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断罪

「勇者様! 勇者様! 勇者様!!」

「おっ、ちょ、落ち着け!」

 脇目も振らず縋り寄る元聖女に、魔王リッキーはドン引きだった。

「(ビクッ!)……誰? 嫌っ……ベアル様じゃない!?」

「おお、すげえ……一発で中身が勇者じゃないって理解した」

「おお、すげぇ。一瞬ベアルって誰だよって思っちゃった」

 ノーコンと喪女さんの凸凹発言が妙なシンパシーを生む。

「おい、ルミナとか言ったか?」

「何よ! 貴方には用は無いのよ! 勇者様を……ベアル様を出して!!」

「黙れ。さっき可憐……フローレンシアの頬に触れた時、お前のやらかした色々について、見させてもらった」

「やだりっくん!? 覗き!?」

「可憐のじゃなくてフローレンシアのだ。後、ちゃんと許可取って見せてもらってるっての。お前、俺を何だと……」

「んー? 遊び足りないのか何故か結婚しないビジュアル系イケメン美容師?」

「……で、フローレンシアの記憶から」

「無視しないで!?」

「後で構ってやるから待ってろ」

 可憐さん、絶句である。

「ゲラゲラ」「アハハ」

「おまっえらっ」

「でだ。それだけやらかしておいてお前、何の責任も取らずに勇者とどうなる気だ?」

「私はっ! 一目っ! ………………あいっ、だいっ……ぞれだげっ、うぶっぐっ……」

 感情が昂り過ぎてもはや言葉にならなくなったルミナに対し、魔王リッキーはその頭に手を添えて、

「ふんっ」

『ぶわあぁっ!? 何するのっ!? ……って、え? 何? 精神生命体に……なったの?』

 そこに現れたのは、ピンクの髪を後ろでまとめたポニーテールの、どことなくフローレンシアに似た可愛らしい女性であった。

「一応実体もあるだろうが」

『え? あ……本当だ』

「そっちのはテメエの本当の身体じゃねえだろ。この後どうなるにしても、テメエ自身の身体で裁かれろ」

『……そうね』

「で、次はお前だな」

「ひぃっっ!? お、お、おた、おた……」

 魔王リッキーに視線を向けられ、意識のない振りをしていたロドミナは飛び上がり、バレたらバレたで恐怖で腰砕けというか、へたり込んで震えながらも命乞いをしていた。

「え? あ、ロドミナってずっと意識あったのもしかして!?」

「らしいな。しかし、こいつはこいつで大分ぶっ壊れてやがんな。人の苦しみが好物っていう、正にあの魔族共と似た思考の持ち主だ」

「うわぁ……」

「まぁ、原因が原因だから同情はしてやる……が、」

 魔王リッキーはロドミナの頭を鷲掴みにする!

「ひぃぃぃぃっっ!!」

「その悪用しやすいスキルだけは没収だ」

 言葉通りにスキルが没収されたのだろうか? 魔王リッキーはロドミナから手を離した。

「………………ぶはぁっ。こっこここ、殺、されるかと、おも、おも、った……」

「てか、りっくんてなんでもありねぇ。ちな原因って?」

「口に出せることじゃねえな。色々地獄を見てきたってことで納得しろ。……んで次は勇者か」

『ベアル様!』

「落ち着け。……ん? 何処行った? あ゛? 逃げてる? 誰から……って可憐からか。ああもう、さっさと来いやぁ!!」

『ぶああっ!? ……って、酷いよりっくん!? そもそもそれ僕の体だったんだよ!?』

 勇者ベアル? が魔王リッキーの体から蹴り出されて転がり出てくる。

「誰がりっくん呼ばわりを許したんだテメエ。立場分かってんのか? あぁ?」

『ベアル様!』

『おっとっと、ルミナ……本当に久し振りだねぇ』

『ベアル様! ベアル様! ベアル様ぁあああっ!』

 ルミナが勇者の胸に飛び込み、全力で額を擦り付けている。二人の関係や背景、それとルミナの所業を知らない人が見れば感動の再会シーンではある。が、

『よしよし。……所でりっくん、この鎖はナンダロウか?』

 勇者ベアルは自分の四肢に巻きつけられた鎖に目を落として、魔王リッキーに問いただす。

「警告したにもかかわらず、火に油を注ぐ奴……テメエみたいな奴ぁ一定数居るもんなんだよなぁ」

『あ! 御免! リッキー! 怒んないで!』

「可憐、今から余り気持ちの良い話じゃない昔話をしてやる。どうするかはお前に任せる」

「ええ? 何よそれ?」

『えっ? えっ??』『??』

「ある所に大変器量の良い11人の姉妹が居ましたとさ……」

 魔王リッキーは聖女ルミナにまつわる昔話を始めたのだった……。


 ………
 ……
 …


「……って事なんだが、どうよ?」

「は? どうよも何もないわよ。ルミナ以外に手を出してた節操無しな元凶は潰しましょ。そうしましょ」

『え、は? ええっ!? 何を!? ……ナニを?』

「勿論(にーっこり)」

『嫌あああああ!? 助けべぐッ!?』

 勇者の口に猿ぐつわが噛まされた!

『えっ? えっ??』

「ルミナ、ちょっーと……いえ、かなりかも? とにかく待っててね。お仕置き済んだらルミナに熨斗つけて贈るから。五体満足な奴を。……できるよね?」

「任せろ」

『もがー!? もっがああああ!?』

 勇者は助けを呼んだ! しかし! 周りからは冷ややかな視線しか帰ってこなかった!

