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新たな旅立ち

「結論から言うと、聖女ルミナに関しては……罪に問わぬ事となった」

『……っ!? 待って! それはおかしいわ!』

『ルミナ?』

 無罪放免を聞いて喜ばないルミナに、勇者ベアルがそっと手を握る。

『元々崩壊するはずだったレアムに関しては、良い様に利用した事については悪かった、そう思ってはいても責任まで感じてないの。私達が介入しなければ7割の国民が死に絶え、隣接する国々に領土を引き裂かれていた未来しか無かったから……。それでも責任を取れと言われれば罰は受けるつもりだったの。でも帝国は……私の我侭で戦禍に巻き込んだ。その帝国からもお咎め無しなのは納得いかない!』

「……聖女ルミナを罪に問えば、帝国の興りを揺るがし、そしてそこな勇者も罪に問う必要が出てくる」

『そんなっ……!』

『落ち着いて、ルミナ。そうなれば一緒に罪を背負うから』

『ベアル様……』

 こんな中でも良い雰囲気を作り出す二人に、周りは少し表情が固くなる。

『っつーか、ぶっちゃけ勇者1人の責任よね? 具体的には勇者の節操無しな性癖?』

(((((うんうん)))))

 可憐さんの言葉に皆が頷きを持って返す。

『あ、あれぇ!?』

『まぁその処刑も百数十回に渡って行われたんだ。もう良いかって話だったんだろうが……』

『そそそ、そうだよねっ!』

『お前の態度でもう一回やるか? って話になってんぞ?』

『ご勘弁をっっ!』

 勇者が情けない内股のポーズで祈る仕草を取ると、方々から盛大な舌打ちが帰ってくる。

『えええ……』

『まぁ今のソイツもあんたも、力らしい力は無い。普通に生きて、普通に歳取って、普通に死んだら良い』

『……有難う御座います。……ベアル、様?』

 リッキーの言葉に素直に頭を下げたルミナだったが、ベアルの様子がおかしい事に気付いて様子をうかがう。彼は限界まで目を見開いて、信じられないといった表情を浮かべている。

『……僕は……死ねるのかい? 普通に……生きて……歳を取って……子供達や孫達に看取られて……?』

『死ねる。理不尽に生き返らされたり、死んだ場所が悪くて生き返った途端死んだりを繰り返したり、仲間が年老いていくのに1人だけ若いまま、ただただ見送るしか無い……そんな地獄は終わる』

『(ポロポロポロポロ)偉い人に(ヒック)子供を作れとか(ヒック)好きでもない娘と(ヒック)真似事する必要は……』

『無い。これからはルミナだけ見てやれ。戦うために、ついて来てもらだけのために嘘を吐く必要はもう無い』

『………………』

 崩れ落ちたベアルは、声を上げずにただただ涙を流し続けた。それでもずっとルミナの手を握り続けた。

『……なんかそう聞いちゃうと、勇者が節操無かったのって境遇もあったのかしらね? だとしたら少しだけ気の毒かも知れないわ』

 可憐さんが少し同情する素振りを見せると、女性陣も少し同情するかのように泣き続ける勇者を見つめる。

『それはこいつが猿だっただけだ。帝国でアレだけ光魔法使える人間があちこちに沢山居るのは、少なからずこいつのせいだからな。勇者因子に聖女の光魔法が吸い寄せられて反応した結果だ』

「「「「『うわ、サイテー』」」」」

『あれぇ!?』

『大体、何でフローレンシアがルミナに似てると思ってんだ?』

『たまたまじゃないの!?』

『どこかでルミナの姉妹と血縁があるんだろうよ』

「そそそ、そんな事が……」

『まぁ好みまでルミナと似てるからかも知れないがな。二つ返事だったのは……』

『あー……そう、なんだ(カァァァッッ)』

「え? えっ!? あっ……(ボフンッッ!)」

<何の話ー?>

『勇者もルミナも、長く情報思念体やってるからあの体が定着してるが、俺と可憐はそうはいかない。肉体が必要なんだよ。それに魔王の器はともかく、フローレンシア自体も可憐が長く抜けてる状態はまずいんだ』

「ま、つまりこれからも魔王とフローレンシアの身体を必要とするからよろしくねって話だ」

<なるー。両手に花ってことかー>

『なびぃぃいっっ!?』「なびさぁぁんっっ!?」

「的確に抉ってやんなよ……」

<とぅいまてーん>

「じゃ、そろそろ入れ替わろっか?」

『そうだな。お前らの問題が終わってるならこのままで居る必要は無え』

 バトンタッチですね。

 俺復活!

