で同時多発的に”ゾンビ化”の波は広がった。

発症せずに済んだ人々は難を逃れるため、街から遠ざかった。

無人となった世界各地の石油精製プラントは機能不全を起こし失火。

住宅街で起こった火事は全てを燃や尽くし、終わりが見えぬほど延々と広がった。

各発電所は次々と機能停止していき、僅かに電力が届いていたその近隣の地域にさえ、完全に及ばなくなった。

職員が逃げる際、緊急停止や安全モードにしておいた発電所はそれだけで済んだが、一部の原子力発電所は急激な電力消費の減少を受け、メルトダウンを起こした。

地下鉄や地下街はすぐに排水ポンプが機能しなくなり、徐々に水が溜っていった。

家電製品、コンピュータ、スマートフォン、電話、医療器具…

当たり前のように電力に依存していた社会は、それを失うことで完全に機能しなくなった。


 ほとんどの国で政府、軍は機能しなくなった。

真実を知ることができる立場の者ほど、不安や恐怖が大きくなり、発症していったからだ。

日本は免れたものの、一部自暴自棄になった為政者のせいで核を使用した国もあった。

人々は発症者の蔓延る世界で、残りの食料を奪い合い、時には殺し合った。


 生き残った者の中には、本当は、ゾンビウィルスなどはなかったんじゃないか、と言う者もいた。

動画の中で医者が勝手に言っているだけで、誰もそのウィルスを発見することはなかったのだから。

投稿された動画に踊らされ、ノシーボ効果によって本当に発症したようにみえた患者がいただけなのでは?と。

しかし、荒廃した世界ではそれは証明できなかった。


 そして、さらに時は流れ、それから世界がどうなったのか、誰にもわからない。

ブアメードの血のように、最後の一滴が絞り取られると神を惑わすことができた時、或いは本当に神は現れたのか。

それはゾンビ以外、ほとんどの人間がいなくなった世界、壊滅した情報化社会においては、誰も伝え聞き知ることができないのだから。

 ◇

 一人のゾンビが歩いていた。

累だった。

憎しみを未だ暴走させ、その対象を見つけようと彷徨っている。

累はふと、空を見上げた。

いくつもの光の玉が、核の冬で覆われた雲の隙間から現れた。

天から舞い降りた銀色の光、それはUFOのようであり、天使のようでもあった。

累はそれを仰ぎ見ながら、届くはずのない手を伸ばし、なんとなくうれしそうに喚いていた。

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