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7話

「おー、今日も皆元気だねー」

動物を購入してから、1週間が経った。
世話関係はスキルで補っているとはいえ、1日に1度は様子を見に小屋へ足を運んでいる。
ちょうど放牧されたところのようで、メエメエモウモウコケコケと随分にぎやかだ。


鶏5羽に牛が6頭、豚、ヒツジ、ヤギが3頭ずつ。これが購入してきた数。
鶏は全て雌、他はオス1頭ずつ。
目的は半自給自足生活であり、本格的な家畜業は望んでいないのでこれで十分だと思う。
鶏は雄がいなくても卵は産む。むしろ雄がいると有精卵になってしまうので、必要になったときに購入しに行けば問題ない。
他は、特に乳牛とヤギは妊娠、出産をさせないと乳が出ないので、雄は必要だった。

とはいえ、家畜業に詳しいわけではないので、当然スキルだよりになっている。
いつ交配させるかの問いに、乳牛とヤギ定期的に、他は自然交配を選択する。
元々購入予定だったのは鶏と乳牛だけだったから、無理にさせる必要もないだろう。

「うん、卵も牛乳も問題なく採れてるね」

タブレットで収納状況を確認してみれば、確実に数は増えている。卵は朝使ったから若干減っているが。
小屋の周り、一定間隔より遠くへは行かず、思い思いの場所で牧草を食べる動物たち。
鶏小屋は周りの牧草を刈り取り、生えてこないように土を掘り返してあり、その部分をグルっと柵で囲っている。
土の中にいる虫を主な餌として、足りない分は小屋の餌箱に食べやすいように加工された牧草が入っている。
柵で囲っているのは、牛たちと接触してケガしてしまわないようにだ。
反して、動物小屋の周りは何もしていない。餌は牧草で賄える(念のため買ってきた餌は、初日は食べたけど牧草を食べたとたん見向きもしなくなった)し、鶏小屋以外行ってほしくない所もない(橋は渡れない)。それなら行きたいところに行っても問題ないからだ。

「健康状態も問題なし、っと」

タブレットに表示される内容も、特に問題なかった。
動物地帯を後にする。今日は買い出しの日だ。

「えーっと、お肉と魚も何かあれば見てこようかな。あとはパンも少し欲しいし…」

自給自足の生活が整ってきたとはいえ、足りないものも当然出てくる。
頑張ればここだけで生活を賄うのに問題ないが、それでは人との交流がなくなってしまう。
引きこもりではないがそれはつまらない。
だからこそ、完全な自給自足ではなく半がちょうどいいんじゃないかと、ココロは思った。



「いってらっしゃーい」
「うん、行ってきます」

もう恒例となっている、妖精たちに見送られながら、クッキーの引く馬車に乗って街を目指す。
しばらくは南か東の街で買い物を済ませていたから、久々に中央へ行ってみてもいいかもしれない。
そろそろ暑くなってくる時期なので、衣類も調達してこよう。
帰る頃には、朝作ったフルーツ入りのゼリーが出来上がっているころだろうか。

あれこれ考えていれば、ハロルドの(むしろリックのといった方がいいのだろうか。よくわからない)家にたどり着いた。

「…ー」
「?」

馬車から降りていると何か聞こえた気がして、辺りを見回すが特に変わったことは何もなかった。
耳を澄ましてみても変わらず。気のせいかと思い、家の中へ入った。


予定していた物もそうでない物も、満足いく買い物を終えて、南の家に戻ってきた。
帰りは途中鉢合わせたハロルドに、この後乗馬訓練できるか聞かれて、億劫になりながらも必要な事ではあるので了承して、一緒に家へ向かった。
乗馬訓練も、この1週間何度かやったが、ようやく乗るのに慣れたところだ。一人で歩かせるのはまだ怖いので、ハロルドに手綱を持ってもらっている状態だ。
そういえば、まだ義務教育期間中、体育は苦手だったなと最近思い出した。体力は人よりある自信あるのだが…

「…ーー」
「あ」
「どうしたの?」
「ん、何か聞こえた気がして」
「そう?」

来た時と同じく、何かが聞こえた。今度はさっきよりも大きかった気がする。
でもやはり、何もない。
同じ様に辺りを見回したハロルドも、何も見つけられなかったようだった。

「気のせいじゃない?」
「か、な…?」

1度目は確かにそう思った。でも2度目ともなると…
気にはなったけれど、ハロルドの時間を無駄には出来ないので、後ろ髪を引かれながら帰宅することにした。



乗馬訓練の結果は、相も変わらずと言ったところ。多少一人で歩かせられるが、怖がっているのがクッキーに伝わるらしく、すぐに止まってしまう。
ここからは気持ちの問題だろうというところで、今日は終わりになった

「今日はゼリー?」
「うん、果実畑でとれた果物を入れた、炭酸のゼリーだよ」
「へぇー、色々思いつくね」

ハロルドにも一つゼリーをごちそうする。彼が来た日は、お世話になっているお礼としてお茶に誘う。
乗馬訓練の日は、特に決めていない。ハロルドの仕事の都合だ。
ココロのようにこの世界にやってくるの、10日前後に1人。どうやら、忙しくならないように世界の意思が受け入れを調節しているようだ。
つまり、ココロの前にやってきたのはこの間知り合った動物屋のリアラで、ココロの後に1人きているという事になる。次もそろそろというところだろうか。

10日前後というのは、来た人がそれを受け入れて生活を始められる期間。死んだことをまず受け入れるのに時間のかかる人もいれば、ココロのようにあっさりと…という人もいるという。
どうやら、ココロの次の人も、時間はかからなかったようだ。

それ以外に、各国にある家にも様子を見にいっているそうだ。
それぞれ管理を任せているのは彼の兄弟達。まだ少し幼い子(と言っても高校生くらい)もいるそうで、心配なのだそうだ。うん、いいお兄ちゃんだ。

ゼリーを食べ終えたハロルドを見送って、妖精達とテーブルを囲んでゼリーを食べる。
ゼリーに入れた果物は、それぞれに選んでもらったので、同じものだけれどそれぞれ違いがある。
他の子のを見ながら、こんどそれにするー等と、次も楽しみにしている様子がうかがえる。

そんな光景を見ながら、ふと、街で聞いた物音を思い出す。
あれは一体何だったんだろう。小さすぎて殆ど聞き取れなかったけど、物音というより、何かの声だったような気がする。声…

「!!」

ガタリと音を立てて立ち上がったココロに、妖精たちは驚いて一斉にココロを見上げる。

「ココロー?」
「どしたの?」
「あ、ううん。なんでも…なくない!ちょっともう一回出掛けてくる!」
「え?」
「いてらっしゃーい…」

急な行動に、ポカンとしている妖精たちをよそに、ココロは家を飛び出した。

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