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18話

馬車の代わりに、妖精が住む土地へ入れて欲しいと言われて、思案する。
ココロがあの土地へ入れたのは、妖精たちが待つみどりの手を持っていたから。つまり、妖精たちに認められたことになる。
なので、ココロがハロルドをあの土地へ入れるようにする方法は無い。いや、分からない。
じゃあ、どうすれば良いのだろうか。

などと考えていたら、既に到着していた。
考え込んでいたので、恐らく無言になっていただろうが、ハロルドは気にしてる様子が無い。気遣ってくれたのだろう。

「どうすれば入れるかわからないから、妖精達に聞いてみるね。ちょっと待ってて」

馬車を降りて、ハロルドへ一言言い残してから中へ入る。
すると、そこで待っていたのか、帰ってきたのが分かって飛んできたのか、妖精達に一斉に囲まれた

「おかえりー!」
「ココロおかえりー!」

わぁわぁと皆口々にお帰りと行ってくれる。
予想以上に帰りが遅くなったから、もしかしたら不安に思っていたのかもしれない。
帰りを待ってくれる存在は、久々だ。
実家を出て一人暮らしを始めた後はもちろん誰もいなかった。
嬉しさを隠しきれず、一人ひとりにただいまと返していく。
一通り終わってから、ハロルドを外へ待たせていることを思い出す。

「そうだ。皆に聞きたいんだけど、お客さんをここに招くには、どうすればいい?」
「おきゃくさまー?」
「そう。お世話になってる人なんだけど…」
「いらっしゃいませ、する?」
「うん、そうしたいの」
「いらっしゃいませだー!」
「え?」

そこまで話して、どこかずれている事に気がつく。途中まではふ普通だったが…。
妖精達の言葉から察するにもしかして…

「いらっしゃいませって、招待すればいいの?」
「そうー!」
「みどりはそうやってたー」
「そ、そうなんだ」

どうやら、難しく考えすぎていたようだ。
確かに、人の家に入るときは家人の招待や許可を得てからになる。
難しく考えてしまったのは、ここが地球とは違う世界だったり、この土地自体、他と違うからかもしれない。

「あ、動物や乗り物も入れられる?」
「だいじょうぶー!」
「ありがとう」

念の為確認してから、ハロルドの元へと戻る。
ハロルドは馬車に持たれるような体制で、ココロが出てくるのを待っていたのか。

「お待たせ。入るのに問題無かったよ。馬車も入れられるって」
「良かった、ありがとう。難しいかもって思ってた所だから」
「私も難しく考えてた。じゃあ、中へどうぞ」
「お邪魔します」

馬を引きながらココロが示す入り口へ進むハロルド。
許可のない人が入ろうとすると別の場所に飛ばされると言っていたので、少しハラハラしながら見守る。
けれどその心配は無用に終わった。境界の先を見たハロルドが漏らした声に、苦笑を隠せなかった。

「これはまた…」
「すごいでしょ。私も昨日同じ事思ったよ」

朝に少し草刈りはしてもらったが、全体からしてほんの一部に過ぎない。そしてその場所はここからは見えない。
ハロルドの隣では、馬がもしゃもしゃと草を食み始めている。
その馬から、馬車を引く道具を外しながら、ハロルドは話し出した。

「ある程度は予想していたけどね…。馬車はこの辺りに置いておくよ」
「ありがとう」
「馬はさすがに外ってわけにいかないけど…」
「あ、それなら家の近くに馬小屋建てよう」
「え、今から?」

馬を引くハロルドを誘い、家に続いている草の間の道を通る。
ちなみに二頭いるうちの一頭はハロルドの馬で、まだ馬車に繋がれたままだ。帰りに外して乗っていくらしい。
しばらく歩いて、昨日建てたココロの家が見えてきた。

「これは…」
「妖精達の力を借りて建てたの。馬小屋も、どう言うのがいいか分かれば大丈夫だよ」
「あぁ、それなら…」

ハロルドがタブレットで見せてくれた映像を頭に思い浮かべ、周りにいた妖精達にお願いをすると、心得たと言わんばかりに飛んでいった。すぐに加工された木材が運ばれてくる。

「!?」
「あ、そっか。ハロルドには妖精が見えないんだっけ」
「なるほど、妖精がいるのか。そうだと分かっていても驚くな」

ハロルドと出会ってから驚くのはココロだけだったが、ここではどうやら逆のようだ。
次々と運ばれてくる木材に、(ハロルドから見れば)勝手に組み上がっていく小屋に、目を白黒させている。

「そう言えば、どうして妖精はここにしかいないの?」
「それに関しては、俺も詳しく知らないんだ」
「そっかぁ」

そんな話をしている間に、小屋が出来上がっていた。
馬を中に入れるついでに中を覗いてみる。初めて馬小屋を見たので、出来が、いいのかは分からなかった。

「これは上等なの作ってもらったな。コイツも喜んでる」
「そ、そうなの?」

馬の表情はよく分からないが、気に入ってくれたのなら問題は無さそうだ。
しかし出来たのは外装だけ。これは昨日、家を建てたときと同じだった。

「何か足りないものは無い?」
「そうだな。餌箱と水飲み場、それからものを置いておける棚が欲しいかな」

一頭用なので、柵は要らないとの事。行動を制限されずに過ごしてもらうためだ。
要望通りのものが1つずつ出来上がる。餌は外に生えている草で充分だそうだ。草というよりも牧草に近いと、ハロルドは言っていたから、元は牧草地だったんじゃ無いだろうか。
外から牧草を持ってきて入れ、さて水はどうしようと考える。
まだ家の水道も通っていない。そもそもどこに連絡すればいいのか等と考えていると、水飲み場にはキレイな水が溜まっていた。そしてもう飲み始めている。

「水の事なら任せて!いつでもキレイな水を入れて置けるよ!」
「そうなんだ。ありがとう。で、ハロルドは何してるの?」

出来上がっていた棚の前にいつの間にか移動していたハロルド。何かをしまっているようだ。

「馬の世話に必要な物とか、色々。鞍とかもね」
「く、鞍!?」

世話に必要な物は有り難い。動物の世話に道具は必要だ(犬猫しか知らないが)が、鞍とは…馬車用の馬では無かったのか。
ちなみに乗馬の経験はない。動物園て乗馬体験はしたことあるが、あれはノーカウントだ。
なんて事を思っていると、表情から察したのか、ハロルドがクスリと笑みをこぼす。

「ココロなら大丈夫だよ。最初は手助けするし」
「そう言われても…」
「っと、そろそろ帰らないと遅くなる。何かあったら連絡して」

そう言って最後に、連絡の仕方(タブレットの使い方。電話とは違った)を教えてくれた。
外に出ると、既に薄暗くなっているので、その場で別れる。
ハロルドが見えなくなるまで見送ってから、ココロも家へ入った。

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