「やるなぁこいつ」「あはは、うまーい」

「内容が内容であったからな……。まさかルミナを除く全ての姉妹に手を出した挙句、4大家の始祖となったのが、その時の子供であるとか……」

「う、嘘だ……」

「もしかして……僕に女運が無かったのは、彼の所業からからきた呪いなんだろうか?」

「坊っちゃま、お気を確かに。気のせいで御座います」

「他にも当時の豪族達……後に帝国が形を成した時に貴族になった人達にまで圧力掛けてたなんて……聞いてないわよ? 勇者様。面倒を押し付けられた当時の4大家の当主様方には同情しちゃうわ……」

『もっがああああっっ!!』

 僕は無実だと言いたげであるが、彼が手を出した相手の数はちょっと言うのが憚られる。

「え? 何で知ってんの?」「言っちゃえ言っちゃえ」

 ……3桁ですね。後、魔王になってからも、魔族の女の子にちょくちょくちょっかい出してたり。

「もーじょさーん」「かれんちゃーん」

『もっがぁぁああ!?』

「なぁに? 手短にお願いね」

「うっわ、すっごい良い笑顔」「なのにこっちの震えが止まんないってすごー!」

「て・み・じ・か・に」

「勇者の被害者は3桁だそうです」「魔族の娘も毒牙に掛かってます」

「………………りっくん、張り付けお願い」

「お、おう」

『もっぎゃあああああ!!』

 この後、勇者ベアルは、よくある罪人が首と手を固定されて縛り付けられる器具にセットされた。蹴りやすい様に配慮されてるのか脚は広げられた状態で、避けられないようにか膝下から地面に埋められていた。

「悪玉誅滅ッッ!!」

『もぎゃッッ――――――!!』

 そしてバモンクラッシャーを食らっては、魔王リッキーにより癒やされ、そしてまたバモンクラッシャーを食らっては、また魔王リッキーに癒やされるという無限地獄を味わうことになる。無間地獄と言っても良いかもしれない。

「確かにな」「ある意味そうよねー」

 途中で面倒くさくなった魔王リッキーは、同じ状態の勇者を一気に100体作り上げ、

「順に潰していけ。感覚は全員で共有してるからたまに気絶するだろうが、蹴りゃあ起きる。ショック死しても、自動的に心マ入るからすぐ復帰する。念の為、最後の1人はキープしてるから全部逝っても問題ない。俺は別にやる事があるから任せた」

「お〜おっ、けぇ〜ぃ(ニッゴォ)」

『もっぎゃああああっっ』✕101

 という一幕を挟んで魔王が退場する事となり、更に途中蹴り疲れた喪女さんが、

「みなさんも、どーお? 良ければ一発と言わず何発でも」

 という言葉に誘われた女性陣に袋叩きにされるという一幕をも挟んだ。ちなみにそれだけ放って置かれたにも関わらず、ルミナはどれだけ私刑に誘われても加わらなかった。それに私刑に遭う勇者の悲惨な姿や声も、見聞きしないように目を閉じ耳を塞いでいた。その健気な様子は女性陣からの支持を得たとかなんとか……。

「大体、なんでルミナは放って置かれたの? どう言いくるめられたのよ」

『あ、あの……いつか迎えに来るから……って』

「で、何時までも迎えに来ない上に、勝手に魔王になってどっか行ったと」

『………………』

「怒って良いと思うわよ?」

『(ふるふる)本当に、もう一度、会いたかった、だけ、なんです……』

「そっかそっか。……(ジロリ)」

『もぎゅっ!?』

「みんな! 聞いたな!? もいっぺん行くぞおおおお!」

「「「「「うおおおおおおっっ!!」」」」」

『もっぎゃああああっっ』✕38

 ………
 ……
 …


 怒れる女子ーずの活躍で、勇者の複製も後数体を残すのみとなった。

「うーん。痛みに慣れてきてたりしないかしらね?」

「あれは慣れるものじゃない……と思う」

「なら良し。んでルミナ」

『な、なんでしょうか?』

「帝国を潰そうとしたのは……魔王を開放するため?」

『……そうです』

「勇者のため?」

『………………そんな風に言ってしまうと聞こえは良いかも知れませんが、私はただ、もう一度会いたかったから。それだけなんです』

「でも精神生命体になった貴女は古城に入れない」

『……はい。精神生命体は魔族特有の能力と思ってましたので。姉妹達にもそのように説明してしまっていた……それが自分の首を締めることになるとは思いもよらず』

「抜け道の話は?」

『私と違い、勇者様にお情けを貰った……』

「はい、そこ。違うから。節操無しが欲望の限りを尽くしただけだから」

『え、えとえと……はい。で、姉妹達の事は羨ましいとか妬ましいとは思ってはいたのですが、憎しみを抱くまででは無かったので……。何時か落ち着いたら彼女達の子孫達の様子でも見に行こう、と思って作らせておいたのです』

「何も伝わってないのは?」

『それは姉妹達が残さなかったようです。こうなる事も予想をしていたみたいで……。4大家の祖となりはしたものの、余り幸せではなかったのかも知れません』

「ふーん……。て事は、ルミナが帰って来て、帝国なんてぶっ壊してやる! って思ったならそれはそれで良いかと思ってたわけね」

「………………」

 その話を聞いてorzの姿勢で落ち込むディレク。

「はい、そこ、落ち込まない。皇子に何の責任があるってんですか? 全くありませんよ。当時の情勢が問題だったのと……やっぱ諸悪の根源は、こいつね」

『も、も、も、もっぎゃああああっっっ!!』✕4

「うっるせええええ!!」

 ………………南無。

「ちーん」「きーん?」

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