「……よし。じゃあ、可憐」

『あ、待った。フローレンシアが納得してるなら、えっと、フローレンシア自身が……その、ね?』

「え? え?? ………………えぇぇぇえええ!?」

『納得してるのよね?』

「そそそ、そうっ、ですっ………………けど」

「まぁ、な。フローレンシアの親父さんや祖父さん達含めて、関係者全員から許可はもう取ってる」

『そうなの!?』「えええっ!?」

「勇者の処刑中にな。特に親父さんとは拳で語り合ったぞ」

『マ・ジ・デ!?』「お父様ぁ!?」

「良い親父さんだな」

『……そうね』「……はい」

「可憐はああ言ったがどうする?」

『フローレンシア?』「はぅっ!? ぅぅぅ……じゃあ! 可憐さんも一緒に!」

「は?」『はい!?』

固まる二人と引きません! なポーズをとるフローレンシア。

「………………良し、埒が明かねえ。まずは異界だな」

『ちょまっ、りっくぅぅぅんっっ!?』「(カァァァッッ)」

「じゃ、また明日」

 おつかれー。<たのしんでらー>

 そして二人が消えた後、集まった人々はこう思った。

(((((羨ましい……)))))

『……僕等との温度差激し過ぎない?』

『べアル様……(きゅっ)』

『ま、いっか……』

 勇者は程々にしておけよ? 刺されるぞ。

<ぱきゃーんっ>

 それ潰れる音か?

<爆ぜる音ー>

『ひぃっ!?』

「もう、ノーコンちゃんもナビも何言ってんだか……」


 ………
 ……
 …


 次の日、魔王リッキーとお姫様抱っこされたフローレンシアが姿を現すと、

(((((爆ぜろ)))))(((((羨ましい)))))

 心の声は二分されるのだった。ちなみに勇者達や魔王達に触発されてくっついた男女が多かったとか。

(マジデ?)(ええっ!?)

 マジデ。

(カァァァッッ)(カァァァッッ)

 昨日はお楽しみでしたね?

(やめろ!? まさか見守らされるとか混ぜられるとか、そんな上級プレイ求められるとか思ってなかったよ!?)

(いやー!? やめてやめてやめてー!!)

 ……ぶふっ、やっぱ面白いな。あんた達。

(はいはい)(そうですか……)

 で、魔王様、どうすんの?

「そうだな。挨拶とかは済ませてあるけど、もう一度挨拶回りしてから……行くか、ハネムーン」

「えぇ!?」

「何だよ? 流石に俺の気持ちは分かってるだろうが? 疑ってんのか?」

「ううう疑ってなんかぁ……ない、ョ?(カァッ)」

「よし、じゃあまずは……可憐」

「うっ……なぁに?」

「(チュッ)」

「「「「「ッキャ――――ッ!!」」」」」

「「「「「爆ぜろおぉぉぉっ!!」」」」」

「………………(ボフンッ)きゅぅ」「きゅぅ」

 ゲラゲラ。許容超えてフローレンシアにバトンタッチして、フローレンシアも沸騰。諸共に倒れよった。

「じゃあ行ってくるぜ! ハネムーン!」

「おう! すぐ戻ってくるんだろ!?」

「アーチボルドか! それは分からんな!」

「ああ!? 分からんって……どこ行くつもりなんだよ?」

「魔界だ!!」

「「「「「魔界いぃぃぃぃいっっ!?」」」」」

「じゃあな! 元気でやれよ!!」

「あっ、ちょ、リィィィッキィイー!!」

 アーチボルドが止めようとするも、既に魔王の身体は宙に浮き上がっていた。

「フローラー!!」

「えええ? ちょ、ええええっ!?」

「別れの挨拶してませんわー!?」

 可憐とフローラの友達3人組とも挨拶は済んでいなかった。良いのかリッキー?

