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6話

「改めまして」

連れてこられた場所…いや、空間と言ったほうが正しいだろうか…で、思わずキョロキョロと辺りを見回す。

「リアラの動物ショップに、いらっしゃいませ~!」

ココロをここに連れてきた張本人が、ニコニコの笑顔でそう述べる。
動物ショップ?家畜屋とは違うのか?なんてことも思ったが、確かに視界に入るものを見る限り、確かに動物ショップで間違いはないだろう。

「す、凄い種類ですね…」
「はい!私、元々動物に懐かれやすい体質で、えっと、ブリーダー?って言うんでしたっけ?お世話も大の得意なんです!ここではさらにスキルもあって…」

…なんだか話が長くなりそうだ。改めて辺りを見回す。
見える範囲でも種類豊富だ。
王道な所では犬猫は当然、10種類以上はいるだろう。
げっ歯類も鳥類も沢山いる。
この空間がどれ程の広さがあり、総数は計り知れない。

「え、待って。これだけの動物がいるのに、静かすぎない?」

今更気が付いた。物音と言えば、自分の呼吸音とリアラの喋り続けてる声だけだ。
それぞれ種類毎に檻に入れられているのに、一切鳴き声が聞こえない。

「あ、それはですね。檻の中は更に別空間に繋がってるんです。中は動物によって過ごしやすい環境になっていて、見えてるのは一匹ずつですけど、他にも沢山入ってますよ。あ、音は漏れないようになってます」
「へぇ~…」

それもスキルの一環だそう。
餌なんかも、中で自然に湧き出るようになってるんだとか。

「あ、そろそろかな」
「え?」
「実は、今日産まれる予定の子が居るんです。もし良ければ、見ていきませんか?」
「いいんですか!?」
「もちろです!」

再び手を引かれて移動する。
移動の間にも檻の中に何がいるのか横目で見やる。
…いや、うん。見間違いかも知れない。いや、でも…

「え、ここ動物園だっけ?」

思わずつぶやく。途中から見える景色がおかしくなって来た。
最初は普通だった。
犬猫にげっ歯類、ウサギ、小鳥。魚も普通の範疇だろう。ここまではペットとして需要がある。
その後は牛や羊山羊等の家畜類。ココロが求めていたものだ。
おかしくなったのはその次。まずカンガルーが見えた所でん?となった。
一瞬ワラビーと間違えたと思ったけど、ワラビーはワラビーで別にいた。
その先はもう、動物ショップより動物園と称した方が正しいと思える動物ばかり。
トラにライオン、キリンとゾウ、パンダまでいた。
それ以外にも、見たことのない動物もそれなりにいるのだから、動物園でも間違いないと思う。

「あ、よかったぁ。間に合った!」

リアラの声に正面を向けば、まるで保育器のような物の中に真っ白なタマゴが1つ。
産まれると言うことは、ここからなのだろう。
よく見れば、薄っすらとヒビが入り始めている。

「もうすぐですよ!わぁー、今度はどんな子だろう」

リアラはキラキラとした目でタマゴを見つめている。
タマゴから動物が孵る瞬間は、これが初めてだ。リアラに釣られる形で、タマゴを見つめる。
ピシリと、ヒビが深くなった。
中で何かがタマゴを割っているのか、欠片が剥がれ落ちていく。
タマゴが完全に割れて、中から二対の目が覗いた。

「キャアー!産まれましたぁ!」
「……」

キャアキャアとはしゃぐリアラの隣で、思わず唖然とする。
うん。普通のタマゴにしてほ大きいな、大型の鳥のタマゴかな、なんて思っていたのはどこかへ消えてしまった。

「えーっとこの子は…コリーって犬種みたいです!!」

タマゴから犬が産まれるなんて、想像すらしたこと無いのだけれど。
思わずポカンとして、産まれた?ばかりの仔犬を見つめる。

「こ、ここでは犬はタマゴから産まれる…の?」
「一番最初の一組はタマゴからですよ。オスメス一匹ずつ産まれるので、そこから増やしていってるんです」

なるほど、確かにブリーダーだ。
恐らくタマゴから生まれてくるのも、そのスキルの一環なのだろう。
これはこれでまた面白いスキルだ。
……不思議な事があっても驚かないぐらい、もう充分毒された気がする。
改めて周りを見れば、同じように保育器に入ったタマゴがいくつか置いてある。
あそこからも、他の動物がこれこら産まれてくるのだろうか。

「あっ、そうでした。お買い物でしたよね」
「あ、はい。あ、でも……」


結局、リアラの店で購入するのは諦めた。
リアラのブリーダースキルと、ココロの自動畜産。どちらも特殊過ぎる。
もしかしたら杞憂に終わるかもしれないが、特殊かつ、似たタイプのスキルを行使したら正直どうなるか、それが少し不安だった。
リアラは残念がっていたが、今後牧羊犬が必要になってきたり、ペットとして動物と暮らしたくなった時に、お世話になる事を約束して、今日は店を後にした。


しかし、家畜は別の店に行き、購入した。
最初は鶏と牛だけのつもりだったけど、タイミングが良いのか悪いのか、鑑定スキルを持つお客さんと鉢合わせ(家畜だけで無く、副産物も売ってる店の常連さんなのだとか)、家畜関連のスキルを持っている事を店主に暴露され、言いくるめられた結果、豚、ヤギ、羊と買わされてしまった(大分値引きしてもらったが)。
もちろん、牛は乳牛だけで収まるわけがなかった。

「こ、これで半自給自足が出来ると思えば……うん、そう思い込んでしまおう」

そう腹を括って、帰宅した。
動物達をそれぞれ小屋に入れると、やはり賑やかになった。妖精達も楽しそうに動物達と触れ合っているのを見て、半強制的にとは言え、買って来て良かったなと胸を撫で下ろした。

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