「あの三人とは何時でも顔を見せれるようにしてる」

 そうなんか。

「まだ色々話が終わってないぞ!」

「戦後処理は手伝ってくれないのかいー!?」

「学業はどうするのであるかー!」

 って言ってますが?

「学院は婚姻したら卒業扱いだったはずだ。それに所属はこれから魔界になる。戦後処理は知らん」

 適当なこと言って大丈夫かよ。

「グレイスの事っ! ありがとうっっ!」

「フローラ嬢! お礼が言えてないのだがー!」

「フローラ様ー! まだ色々聞きたいこと、ご助力願いたい事がありますのよー!」

 アレは?

「後で考える。大体3人娘経由でも良いしな」

 あー、そりゃ言えてる。

「助けてくれてっありがとうっ!」「アルモの事っ、ありがとうっ!」

「私もっ、助けてくれてありがとうっっ! ダーリンとちゃんと生きてくからっ」

 まぁココらへんは教えてやるだけで良いか?

「そうだな」

 ミエことベルミエッタは手を振っている。ん? エリエアルの姿が……って、他の女性兵士に扇がれてるな。あれは先程のキスシーンで貰い鼻血やっちまったな。致死レベルに。

「………………」

 後は……ああ、あの二人か。

『可憐様! リッキー様! 有難う御座いましたっっ!!』

『かれんちゃーん、りっきー、幸せにねー』

「お前らもなっ」

 何でここだけ反応したん?

「殆どが可憐の見送りだからだよ」

 つか、このまま魔界、行ってもええのん?

「義父殿にはもう言ってある。俺が居たら問題は起きないしな」

 そりゃ確かに。……うーん、何か忘れてる気がしてならない。

「ベルか? メイドのベルベッタ・サントラン」

 それだ!

「ガイアにのって先に待ってるよ。黒繭でな」

 えぇ……何それ。

「獣人の話をしたら死んでも付いていくってな……」

 ゲラゲラ分かる。

<分かるー>

 おお、ナビ、来たのか。

<乙女ちゃんから伝言。モモンガも入り口に置いてるから連れてけってさー>

「分かったと言っとけ」

<はいほーい。ああ、後ねー、各国への威嚇有難うってさー>

 何さそれ?

「帝国が軽んじられて来てるのは魔王が封印されてるからだろう? だから大暴れしてきてやった。ついでにレアムも俺のもんだから手を出しやがったら覚悟しとけってな」

 ………………何やっちゃってんのあんた。

<全く自重してないわねえー>

「あと、フローレンシアとの結婚も大々的に発表して回った」

 マジで自重してねえ!

<それ聞いたらフローレンシアちゃん、寝込みそうー>

「その前に魔界だ。お前らは死んで魔王に取り込まれたから、勇者の作った魔界には馴染み無いんだっけか?」

 そうだな。

<そうだけどー、私は乙女ちゃんの側に居るー>

「モモンガを通してこっちに来れるだろ。調整しておいてやるよ」

<画像見れるようにしてくれれば乙女ちゃんと見れるんだけどー?>

「じゃあそうしよう」

<きゃー! 魔王様オットコマエー!>

 そんな無駄話をしながらも、もう既に古城近くまで飛んできていた。魔王が古城に降り立つと、綺麗なお辞儀をして待つベルの姿もあった。ガイアを伴って。

「お待ちしておりました、魔王様」

「がうっ」

「おう。んでガイアはちっと弄るか。お前は光属性が強過ぎるしな」

「がう?」

「痛くねえよ。苦しくもねえ。見た目はそのままで良いな?」

「がうっ」

「う、うーん、ここは?」

「おう、起きたか可憐。奈落の淵だ」

「………………何故に?」

「聞いて驚け。ハネムーンは魔界だ!」

「はねっ……(ぽっ)じゃねえ!? 魔界ぃ!?」

「ベルもガイアもお供につく! さあ行ってみようか! 魔界旅行!」

「はっ!? ちょ、あ、ベルにガイアもいたのね。じゃなかった。まぁああぁっ……!?」

 喪女さん改めリア充さん。未見の土地での冒険はどの様になるのか?

「楽しいに決まってんだろ!!」

「だから待ってぇぇぇえっ!!」

 楽しみである!

「そうだなっ!!」

「人の話、聞けぇぇ!?」

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